アニメのお値段事情 〜モーションロゴ編【6】〜

■見積り(10月26日時点)

合計:¥370,000(税別)
尺:15秒のジングル制作
内訳:
【コンテ ¥30,000/15秒】
【演出 ¥50,000/15秒】
【原画 ¥20,000/1cut】
【動画 ¥600×150枚=¥90,000】
【仕上げ ¥500×150枚=¥75,000】
【背景 ¥15,000×2枚=¥30,000】
【撮影 ¥1,000/秒×15=¥15,000】
【音響:必要音源数あたり ¥10,000×3=¥30,000】
【色検査:設定数あたり ¥10,000×3=¥30,000】

納期:11月末
➡原画完成:2022年1月初旬にずれこみ

■スタッフ
演出・原画:Aさん→制作の遅れにより動画も兼任
背景:Bさん
音響:Cさん
仕上げ:Dさん
撮影:Eさん

6:完パケ

アニメになる

▶いままでの「アニメのお値段事情」

3月中旬。ついにケムール製作の株式会社ライテック・ロゴアニメーションが完成した!

前回動画まで仕上がったビデオコンテを見ていた編集部の面々としては、正直「仕上げ」「撮影」が加わることでこんなに変貌するものかと驚いた。仕上げのDさん、撮影のEさんの仕事だ。ライターから飛び散る火花と炎の光の表現が使い分けられ、手のひらにぼんやりとこもる光、コーポレートロゴを照らすライトで奥行きが出た。火球から虹色に尾を引く虹色の光は、Aさんの原画を引き立てる。
一気に、そして完全に「アニメ」になっている。

前回までのビデオコンテ(動画まで)と見比べてみてほしい。

スポンサーのOKを経て納品。いわゆる「完パケ」となった。
昨年10月に制作に着手し、およそ半年。長かった(原画が)……。

スタッフ集結

さて、ここからが「アニメのお値段事情」連載のお楽しみだ。
編集部としてはスタッフにお礼を言いたいし、生の声をぜひ聴きたいと合同インタビューを企画した。現場を率いたAさんが集めたのは、20代後半の若い制作者たち。みなAさんの同期と言える年代だ。今まで以上に赤裸々な話も聞いていくため、引き続き完全匿名なのは悪しからず。お値段も含めたアニメ業界の事情を聞きまくってやろう。最後の取材にふさわしく。

【演出・原画・動画】Aさんの事情

―― お疲れ様でした。
演出A すみません、本当にスケジュールが遅れまして。周りのスタッフに助けられて良い仕上がりになったと思います。
―― 本当に遅れましたね。途中から遅れるのが普通に思えてきてしまって、仕上げさんと撮影さんが予定通りのスケジュールで進めてきた時に、時間の進み方がおかしくなったのかと思いました。
演出A どこのアニメの現場もそうなんですよ…。仕上げと撮影の方々に最後、助けられて。でも今回は原画だけでなく編集や音声のチェック、さらに動画なども自分で担当したことで、クオリティをコントロールできたのも良かったですね。
―― スケジュールが押して動画を外注する時間がなくなったからでしょう。
演出A まあそうとも言います(笑)。
―― しかし忙しく動いているのに驚きました。改めて聞きますが、労働時間と年収はどのくらいですか。
演出A 労働時間は計算したことないです。年収は、フリーランスなので本当に仕事量・納期・支払いのタイミングしだいですね。昨年は1000万円弱だったし、その前の年は100万円代でした。
―― 平均すると?
演出A 300万円いかないくらいですね。

 

【背景】Bさんの事情

―― 今回のスタッフでフリーランスなのはAさんだけですね。Bさんは現役の社員。
背景B そうですね。背景制作会社で働いています。今回は副業で参加させてもらいました。
―― Aさんは朝も夜もないという感じですが、正社員であるBさんの労働時間は固定ですか。
背景B 10時出社と決まっていて、毎日の労働時間は9時間とか10時間とか。残業代は出ません。
―― 忙しさに波はありますか。
背景B やっぱり納期が近くなると。徹夜になることもあります。
―― 給料は?
背景B 手取りでだいたい18万円。
演出A  基本給は上がってるの。
背景B 昇給の基準は社長にきいてもはぐらかされる(笑)。でも年功序列に近いかな。他の背景会社の人と話したら、自分と同年代で月収が2万円くらい高い人もいたよ。
―― ボーナスは出ます?
背景B どんな基準かはわかりませんが(笑)、業績賞与でボーナスが出ます。去年は3か月分もらいましたよ。
演出A  ボーナスあるのかあ。
―― 3か月分とは、安定してる会社なんですね。
背景B ウン十年放映している有名テレビアニメの背景を担当している会社なので。
演出A 実は今回、背景は描いてもらったけれど使ってないんですよ。
―― たしかに、かなり複雑に絵を重ねた背景を用意していましたね。なぜ使わなかったんですか。
演出A 炎と対比する闇の表現のために、真っ黒だけど質感が重なっているという実験をやってみたんですけど、ハマらなかったという感じです。ごめんな。
背景B まあ良いよ。余裕があれば、火に合わせて背景を動かすとか、他にもいろいろやってみたかったけどね。
―― 背景を描いても実際の放映で使わないというケースもあるんですか。
背景B 普通にありますね。尺の都合で、とか。だから今回のこともあまりこたえてません。結果として最善なら使わなくて良い。
―― では、どういうときにテンションが下がりますか?
背景B 背景は「原図」っていう下書きをレイアウトから渡されて描くんですけど、その原図が適当だった時ですね。「町」とか、文字で指示が書いてあるだけだとイラっとします(笑)。
―― この連載、なかなかの反響をいただいているんですが、何かアニメ業界に対して言いたいことはありますか。
背景B 「気合いの入った原図をよこせ」ですね。それが背景スタッフにとって一番燃えますから。

【音響】Cさんの事情

演出A Cさんはいまはアニメ業界にいないんですが、もともとアニメ制作会社の正社員でした。そのときも音響専属スタッフではなかったんですよ。
―― そうなんですか。制作会社ではどのようなポジションにいましたか。
音響C 制作進行ですね。当時は音響は専門ではありませんでしたが、現在Youtubeでリアルタイム配信などを手掛ける技術系の動画制作会社にいて、音響にも携わっているので参加させてもらいました。
―― 今回のロゴアニメで印象に残っていることはありますか。
音響C 炎の音をイチからつくったことです。「ライターを着火する音」は、割と誰でも想像できると思いますが、「ライターの火が燃えている音」は実際にはほとんど聞こえません。でもなんとなくイメージはありますよね。
―― つまり聞こえていない音を作り出すわけですか。
音響C そうです。モノが燃える音は何からできているのか試行錯誤して、台風の風の音・マグマの音・焚火の音などを組み合わせて作りました。
―― どうしてアニメ業界を離れたのか教えてくれませんか。
音響C 自分は転職に抵抗がないほうですが、やっぱりアニメ業界はキツかったですよ。特に制作進行はスケジュールが遅れると関係各所に謝罪してまわるのが仕事です。しかもスケジュールは絶対と言っていいほど遅れるんですから!
―― 給料はどうでしたか?
音響C 固定で手取り17万円、昼夜逆転して夕方7時から朝9時まで働いて残業代は出ませんでした。ボーナスも無し。
背景B それはキツイな。なんで入ったの?
音響C 大学の先生の紹介で。内定したからまあいいかと思ったけど…。社員も仲が良いように見えたんだけど、それは職場環境が良かったわけじゃなくて社長一族と敵対して社内が一致団結してるからだった。
演出A 社長が無茶苦茶言ってくるの?
音響C そう。長時間労働だけじゃなくて業務外の仕事もやらされたし。たとえば営業の強要もあったよ。もちろん良い会社もあるから、これはアニメ業界全体の問題じゃないけど。でもうちの場合は、社員が徹夜で薄給で働いている時に社長一家は豪遊してたりして。Facebookでクルーザーで釣りやってる写真を見たとき、本当に殴りたかった。
―― かなり厳しい環境だったようですが、仕事のモチベーションはどんなところにあったのでしょうか。
音響C 醍醐味は……作品が終わった時に、一瞬だけ達成感があるんです。完パケしたとき、それが放映されてるとき。「アニメつくってるわー」という充実感はありました。
演出A でも辛さが上回るよな…。

【仕上げ】Dさんの事情

―― 今回のアニメでこだわったところは。
仕上げD 火に照らされる人物とライターの色味ですね。打ち合わせで演出Aと共有したイメージに近くなるように、撮影処理が後で加わることもふまえて色味を調整しました。
―― 動画に色をつける「仕上げ」という仕事は、一般的にはわりとマイナーな職種だと思います。労働環境は?
仕上げD 現在はアニメ業界で働いていないのですが、当時は契約社員で、一週間の労働時間は約40~50時間くらいでした。最も忙しいときで85時間くらい。休日出勤もありました。
―― 給料はどのくらいでしたか。
仕上げD 手取りは平均で約25万円くらいでした。昇給基準は働いた年数。一年ごとに少しずつ基本給が上がっていましたね。ボーナスは年二回で基本給1ヶ月分。でもこの待遇は業界内ではイレギュラーだと思います。仕上げ・色指定・色彩設計は業務委託契約で、固定給ではなく歩合制で仕事されている方がかなり多いと思います。
―― 「最も忙しいとき」はどんなタイミングですか?
仕上げD 放映が近づくと、前行程が遅れて、後ろの行程にいくにつれてスケジュールが無くなっていくんですよね。それによって短時間で多くの仕事をこなさなければならなくなって焦っているときが特に辛かった記憶があります。
―― やはり原画・レイアウトのスケジュール遅れですか。
音響C 制作進行をやっていた時代は「アニメーターの仕事の遅れを進行のせいにしないでくれ!」と思ってましたね。
演出A …ううっ…すまん…。
―― 「アニメーター」ではなく個人の問題ではないのですか?
音響C いや、納期通りに描いてくるアニメーターのほうが少ないです。
背景B そういう人種なんじゃない? だいたい自分が知り合うアニメーターは時間にルーズだし。
―― アニメーターが心を入れ替えればアニメ業界の苦難は解決すると
音響C うーん、そうでもないと思いますよ。
背景B すごくいい作品がスケジュールはめっちゃ遅れててひどい現場って言うのもたまに聞くしな。
仕上げD やっぱり、つくる側は、視聴者の方が楽しんでくれることが一番うれしいからね。私は体調崩して離れたけど、これからアニメ業界に入ってくる人は身体・メンタル両方を気にしながら頑張って欲しいなと思うよ。やっぱりアニメは好きだから。
音響C 僕もやっぱりアニメは好きだな…制作はやりたくないけど。

【撮影】Eさんの事情

 

演出A 今回はマジでDとEに頼んでよかったよ。あの火の玉の虹色は撮影処理でつけてもらったけど、良いかかり具合だったね。
撮影E そうだね、うまくいった。Aの動画も、けっこう驚いたよ。
仕上げD 私もAがこんなに描けるとは、と思った(笑)。
―― 撮影さんはフリーランスが少ないと聞きました。
撮影E 設備が受注を決める場合があるため、アニメーターよりは社員を抱えている会社が多いですね。残業も含め、労働時間は一日10時間くらい。繁忙期は土曜も出勤し、週60時間くらいの労働時間でしょうか。今回のロゴアニメは、はちょうど撮影会社を辞めてたからタイミングよく受けられました。
―― フリーのアニメーターや制作進行には及びませんが、撮影もなかなか長時間労働ですね。
撮影E 入社後は自分も違和感を持っていましたが、4年目には何も感じなくなっていたんですよね。給料は出来高ではなく年俸制で、残業代もありません。昇給は年功序列で、年収で1万円くらいずつ上がっていくという感じでした。
―― ほかに手当などはありますか?
撮影E 単発では撮影監督を務めた場合、撮影監督費をもらえます。でもほんの1万円プラスくらいかな。撮影で稼ぐなら自前で設備を揃えてフリーになるしかないですね。フリーの撮影監督さんとお会いしたときは年収1000万円くらいは稼いでいると言っていました。
―― そうなんですね。現在の仕事は?
撮影E 入ったばかりなんですが、面白い仕事があって。障がいを持っている方の就労継続支援施設でアニメーションを教えることになったんです。
演出A すごいね、そんな仕事があるんだ。
撮影E Aは?
演出A 新しいテレビアニメの制作。放映時期はまだ決まってないけど。
背景B 僕も有名タイトルのシーズン2作ってる。
―― Aさん、今回の制作を振り返ってどうですか。
演出A アニメーション監督を目指しているので、今回のように自分が信頼する人たちとチームを組んで制作できたことは本当に貴重な経験になりました。いつもテレビアニメの現場では多くのフリーのスタッフさんと関わりますが、自分で相手を選べるってこんなに良いんだと。

アニメ、発注してみた

本連載がはじまったのが10月だから、かれこれ半年にわたりアニメーション制作の現場を見てきた。そのなかでアニメの制作現場とお金周りの事情は、きわめて限定的な現場のケースであるが明らかにすることができたはずだ。素人目にも発見の多い半年間だった。
ケムールのTwitterでも、読者の方々からの反応はかなり多く聞かれた。そのなかにはアニメ制作の労働環境の悪さに日本社会の構造的な欠陥を見出し指摘する声もあった。たしかに、今回のスタッフにはアニメ業界からすでに去った方も混じっている。しかも決して腕は悪くないスタッフたちだ。業界は人材損失のリスクに本気で向き合うべきなのだろう。
扱う現場が限られているだけに、なるべくリアルに詳細にレポートしてきたつもりだし、ここまであけすけに現場を見せてくれた制作陣にはいろいろな意味でお世話になった。ケムール編集部が発注側だからといって、取材に応じるのはまた全く別の関係性だ。いい思い出ばかりでは職場について率直に語り、協力を惜しまない姿勢にはやはり「アニメ」に対する特別な情熱が感じられた。それは社会人にとって大切にすべき(そして忘れがちな)仕事への初期衝動のようなものだろう。
読者のなかにアニメの発注を考えている人がいたら、①時間に余裕を持つ ②できるだけ話をする ③適度に急かす覚悟を持つ――をおすすめしたい。そのうえで、ぜひ自分なりの「アニメ、発注してみた」に挑戦してみてはどうだろうか。

きっとそこには、あなたがいる社会とは少し違う時間が流れている。

■見積り(確定)

合計:¥370,000(税別)
尺:15秒のジングル制作
内訳:
【コンテ ¥30,000/15秒】
【演出 ¥50,000/15秒】
【原画 ¥20,000/1cut】
【動画 ¥600×150枚=¥90,000】
【仕上げ ¥500×150枚=¥75,000】
【背景 ¥15,000×2枚=¥30,000】
【撮影 ¥1,000/秒×15=¥15,000】
【音響:必要音源数あたり ¥10,000×3=¥30,000】
【色検査:設定数あたり ¥10,000×3=¥30,000】

納期:11月末
➡原画完成:2022年1月初旬にずれこみ
➡完パケ:2022年3月

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