【シャグ入門】”手巻きたばこのドン”が語る「極上の煙草」の世界

不定期連載 たばこのことば
第1回 ”手巻きたばこのドン”が語る「極上の煙草」の世界

日本での煙草のベストセラー1位は、長らく「セブンスター」だ。
マルボロ、キャメル、ハイライト…ずっと同じ銘柄を喫っている人もいれば、新しい銘柄が発売されたら味見してみる人もいるだろう。
メビウスがむかし「マイルドセブン」だったことを知らない若い愛煙家もいるかもしれない。
それぞれの愛煙道があって面白い。
今回はそんな喫煙スタイルのなかでも、ひとつの”究極”といえる話。

味もコスパも新次元。たばこを自分で巻いてみよう

手巻きたばこ=シャグ。
たばこ葉とペーパー(巻紙)、フィルターをそれぞれ別に買い、自分の手で巻く。
自分で葉の量や比率を調節できるため、うまく塩梅すれば自分ごのみの味が楽しめるうえにタバコ代が3分の1になったという例も聞いたことがある。「コスパ最強」とも呼ばれるシャグだが、魅力はそれだけではない。たばこという嗜好の本質がつまっている。
複数のたばこ葉のブレンドやローリングペーパー、フィルターとの組み合わせはほぼ無限大。ローラーやヒュミドール(加湿用具)など、アクセサリーも多彩だ。
「シャグ」はたばこ全体のなかでも約2%に満たないと言われるボリュームの小さなジャンルながら、その愉しみは驚くほど広大で、複雑で、知的だ。

とっつきにくい…とも言える。

そこで、シャグ歴1か月のケムール編集部記者(ふだんはアメリカンスピリット・ライトを愛用)が、シャグを良く知る人々の指南を受けるべく、知る人ぞ知る「聖地」に行ってきた。まだ手巻きたばこを知らないケムール読者のために、恥をさらしてこよう。

※この記事では便宜上、パッケージされて販売されている一般的な煙草を「紙巻き」「シガレット」、タバコ葉のみで販売され、巻紙などを使い喫煙者が自分で巻く煙草を「手巻き」「シャグ」と呼ぶことにする。

ケムールの運営企業である株式会社ライテックの担当者にきいたところ、「だったら、あの人に会えば間違いない」というシャグのエキスパートがいるという。
向かったのは、埼玉県行田市だ。

シャグのエキスパートに会いに出発

レンタカーで都内から90分ほど、東北道を走る。レンタカーの車内ではもちろんタバコも喫えない。同行してくれたライテック担当者もみな喫煙者だったため、一同、期待と不安とニコチンへの渇望にあえぎながら向かった。

シャグ上級者の方は読み飛ばして構わないが、行田市に到着する前に、この原稿を書いているケムール編集記者のシャグ経験を書いておく。

成人してから18年ほど紙巻きたばこを喫ってきて、途中5年間ほどの禁煙期間を挟み、現在はアメスピライトを一日1箱ほど喫っている。自宅では部屋に匂いがつかないよう加熱式タバコを喫うようにしている。ケムールでシャグ関連の記事を編集するにあたってシャグとフィルターを購入して手巻きタバコデビューし、はや1ヶ月。銘柄はシャグの代表格でもっとも手に入りやすいといえる、青いパッケージのもの。50gのパックで¥1330円だ(購入当時)。

気になっていたコスパであるが、これは前評判通り、かなり良い。
一般的に紙巻たばこの重量は一本「0.8g」くらいと言われる。購入したシャグ1パッケージは1330円で「50g」だから、63本分、約3箱である。アメスピの1箱600円で計算すると、1800円。この時点でもう470円浮いている。一日一箱喫う場合は月で4700円も浮いてしまう。

それに加えて、シャグは一本当たりのタバコ葉が少ない。多くのシャグはレギュラーサイズ(ショートホープとほぼ同じ長さ)。一本ずつ重さを測ってはいないが、「スリム」と呼ばれる細いフィルターを使えば、だいたい0.3g~0.5gらしい。0.5gだと50gの1パックで100本巻ける計算になり、1本あたり13.3円。アメスピは1本30円だから、たばこ代3分の1までは難しくても、半減は充分可能だ。
次は味だが、シャグを喫煙してみてすぐにわかった。まず味が紙巻きと完全に違う。植物を燃やしたときのような生っぽい煙がダイレクトに口のなかに流れ込んでくる。味はあまり安定しない。一本ごとにたばこ葉の量が微妙に違ったり、葉が乾きすぎていると辛くなる傾向があるからだ。
しかしあくまで個人の好みではあるものの、「美味い」と感じた。喫味としても体験としても、新鮮、フレッシュそのものだ。

だが完全に手巻きに切り替えておらずアメスピも加熱式たばこも喫っている理由は、やはりその手間による。
パッケージから出したシャグをつまんでフィルターと一緒にペーパーにくるんでいく(ペーパーはシャグにおまけでついてくるのでわざわざ買う必要はない)のだが、手先が不器用なせいもあって必ずしもうまくいかない。ペーパーの一辺についている糊をペロッとなめてくっつけるのも、口の中にシャグが入ったりしてけっこう難しい。巻いた後にシャグが多すぎたり少なすぎたり、糊が不適切な場所にくっついてしまうと着火しても一気に燃え落ちたりする。
しかしこれは「ローラー」を買うことでほぼ解決した。最初はローラーの代金(800円くらい)をケチって買わなかったのだが、これからシャグの入門を検討する方には絶対におススメしたい。ローラーはシャグをのせる小さなベルトが回転するだけのシンプルな道具なのだが、非常にキレイに巻けてスピードも上がる。(それでも7.8本に一本ほどは失敗するのだが…)
ローラーを使っても、どうしても巻く時間はかかる。道具を机に広げ、トレーの上にシャグを霧吹きで湿らせて(湿らせ具合で味がかなり変わる)、よくなじませてから巻いていく場合、慣れないうちは紙巻き1箱分=20本巻くと1時間弱はかかってしまうだろう。これが毎日となるとちょっとした労働である。
ーーというのが取材当時の現状であった。この1ヶ月を振り返ると、完全に紙巻きから切り替えるには手間がかかりすぎるが、シャグを巻くこと自体はけっこう楽しいしコスパも非常に良いと思う。味も美味いが、話に聞けばもっと深い趣味だという、今日はその神髄を聞いてこようというところだ。

…いえ、嘘です。まず失敗せずに巻く方法を聞こうと思います。

到着ーーこれが「たばこ屋」なのか!?

さて、いよいよだ。田んぼに囲まれる田園風景の中、到着したのは、一軒のたばこ屋だった。
しかし、よくイメージされる、ビルの一階にあるトンネルみたいな狭い店舗ではない。ワンフロアすべてが店舗になっている。

「Von Klaren(フォン・クラーレン)」=シガーショップマツモト。

日本で唯一の、シャグのオリジナルブランドを手掛けるショップであり、「手巻きたばこの聖地」と呼ばれる店なのである。

エントランスにはシャグのグッズで有名なZIG-ZAGのキャラクターの立像がある。
店内は欧風の調度品で統一されていて清潔だ。

入り口すぐにショップがあり、その棚には無数のシャグやパイプ用のたばこ葉がぎっしり並ぶ。パックのものもあれば、丸い缶入りのものも。ほとんど銘柄がわからないし、もちろん選び方もわからない。
はじめてオーセンティックバーに入って、カウンターにずらっと並ぶウイスキーをおそるおそる眺めたときの感じだ。意味はわからないが、異様な厚みだけを感じる。

その奥を覗くと、別に区切られた広いスペースがあった。
そこにはーー。出た、葉巻だ。
ケースの中で徹底的に品質管理されている。

つやっぽく輝くパイプも磨かれたケースの中に並んでいる。
シャグの一本当たりの値段を計算して「お得だ!」とか喜んでいる場合ではなかったのかもしれない。置かれているものがすごすぎて、もう何もわからない。

 

手巻きたばこのドン

いやいや、圧倒されているばかりではいけない。
この店は愛煙家にとってはまさに観光名所にあたるべき場所だが、今回は見物に来たわけではない!
ケムール読者も興味があるであろうシャグの醍醐味を勉強するため、取材のために来たのだ。
その講師となる方と対面となった。

「Von Klaren」店主、松本健一氏。
日本におけるシャグの第一人者であり、「手巻きたばこのドン」と呼ぶべき人物だ。
今回は、実際に松本氏にシャグを巻いてもらいながら話を聞くことができるという。
願ってもない機会だ。

「きょうの取材にあたって1ヶ月ほど手巻きたばこを試していまして」
と切り出すと、
「そうなんだね。何喫ってるの?」と尋ねられるまま、銘柄を答えると。
「ふふ…」
と笑い、「まあ、座んなさい」と促された。
な、なにかまずいことでも言ったか…?
差し向かいに座り、講義が始まる。

”紙の匂いを嗅いでみて”

しかし、いきなり煙草を喫えるわけではなかった、

まず松本氏が取り出したのは、普通の「紙巻きたばこ」だった。それをほぐし、中のたばこ葉・巻紙・フィルターをトレーの上に分け、紙だけをつまんで灰皿に置いた。
「まず、紙の匂いを嗅いでみてください」

そう言ってOCBというメーカーのBLACKというシャグ用のペーパーを一枚出して灰皿に置く。透けるように薄いペーパーだ。
紙…?
それぞれにそっと火をつける。
「どうですか?」
今後、この記事ではシャグにまつわる濃い話が続々と繰り出されるわけだが、最初にして最大の衝撃がこの「紙の匂い」だった。

ぜんぜん、匂いが違う。
まず紙巻きたばこから分けた巻紙から立ち上る煙が、かなり匂いが強い。鼻にツンとくるような刺激があり「たしかに紙巻きを喫うとき、この匂いがちょっとしていた」と気づく。
対して、OCBのペーパーはほぼ匂いがしない。いい匂いも悪い匂いもない。紙巻きの紙と比べれば無臭に近い感じだ。
当たり前のことだが、煙草を喫っているとき、紙も燃えているし、その煙を吸い込んでいるのだ。その紙でここまで匂いが変わるとは。煙の量も、紙巻のほうが明らかに多い。いや、シャグ用のペーパーの煙が少なすぎるという感じ。薄い煙がゆっくりと広がり、すぐに消えていく。
「燃え方も匂いもまったく違いますね…」と、誰でも言える感想を漏らすと、松本氏は顔をほころばせて言う。
「シガレット(紙巻きたばこ)の紙は時間がたってもきれいな白い色を出すよう添加物で漂白しているんですよ。このOCBのBLACKは、無添加でつくり、巻いた後は変色もする。そのかわりたばこ葉の香りを邪魔しない。どちらで喫いたいですか?という話です」
そうなのか。紙にも添加物がある。代表的なのはいわゆる塩素漂白だ。その匂いも影響していると。
「ちなみにシャグのパックについているペーパーも、ほとんどがシガレットと同じ漂白された紙ですから、もっと良い巻紙を選んだほうがいいですよ。最高級のシャグをシガレットのペーパーで巻いて喫ってみても、喫えたもんじゃない。むしろ匂いがきつくなります」
うっ。
シャグを買うとおまけでついてくるペーパーと、単体で売っているペーパーは違うのか…。というか、「紙の違い」というものを今まで意識したことがなかった。
しかも、この紙には素材もいろいろあるという。紙巻きたばこに使われているパルプのほかにも、稲や麻など。それぞれ香りが異なる。
「もし鰻重を頼んだとすれば、うなぎは絶品で裏側まで美味しい、でも米はなんでもいい….というわけにいかないはずだよね。だからたばこ葉も紙もすべて選ぶべき、それができるのがシャグなんです」

たばこをほぐして見えたもの

次に紙巻たばこからほぐしたたばこ葉を見せる。
「シガレットの葉は品質を安定させるためにグリセリンなどが添加されています。だからカビも生えない。乾きにくい」

たしかに紙巻きからとりだしたたばこ葉は均一に乾燥し、さらさらしている。いつ、どんなコンディションで喫煙しても味がブレることがないよう工夫されているのだ。これはこれですごい技術ではある。
「でも、その加工がたばこ本来の匂いを変えてしまうんだよね。シガレットの匂いは強い。指にも服にも匂いがつき、1時間以上残ります。でも無添加のシャグはほとんど匂わない」
紙と葉が燃える匂いがミックスされて、いわゆる「たばこの匂い」ということになる。
喫煙者であれば好ましいとも思えるあの独特の香りは、添加物が燃える匂いでもあったのか。紙巻きは燃えた後が特に匂いがきつくなる。いわゆる喫煙所の灰皿のあの匂いだ。しかし松本氏によれば、シャグは5時間後に火をつけても匂いが変わらない。いわゆるシケモクを喫っても美味しくいただけるのだ。
ーーと、そこで気づいた。Von Klarenは店内で喫煙ができる。が、たばこの匂いがしない。空調設備に非常にこだわっていることも大きな要素だが、これもシャグの匂いが少ないからなのだという。
「うちは喫煙可。でもシガレットはお断りしている」
と、松本氏は自信を感じさせる口調で言う。確かに――、街中の喫煙所や喫煙可のカフェと、この店は明らかに空気が違う。

”それが煙草なんだよ”--はじめて経験する喫味

そして、いよいよ松本氏が煙草を巻き始めた。
銘柄のラベルを貼ったタッパーにシャグが詰めてあり、そこからつまんでトレーにのせ、指先でローラーに詰めていく。
ひとつまみで0.5g。数えきれないシャグを巻いてきた松本氏は、何度でもピッタリ0.5gでつまめるという。
すごい。腕のいい板前は握ったシャリの米粒の数がいつも同じ、みたいな話だ。
使う道具は、見たところどこでも売っていそうなものだ。ローラーもトレーも豪華なものではなく、ライターは使い切りタイプだった。
それでも手際の良さでどことなくエレガントに見える。
「シャグを巻くのは手間だという人は多い。でも、慣れれば10分くらいで20本はすぐ巻けるようになるよ。そして手間は楽しみに変わっていきますから。夜、時間があるならウイスキーのグラスを傾けながらゆっくり巻くのもいいものです」

「うまく巻くコツはありますか」と尋ねてみる。
「ローラーは裏を使うんだよ。そうした方が巻きやすい」
一度分解し、ベルトを裏返してから使用するという。そして、ペーパーは濡らした綿棒の先で糊をなぞるようにすると失敗しにくい。こうすることで均一に水を塗ることができ、舌でなめる必要もなくなる。シャグの情報はネットにもあるが、銘柄の説明か値段のことばかりで、この手の実際に楽しむ人のための情報はとても少ない。頭のなかであわててメモをとる。
「じゃあ、喫ってみてください」
いよいよ実喫だーー。
口に含むと、言われていた通り、本当にたばこ臭さがない。もちろんたばこの香りはある。たとえるのが難しいのだが、火をつける前のたばこの香りがそのままふわっと口の中に入ってくる感じだ。
煙っぽさがなく、実際出る煙もかなり少ない。舌に残る感じも軽い。やはり、さきほどの紙の違いが大きく出ていると感じた。
「どう? 口の中に何も残らないだろう。それが煙草なんだよ」
口当たりがまろやかで刺激がない、だから軽いのかというと、ニコチンのクラっと来る感じはけっこう来る。実に不思議な喫味だ。けれど、「それが煙草だ」と松本氏に言われると、そうだったのか、と、納得してしまう。
「シガレットのことを悪く言いたいんじゃない。あくまでも”違い”をお客様に伝えている」
と松本氏は言う。圧倒的多数派を占める紙巻きたばこを捨て去った、異色のたばこ屋の矜持に満ちている。

Von krarenが「シャグの聖地」になるまで

紙巻きたばこと手巻きたばこの違いは、回転ずしと握り寿司の違いに似ているかもしれない。比べてどちらが良いというものではなく、求められるシーンがそもそも違うという感じがする。素材も、つくりかたも、嗜む作法も、紙巻きたばことシャグは異なる。
そんなこと、教えてもらわないとわからないじゃないか。けれど一度覗いてしまったら、離れがたい魅力がある。
「手巻きたばこは、おいしさ、楽しみ方の深さが違う。単品で喫うのも良いし、ブレンドする楽しみもある。ベースの葉っぱに、香りのあるシャグをブレンドする。シャグどうしでなく、パイプの葉っぱをブレンドするのも美味しい」

今やシャグの生き字引として全国から愛煙家が訪れ、たばこ業界内ではたびたび講演会に呼ばれるなどその界隈では知らぬ者のない松本氏であるが、最初から手巻きたばこのみを扱っていたわけではないという。

「VonKlaren」は、もともと松本氏の家が代々守ってきた土地で開業した。商人の家に生まれた松本氏は幼いころから数字に強く、早くから経営者としての将来を考えていたという。
1983年にVonKlarenを創業。畑だった土地の一部を店舗に変え、バッティングセンターや工芸品・贈答品の店などを営んだ。創業5年目に煙草販売の免許を取得した。当時日本人の喫煙率は40%ほど、人が集まる場所には必ずたばこの煙があった。
80年代は、たばこ業界にどえらい変革が立て続けに起きた時期だ。専売公社が廃止され、日本たばこ産業 (のちのJT)が発足したのが85年。
1980年に外国たばこの関税は90%だったが、82年に20%に引き下げ、87年にはついに関税撤廃。爆発的といえるたばこ銘柄の多様化が起こった。
民営化によってコンビニエンスストアで煙草が売られ始め、たばこ屋の衰退に拍車がかかっていくのもこの時期である。
そんなたばこ業界激動の時代に、松本氏は、70年代から伸長していたたばこ自動販売機を敷地に並べて地域の人を驚かせるなど、果敢な経営を行ってきた。
当時扱っていたのはシャグではなく、メインは紙巻きたばこ。馴染み深い日本の銘柄だけでなく、ジタンやアークロイヤルなど通向けの海外たばこも積極的に扱った。愛喫していたのは中国たばこ、中南海だったらしい。
そんななかでシャグの取り扱いも徐々に始まっていく。はじめてシャグの味に触れたのは海外でのことだ。急速に台頭していく自動販売機で取り扱うことのできないシャグ・葉巻・パイプの普及に努めてきた。
いまの店舗の敷地内ではゲームセンター、携帯電話販売なども展開していくなか、徐々にたばこの販売エリアを広げ、現在のようなレイアウトに決めたのは2014年。
紙巻きたばこの売り上げが下がっていくなかで、販売店も変わらなくてはならないと考えての決断だった。
そして、VonKlarenはシャグの聖地となった。
「生きるためにはタバコなんか必要ない。衣食住だけあればいい。でも人生のためには必要なんだよ。それを一生懸命教えるのが、専門店の役目だと思う。たばこ屋さんはまだまだ勉強しなくてはいけないよ」

”生きるためにはタバコは必要ない。人生のために必要なんだよ”

松本氏が目指したのは、たばこを良く知り、その文化を教えるだけでなく、その歴史や美意識に包まれるような空間だった。

大きな海外のシガーバーやホテルのラウンジの写真集を開きながら、「いずれは店内にバーも開きたい。免許はとってある」と語る松本氏はまだまだ満足しているようには見えない。

田園に囲まれた埼玉県にある拠点では、時には海外からのたばこ業界人などゲストを迎えることもある。そうした交流から日本で唯一のオリジナルのシャグブランドを持つに至った。

この店では店主の松本氏やスタッフがシャグを紹介し、コーヒーで客をもてなしながらたばこを売る。年代は幅広く、長年の常連客から若いビギナーまで訪れる。
近年はコロナの影響でキャンプが流行ったりもしている。焚火をみつめ、ゆっくりと時間を楽しむ文化は本来の喫煙文化にも通じるものだろう。
シャグはその複雑な醍醐味と奥の深さゆえに、途中でやめてしまう人もいる。だからこそ、最初に極上の経験をしておくことで、自分が追い求めたい味も見つかりやすくなる。
添加物などで品質を安定させている紙巻きたばこと違い、シャグは美味さをひきだすのに技術がいる。入門時にはたばこ葉だけでなくアクセサリーも購入が必要だ。長期的に見ればとてもコスパが良いものの、最初は高くつくと感じる人も多い。
だからこそ巻き方から保管方法まで、やってみせて教える。逆に言えば、そうでなければ売れない。

シャグの湿度を保つヒュミドール

「若い男の子には数字で見せたほうがわかりやすい。だからこうやって湿度計を使って教えるんだよ」
相手を見て言葉を変え、納得して買ってもらうことにこだわってきた。

シャグでお金が浮いたら、1本だけ葉巻を。

「今回の値上げで、紙巻きたばこの多くはひと箱40円高くなりました。40gのシャグも約40円上がっている。でも、グラムに換算すると値上げ幅はシャグの方が少ない。つまり、値上げするたびにシャグのほうがお得になっていて、しかも値上げはもう4年間連続です。いま始めない手はないよ。
でも、そんな簡単なことなのに、たばこを売っている側はお客さんに教えていない。コンビニでも、街のたばこ屋さんでも教えてくれるところの方が少ないでしょう。しかもシャグは美味い。極上のものを喫ったほうが、なぜか安くついてしまうのが煙草なんだよ
シャグを巻いてもらってそんなふうに口説かれたら、買ってしまうではないか。

なじみとなった多くの客は、決して交通の便がよいとはいえないこの店に数カ月ごとに訪れ、次の数カ月ぶんのシャグを買いこんでいくケースが多いという。
そして、Von krarenにはシャグよりもっと深い楽しみが揃っている。それが冒頭で紹介した、葉巻とパイプだ。

「シャグから入ってもらい、それで終わらずにもっと深い楽しみを提案したい。
まずは安いお金でシャグを楽しんで、浮いたお金のなかから一本3000円くらいの葉巻を買ってみてほしいね。シャグにパイプ用の葉をブレンドするのも美味しい。手巻きたばこ・葉巻・パイプ。ヨーロッパやアメリカのたばこ屋さんはそのトライアングルを教えているんです。それが本当のたばこ屋の姿だと思う」

「本物のたばこ屋」が教えてくれたこと

取材の帰り、Von Klarenのオリジナルブレンドのひとつ「VK-2」とペーパー3つ、加湿用のヒュミドールを買って帰った。
帰宅すると、缶入りのたばこを開けた。ローラーのベルトを裏返して、ペーパーを綿棒で濡らす。巻くのにかかる時間はちょっとだけ短くなった。
ベランダに出て、使い切りライターで火をつける。
「ふふ…」と笑った、手巻きたばこのドンの顔が思い浮かんだ。

記者じしんは、いまでもアメスピを喫うこともあるし、家では相変わらず加熱式タバコを喫っている。最初にシャグの入門で買った青いパッケージの銘柄も悪くないと思う。しかし、Von Klarenで買った手巻き煙草はーーあくまでも違う。

ちなみに松本氏がいま愛用しているシャグは「かがやき」と「ゴールデンカガヤキ」を1:1でブレンド。リコリスペーパーで巻いているそう。
シャグを知らない人にとっては、なんのことだかわからない言葉の羅列だろう。(じつは、これを書いている記者もよくわかっていない)
しかし、すこしだけ知りたくなってしまった愛煙家のかたがたは、ぜひ一度Von Klarenを訪れてみることをおすすめしたい。
シャグを紹介する記事は、いまではネット上にいくらでも転がっている。そこから手軽に入門してみるのも良い。どんな出会い方、楽しみ方でも自由なのがシャグの最大の魅力だから。
そのひとつの選択肢として、手巻きたばこの究極のカタチを見ておきたいなら、この店を訪れてみるのはいかがだろうか。

 

Von Klaren
行田本店
〒361-0023 埼玉県行田市(大字)長野602
営業時間:10:00~21:00
定休日:木曜日
電話番号/FAX番号 048-553-1700/048-553-5200
公式サイト:https://vonklaren.com/

 

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