アニメのお値段事情 〜モーションロゴ編【4】〜

▶いままでの「アニメのお値段事情」

第3話:原画完成

前回までのおさらい

■10月中旬
ケムールでは、業界のお金事情を詳しくレポートするため「アニメ業界」に注目した。密着するために選んだ方法は、ずばりアニメを発注すること。
ケムールの運営会社であるライテックの企業ロゴを使ったジングル(15秒程度のモーションロゴ)をフリーのアニメーターたちに注文し、企画がスタートした。アニメは日本を代表するコンテンツ産業で、年々市場規模は成長を続けている。その現場はどうなっているのか。「宮崎アニメ」や『エヴァ』のような有名作では、1時間・2時間は当たり前のメイキング番組が組まれる。これは、他のコンテンツではほぼ見られない現象だ。どんな職業であっても、”現場”には知られざるドラマがあるものだが、そのなかでも「アニメの現場」は別格に面白いのではないか。

ライテック コーポ―レートロゴ


制作のために集まってくれたのは、おもにTVアニメを主な仕事とする「原画」および「演出」のAさん「背景」のBさん、「音響」のCさん。3人とも20代と若く、制作を仕切る演出のAさんと特にケムール編集部は長くかかわることになる。
最初の打合せでアイデアの核となったのは16世紀の画家・ジョルジュ・ラ・トゥールの絵画。かつてライターなどない時代にタバコの火を灯した静かな炎。その揺れる光をモチーフに制作がスタートした。

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
煙草を吸う男 1646年 油彩、カンヴァス
出典:東京富士美術館

クリエイティブはオーダーメイドのため、その費用感は一概には言えない。だが、だからこそ実際に受け取った見積りはリアルだった。

■見積り(10月26日時点)

合計:¥370,000(税別)
尺:15秒のジングル制作
内訳:
【コンテ ¥30,000/15秒】
【演出 ¥50,000/15秒】
【原画 ¥20,000/1cut】
【動画 ¥600×150枚=¥90,000】
【仕上げ ¥500×150枚=¥75,000】
【背景 ¥15,000×2枚=¥30,000】
【撮影 ¥1,000/秒×15=¥15,000】
【音響:必要音源数あたり ¥10,000×3=¥30,000】
【色検査:設定数あたり ¥10,000×3=¥30,000】

納期:11月末

はたして15秒を色のついた絵で埋め尽くすのには妥当な金額だろうか? いや、作業は1か月だ。そう考えると決して高くはない。
絵コンテは2案提出された。

■A案(① ②)



■B案



たたずむ人物がライターで火をともし、企業ロゴに重なるA案。B案は火の玉のように輝く光がライターから動き出し、ロゴの周囲を飛び回る。アニメーションらしい動きがあるのはB案だが、奥行きと美しさを感じるA案に決定した。


■10月下旬
さらにアニメ業界を知るため、Aさんに説明を聞く。
テレビアニメの制作ではフリーのアニメーターが集まり、それを演出が束ね素材を管理する、さらにその上に作画監督と監督がいる。短納期のなかで毎週の放送に耐えるクオリティを維持するために現場は振り回されやすく、特にAさんのような現場の束ね役は常に多忙で、結果的にテレビアニメのスケジュールは遅延しがちのようだ。

Aさんが書いた制作体制図

そこにはフリーの職人的なアニメーターが番組ごとに集合と解散を繰り返すがゆえの、この業界特有の現場管理の難しさ、一種の現場のゆがみのようなものが見て取れたが、望みもある。平均年収を日本人平均の40万円ほど下回るアニメ業界において、Aさんは業界平均を大きく超える収入を得ているということだった。これはビジネスのヒントになるかもしれない。

アニメを作りたい人間ばかりが集まる、時間とお金が厳しくなりがちな業界。そこには作品をつくる人々にはいつもつきまとう「時間」と「クオリティ」の難しいバランスがあるようにも思えたが、ケムールのロゴアニメーションでもそれは露呈した。

AさんのVコン(絵コンテを簡易な動画に変換したもの)を見て、ケムール編集部は方向性の違いを指摘した。これで本当にいいのか、本当につくりたいものができているのか、と。
Aさんは、もともと2案あった絵コンテのうち、ケムール編集部が推していた「A案」で進行しようと考えていたが、実はアニメーションの躍動感を発揮できる「B案」で行きたいと申し出てくれた。はじめてのアニメ制作、そしてはじめての「リテイク(差し戻し)」だった。
制作は紆余曲折し、スケジュールがずれ、変更され始める。
徐々に、アニメの制作らしくなってきた。


■12月初旬
リテイクが発生しスケジュールがずれこんだため、Aさんは新しいアニメ制作の現場の傍らケムールのロゴアニメーションを制作することになり、さらにひっ迫していた。その現場を取材するためにAさんの家に伺った。


クリスマス商戦が始まったばかりの荻窪駅から徒歩20分のマンションの8階に、Aさんは友人のアニメーターと3人で暮らしていた。複数のスタジオでの仕事を掛け持ちするため荻窪を拠点に選び、不規則な時間に帰宅し、就寝し、起床する。もちろん、ケムールのアニメ制作もその間に行うため、なかなか納期の見積もりは立てにくい状況になっていた。同居人たちも似たような生活なのだろう。

お金事情を聴くと、フリーならではの仕事のとりかたや、原画マンの単価は一枚およそ300円という話を聞く。取材に応じながらAさんはデスクに向かい、原画を描き続ける。動画用紙の上で炎が動きだそうとしていた。

”化ける”

■12月20日
AさんのVコンはまだ来ない。12月24日の〆切は守れそうにないと連絡があった。この企画で制作しているロゴアニメーションはもちろんテレビアニメほど厳しい納期ではないが、納期が遅れて作業日が増えても、Aさんへの支払額は当然変わらない。動画は中国のスタジオに発注することになっているので、もしこれ以上スケジュールが押して旧正月(春節)に入ると大幅にスケジュールが押してしまう。じりじりつつ待つ。

新型コロナウイルス感染拡大対策を柱とする2021年度補正予算が参院本会議で、与党をはじめとした賛成多数で可決・成立した。一般会計の歳出総額は35兆9895億円で、補正予算としては過去最大の金額となる。

Twitterでは、前澤友作氏が宇宙旅行から帰還したことが話題になっていた。ちなみに前澤氏の保有資産は2300億円。

■12月22日
大阪府で「オミクロン株」の国内初の感染者が確認。この時はまだ、いずれ東京都の感染者数が過去最大を更新するまでに猛威を振るうなどとは思っていなかった。

■12月24日
2022年度予算案が107兆5964億円で閣議決定。10年連続で過去最大を更新した。

■12月30日
2021年の秋アニメが、軒並み最終回を迎えている。
東京株式市場、大納会。終値は2万8792円71銭。

そして年が暮れる。多くの人々にとって、実家に帰れない正月がまたやってくる。


■2022年1月4日
出社すると、AさんからVコンテが届いていた。

前回までのコンテと比べると、明らかに動きが大きく、光の効果に表現の焦点があてられている。光は背景や撮影処理にも大きな影響を与える要素だ。
特にライターから発火した火が、火花を散らしながら飛んでいく動きは、率直にAさんが「つくりたいもの」に精魂を傾けたことが伝わってくる。
ケムール編集部にはVコンから完成形をイメージする力は残念ながらないが、前回のVコンが特別品質が低いとは思っていなかった。だから今回のVコンも正直、どんな仕上がりになるのかはわからないし、もちろん多くの企業担当者がプロモーションのためにアニメを作る場合も、完成形はわからないだろう。
しかし、今回のVコンは少し別格なものを感じた。何を描きたいのかが明確になっている。「化けた」という手ごたえがあった。
ケムールを運営しているライテックにとって「火」はとても重要なモチーフだ。それがAさんの手によってどう動くのか、見てみたいと思えた。OKを出すにはそれだけで十分だった。

■1月8日
さらにAさんから作業中の原画が送られてきた。

Aさんにはこのまま突っ走ってもらおう。次回はAさんが率いているスタッフを交えた、アニメの現場のチームワークとお金の配分について取材したい。

 

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