タバコとともにある憧れ
ZIPPO。
愛煙家で「ジッポーライター」を知らない人はいないだろう。コンビニエンスストアで手に取る使い切りのライターの次に、身近な喫煙具と言えるかもしれない。
風に強く、耐久性があり、多くは真鍮製のボディにインサイド・ユニットを納めた簡潔な設計。利便性やコストパフォーマンス、時には機能性の面でも、コンビニライターのほうがたしかに優れているものもある。それでもZIPPOは、まさに唯一の味わいと世界観で多くのファンを持つ。
手にしっくりと馴染み、フリント(発火石)とオイルを替えながら徐々に自分専用の1台に育っていく。何千億(よりももっと多くの)タバコがZIPPOによって灯されてきた。生活のあらゆるシーンで、職場でも、時には戦場でも、スクリーンの中でも。
ベトナム戦争当時のZIPPO
映画『ダイ・ハード』より
ZIPPOの魅力はその汎用性と物語性だけではない。ZIPPOが他のオイルライターと一線を画す大きな特徴のひとつが、多様きわまるカスタマイズ性である。プリントや彫刻・複数の素材の埋め込みによって、レギュラーサイズであれば厚さ約13×幅約38×高さ約57mmのボディをキャンバスに見立て、描かれてきた模様は数知れない。
ZIPPOは設立当初からガスライターをノベルティ商材として活用する経営戦略で成長したとか。あなたもきっと、企業のロゴやアニメのキャラクターがプリントされた限定ZIPPOを見かけたことがあるはずだ。個人でカスタムする人も、コレクターも多くいる。ZIPPOはタバコという文化が生んだ、憧れの象徴なのだ。
映画『パルプ・フィクション』より
ZIPPO 作ってみた
「コラボレーション」という言葉が耳慣れて久しいが、ZIPPOこそコラボレーションの開拓者にして王のひとりだと呼べるかもしれない。ライターの製造元は星の数ほどある、機能が良く、安価で、耐久性の高いライターはすぐに見つかる。しかし、なぜオリジナルライターの底にはいつも「ZIPPO」と刻まれているのか。
喫茶店やバーや企業の名前を刻みつける役目は、使い切りのライターに取って代わった。(そこにも味わいと風情はあるものだが)それでも、いまもオリジナルZIPPOが絶えないのはなぜなのだろう。
目的の多くはプロモーションだ。しかしそもそも、誰が企画し、誰の手で、どのように作られているのか?
そこで、ケムールでもオリジナルZIPPOを「作ってみる」ことにした。自分で作らなくてはわからないことがあるはずだ。
ケムールでは恒例のようにライタープレゼントを行ってきた。高級ライターから、自前で3Dプリンターで出力したもの。アーティストに依頼した1点モノのライターケースまでさまざまだ。
今回は自分たちでゼロからつくり、それをプレゼントにするまでを記事にしてお届けしたい。
もしあなたがZIPPOを持っているなら、その上に何かが刻みつけられていく過程を想像しながら読んでみてほしい。あなたがZIPPOのコレクターであるなら、収集したZIPPOに一層の愛着がわくはずだ。そしてあなたが企業のマーケティング担当者であるなら、ちょっと役に立つ情報かもしれない。
そして、この記事を読み終わったら――ケムール特製ZIPPOのプレゼントに応募したくなっていますように。
ZIPPO加工の専門家はどこにいる?
まず、オリジナルZIPPOを加工してくれる工場を探した。依頼することになったのは東京都北区にある「興栄工業」。いかにも歴史のある町の工場という風格だ。
同社はめっき・装飾・金属加工に実績と定評を持つ1953年創業の老舗。そして何より…ライターの加工といえばここ、というほどの名門であった。もちろんZIPPOも数多く手がけ、ZIPPOより歴史の古いオイルライターの「ロンソン」も加工している。
デザインは過去の名作から学べ
興栄工業さんと、デザインのやりとりが始まる。
もちろんこちらにはデザインの経験なんかない。ZIPPOの表面に装飾を施すといっても、どんな加工ができるものなのかも全くわからない。メッキと研磨とレリーフと…そういえば金属製のライターに色はどうやってつけるんだ?過去のオリジナルZIPPOを検索してはイメージを膨らませつつ、同社の岡本衛社長やデザイナーさんに大分お世話になりながらやり取りを進めていく。
オリジナルZIPPOの制作過程を整理するとこんな感じだ。
①商品イメージやコンセプト、表現内容など考察。ロゴの使い方やキャッチ、言いたいことなどを決める
②近しいイメージの写真などをいくつか集める
■まずはZIPPOの画像をたくさん検索するのがオススメ。アメリカ本国のZIPPO公式サイトにも膨大なラインナップがある(▶公式サイト)。③デザインをする
■工場所属のデザイナーがCGで完成イメージを制作してくれる場合もある➃ライターの加工はいくつかのテンプレートレイヤーがあるため、それにデザインを乗せてゆく
⑤最終デザインを決める
素人ながら、つくりたいものは決まっていた。まずは「自分で使いたいZIPPO」にすること。そうでなくては誰にも使ってもらえない。
そのうえで、今回のライターは”見栄え”を第一に考えたい。ケムールで記事にするのだから画面映えがよくなくては。
「男性・40~50代・プレゼント」で検索すると、黒地のものがかなり多い。黒字に銀や金で高級感のある、シンプルだが価値がありそうな雰囲気だ。
こんなのはどうだろう。黒をベースにしてケムールのロゴを金色にするとか。
興栄工業のデザイナーさんが制作した、超リアルな完成イメージCG
コピーを大きく入れた案も考えた。「WANNA SMOKE?」そして「Once a Smoker, Always a Smoker」(一度喫ったら、いつまでも愛煙家)。ライターがタバコを楽しもうと訴えてくる――。ありそうでないコンセプトだろう。
なかなか良い。だが、ケムールのロゴが今回のコンセプトと合っていない気もする。モチーフはシンプルに「タバコ」が良いのではないか。タバコと煙をかっこよくアレンジして、パターンにするのはどうか。社内にある3Dプリンターで出力し、スプレーでそれっぽく着色してモックアップを作ってみる。いままでライターケースプレゼントのために3Dプリンターを使い倒してきたから、このくらいはお手の物だ。
3Dプリンターによるモックアップ。金属っぽく見えるが素材はプラスチックだ
これもよさそうだ。より大人びた、スタイリッシュな雰囲気になった。しかし、ZIPPOといえばやはりアメリカの骨太なイメージが魅力だろう。この細いタバコと煙のマークを主役にしつつ、よりZIPPOらしくなるよう、やりとりを重ねる。
そして興栄工業のデザイナーさんがつくりあげたデザイン案のCGがこれだ。
■デザイン案:A
・使用ライター品番:162番(アーマーケース)
・基本加工:デザインエッチング加工、真鍮バレル仕上げ、クリアーコーティング
・木目加工:エッチング部分に木貼り
・炎加工:カラー装飾
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■デザイン案:B
・使用ライター品番:200番
・基本加工:デザインエッチング加工、銀バレル仕上げ、クリアーコーティング
・炎加工:カラー装飾
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■デザイン案:C
・使用ライター品番:162番(アーマーケース)
・基本加工:デザインエッチング加工、真鍮イブシ仕上げ、クリアーコーティング
・象嵌加工:エッチング部分に貝貼り
・炎加工:カラー装飾
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■デザイン案:D
・使用ライター品番:200番
・基本加工:デザインエッチング加工、黒メッキ加工、クリアーコーティング
・炎加工:カラー装飾
・文字加工:煙・文字上部銀メッキ加工 文字下部金メッキ加工
4案も出していただいた。
どの案もZIPPOらしさを感じさせつつ、使い込んでも飽きのこないだろうデザインに仕上がっている。さすがはライター加工の名門だ。我々が考えたまとまらない話のなかからデザインを取り出し、小さなZIPPOの本体にしっかりとおさめている。
決まりだ。選んだのは「A案」と「C案」のデザイン。異論はなかった。
しかも「木」や「貝」といった異素材をボディに貼るという。そんな工芸品のようなことまで可能だとは思わなかった。
最終デザインが決まったところで、数々のライター加工を手がけてきた岡本社長に、オリジナルZIPPOの成功のカギと、加工の現場について聞いた。
そこから頂いた要望に応えるのも弊社の仕事です。
現在は各種の加工設備も増えていますが、特殊な加工を行う外注様とは技術提携を行っています。昔であれば、自社技術を他社と提携するなんて考えられませんでした。しかし今は協力関係を築かなくては、なかなか難しくなりましたから。専門の治具の開発やたびたびすり合わせなどが必要ですが、現場では若い職人が頑張っているんですよ。
(興栄工業・岡本衛社長)
特に「貝貼り」は手間も費用がかかる作業で、もっともスタンダードで安価な真鍮のボディに貝を貼るとは、玄人が考えるだけではなかなか出てない加工案だったと、あとで聞いた。これが素人の強みだ。
炎とキャッチコピーの部分で色違いの貝を選別した
憧れとリアルの狭間で
「デザインが拒絶されました」
と興栄工業さんから連絡が来たのは、デザインを決めた1週間後だった。
そう、あまり知られていないことだが、オリジナルZIPPOの企画は、デザインが決まって、生地となるZIPPOを買い、加工してフィニッシュではない。
実は、ZIPPOには機能性とブランドイメージを守るためのコラボレーションの規則がある。それを支える仕組みが「申請人制度」だ。
オリジナルZIPPOを企画する際は、加工業者とは別に、正規に登録された「申請人」がアメリカのZIPPO本社にデザイン案を申請する。申請が許可されたあとに、加工となるわけだ。
ケムールのデザインは、この「申請」を通らなかった。
「不可の理由は『喫煙を美化するデザインである』『喫煙シーンを表示している』ためとのことです。私も問題なく通ると思っていましたが…。」
ケムール側もだが、興栄工業の岡本社長も大分しょげかえっている。それはそうだろう! まさかライターにタバコのモチーフを配したり「SMOKE」と書いたらだめだなんて…いや、詳しいNGの箇所はわからなかったのだが。
ZIPPO社の真意はわからない。タバコが後ろ指を差される時代だからなのかもしれない。
――しかし、である。ここからが面白いところだ!!
やはり自分で作らないと、本当のところはわからない。
確かに驚かされたが、ZIPPOがいまもライセンスをオープンにしてくれているからこそ、こうしてケムールがプレゼント用のオリジナルZIPPOを作れていることも確かだ。有名な事実だが、ZIPPOは永久修理保証。品質への絶対的な自信を持ちながら、その自社製品の上に誰かもわからない人間が加工を施すことを許す。簡単なことではないだろう。
その自由度を維持し、かつブランドを守るために、こうしてZIPPOが細かいチェックを積み重ねてきたことも同時に思い知った。興栄工業の岡本社長も、ZIPPOへの敬意は変わらない。
もし、読者の中にオリジナルZIPPOを作ってみたいと思う人がいたら、ZIPPOという憧れのライターが、こんな地道な手続きと決断の連続によって守られていることを覚えておいてほしい。
ついに公式ZIPPO・完成
ここで制作をあきらめるなど、逆にZIPPOに対して申し訳ない話だ。
早速、デザインの調整にとりかかった。デザインをタバコから離せば良いはずだ。
まずはキャッチコピーの変更。
Ignite your Curiosity.
Your forever buddy.
Blow them away.
light your day.
など、新たな案を出した。
次にモチーフの変更。タバコそのものが描かれていること、さらに煙が喫煙に関わりが深いと考え、新たに「炎」をモチーフに据えた。炎はケムール運営元のライテックのロゴの「i」にもちなんでいる。興栄工業さんも今まで以上に協力いただいた。
ライテック・コーポレートロゴ
出来上がったデザインで、再度申請。
結果は…………通った。
生産が始まる。
そして、引き渡し。ついにケムール特製・ZIPPO公式のライター完成だ。
どんな形になったのか、詳しくはプレゼントページを見ていただきたい。
ケムールオリジナルZIPPO=応募期間
第1弾プレゼント:2月13日~2月19日
第2弾プレゼント:2月20日~2月26日