今回ご紹介するのは、伝統工芸品の「色絵陶磁器・九谷焼」の製造販売を145年間も続ける窯元「上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま)」。
時代変化で移ろうことのない九谷焼(くたにやき)づくりを目指す、長右衛門窯の六代目・上出惠悟(かみでけいご)氏にお話を伺いました。
上出長右衛門窯・ご紹介
上出長右衛門窯
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Instagram(@choemon_pr)明治12年(1879年)、九谷焼中興の祖である九谷庄三の出生地である石川県能美郡寺井村に初代長右衛門が創業した「上出長右衛門窯」。
東洋で始まった磁器の歴史を舞台にしながら、伝統に固執しない柔軟な姿勢で割烹食器を中心に現在でも様々な製品を発表しています。
職人による手仕事にこだわり、時代を経ても瑞々しさを感じられる九谷焼の焼造を目指している「上出長右衛門窯」は、年に一度窯を解放し、絵付体験や蔵出し市などをお楽しみ頂ける窯まつり(5月連休)を開催しています。
上出長右衛門窯についてご興味がある方は、公式ホームページをご覧ください
上出長右衛門窯の代表的な製品の一つ「湯呑 笛吹」
「九谷焼・上出長右衛門窯」の代表作「湯呑 笛吹」は、絵柄違いのシリーズ品が多く発表・販売されています。
オリジナルのポーズは大きく変えずに、演奏する楽器や座っている場所が違うといったバリエーションを展開。
シリーズデザインは全て六代目・上出惠悟(かみでけいご)氏が行っており、ユーモアに富んだ笛吹男は私たちに話題の種を与えてくれます。
製作工程は後述しますが、磁器の絵付方法には本窯で焼成する前に行う「下絵付」と、焼成後に行う「上絵付」の2種類があり、今回ご紹介する「湯呑 笛吹」は下絵付のみが施された青色が印象的な磁器となります。
「湯呑 笛吹」の製作工程大公開!
まずは磁器の素材となる土を仕入れます。
長右衛門窯では各産地から取り寄せた粘土をブレンドしているので、他にはない特別配合で土練りを行います。
土練りを終えたらろくろで形をつくり、乾燥させていきます。
乾燥させただけの状態だと水に濡れると溶けたり、力を加えると脆く崩れるので、基本的には強度を上げるために素焼をして製品をストックしておきます。
素焼のあとは染付(そめつけ)と呼ばれる酸化コバルトが主成分の顔料で絵付を行います。
絵付を終えると釉薬(ゆうやく:素地に汚れや水が染み込むことを防ぐガラス質の膜)をかけて、ガスを燃料にしている「本窯」の中へ。
1250度の高温で還元焼成(かんげんしょうせい:酸素の供給を制限し、燃料が不完全燃焼の状態で焼き上げること。完全燃焼する「酸化焼成:さんかしょうせい」とは違う質感や色味へと変化させることができる)すると、絵柄の色が青く発色し、表面も艶やかな白へと変化。強度の高い磁器となり「湯呑 笛吹」が完成します。
上出長右衛門窯のこれから
上出長右衛門窯では、毎年の催しである「窯まつり」を今年も開催いたします!
期間は2024年5月2日(木)〜5日(日・祝)の4日間を予定しており、限定商品の販売やイベントも企画中!
ご興味のある方は「窯まつり公式サイト」をチェック!
イベント情報はこちら
https://www.kamamatsuri.com/
上出長右衛門窯・六代目 上出惠悟(かみでけいご)氏 独占インタビュー
ーー上出長右衛門窯を受け継ごうと思ったのはいつ頃ですか?
上出惠悟氏(以降上出):幼稚園の年中前後の小さい頃から「お茶碗屋さん」になりたいとは思っていて、小学校に上がっても将来の夢や七夕の短冊に願うことは「お茶碗屋さんになりたい」だったんですが、それに向けて特別何かに取り組んではいませんでした。
その後も何故か陶芸を学ぶという選択肢は頭になくて、高校ではデザイン科に、大学では東京藝大の油画科に進学しました。高校にも大学にも「工芸科」はあったものの選ぶことはなく…その後大学でみんながアーティストを目指している傍ら、僕は高校で学んだデザインを活かすようなクリエイティブな職に就ければなと漠然と考えていたんですが、ある時「日本美術」に触れる機会があって。
僕が専攻していた油画科では、どちらかというと西洋のアカデミックな教育を受けていたんですが、日本や東洋にも西洋には劣らない伝統や歴史の深い文化的な蓄積があるし、100年、200年、あるいは500年、1000年前の古くからあるものが現代にも残っていることに強く惹かれました。
そこでようやく実家が伝統工芸に携わっていることに改めて気づいて、大学を卒業したらすぐに家業を継ごうと思いました。
ーー惠悟氏が実家に戻って初めて作ったのは?
上出:長右衛門窯の商品ではなかったんですが、自分個人の作品としてバナナを象った磁器作品を作りました。
ーー惠悟氏の作家サイトに掲載されていましたよね。
上出:そうそう。あれです。
ーー今は六代目として長右衛門窯の商品を作っていらっしゃる?
上出:生産するのは主に職人ですが、商品開発時のデザインやコンセプトとか窯の方向性や経営面のことを考えているのが僕の仕事です。ちなみに父も祖父もまだまだ元気で…
ーー長右衛門窯を正式に継ぐのはまだ先?笑
上出:ですかね、笑。これは自分だけで決められることでもないので。
ーー伝統工芸屋さんって、代々受け継いだ人が1人で商品を作ってるイメージを持ってました。
上出:うちの場合はどちらかといえばメーカーとしてのスタンスが強くて、家業を継ぐために僕が家に帰る前から沢山の職人がいて、その人たちが商品を作っています。作家さんだと1人でやっている人もいるし、アシスタントや弟子を多く雇っている人もいますが、商品を広く流通させたり、産業として量産するとなると、1人でやってる人はあんまりいないんじゃないかと思います。
ーー「伝統工芸」なら尚更、技術を継承していく意味でも職人が沢山いる方が安心ですね。
「上出長右衛門窯」で普段作っているものは?
上出:基本的には割烹食器と言われるジャンルの食器を代々作っていて、料亭や料理旅館などのいわゆる「会席料理」や「お座敷文化」が残る金沢のような地域からの需要で、日本料理のための食器を主に作ってきた歴史があります。
でもそういう文化も残念ながらだいぶ廃れてしまって、居酒屋やチェーン店が増えたことで大量生産の廉価な和食器が増え、長右衛門窯が作ってきたような手の込んでいてそれほど安くない食器は行き場を失いつつある。ですので、私たちは「割烹食器」を作ってきたルーツを大事にしながら、最近は家庭でも使える器や飾るための人形を多く作っています。
ーーその中で特に印象的なものはなんですか?
上出:「エフゴマグ 湯浴」というものなんですが、喫茶店を経営していた友人にマグカップの製作を頼まれたことがあって。
ただうちが作るものとして、使うシーンを考えると「マグカップ」って「割烹食器」とは言えないなと。割烹で使う湯呑の大体の湯量は100ml程度なんです。割烹食器って大体少し小さいんですよ。がっつり食べたり飲んだりするわけではないので。
それに比べて、お茶を飲むことを目的とするマグカップは250ml以上は入らないと喫茶店で出す容量としては少ない。だからサイズ的にも僕らの守備範囲ではないと思って積極的に作っていなかったんです。とはいえ前述した需要の減少もあり、このままではいけないことはわかっていたので、「割烹食器」というアイデンティティは大事にしながら新しい商品作りを進めようと言う話になり、このエフゴマグができました。
通常のマグカップのように口が広がったものではなく、口がすぼまったデザインにして、一見そんなに量が入らないように見えるけれどきちんと量が入るものを作りました。
ーー台形ですね。
上出:そうですね。エフゴというのは鷹狩りの時に鷹匠が持ち歩く餌袋の「餌畚(えふご)」から取っていて、その形を模した形のお茶道具をエフゴ形と呼ぶのを知り、後付けでエフゴマグと名付けました。
商品はこちらから:https://www.choemonshop.com/products/576312
ーー窯元として持っているこだわりはありますか?
上出:手作り、手描きであることですかね。特に同業者でもここまでろくろにこだわって作っているところも多くないので…
ーーえっそうなんですか?
上出:僕らも「そうなんですか?」という感じだったんですけど、最近職人と一緒に有田焼や波佐見焼(はさみ焼)の産地を見に行ったときも現地の窯元の人に驚かれるくらいで。僕らが今使っている「電動ろくろ」ではなく、量産体制により向いた「機械ろくろ」を使っているものと思っていたと言われました。もちろん有田にもろくろの技術は残っているんですが、ある程度流通している商品を手で作っていることに驚かれていましたね。
私たちは何も疑問を持たず長く続けてきたことですし、できる限りは手で作ることができるものは手で作っていきたいと思っています。それは大変なことではありますが、大きな価値だと信じて、職人による手仕事は今後も大事にしたいと考えています。
ーーどんな層に人気ですか?
上出:商品にもよりますが、SNSとか見てると4,50代の女性が多いですね。
ーーいただいた評価の中で印象に残っているものはなんですか?
上出:僕らは今までの陶磁器ファン、食器ファンの人たちにそこまで届けようとしていなくて、それよりも今まで九谷焼を知らなかった若い人たちや僕と同世代の方に届けたいと思っています。、だから、これまで九谷焼が売られていた場所ではないところへ意識的にアプローチしています。
その結果、ファッションや音楽が好きな人たちから「まさか自分が湯呑を欲しいと思うとは思わなかった」「自分が九谷焼を買うとは思っていなかった」という感想をいただきました。
例えばスニーカーに2万円は払えるのに、湯呑に6000円は高いって言われるの、どうしてだろう?とか、その価値の差ってなんだろう?と考えているところではあったので、そういう言葉は嬉しかったですね。
ーー今回ご紹介させていただいた「湯呑 笛吹」の特徴は?
上出:日本人に馴染みの深い中国の明時代に作られた古染付を取り入れたものですので、日本の「和」とは少し違った大陸的な雰囲気のある作風だと思います。
ーーこのデザインになった理由は?
上出:湯呑に書いてある絵柄は、古染付の絵柄で「笛吹」と呼ばれています。70年くらい前に祖父が古染付の写しを描き始めました。よく「侍」といわれますが、それは間違いで明の「文人」を描いたものだと思います。
ーー日本人じゃなかったんですね!では明の人が持っている笛も中国のもの?
上出:そうですね。洞蕭(どうしょう)という尺八のご先祖様のような楽器で、尺八より長い二尺ぐらいの長い笛だと思われます。
ーーなるほど!他の楽器を持っているシリーズの絵柄は惠悟氏がデザインを?
上出:そうです。
ーーこれからも増えていく予定ですか?
上出:人の手で作る以上、年間で作ることができるる大体の量が決まっているので、シリーズを増やし続けることができないジレンマの中、増えたり減ったりしていくと思います。
ーーデザインをする上でこだわっている部分は?
上出:基本的には横向きに座っている構図がベースになっています。なぜなら立っている姿を見たことがなく、脚がどうなっているのか分からないから。よくよく見ると少しおかしなところはあります。スケボーも自転車も座って乗っているし、コントラバス・ピアノ・ドラムみたいに床に座ったままでは演奏できない楽器も無理やり帳尻を合わせて違和感なく描いています。これはこだわりというより制約みたいなものですね。
あとは古くならないことを目指してデザインしています。僕らは「瑞々しい」という言葉を使っているんですけど、「磁器」という素材は腐敗も分解もされないので、割れない限りは1000年でも残るくらいの強度を持っています。そういう素材なので絵柄がすぐ古くなったりノスタルジーを感じるものは作りたくないなと思っています。
例えば現代の最先端のものとかって進歩が早いので、すぐに形や存在意義が変わってしまう。例えば、最近だとVRとかですかね。電子タバコとかもそうかもしれません。
コロナ禍でみんながマスクをしていた時期も、「マスクをしていても騒ぎ続けよう」というポジティブなメッセージを込めたデザインを考えたんですけど、数年後には「こういうこともあったね」と言われてしまうのではないかと思い商品化には至りませんでした。
向こう100年くらいは同じ感覚で見れる不変性の高いデザインのものを作りたいなと思っています。
ーー紙タバコを吸っている「湯呑 笛吹」は作られないんですか?
上出:そうですね…そういったものも作りたい気持ちはありますがまだ作っていないです。紙タバコは永劫不変なものな気がしますね。
ーー製品はどこで販売されていますか?
上出:自社のECと金沢にある直営店以外だと、今一番大きいのは和雑貨を扱う中川政七商店や、CIBONEという東京に2店舗あるインテリア雑貨のお店、あとは一部の蔦屋書店やAKOMEYAなどです。
ーー今後の展開(イベントごとなど)についてお聞かせください。
上出:今年の5月2日(木)〜5日(日・祝)に「第17回 窯まつり」を開催する予定です。
うちの商品は高いって言われることが多いんですが、窯を解放して実際の手仕事を見てもらうことで値段の価値を感じてもらったり、製作の中で出たB品は流通に乗せられないので窯まつりの期間中に販売しています。
それと会場内では地元や東京、京都からも知り合いの飲食店が来てくれるので、ぜひ遊びに来て欲しいです。
窯まつり限定品はネットでも販売していますし、来れない方はインスタグラムでライブ配信も予定しているのでフォローしてくださると嬉しいです。
窯まつりの詳細は公式サイトへ
https://www.kamamatsuri.com/
ーー最近作っている新作や、製品について、見た人へ伝えたいことはありますか?
上出:新作については内緒なのでここではお話しできないんですけど、noteで「上出長右衛門窯の道行」というものを月額500円で連載しています。
例えば新しい商品案を持って、僕が職人と一対一で話して、サンプルとしてA案とB案を作った時、A案もすごくいいけど僕たちはB案を選んだとします。そうすると「なぜB案を選んだか」というところに、僕たちが本当にやりたいことや伝えたいことが含まれているんですよね。だけど、そのやりとりは普段は密室で行われていて、お客様は基本出来上がったものしか見ることができません。
結局没になったA案はお蔵入りになって、今後誰の目にも触れないのが当たり前なんですが、それを思い切って見せてしまおうと、しかもリアルタイムで。そんな開発ストーリーをみなさんと共有できる形にしたのが「上出長右衛門窯の道行」です。
毎月必ず更新していて、新作についてもお話ししているのでぜひ見て欲しいです。
上出長右衛門窯の道行はこちらから
https://note.com/choemon/
ーー最後に、読者の方にも何かプレゼントになるものがあるといいなと思うのですが…
上出:今回取り上げていただいた「湯呑 笛吹」を差し上げます!
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ということで、上出長右衛門窯の「湯呑 笛吹」を抽選で1名様にプレゼントします!
応募はケムール公式X(旧Twitter)アカウントをフォロー+該当のポストをリポストして完了!
応募期間は一ヶ月となりますのでお気軽にご応募ください。
求む!プロジェクトK取材協力者
この記事はあまり知られてないけど面白いモノづくりをしている会社や人を紹介していく連載企画です。「こんなことやってるのを広めて欲しい」という方がいらっしゃればぜひ取材にご協力ください。ケムール編集部がいつでもどこでも駆け付けます!
取材協力のご連絡はお問合せページ又は「kemur.contact@gmail.com」までお気軽にご連絡ください。