【松原タニシ】事故物件に住む愛煙家…タバコと幽霊の共通点とは 直撃取材#たばこのことば

タバコを愛する方々がけむりを通して見えたもの・考えたことを語る最強愛煙家連載です。今回の愛煙家は、お笑い芸人の松原タニシさんです。

…… あなたの住んでいる部屋は、賃貸マンションだろうか、持ち家だろうか。一人暮らしの人も、同棲中の人もいるだろう。
ケムール読者の愛煙家にとっては「どこでタバコを喫うか?」も悩みどころだ。自室か、ベランダか、換気扇の下か。壁紙が汚れるから部屋の中だけ加熱式タバコにする、なんて人も。「家」にはさまざまなタバコのライフスタイルがある。

ところで。
あなたの部屋に、あなたの前にはどんな人が住んでいたか、考えたことがあるだろうか?

普通は知らされることのない、賃貸物件の住人の情報。ただし「例外」がある。
それが「人が亡くなった」部屋。
特に現在では「殺人」「自殺」で亡くなった場合、不動産会社に入居者への告知義務が法律で定められている。これを『心理的瑕疵(かし)物件』、通称「事故物件」と呼ぶ。
今回の「#たばこのことば」は、この事故物件だけを転々と(10年以上!)住み続けている人にインタビューした。

著書「事故物件怪談 恐い間取り」(二見書房)。映画化もされている

芸人・松原タニシさん。「事故物件住みます芸人」として、その奇妙すぎる体験をもとに怪談・オカルト界隈で活躍している。

なぜケムールに?……そう、愛煙家だから。

事故物件から見える社会・タバコを喫っていて超怖かった出来事・喫煙と心霊現象の意外な共通点など、世の中の見え方が変わるお話を聞いた。

「前室」と「喫煙所」

ーー あっ。『KOOL』喫ってらっしゃるんですね。

タニシ 『KOOL BOOST』の8ミリですね。カプセルをプチっとつぶすと味が強くなるやつ。

ーー メンソール派ですか?

タニシ メンソールというか、ずっと『KOOL』です。最初にタバコを喫ったのは芸人になりたてだった21歳の時なんですけど、先輩に「喫えば?」と言われてもらったのが『KOOL MILD』だったんですよ。それからいろいろ喫ってはみたけどKOOLに落ち着いて……というか、なぜかほかのタバコだと頭が痛くなっちゃって。

ーー タバコで頭痛がするという方は聞きますが、KOOLだけは平気だったと。

タニシ だから、もらいタバコがあんまりありがたくないという(笑)。その数年後に『KOOL BOOST』を喫ってみたら、今度は『KOOL MILD』で頭痛がするようになったんですよね。ひとつの銘柄しか喫えないのかな。

ーー なかなか珍しいタイプの愛煙家ですね。

タニシ 正しく言えば、タバコを喫ってるというより『KOOL BOOSTの8ミリを摂取している』状態なんです(笑)。タバコってファッションの部分もあるんだと思いますが、そこはぜんぜん興味ない。ライター、灰皿にもこだわりませんし。

【チャンス大城】KING OF 地下芸人の「禁煙法」 直撃取材#たばこのことば

いまは禁煙していますが、芸人・チャンス大城さん(吉本興業)も長年『KOOL』を愛用していました

ーー 吸い始めたのは21歳ですか。先輩芸人さんとのコミュニケーションがきっかけということですね。

タニシ もともとタバコ、好きじゃなかったんですよね。学生時代とか、不良が喫うでしょう? ヤンキーとは話が合わなくて。僕は校則厳守で、制服の第一ボタンまで閉めてるタイプでした。ただ真面目というわけでもなくて、「ヒゲの長さに関する校則がない」ことを理由に、めちゃくちゃヒゲ伸ばしたりするみたいな変な学生でした(笑)。「ルールを守りながら、抜け道を探して自由に遊ぶ」っていう。いま事故物件に住んでいるのもそういう性格だからかもしれませんけど。
だからタバコを喫い始めたのも成人してから。松竹の新人お笑い芸人になって「B1角座」でお手伝いをするようになった頃です。

ーー 「B1角座」は大阪中央区にあった松竹芸能の歴史ある劇場(現在の名称は「DAIHATSU 心斎橋角座」)ですね。手伝いってどんなことをするんですか?

タニシ 雑用……何でもという感じなんですけど。たとえば舞台のすぐ脇に「前室」という待機場所があるんです。そこで師匠や先輩が出番を待っているときに僕みたいな下っ端が横に立っていて、お茶持って行ったり、ゴミ片付けたり。前室はスイッチが入った芸人の空間で、そこに居るだけで緊張しました。
そんな時期に「タバコ喫ってみるか?」って先輩に言われて、もう成人してるしええか、と喫わせてもらうことにしました。先輩についていったら……おもろくて。地下の喫煙所に行ったんです。角座にこんな場所あったんや、と思いました。

ーー たしかに喫わない人にとっては「喫煙所」は謎の空間ですよね。

タニシ 喫煙所の中に入ると先にタバコを喫ってる人がいて、それが「横山たかし・ひろし」の横山たかし師匠(故人)でした。トレードマークの金ピカのスーツを着たまま喫っているんですよ。当然なんですけど、いつも「前室」で見ているピリピリした雰囲気と違う。僕に話しかけてきて「わしは個室ビデオが好きなんじゃ」とかおっしゃるわけです(笑)。「ティッシュを毎回ひと箱使うんや」という。

ーー めちゃくちゃリラックスされています(笑)。

タニシ 芸人の世界って上下関係が決まっているじゃないですか。でも喫煙所の中では先輩も後輩も師匠もあまり関係なくて、変な身内感がある。おもろい場所やなー、と。だから最初は、喫煙所に行くためにタバコを喫いはじめたようなところがありますね。ぜんぜん売れなくてお金がない時期も、KOOLはずっと喫ってたなあ(笑)。

「タバコの怪」が続々と……

ーー 2012年、同じ松竹芸能の大物タレント・北野誠さんのイベントで事故物件の怪談を話したことがきっかけで「実際に事故物件に住む」という独自の活動を始められています。

タニシ そう。北野さんのイベントで「芸人仲間の噂で、住むと頭がおかしくなる部屋がある」って話をしたら「そこに住まないか」って企画で。その部屋が事故物件だったんですよ。それまでは特にオカルトに興味があるわけでもなかったし霊感があるわけでもないんですが、怪談の仕事やお付き合いが増えて。

ーー それでご自身も怪異な体験を。

タニシ ええ(笑)。タバコにまつわるちょっと不思議な話をしましょうか?

ーー ぜひ!

タニシ 愛知県の某所に、変わった公園があるんですね。お金持ちが自費でつくった公園ということなんですけど、その地下に「お堂」があるというので行ってみた時の話なんです。ここです。

真夜中だからこんな感じの写真です。地下にハシゴで降りていくとその方の「お墓」があって、祭壇のようなお堂になっていました。さらに奇妙なのは、そこに大量のタバコがお供えしてあるんですよ。理由はわからない。

こういう場所だったので、僕もタバコ喫ってみたんです。

ーー よくもそんな場所で一服を。

タニシ 一口喫って、すぐタバコをお供えして。ハシゴで地上に出たんですよね。そしたらお堂の入り口に学生みたいな若い男の子が何人か来ていた。夜中やし驚くかなと思って「こんばんは」って声をかけたんですよ。……そしたら反応がない。まったく僕のこと、気づいてないみたいなんですよね。その後いろんな人から「そのお堂でタバコを喫うと、姿が消える」「私の友達も消えた」って話を聞いたんです。
不思議ですよね。

ーー 怖すぎます。

タニシ 次は、今までで一番美味しかったタバコの話にしましょうか。「丑の刻参り」で有名な山があって、山頂にある神社にわら人形がいっぱいついているというので友人と行ってみた時の話なんですけど。

深夜、こういう道を歩いて神社に向かって行くんです。10メートルくらい離れた茂みからガサ、ガサ、って音がして、その音がなんとなく僕たちについてくる感じがする。でも神社に着いたら、わら人形なんてなくて。でも、かわりにこれを見つけたんです。

神社の壁に今さっきつけたような鮮明な手形。急に茂みの音が怖くなった。この手形の主が急いで隠れてたんじゃないかと思って……ダッシュで逃げた。うしろから音がついてくるんですよ。

ーー 本当に丑の刻参りをしてた人がいたんでしょうか。

かもしれないですね。後日そこに戻ったら不自然な穴が開いていたんですよ。この穴です。

釘を打ったような穴で、やっぱり本当にわら人形があったのかも。

ーー 丑の刻参りそのものよりも、そこに人がいると思ったほうが怖いですね。

そうなんですよ。あの時は怖かった。山のふもとまで走りましたから。コンビニの明かりが見えてきて、その前の灰皿でやっとの思いでタバコ喫って……あのときが生きてて一番うまいタバコだったなあ。助かったー、って。

タバコのお堂と丑の刻参りのエピソードは「異界探訪記 恐い旅」(二見書房)にくわしく所収されています

事故物件に漂う煙

ーー 事故物件にまつわるタバコのエピソードもあるとか。

タニシ あります。この部屋です。

「事故物件怪談 恐い間取り」(二見書房)所収

ーー ここが「事故物件」の室内。そのままなんですね。

タニシ ええ、こういうリフォームされていない状態の部屋もあるんですよ。ここは事故物件に住みはじめて5件目の部屋です。僕が住む前は3年間封印されていた。
、よく見てください。

ーー うわっ…これ、ヤニですか?

タニシ うん。すごいヘビースモーカーだったんじゃないかと。
この部屋に住んでいたのは60代の男性と、80代のお父さん。介護していたんですね。お父さんがお亡くなりになってからほどなくして、男性も仏壇の取っ手で首をつって自ら命を絶ってしまったらしいんです。

ーー その方が喫っていたタバコの痕なんですね……。

タニシ この男性は、ものすごく孤独に戦っていたんじゃないかという感じがしたんですよね。なんとなく気持ちがわかりますよ。僕もネタや本を書くときはすごく喫うので。

ーー 怖いし、生々しいです。当時はどんな気持ちで住んでいたんですか。

タニシ タバコ喫い放題だ、ラッキー! という感じでした。僕は事故物件を1年~2年で引っ越していく生活をしているので、できるだけ綺麗に住むようにしているんですよ。タバコで壁紙が汚れると敷金が返ってこないので、基本は換気扇の下で喫います。でも、この物件みたいにリフォーム前の部屋は、堂々と喫煙できるんですよ!

ーー (すげえな…)気持ち悪いなど思わないんでしょうか。

タニシ もちろん事故物件に住み始めた頃は、めちゃくちゃ嫌でしたよ。祟りで死ぬんちゃうかなって。でも、とり殺されるほどのことは起こらないんですよね。2件目、3件目と住んでいくうちに慣れてくる。さっきの「丑の刻参り」の話もそうですが、幽霊よりもそこにいる人間のほうが怖いんです。だから事故物件に住むことは「ここは怖くない」ことを確認していく生活になってきます。

ーー そんな感覚になるんですね。恐怖がマヒしてくるというか。

タニシ というか「そもそも僕たちは何を怖がっているんだろう」という感じが近い。周囲の治安が悪い部屋には住みたくない。それは誰でも思いますよね。でも「そこで人が亡くなった」ということの何が嫌なのか、よく考えると別に理由はない。

ーー でも、自殺が起きていますから。

タニシ そうですかね? たとえどんなに汚くても、どんな性格の人でも、死んじゃったら平等じゃないでしょうか。そもそもいい死に方、悪い死に方ってあるのか。
なぜこの部屋が事故物件になったのか、住人だった方がどうやって亡くなったのかは僕もすごく興味があるし、探りがいがあります。でもなるべく前の住人に引っ張られないようにしないとと思う。だってもう寄り添えないんだから。

「喫煙者」と「幽霊」

ーー 本当に事故物件に住んでいても何も起きない?

タニシ うーん。変な写真が撮れたり、霊感が強い人が避けたりしますよ。負のエネルギーみたいなものはあるのかもしれません。

ーー (じゃあ怖いじゃん……)

タニシ でも僕の立場は「だから?」なんですよね。少なくとも僕は毎日そこで暮らしているのに呪い殺されたりしていませんし、発狂してもいません。それも事実です。
だから、どうして人は幽霊を見たり怖がったりするのか、ということに興味を持つようになりました。考えたのは「恐怖」は人を救っているんじゃないかということです。

ーー なぜ恐怖が人を救うのでしょうか。

タニシ 幽霊は見える人と見えない人がいますよね。あくまで僕の経験ですけど、すごく追い詰められたり不運な境遇にいる人って、幽霊を見ることが多いんです。生きていてどうしようもないことは誰にでもある。そのときに「恐怖の対象」を用意すると、自分を保てるという作用があるんじゃないかと思うんですよね。

「幽霊」のしわざだ。「祟り」だと。うまくいかないことの理由づけになる。それは「祭り」の発生にも近い話ですよね。
事故物件もそう。住んでみると別に怖いことはない。でも住みたくないでしょ。いくら安全だと言われても、汚らわしいから。そう思うことで自分を肯定しているのかもしれない。

ーー そういえば、なぜ現代になっても怪談やオカルトが人気なのか不思議でした。どんなに科学が発達してもなくなりそうにありません。

タニシ そうですよ。人生にままならないことがあるかぎり、怪談はなくならない。理不尽で悪いことを「恐怖」によって引き受けるからです。
そういうものは他にもあって、僕は「タバコ」も近いのかもしれないと思うんですよ。

ーー タバコと幽霊が似ているのですか。

タニシ もちろんタバコは健康に害がありますが、それにしても喫煙者はすごく悪者にされています。どんなに法律で認められていても、喫煙マナーを守っても、過剰に避ける人がいる。何かのストレスを引き受けているんじゃないかと思うんですよね。

ーー 喫煙者の肩身が狭いのは、幽霊と同じ扱いをされているから?

タニシ 幽霊のおかげで心が保てる人も、喫煙者を毛嫌いすることで救われている人もいるんじゃないかと。そうやってみんなが「なんとなく納得している」ことに、僕は違和感を持つタイプです。学生時代、校則を守りながらヒゲを伸ばしまくっていた頃からですね。
だからいまは事故物件に住むことでその仕組みを壊しているんですよね(笑)。

ーー いま、新しい事故物件の引っ越し先を探していると聞きました。内心は「怖くない」と思いながら、まだ事故物件に住み続ける理由はなんですか。

タニシ そうですね…………。
「次こそは、本当に怖いんじゃないか」という期待もあるんですよ。

 

松原タニシ

お笑い芸人。1982年兵庫県生まれ。2012年から事故物件に住み続け、現在17軒目。心霊スポットも200か所以上巡る。主な著書に『事故物件怪談 恐い間取り』シリーズ、『恐い食べ物』(ともに二見書房)など。


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幽霊のおかげで心が保てる人も、喫煙者を嫌うことで救われている人もいるんじゃないかと。 ーー 松原タニシ

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