怖い話、不思議な話、怪しい体験談。
”怪談”。
それらを集め・語り・書き・生活の糧とする特殊な職業がある。
ーー”怪談師”。
その仕事の実態を当連載の著者である怪談師:吉田悠軌さんとともに実践的に明らかにする動画&記事連動シリーズ。
第1回目のゲストは木根緋郷さん。(テーマ:怪談を”しゃべる”)
第2回目のゲストは高田公太さん(テーマ:怪談を”書く”)で行った。
第3回目のテーマは怪談師の”スタジオ”。
怪談師のYoutubeチャンネル、その現場はどのような場所なのか?怪談は、どんな雰囲気で収録しているのか? 実際に出演して確かめてきた。
ゲストは…ふたりいる。
「不思議大百科」。
オカルトコレクター・田中俊行さんと、元・火葬場職員の下駄華緒さんが運営しているYoutubeチャンネル。
オカルトコレクター…? 火葬場…? まあ、平たく言えばふたりとも怪談師だ。
しかも、「凄腕」の。
実話怪談のショーレースの代表格『怪談最恐戦』(主催:竹書房)で2人とも優勝=最恐位・賞金100万円! を獲得。
”日本で一番怖い話を語った怪談師”どうしが組んだYoutubeチャンネルというわけだ。
しかも今年の『最恐戦』のMCも務める、実話怪談師のスター。チャンネル登録者数は6.5万人。女性ファンも多い!その撮影現場に、「怪談一服」著者の吉田悠軌さんと乱入してきた!!
▽目次
■怪談Youtuberの棲み処へ
事前に送られてきた「不思議大百科」のスタジオ住所は、都内のある駅から徒歩5分ほどのマンションだった。
収録は金曜日の15:00スタート。汗を拭きながら向かう。
交差点のそばにマンションがあった…エントランスロビーはなく、薄暗い通路に自転車が並んだ1階部分を、突き当りまで進む。
暗がりになった非常階段のわきにスタンド型の灰皿があり、そこで住人と思われる30代くらいの薄着のお姉さんが紙巻きタバコを喫っていた。
お姉さんが立っている横を遠慮ぎみに通り過ぎ、鉄扉を開けると古いエレベーターがある。5階へ。
その一室に、吉田さんと「不思議大百科」の田中さん・下駄さんがすでに到着している。
そこは、ボロッボロの部屋だった。
6畳のワンルーム、風呂ナシ、トイレ共同。シミのついたベッドと適当なメタルラックに変なタイトルの本やCD・DVD。脱ぎっぱなしの服。スナック菓子と飲みかけのペットボトル。床がとにかくゴミだらけだ。
こういう、部屋がクッソ汚い友人が大学時代にいた気がする。そこはモテない男友達のたまり場になっていてーー。
そう、ここで夜な夜な集まってはB級映画を見たり、発泡酒を飲みながら楽器を持ち寄ってテキトーな曲を弾いたりした。ごくまれに将来のことを話したりしながら。
そもそもYoutubeの収録場所がどんなところなのか考えたこともなかったが、要はカメラに写る部分だけ絵になっていればいいわけだ。
壁に取り付けられたアームに動画用カメラと、その前に椅子。そして壁一面にチャンネル名物の”呪物”。
ここで毎日公開され、のきなみ数万回再生を回す動画が制作されているのか…。
■不思議大百科・誕生の瞬間
吉田さん・田中さん・下駄さんのやりとりは「不思議大百科」コラボ動画でご覧いただきたいが、(というかこの記事の読者の大半が動画のリンクから飛んできた人だろうけど)収録に立ち会っていてわかったことは、進行は爆速だ。ほぼカットなし。2時間も経たずに3本録りとラジオ1本が完了した。
怪奇な体験談をフザケあいながら話す田中さんと下駄さんはものすごく息があっている(その間に自然に入ってかき回す吉田さんも凄いが)。そもそもどういう関係のふたりなのか?
「不思議大百科」誕生の秘話をきいてみた。
ーー チャンネル開始は2021年8月ですよね。そろそろ丸2年、怪談界ではすでに有名なチャンネルに成長しています。
田中 あっというまですね。ありがたいことで。
下駄 始めた時は大変やったけどなー。
ーー もともと下駄さんは自身のYoutube運営の経験があったわけですが、田中さんのような他の怪談師と組んだり、自分名義じゃないチャンネルをプロデュースすることがやりたかったのですか。
下駄 いや、別に(笑)。
田中 もともとチャンネル始める前から知り合ってて、取材一緒に行ったり遊んではいたんですけどね。
ーー では、どうしてふたりは「不思議大百科」をはじめた?
田中 …この話は長くなるで(笑)。
下駄 かいつまんで言うと…発端は田中さんなんですよ。名前は伏せますけど、ある地方のTV番組に田中さんが出てえらい目にあったことがあって。
田中 番組つくったあと、局の人に、自分の知り合いを紹介することになったんですよ。僕が世話になってる人で。で、その人に局の人がめっちゃ失礼したんですよ。
ーー え、ギャラが出ないとか?
田中 そんなのは当然の話で…それより雑なロケで家具壊したり、ロケ弁食べてそのまま置いて帰ったりとか…。
下駄 あんときはキレてたなー。「もうテレビ嫌や!!!」って叫んでた。
ーー マジですか…大事な人を紹介したのに。
田中 そう、紹介した人が裏切られたら怒るでしょ。で、電話してクレーム入れることにしたんです。その話をしてるときに下駄さんがうちに泊りに来てて、横におって。
下駄 そう、たまたま来てて。深夜でね。田中さんって見てわかる通り、めっちゃ温厚な人なんすよ。だからむっちゃ怒ってんねんけど、怒り慣れてないんです。しかも電話の相手も若い女の子がふたりくらい、クレーム対応のためだけに駆り出された感じやって。
田中 そう、インターンみたいな感じちゃうかな。
下駄 だからお互い話通じないし、怒りが空回ってるんです。「あんたら、社会人のすることじゃないでしょ、僕なんて社会人になったことないんですよ!!!」とか叫んでて。向こうにちょっと笑われたりしながら話し続けてるという(笑)。
ーー 地獄ですね…下駄さんはずっと横で聞いてたわけですか。
下駄 そう、で、電話が終わったら「もうテレビ嫌や」っていうわけです。だから「こんなややこしいことなるんでしたら、もうふたりでやりませんか」って言ったんすよ。「Youtubeという方法もあるし、自分の好きなことやったらどうです?」って。
ーー 下駄さんが田中さんに助け舟を出した。
下駄 うん、ほんま不憫やな、と思って。
田中 不思議大百科の「不」は不憫の「不」なんですよ。
下駄 で、やりだしたら田中さんが毎日更新する!て言うて(笑)。いまは田中さんも動画の制作をやってくれるんですけど、最初は僕ひとりで毎日公開の動画を編集してましたからね。
田中 血尿出てたよな(笑)。
下駄 不思議大百科のために僕、自分のチャンネル(下駄のチャンネル)の更新ほとんど止めましたもん(笑)。コレ無理やって。
怪談界”最速”Youtuberは?
いまや人気チャンネルとなった「不思議大百科」の誕生秘話は…思わず同情してしまう話だった。
Youtubeは一度開始したら更新を止めにくい、きついチャレンジだ。だが田中さんと下駄さんが今も(もちろんテレビも含めて)多方面で活躍できている理由は、「不思議大百科」という拠点があることでブレないスタンスを見せ続けられることも大きいのではないか。
そして、時代もふたりに味方した。
その理由は「コロナ禍」と「怪談」の関係だ。
2019年以降、お笑いでも演劇でも音楽でも劇場に人が集まることが「自粛」され、舞台で行うエンタメは大打撃を受けた。動画配信公演が試みられたが、役者の微細な演技のやりとりを見せたり、観客のリアルタイムでの反応を受けながらの一体感が命である舞台は、リモート配信にはどうしても乗り切れなかった。
ーーしかし、「怪談」だけは違った。
怪談は観客が歓声をあげ、拍手で盛り上げるような明るいイベントではない。その対極である。怪談師ひとりで演じ、声は基本小さめ、観客は黙って聞く演芸。しかも「怖い話」は自宅でたった一人で視聴するとなお怖い、という大きなメリットがあった。
そう、Youtubeをはじめとした動画配信は、怪談と非常に相性がいい。現在の怪談ブームのきっかけの一つはwithコロナであったともいえるのだ。
「不思議大百科」をはじめとした怪談Youtuberもその追い風を受けたはずだ。
実際今も怪談のチャンネルは増え続けている。
が…そのブームを明らかに先取りしていた怪談師がいた。
ーー そういえば、吉田さんは「不思議大百科」みたいにYoutubeやらないんですか?
吉田 やってますよ?もう更新してないだけで。
ーー あ、本当ですね。最近?
吉田 何言ってるんですか? 私はめちゃくちゃ早いですよ。2008年からだから。
下駄 HIKAKINより先やん(笑)。
吉田 全然先ですよ。当時は私かハリウッドザコシショウしかYoutubeやってなかったんだから。
ーー たしかに動画を見るとすごく若いですね。13年前だから…
田中 また更新すんの?
吉田 どうですかね? チャンネル作ったときはヒマだったからなー。収益化の仕組みもなかったし、そもそもYoutuberという職業が成立してない時代ですから。
ーー 早すぎて気持ち悪いですね…どうして始めたんですか?
吉田 いやいや、新しいプラットフォームが出たらとりあえず手を出すでしょ。私はtiktokもやってるしMissKeyも使ってますよ。
ーー ミスキー?
吉田 知らないんですか。メディアの編集者なのに(笑)。
ーー …。
盛り上がりを見せる「怪談系Youtube」の世界で、間違いなく最初期に(たぶん世界一)早く参入したのが吉田さんだった。先を行き過ぎているせいで、ほとんど誰にも知られていない。
ケムール読者の方は、吉田さんのチャンネルもどうぞ。
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ゲスト:不思議大百科
Official site:https://fushigidaihyakka.com/
Youtube:https://www.youtube.com/@hisato-kine
田中俊行(たなか・としゆき)
1978年兵庫県生まれ。怪談・呪物を蒐集するオカルトコレクター。
幼い頃から奇怪なものや怪談話を集めはじめる。
イベントや配信で怪談師としても活躍。
2013年「稲川淳二の怪談グランプリ」、2021年「怪談最恐戦」優勝。
著書に『呪物蒐集録』(竹書房)など。最新刊は『あべこべ』(二見書房)。
Twitter:https://twitter.com/tetsu_gamon
下駄華緒(げたはなお)
元火葬場・葬儀屋職員。火葬技術管理士一級。
プロミュージシャンでありながら怪談最恐戦2019で優勝し〈怪談最恐位〉の称号を獲得。現在は怪談や火葬場の体験談を語るトークイベントを開催するほか自身のYouTubeチャンネル「火葬場奇談」、田中俊行と共同の「不思議大百科」を配信中。
著者に『火葬場奇談』、コミック原作『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(画:蓮古田二郎)(ともに竹書房)など。
Twitter:https://twitter.com/geta_hanao
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くわしくはOfficial site▶:https://fushigidaihyakka.com/
1980年、東京都生まれ。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、オカルト、怪談の研究をライフワークにする。著書に『現代怪談考』(晶文社)『一生忘れない怖い話の語り方』(KADOKAWA)『オカルト探偵ヨシダの実話怪談』シリーズ(岩崎書店)『新宿怪談』『恐怖実話 怪の遺恨』(竹書房)、『日めくり怪談』(集英社)、『禁足地巡礼』(扶桑社)、『一行怪談(一)(二)』(PHP研究所)など多数。
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・・・・・「怪談一服の集い」募集のお知らせ・・・・・
ケムールでは、「一服の時間」にまつわる怪奇な体験談を募集します。お寄せいただいた怪談は、「怪談一服の集い」として随時掲載させていただきます。
ケムールの公式SNSにDMにてご投稿ください。
【ご投稿条件】
・投稿者様の身に起こった、あるいは投稿者様が知っている人が実際に経験した怪奇現象であること
・喫煙、喫茶など「一服するため」のアイテムが関係していること
・おひとり様何通でもご応募可能です
・実名、匿名問わずお受付けいたします(イニシャルやSNSアカウントでも結構です)
・本企画にご参加いただいたことによる怪奇現象について、ケムールは責任を負いかねます。悪しからずご了承下さい
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