21万9000。日本のたばこ販売許可店の数だ(※財務省データ・2023年3月末時点)。
その多くはもちろん「コンビニ」なのだが、なかには町の「たばこ屋さん」も含まれる。
レジのうしろに番号が振られたタバコが並んでいて、店員さんに番号を伝え、「こちらでよろしかったでしょうか?」と確認して買う。そんなコンビニエンスなタバコとの付き合いとはまったく違う未知のタバコとの出会いが、たばこ店にはあるだろう。
「おすすめのヤツ、教えてくれますか」
「そうだねえ、いつもは何喫ってるの?」
まるでオーセンティックバーのような深い楽しみがある(ような気がする)。
そんな全国の「たばこ店」がタバコや喫煙具の買い付けに集まる謎のイベントが、今年も開催される。
そう、「スモーキング・コレクション」。日本最大級の「タバコFES」だ。
ここはタバコWEBメディアとしてケムールが行かねばなるまい!!!
一般開放されていない会場のなかをレポート。実行委員会のインタビューとフォトギャラリーもあるぞ!
スモコレとは?
スモーキングコレクション、通称「スモコレ」は、一般社団法人スモーキングコレクション実行委員会が主催する喫煙関連商品の見本市である。
JT、フィリップモリス、BAT(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)などの大手のほか、タバコ・葉巻・パイプ、その他の喫煙具関連のメーカー30社が出展し、800店以上のたばこ店が全国から来場する。
1980年代から毎年開催され、コロナ禍での3年間の休止をはさんで2023年に再開された。
ケムールでは2023年も実行委員会の全面協力で取材させてもらっている。
【去年のスモコレはこちら!】
というわけで、今年も愛煙家にとって夢のようなイベントをガンガン直撃していこう。
スモコレ実行委員登場!
今年のスモコレは10/15.16の2日開催。会場は浅草ビューホテル。つくばエクスプレス浅草駅徒歩0分のホテルの宴会場に熱気があふれている。受付をすませ会場に入ると、ワンフロア貸切りの場内には午前中からすでに多くの来場者でにぎわっていた!!
(プライバシーの関係で撮影を控えたが、実際はもっと混雑している)全体で軽く300人くらいは入っていそうだ。ブースの各所で商談が行われ、商品が買い付けられている。
その仕掛け人である「スモーキングコレクション実行委員会」に話を伺った。
・中道さん/たばこのなかみち [広島県広島市] ・杉島さん/ヒュミドール スギシマ [横浜市中区] ・松本さん/Von Klaren [埼玉県行田市]
「スモコレは年に一回の喫煙業界のお祭り。全国からたばこ店とメーカーが集まる、業界随一の大規模な交流のイベントなんです」
と語る、実行委員長の杉島さん。
スモーキングコレクション実行委員会は現在8名。その主体は今回インタビューした3人の実行委員の肩書からもわかるとおり、主体は「たばこ店の人」がメーカーを招いているという形式だ。多くの見本市は「売る側」が主催するものだが、ちょっと珍しい建付けになっている。その理由は?
「それは近年の喫煙環境の変化によるものです。80年代からタバコ・バッシングが社会的にも強まっていて、メーカーさんが見本市を開くのは社会的な配慮も必要になりました。でも業界としては交流の場が欲しい。だったら『店側』でイベントを開こうと」(杉島さん)
日本のたばこ店の役割
こうしてスモコレは全国各地から有志のたばこ店が集まり、開催を続ける恒例行事になった。だからこそ地方の名店も続々と集まる。杉島さんは横浜のヒュミドール スギシマ。松本さんは埼玉のVon Klaren。広島市「たばこのなかみち」の中道さんはこう語る。
「スモコレをきっかけに東京に集まることで、地方のたばこ店はその土地の情報を交換できます。メーカーさんから商品を買い付けるだけではなくて、たばこ店どうしの出会いの場でもあるわけですね。何より、喫煙者に厳しいこういう時代にも勇気をもらえるんです。たばこを扱う人々の結束が強まる場所としても必要だと思います」
前回はコロナ禍を乗り越えて4年ぶりの開催だった。スモコレ2023の反響はどうだったのか。
「運営側としてはどのくらいの出展や来場者があるかが心配でした。それでもまずまずの規模を維持することができてよかったなと。周辺地域の方の迷惑にならないかという点も懸念していましたが、クレームが一件もなかったことも安心しました」(松本さん)
たばこが悪者にならないようマナーを守って開催していくことも実行委員会の大切な仕事である。そうしてつくりあげたスモコレの会場を見て実感させられるのは、たばこ業界のメーカーと販売業者を超えた仲の良さ、絆のようなものだ。ちょっと肩身が狭い愛煙家どうしだからわかりあえるような雰囲気がある。スモコレ2023開催の際にも、会員から「はやく復活してほしい」という声が上がった。
「コロナ禍で盛り上がったオンライン販売はたしかに効率的な部分もあった。タバコのYoutuberさんも人気が出てきましたしね。一方で、顔を合わせてタバコを選ぶ価値も同時に感じていたのではないでしょうか」(杉島さん)
たばこをめぐる環境は変わり続けている。インターネットでいくらでも情報を集められるからこそ、専門家に教えてもらいたい、仲間がほしいというニーズも盛り上がってきた。より嗜好品に近づいてきたのだ。そのなかでたばこ店は数少ない「リアルな接点」として機能している。
「私の店は広島駅前にあるのですが、駅前エリアの喫煙所は当店の横にしかありません。そこでシガーパーティを開いたりすると、さまざまな年代の愛煙家が集まりコミュニティができるんですよね。愛煙家がふっと立ち寄って、いろいろなことを話しながら一服していきます。外国から広島に観光に来た愛煙家も多い。私はたばこは世代や言語を超えてコミュニケーションができる道具だと考えているんです」(中道さん)
「火をともすことで平和を願うもの」と、広島で長らくたばこを扱う中道さんは言う。戦後はじめて日本オリジナルのたばことして発売された銘柄がまさに「ピース」であったように、憩いを与える道具としてタバコはあり続けている。
そうしたタバコの文化は、次の世代にどのように受け継がれていくのだろうか。会場には意外にも、若い世代のたばこ店主の姿が目立っていた。ここにもタバコの変遷がみてとれる。
「実はいま、実家のたばこ店を引き継ぐ2代目、3代目の若者が増えているんですよ」(杉島さん)
そうなのか!? 喫煙者は減り続けているのになぜ……と思わなくもない。そこにはタバコのビジネス的な側面が関係していた。
「紙巻きたばこ(シガレット)は法律で利益が決められています。マージン(販売価格の10%)が決まっていて、儲けにも上限があるわけですね。その一方で、10年ほど前から盛り上がっているのが紙巻きではないシャグ、パイプ、葉巻などです。これらは紙巻きよりも利益が高くつく場合があります。ライターやシガレットケースなどの喫煙具はもっと自由な利益設定ができる。つまり、愛煙家のニーズがコンビニで買うようなタバコから嗜好品としてのタバコにうつっていくと、専門的な『たばこ屋さん』のビジネスが成り立つようになっていくんです」(松本さん)
「たばこ屋なんて儲からないし継ぎたくなかったけど、なんか面白そうじゃん! って状況に変わりつつある」と杉島さん。コンビニのようにできるだけ多くのタバコ銘柄を揃えるのではなく、店主の好みで厳選した小規模のセレクトショップ。メーカー・販売店・消費者のあいだに濃い関係性があり、酒屋や雑貨屋、アパレルショップのような性格を持つ業態のたばこ店が徐々に増えているという。そうしたスタイルのお店では知識とセンスが売りになるだろう。だからこそスモコレのような最新でニッチな商品をもとめる見本市の価値も上がっていく。
「スモコレ2024のテーマは『出会いは+α!』にしました。対面でふれあい、自分に合ったものを見つける楽しみはやっぱりお店だし、スモコレのような見本市ならではですよ」(杉島さん)
出展社の顔ぶれは、フォトギャラリーでもたくさん掲載しているのでぜひ見てほしい。
そして最後に、スモコレのもっとも大きな特徴を見てみよう。それは会場の中ではなく、屋外にある!
「喫える見本市」の熱気
浅草ビューホテルの2階テラス。そこが専用喫煙所として開放されているのだ。ここでタバコを実際に喫いながら味わいを試し、買い付けることができる。まさにスモコレだけの特別セッティングだ。2023年、コロナ禍でのきなみ喫煙NGになった会場から離れ、「喫える場所」を日本全国探し求めて見つけたのがココというわけだ。
「このテラスはホテルの敷地内にありますが、ホテルと関係各所が管理していて使わせていただくことができたんです」(杉島さん)
ちなみに2023年の写真はこちら。
昨年この空間を見たときは感動した。いままで「会場内で喫煙ができる」見本市として運営されてきたスモコレがこだわり続けたポイントだったからだ。もちろん2024年も日本最大級の喫煙所は健在だ。2階テラスに向かってみると……
■秋山産業
■ダビドフ・オブ・ジュネーブ・ジャパン
……「ラウンジ」になっているではないか。
各社がスペースを設けて、クッションやソファが置かれたりコーヒーやお酒まで無料で出している。そこかしこでタバコや葉巻を楽しみながら談笑する姿。喫煙所は一服の時間を提供する場所にアップデートされていた。
■ライテック 葉巻に合うワインの試飲も
さすがに「+α」しすぎな気がする。タバコ業界が本気を出すとここまでやるのか、スモコレ。
実際に喫いながら話ができ、選ぶことができる良さは、シーシャのような新しいタバコ商品にも向いている。ここで買い付けられた喫煙具はやがて全国のたばこ屋に並び、愛煙家を悩ませるだろう。きっとひとりでは選べないほど、タバコの趣味は深い。たばこ店の人たちも、タバコ関連メーカーも、あたらしい喫煙の形を追い求めているように思えた。
ほかにもここには掲載できない発売前商品のサンプルなども置かれており、一日いても飽きることのない愛煙家にとって夢のようなイベントだった。ケムールとしては一般開放されていないことが惜しいほどだ。
来年はどんなイベントにしたいですか、ときいてみた。
「とにかく続けたい」。
実行委員長の杉島さんはそう答えた。
すでに行きつけのたばこ店がある人、これから愛煙家の道を極めたい人。そうでなくても、近所に、通勤途中に、気になる「タバコ屋」がある人。もしかするとそのお店の人はスモコレに参加したことがあるかもしれない。だから、ぜひ話しかけてみてほしい。店はいつの時代にも、出会いの場だからだ。
取材中、一息つくために腰かけたラウンジの灰皿は吸い殻でいっぱいだった。まわりには売り手も買い手もみなタバコを喫いながら垣根なく話している。コロナ前のスモコレもこんな風景だったのだろうなと思う。ここから全国に一服の楽しみを届けてください。
取材協力
一般社団法人スモーキングコレクション実行委員会
「スモコレ2024」出展社のみなさん
たばこは、世代や言語を超えてコミュニケーションができる道具だと考えているんです。ーー スモーキング・コレクション実行委員会