愛煙家の方々がけむりを通して見えたもの・考えたことを語る直撃取材です。今回の愛煙家は、お笑い芸人のチャンス大城さんです。
今回は愛煙家が気になる「禁煙」の話。
いままでケムールではさまざまな著名人の禁煙エピソードを取材してきた。
古舘伊知郎さん。つぶやきシローさん。
人はどんなときにタバコを喫い、どんなときにやめるのか。禁煙中はどれくらいキツイのか。どうやって耐えるのか……やめたらタバコ嫌いになるのか?
答えは人それぞれ。
だったら、超面白い人に聞いてみよう。
というわけで、今回の「たばこのことば」インタビューはこの人に。
チャンス大城さん。
2010年代後半、芸歴30年を超えて突如テレビに現れ、その危険すぎる芸風と壮絶な生き様で「さんまのお笑い向上委員会」「人志松本のすべらない話」「ドキュメンタル」などに登場、話題をさらった。現在では「水曜日のダウンタウン」などの人気番組の企画で常連に。今やお笑いの一ジャンルとなった「地下芸人」を代表する人だ。
極貧・命がけ・人情・そしてナンセンス。その強烈なネタにはいつからか「ポップに」「カッコよく」「賢く」なってしまったお笑いが本来持っている底力が満ちている。
そんなチャンスさんは、2021年から禁煙中。お酒とタバコが何より大好きだったというが、手を切った理由は、そして、その禁煙法は……
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まさかの禁煙パイポ「6本」喫い!
ーー お笑い好きの愛煙家には、チャンスさんの「禁煙パイポ」は有名です。しかし本当にプライベートでもやっているとは。
みんなに「ふざけんな」と言われるけど、ガチなんですよね。これがないとあかん。
この独特すぎる禁煙姿が爆笑とともに拡散したのは「水曜日のダウンタウン」の番組内だった
テレビに映ると、結構ウケるんですけどね。「戦艦大和の大砲」「イヤミの歯」とか言ってみたり(笑)。でもネタではじめたことじゃないんです。タバコを喫えないのがマジで辛すぎてね……もし禁煙パイポがなくなったら困りますよ。
ーー (『水ダウ』の放映時よりパイポの本数が増えていないか…?)禁煙はいつからですか。
2021年の1月30日。いまでも覚えてます。
ーー 2年以上、パイポだけで禁煙しているんですか。
そうですね。道具としてはコレだけ。ニコチンガムとか禁煙外来とか、僕には全部効かんかった。そうか、もう2年経ったかあ…長いなぁ。
完璧なタバコを見つけるまで
ーー 辛い禁煙中、申し訳ないです。まず愛煙家時代のエピソードから聞かせてもらえますか。
最初に喫ったのは、尼崎。定時制高校の先輩からもらったセブンスターかな。自分で買ったのはセーラム・ライトです。
ーー メンソールですか。
当時インディーズのヴィジュアル系バンドにハマってて、そのメンバーがセーラムを喫ってたんです。オシャレで、なんか響きも素敵やな~と思って。親友の「和田」と遊んでたときにはじめて喫いましたね。そいつは一緒にヤンキーに山に埋められた奴なんですけど。
ーー (あの和田さんか…)
最初喫ったときは、むちゃくちゃ気分悪くなってね、呼吸困難みたいに。また喫って、呼吸困難。3回目に何ともなくなった。やった、タバコ喫えるようになった! って思って。
セーラムライトの次は気分変えて、キャスター。ほかにもキャビンなんかを喫いました。
ーー 色々試していますね。銘柄が決まったのは?
クールマイルドですね。21歳の時。神戸の須磨海岸で泳いでた時です。和田と。そこにKOOLの水着を着たお姉さんがサンプルのタバコを持ってきてね。もらって喫ったら、めちゃくちゃ美味かった。完璧やった…これがタバコや!って。
ーー KOOLは関暁夫さんも愛用していたタバコでした。21歳というと、NSC在学中ですか。
※NSC…吉本興業の芸人養成所。大城さんは14歳と19歳の二回入学している、異例の経歴
そう。その時期に吉本でデビューして、でも全然ウケなくて、吉本辞めさせてもらって、三浦って友達と一緒に東京に出ました(編集部注:三浦誠己さん。お笑い芸人を経て、現在は俳優として活動)。別事務所の大川興業さんにお世話になって、それも辞めて。
ーー そこで「地下芸人」(事務所に所属せず自前で小規模な公演を打つ芸人)に。
そうです。お金なくて、三浦と一緒に東中野のコンビニで深夜バイトしながら地下芸人。
ーー タバコ代、大変じゃないですか。
はい。安いのに変えてみたこともあったんですよ。でもエコーは口に合わなくてダメ。手巻きタバコも安くなるのは知ってたけど面倒で馴染まなかったですね。結局、口にあうと思ったタバコを喫ってました。それがマルボロメンソール。
ーー マルメンですか。
クールより強めで、美味かったなぁ。よくあんな高いタバコ買ってたと思いますよ。貧乏芸人やのに。
ーー 当時の印象に残っているタバコの話はありますか。
ありますよ。1998年やったと思います。深夜シフトで入っている時間帯に、ひとり女の子が来てたんですよね。可愛い子で、鼻歌を歌ってる……だんだん好きになってしまってね。その子が必ずハイライトを買っていくんですよ。僕、彼女がレジに来たら、注文される前にハイライトを出すようにしたんです。そしたら「覚えててくれたんですね」って、少しずつ仲良くなって。
ーー タバコがつないでくれた恋ですか。
そう。「合コンしましょう」って誘ってみたりして。ある夜、ハイライトの彼女が「私、今度はじめてテレビで歌うんです」って言うんですよ。歌手志望の子やったんですよね。その番組絶対見たい!って、名前を聞いたら…「椎名林檎です」。
椎名林檎「ここでキスして。」1998年リリース ©ユニバーサルミュージック
ーー じゃあ、彼女が歌ってた「鼻歌」って…。
椎名林檎さんが有名になった歌のどれかちゃうかな。僕が誰よりも先に聞いてたかもしれない(笑)。
ーー 苦労されている時期の、すごくいい話ですね。
とにかく売れませんでしたからね。
でも当時は最悪とは思わなかったですね。地下芸人の仲間がいて、平日の昼間に、ハイボールとたばこ。「売れてえなあ」「俺って面白いよな」って言いながら。ポカポカ日が差して……。
あのとき、他に何もいらん。これで最高やんって思ってました。テレビなんか出なくてもええやん、彼女もいらないじゃんって。あのとき、一日でタバコ2箱くらい喫ってましたよ。歯が汚れて赤味噌食ったみたいになってたからなぁ(笑)。
恩人・千原兄弟との出会い、そして「地上」へ
ーー 芸人としての転機は。
「禁酒」ですね。
どんどんお酒の量が増えていったんです。酒癖が悪くなって、家賃にも手を出すようになっていました。たまに『あらびき団』とかのテレビ番組に呼んでもらったりしたけど、お金も仕事もなくて。
そんななかで、2013年くらいからラーメン屋でバイトするんですよね。それが千原せいじさんが経営しているお店だったんです。
ーー 吉本興業を離れたあと、そのタイミングで再会することになるんですね。
※大城さんは一度目のNSC入学時に「千原兄弟」と同期だったのだ
そうです、めっちゃお世話になって。そのご縁で2017年7月7日に「チハラトーク」っていう千原兄弟さんのイベントで千原ジュニアさんとお会いするんです。20年ぶりくらいでした。
それがきっかけで「人志松本のすべらない話」の製作の方とも繋いでもらって…2018年1月24日。ゲストで呼んでもらいました。そこで話したのが「和田と山に埋められた話」です。
「人志松本のすべらない話」©フジテレビ
ーー 超人気番組へ。チャンス大城さんという芸人を「すべらない話」で知った方も多いでしょう。風向きが変わりましたか。
いや、話はめっちゃウケたけど…あかんかった。「すべらない話」の打ち上げで酒を飲み過ぎてトラブルを起こしてしまったんです。緊張しまくって悪酔いして、すごい失礼をして。せっかくジュニアさんの紹介でこんないい番組に出させてもらったのに…。
「これで終わりや」と思いました。芸人やめて、田舎に帰ろうって。
そしたら、一緒に東京に出てきた三浦が「アホか! 次から気を付けたらええ。とにかくジュニアさんに謝れ」って。
ーー 三浦さんは、ハイライトを縁に椎名林檎さんと出会ったコンビニで一緒に働いていた親友ですね。
それで僕、悩んだけどジュニアさんに電話したんです。
「ジュニアさん、お疲れ様です。僕…田舎に」
「おう、来月『にけつッ!!』出てくれ」
……
涙、止まらなくて。
でも、その後めっちゃ怒られました。「次に酒飲むときは、死ぬ一週間前にせえ!」。せいじさんも「俺がアホやった、もっと早くに酒を辞めさせるべきやった」と言ってくれて。
それより何より、僕、「売れたい」と思ったんです。地上に出たいって。
ーー それで禁酒を。
はい、同時に吉本興業所属の芸人になって。
何より好きだったお酒を辞める時、刑務所やなと思いました。でも考え方を変えました。この刑務所はお笑いの舞台に立てる、テレビに出れるかもしれん、おいしいモノも食べれる、風俗だって行ける。天国みたいな刑務所やんか、って。
それから今もアルコールは一滴も飲んでません。代わりにスイーツが好きになりました。和菓子・洋菓子・菓子パン。禁酒したら甘いものに走るって本当ですね(笑)。お酒で糖質を摂ってたからその代わりだと思います。
でもそのころすでに、せいじさんは「タバコもやめたほうがええ」と言っていたんですよ。
神と吸い殻拾い
ーー 千原兄弟のおふたりも禁煙経験者ですよね。
「いつかはタバコもやめなあかんよな…」と思うようになりました。40歳を超えて喫ってると、ノドも肌も荒れる。疲れやすい。体によくないのはわかってるじゃないですか。でも、禁煙外来に行ったり、ニコチンガムを使ってみたけど効果が出ませんでした。もともとタバコが好きやし。
ーー 禁酒の件と違って、誰かに大きな迷惑をかけたわけではないですからね……。仕事のほうは順調でしたか?
いえ…吉本興業には復帰したけど仕事は少なくて、せいじさんが「さんまのお笑い向上委員会」を紹介してくれて、「水曜日のダウンタウン」に出させてもらったりもしたけど、全然売れへん。ライブに行っても、雰囲気も今までの地下ライブと全然違う。気合が入っていて、僕ももっと頑張らな、頑張らな…と思っていた時期でした。2018年から2019年が、実は一番きつい時期だったかもしれないですね。
そう、その時期、タバコがらみで変な出来事があったんですよ。
ーー タバコがらみで? 禁煙についてですか。
いや、違います。2019年の…8月やったと思います。深夜、近所のセブンイレブンから自分の家に向かって帰り道を歩いてたんです。
そのとき……「神」を感じたんですよ。
ーー ? 何をいきなり…
「不思議ちゃん」と思われるかもしれないけど…急に「悟り」というか「あっ、そういうことやったんや」みたいな感覚が来て。
うまく説明できないけど「神」と繋がったんです。
ーー チャンスさん、そういう事は普段から…?
いやいや、クスリとかやってないですよ! そういうことは初めてで。僕、笑ってもうて。悟りなんてお坊さんがキッツい修行して到達できるようなものじゃないですか。
そこで僕、とっさに神さまに「仕事ください」って言うたんですよ。
「タバコの吸い殻拾いをするから、仕事ください」って。
ーー どうして「吸い殻拾い」を?
それも説明はできないんですけど、なんか「せなあかん感じ」になったんですよね。タバコの吸い殻を拾いたいな、っていう感覚に。
そしたら、神さまの声が返ってきたんですよ。
『無心でやれ』
と。
ーー (すごくつらい時期だったんだな)
で、ホームセンターでチリトリとトング買ってきて、拾いました。そしたら…仕事が増えたんですよ。「ドキュメンタル」「しくじり先生」「アメトーーク」。
ああ、神さまっておるんや、って思いました。今でもたまに吸い殻拾いしますよ。
聖なる禁煙
ーー その時期もタバコは喫ってるんですよね。現在まで続いている「禁煙」はどのようにスタートしたのでしょうか。
「東京怪奇酒」というドラマに出させてもらったときです。
©「東京怪奇酒」製作委員会/テレビ東京
2021年の1月30日。記者発表の日です。主演の杉野遥亮くんと原作者の清野とおるさんが、もともとタバコを喫ってたんですが禁煙した人だったんです。清野さんが「簡単にタバコをやめられる方法があるよ」って教えてくれまして。
ーー それはどんな方法?
俳優の渥美清さんは上野の神社で「一生タバコを喫わないから仕事くれ」って神さまにお願いしたらしいんです。そしたら「男はつらいよ」の主演が決まったんです。
ーー タバコ界隈では有名な願掛けの話ですね。
でも、その方法でも挫折するやつが多いんだと。清野さんの秘策は、禁煙を「一年間限定」にするって。「一年なら何か行けそうな気がするから」ということなんですよ。
ーー (お会いしたことがないのでイメージですが)清野とおる先生っぽい発想ですね。
しかもどこの神社にお参りしても別にええって。
俺は才能ないから。…奇跡を起こすしかない。やってみよう! と。
お金を稼ぎたいんじゃない。本当に仕事が欲しい。千原兄弟さんと会って、テレビに少しずつ出るようになって「売れたい」と思うようになってました。
そのために自分の最も大切なものを捧げないと。お酒はもうやめてますから、俺が神さまに「本気で売れたい」と伝えるには「タバコ」しかない。それくらいなくてはならないものだったので。
『ほう、お前はタバコを捧げるのか…いい生贄じゃないか』
と思わせたかった。
記者会見が終わって、住んでた練馬にある神社に行きました。神社の近くにタバコ屋があって、そこの灰皿でマルボロメンソールライトを喫って「これで最後や」。
賽銭箱、500円くらい入れた気がするな。
「チャンス大城、住所は練馬区〇〇町〇丁目〇〇、2021年1月30日、今日から一年間タバコやめます。もし2022年の1月30日まで禁煙できたら、仕事を下さいませんでしょうか」
約束したんですよ。神さまと。めっちゃ緊張しました。
ーー そこまでタバコを大事に思っていたんですね…。きつかったでしょう。
それから1日、2日、3日。むっちゃくちゃ苦しかったです。食事のあとに一服できない。スナックに行ったら周りで喫っているし。
手元に残っていたマルメンを捨てて、すぐに「禁煙パイポ」買って。
ーー 禁煙のつらさは、喫っていない人には想像できないものです。意志と禁煙パイポだけでよく我慢できましたね。
やっぱり神さまとの約束やから。禁煙パイポは最初は一本吸って、ぜんぜん足りない。もう一本、もう一本。三本まとめて咥えて吸ったとき、「あ、これはダッチワイフやな」って思ったんです。ニセモノやけど女性、ごっこ遊びみたいな。タバコのダッチワイフという感覚になった。
それから1年経ったころ…大きな仕事が入るようになったんですよ。「水曜日のダウンタウン」はちょっとだけ出ていたけど、大きい出演が来るようになって。
ーー 『水曜日のダウンタウン』でチャンスさんの禁煙パイポが広がるのが22年6月の放送ですから、本当に禁煙一年のご褒美のように思えますね。
やっぱり神さまっておるんやなと。信じられへんわ。俺が酒もタバコもやらない芸人になるなんて。
ーー 最近は、お笑い以外にも活動が広がっています。
主演:綾野剛、斎藤潤 チャンス大城さんはヤクザ役で出演
©2024「カラオケ行こ!」製作委員会
俳優も音楽も、何でもやりたいですよ。なんか変な自信が出てくるんですよね。「おいおい、俺、酒もタバコも辞めてもうたで」。プロレス2冠王、エベレスト登頂。こういう気持ちなんかなって(笑)。
ーー もし、映画やドラマで「タバコを喫う」役のオファーが来たら受けますか?
えっ? …たしかに。仕事のために禁煙したけど、タバコ喫う仕事もらったら……。
江口洋介さんが『るろうに剣心』の斎藤一役、されてるじゃないですか。めっちゃタバコ喫う役で、禁煙してたけどタバコ復活したらしいですよ。
うわぁ、僕もたぶん復活してまうやろな…。
監督と話してなんとか…でも…お酒を飲む仕事はノンアルコールの飲み物に代えてもらえるけど、タバコはそうはいかんよな…いや、神さまと約束……断るかあ……。
断ります!!(笑)
チャンス大城
お笑い芸人。本名・大城文章=おおしろ・ふみあき。1975年兵庫県尼崎市生まれ。89年、NSC大阪校へ8期生として入学も中退。94年4月にNSC大阪校へ再入学。フリーなどを経て、2018年より吉本興業所属。“地下芸人ブーム”の火付け役。著書に「僕の心臓は右にある」(朝日新聞出版)。
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神様に『お前は売れるためにタバコを捧げるのか…いい生贄じゃないか』と思わせたかった。
ーー チャンス大城