「18歳成人」でタバコを吸える年齢は変わるの?そもそも年齢制限がある理由は?

【結論】タバコが吸える年齢は20歳以上のままです!

最初に結論をいうと、成年年齢が18歳に引き下げられたとしても、タバコが吸える年齢は20歳以上のまま変わりません。20歳未満が喫煙禁止であることは、民法とは別の「未成年者喫煙禁止法」によって定められていますが、この規定は変更されませんでした。一方で、法律の名前は「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に変更され、成年年齢の変更との間に矛盾が生じないようにする予定です。 では、なぜ喫煙可能年齢は変更されなかったのでしょうか? 理由は単純で、この規制の目的が若者の健康被害防止や非行防止にあり、民法における成年年齢の定めとは趣旨が違うからです。成年年齢とは直接関係なく、単に「20歳以上ならタバコを吸ってもいいだろう」という理屈で区分されているのですから、成年年齢に合わせて変更する必要がありません。ちなみに、飲酒可能な年齢も20歳以上のままです。 そもそも成年年齢引き下げの議論は、18歳・19歳も大人として扱うのが適当ではないか、自己決定権を尊重し積極的な社会参加を促すべきではないか……という考え方から出発しています。明治9年(1876年)以来、140年以上にわたって20歳成人としてきた結果、世の中の状況と合わなくなってきたという事情もありました。 しかし、明治から令和に時代が移り変わっても、青少年の体がタバコに強くなったわけではありません。つまり、法改正の経緯や趣旨からいっても、喫煙可能年齢を引き下げる理由がないのです。

そもそも、なぜタバコには年齢制限があるの?

次は、そもそもなぜタバコに年齢制限があるのかを、もう少し詳しく見ていきましょう。前述した通り、主な理由は若者の健康被害の防止です。もちろん、大人になったからといってタバコの害を受けなくなるわけではありません。しかし、早い時期から喫煙を開始した方が、健康への影響はより大きいのです。 統計により、青少年期に喫煙を開始すると、成人後に開始した場合に比べてがんや虚血性心疾患(心筋梗塞など)の危険性が高くなることがわかっています。加えて、喫煙を始めた年齢が早いほど、より高度なニコチン依存症に陥りやすいことも判明しています。青少年は大人以上に喫煙が習慣化しやすく、抜け出しにくいわけです。 また、気管支炎や喘息のリスクも高まります。さらに、体や脳の成長・発達にも悪影響を及ぼし、集中力や運動能力の低下も招くなど、タバコの害は計り知れません。その上、タバコ以外の薬物依存への入り口になる可能性すらあります。ここまで悪条件がそろっているのですから、20歳未満の喫煙が禁止されるのも当然といえるでしょう。

喫煙可能年齢を引き下げる案もあった!

ここまでの情報をもとに考えると、「タバコは20歳になってから」を動かさないのは当たり前のように思えますが、まったく議論にならなかったわけではありません。実のところ、喫煙可能年齢を引き下げようという案も出ていました。 引き下げに向けて動いていたのは、自民党の「成年年齢に関する特命委員会」です。この委員会では2015年、翌年夏の参院選から選挙権年齢が満18歳以上に引き下げられるのに合わせ、飲酒や喫煙も「18歳解禁」が妥当であるという提言案を示していました。「飲酒・喫煙を制限されることは社会的に保護が必要だと示しているともいえ、適当ではない」という考え方が根拠です。 しかし、もともと政府が見直しに慎重だったのに加え、日本医師会などの団体も反発。これを受けて、特命委員会は当初案を撤回し、両論併記にとどめた提言を提出しました。そして結局、成年年齢引き下げの法改正が実現しても、喫煙可能年齢は据え置かれたのです。 おそらく今後も、「タバコの18歳解禁」が俎上に載せられる可能性は低いでしょう。タバコの害を完全になくすような技術が開発されれば話は別ですが……。はるか未来のタバコ文化は、果たしてどうなっているのでしょうか。

18歳から吸えるのは普通!?海外の飲酒・喫煙を取り巻く事情

さて、ここまでは日本国内の事情だけを見てきましたが、タバコは海外にもあります。では、日本以外の国だと、一体何歳からタバコを吸えるのでしょうか? 日本と比較して考えるために、海外のタバコ事情を知っておきましょう。

主な国の飲酒・喫煙可能年齢

飲酒や喫煙が可能になる年齢は、各国の法律によって定めているため、当然ながら国や地域によって違いがあります。主な国や地域の飲酒・喫煙可能年齢は以下の通りです。
国名 飲酒可能年齢 喫煙可能年齢
アメリカ 21歳以上(州による違いあり) 21歳以上(州による違いあり)
カナダ 18歳または19歳以上(州や地域による違いあり) 18歳または19歳以上(州や地域による違いあり)
イギリス 18歳以上(種類や地域による違いあり) 18歳以上
イタリア 18歳以上 18歳以上
ドイツ 18歳以上(一部は16歳以上) 18歳以上
フランス 18歳以上 18歳以上
中国 18歳以上 18歳以上
台湾 18歳以上 18歳以上
韓国 19歳以上 19歳以上
インドネシア 21歳以上 18歳以上
タイ 20歳以上 18歳以上
フィリピン 18歳以上 18歳以上
インド 18歳~25歳以上(州による違いあり) 18歳以上
ブラジル 18歳以上 18歳以上
オーストラリア 18歳以上 18歳以上
南アフリカ 18歳以上 18歳以上
※厳密には飲酒・喫煙が可能になる年齢ではなく、お酒・タバコの購入が可能になる年齢を記載している国もあります。 ご覧の通り、18歳以上から飲酒や喫煙が可能になる国の方が、実は圧倒的に多いことがわかります。この手の規制は海外の方が厳しいイメージがありますが、お酒とタバコに関しては日本の方が厳しいのです。

海外でも規制は強まりつつある

海外の喫煙可能年齢を知って、「じゃあ日本でも18歳以上からでいいじゃないか」と感じる方もいると思われます。しかし、事はそう単純ではありません。そもそも海外では、日本に比べてタバコの値段が非常に高く、タバコの自販機を禁止・制限している国も多いのです。総合的には海外の方が「タバコに手を出しづらい」環境になっているかもしれません。 また、近年は海外でも規制が強まりつつあります。たとえば、ドイツはタバコに寛容な国として知られ、成人の約1/3が喫煙者。かつては16歳からタバコを吸うことができました。しかし、2007年頃からこれを変えようという動きが強まり、現在ではすべての州において喫煙可能年齢が18歳以上になっています。 さらに、青少年の喫煙が大きな問題になっているアメリカでは、以前は18歳以上からタバコを購入できましたが、2019年の法改正により21歳以上に引き上げられました。州によっては、青少年の喫煙の入り口になりやすい、フレーバー付き電子タバコやメンソールタバコを全面禁止しているほどです。 おそらく今後も、全世界でタバコへの締め付けが厳しくなっていくでしょう。したがって、「海外では18歳からタバコを吸える国が多いのだから、日本もそれに合わせよう!」などという意見は完全に的外れです。むしろ日本でも、さらに規制が強化されるかもしれません。

【参考】成年年齢の引き下げで変わること、変わらないこと

今回の法改正において、お酒やタバコの解禁年齢は据え置かれましたが、それ以上に重要なことがいくつも変化しました。「喫煙可能年齢は変わらない」という点にばかり注目して、他の変化に興味を持たないのはよくありません。 そこで最後に、成年年齢の引き下げで18歳からできるようになったことを簡単に確認しておきましょう。喫煙や飲酒と同様、これまで通り20歳以上でなければできないこともご紹介します。

いつ生まれた人が影響を受けるの?

今回の成年年齢引き下げの影響を受けるのは、2002年4月2日以降に生まれた人です。成人のタイミングやその時の年齢を細かく見ていくと、以下のように分けられます。 2002年4月2日~2003年4月1日生まれの人:2022年4月1日に成人(19歳) 2003年4月2日~2004年4月1日生まれの人:2022年4月1日に成人(18歳) 2004年4月2日以降に生まれた人:18歳の誕生日に成人 2002年4月2日~2004年4月1日生まれの人は、成人のタイミングをめぐって混乱する可能性が大いにあります。地元の成人式の案内などは、しっかりと確認しておきましょう。

18歳になったらできるようになること

成年年齢が引き下げられた後は、18歳になると以下のことができるようになります。

親の同意なしでの契約行為

携帯電話を契約する、マンションの部屋を借りる、クレジットカードを作るといった契約行為が、親の同意なしでできるようになります。生活の自由度が大きく高まりますが、トラブルの増加に注意が必要です。

10年有効のパスポートの取得

パスポートには5年有効のものと10年有効のものがあり、未成年は5年有効のものしか作れません。パスポートには必ず写真を貼る必要がありますが、未成年者は短期間で外見が大きく変化するため、あまり長期間有効なパスポートを与えるべきではないからです。成年年齢の引き下げ後は、18歳から10年有効のパスポートを持てるため、少し便利になりました。

国家資格の取得

公認会計士や司法書士、医師免許に薬剤師免許といった国家資格を取得できるようになります。優秀な人なら、10代のうちから大きくキャリアアップできるでしょう。

女性の結婚

これは唯一といっていい規制強化で、女性は16歳以上で結婚できたのが、男性と同じく18歳にならないと結婚できなくなりました。男女平等に配慮した変化といえるでしょう。

性同一性障害を理由とする性別変更

性同一性障害の人は、身体と精神の性別を一致させるため、戸籍上の性別を変更する場合があります。その審判も18歳から受けられるようになったので、マイノリティの自己決定権が強化されたといえそうです。

20歳以上にならないとできないこと

以下の行為は喫煙や飲酒と同様に、成人年齢が引き下げられても20歳以上にならなければできません。

ギャンブル

競馬、競輪、オートレース、競艇など、いわゆる公営ギャンブルの投票券の購入は、これまで通り20歳以上にならないとできません。健康被害への懸念や、ギャンブル依存症対策などが年齢維持の理由です。喫煙や飲酒と同じような判断がなされたといえるでしょう。 ちなみに、誤解されがちですが、パチンコはもともと18歳以上から遊ぶことができます(高校生は不可)。なぜなら、パチンコはあくまでも「遊技」であって「賭博」ではないという扱いになっているからです。実際には公営ギャンブル以上に注意する必要がありますが……。

養子を迎える

養子を取れるのも、これまで通り20歳以上になってからです。親になる人は相応の責任を果たさなければなりませんから、安易に年齢を引き下げなかったのは妥当ではないでしょうか。

中型・大型免許の取得

自動車の中型・大型免許を取得可能な年齢も、20歳以上のままです。かつては18歳以上で取得可能だったのですが、相次ぐ大型車の事故を受けて20歳以上(+普通自動車か大型特殊自動車の免許を取ってから2年以上)に改正された経緯があるため、今後も引き下げられる可能性は低いと思われます。

まとめ

今回の成年年齢引き下げは、「なぜタバコは20歳以上にならないと吸ってはいけないのか?」を改めて考える、とてもいい機会になりました。今後もよほどのことがない限り、喫煙可能年齢は20歳以上のまま変化しないと思われます。愛煙家のみなさんも、身の回りにいる20歳未満の人がタバコに手を出そうとしていたら、必ず止めて理由を説明してあげてください。

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