現代魔女のライフスタイルを儀式・料理・そしてシャグ(手巻きたばこ)で紹介する連載。読者のみなさまのおかげで2年目。
12月は、キッチン・ウィッチの現代魔女=弥富マハさんの得意分野「料理」に秘められた魔法を紹介します。
弥冨マハ
現代魔女術実践家
生きものから食べものへ 育み刈り取り繋ぐ者として「食」を通して母なる大地との循環を伝える者。
大阪道頓堀の川沿いにある隠れ家Restaurant&BAR 魔女の厨房CAULDRONのオーナー兼シェフ
辺境国を旅する事と異国の飯と煙草が好きな人。
中世、「魔女狩り」によって絶えたかに思われた「魔女=WITCH」の力強い精神を現代に受け継ぐ人々。その活動は占いや儀式といったスピリチュアルな営みだけでなく、エコロジーなどの社会的発信、チャリティ活動、ファッション・料理まで多岐にわたる。なお、「WITCH」に性別は関係ない。
現代魔女のクリスマス!
年の瀬も迫る12月、大掃除はもちろんの事ですが、私たち魔女も儀式に大わらわです!
そう、「ユール」!
画像出典:ippin
クリスマスの元になったとされる、古代ヨーロッパのゲルマン民族、ヴァイキングの間で冬至の頃に行われたお祭り。12/21から1/1の12日間行われる。ユールの期間のうち、ミトラ教(ゾロアスター教発祥の宗教で、かつてキリスト教のライバルだった)の太陽神ミトラが再生する日である12月25日を、キリスト教が旧約聖書の『マラキ書の義の太陽』にイエスをなぞらえて祝うようになったのが、現在のクリスマスにつながったのだとか。
去年のユールではチョイス・ダブルアップルとシナモンを調合したシャグ「ポイズン・アップル」を作ったんだよね…。
今年のユールは「食事」に魔女視点で注目してみようと思います。
(食後にシャグも喫いますよ~)
日本式「ユールボード」
冬の長い北欧では、太陽の再生を祈り、このユールを祝いました。
太陽が再び力強い生命を持つ日を新年とし、彼らはオーディンにビールや猪、豚を捧げました。現在でも北欧やドイツのクリスマス料理は、その名残りで豚肉がメイン。
スウェーデンでは「ユール・シンカ」と呼ばれるオリーブオイルと香辛料で長時間ハムを煮た後に蒸し焼きにした料理が、ノルウェーでは「ユールグリス」という豚肉料理があり、フィンランドでも豚肉料理や牛乳粥などがふるまわれます。
こうしたクリスマスの料理を並べたテーブルは「ユール・ボード」といいます。
スウェーデンで現在も続く「ユールボード」(写真引用:地球の特派員ブログ)
こんな神々との縁を持つ食材を使った祝いの餐、ユール・ボードを日本式でつくってみましょう。
ーーそれは、日本の冬の料理『お鍋』。
『鍋』は”変性”の魔法です。
素材『マテリア』を投入し、『触媒』として味付けをする。
魔女の厨房CAULDRONの『CAULDRON』も『大釜』と呼ばれる鉄製の『鍋』を意味する単語です。
魔女と『鍋』って魔女と箒や魔女と黒猫くらいワンセットなイメージですね(笑)。
Image: Grandin Road
「マテリア」と「触媒」
鍋に入れる具材=『マテリア』もひとつひとつ魔法の視点で選びましょう。
まず、大根。冬に欠かせない野菜。
大根は土深くに根を張り、引き抜こうとしてもなかなか簡単にはいきません。
大根がたくさん埋まっている土地は地盤が安定していて、少々のことでは家が傾いたりしないのだとか。
人生でも同じですね。しっかり深く根を張ることで人としての地盤が安定し少々の困難では揺るがない自信が身についてくる。
古くから縁起物でもあり、白いねずみが大根をかじっている絵は「大根食うねずみ」➡「だいこくねずみ」➡「大黒ねずみ」として金運や財産運を司る大黒天に通じます。
しかも、日本だけではないんですよ。台湾では大根のことを「菜頭」と言います。
発音は「tshai-thau」。これは「幸先が良い」という意味の「彩頭」という言葉と似ているため、大根を食べると幸先の良いことがたくさん起こる、と考えられています。
お次は人参。その赤はおめでたい色とされ、れんこんと同様に「ん」がつくことから、運がよい食材。
人参のオレンジ色は勝利を引き寄せる効果があるとされていて、さらに勝利を邪魔するものを退ける厄除けの力も持っているとされる野菜です。
そして、白菜。アブラナ科アブラナ属の植物。
カブ、キャベツ、カラシナなどと同じ仲間で原産地は中国。
日本では特に縁起の良い食べ物のイメージはありませんが、原産国の中国や台湾では「財運をもたらす」と言われています。
現在でも、中国や台湾の飲食店では白菜の置物を見たことがありませんか?、葉を玄関の方に向けて飾ると、財運を取り込みやすくなるとか(白菜の上にバッタやキリギリスなどの昆虫が付いている置物は多産と子孫繁栄の意味があるそうです)。
理由は「白菜」の中国語の発音が、「百財」(たくさんの財産)と同じ発音で、葉の一枚一枚がだんだん大きくなって膨らんで大きくなっていくことから、「財産も大きくだんだんと増えるように」という意味だとか。
こちらを鍋に入れて…
最後にメイン食材の肉~!
こちらは豚肉をチョイスします。
西洋のユールでも使われている、オーディンに捧げられた猪と豚。
猪肉でも勿論いいですし、私も猪肉は大好きですが、お手頃で手に入りやすい豚肉なら思いついた夜にでもすぐに買えますし。
そして味付け=『触媒』には味噌をベースに使います。
発酵食品は、化学反応の際にそれ自身は変化せず、他の物質の反応速度に影響を与えます。
付け足すなら、キムチダレがぴったりですね。
唐辛子は「火・炎の食材」。鳥居のような神聖な赤、汚れを浄化する魔除けの色。
世界中を旅するなかで、いろいろな唐辛子を見たなあ…
韓国はお土産に人気のガラス製の唐辛子。
イタリアでは愛する人の不貞を防いだり、ギャンブラーの験担ぎ、ビジネスマンが交渉時のお助けグッズにしたり、と幅広く愛されるラッキーアイテム。邪視(不運を与える眼差し)から身を守るお守りとして人気だった「コルノ」と呼ばれる小動物の角に形が似ていることからなんですって。
ウズベキスタンでは食べ物に使う習慣は無いようですが、あちこちに唐辛子が吊るされていました。ウルゲンチのローカルマーケットにも売っていました。
祈りが詰まった鍋を
調合していきます。
使うお鍋も、魔女がこしらえた特別なものを。陶芸家のうーたん・うしろくんの作ってくれた土鍋!
うしろ氏の作品 画像出典:SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS
特注品のこちらに、山から引いてきた清らかな水を入れて、火にかけて…。
火・水・土・風の四大元素を含む料理は魔女のユールには欠かせないもの。
お鍋の準備をしたらユールの祈りを唱えます。
太陽の再生を願い、長い冬を乗り切る為の力を授かるように祈りつつ、お鍋が煮えるのを待ちましょう。
味付けの濃い食べ物に溢れた現代社会で、野菜と肉の旨味だけを味わうのは原初への回帰。これが今年の「ユール・ボード」でした。
魔女の料理に合うシャグ・ブレンド
さて、この料理に合わせるタバコは、無添加タバコの代表格・アメリカンスピリットの黒(ぺリック)。このシャグは前から気になってたんですよね。
アメスピは、1982年、アメリカのサンタフェ生まれ。ネイティブ・アメリカンが多く住む独特の街で生まれたタバコ。
ぺリック・ブレンドはとても珍しいオーク樽(ウイスキー)の中に1年間も漬け込んで熟成と自然発酵させています。香り豊かで甘く、スパイシーな風味。こちらを更に美味しく味わう『 鍋の味を引き立てる塩』のようなスパイスやハーブは何か無いものか…
このハーブティが合いそうです。
オーガニック マーシュマロウ。
気管支の保護に◎のこのハーブは、昔は根っこの粘液が「マシュマロ」の材料になった植物です。ハーブシガレットにして吸ってもそこまでパンチの強い喫味はありませんが、ペリックとブレンドすることでタバコ葉の香ばしさを引き立ててくれます。
ぺリック・ブレンドはフィルターなしの方が味わいがハッキリするのでおススメ。
手巻きのトレーニング中の私は、ローラーを使わずコニカル巻きっぽく巻いてみました。
全然上手くなってないな…まあ、吸えたらいいんです見た目じゃないんです!
うーん、キックが強いタバコ葉本来の味わい。しっかりめの喫味は、素材の旨味をそのまま味わって食べる今回の日式ユール鍋にぴったり。
新しい年を迎える前にお風呂に入り、滋味に溢れる料理を食べて無添加のタバコを吸う。
ネイティブ・アメリカンたちの大地との繋がりを意識してゆっくりと味わうのもいいですね…。
これが魔女のクリスマス。
それでは、いいユールを。
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Merry Yule
【スモーキー】★★★
【スパイシー】★★☆
【甘さ】☆☆★
【レシピ】
シャグ=アメリカンスピリット ぺリック・ブレンド
スパイス=マーシュマロウ
ペーパー=Legalize チャッカーズ HIGH QUALITY HEMP PAPER
フィルター=なし