【みうらじゅん登場】タバコは僕の“唯一の趣味”【直撃取材 #たばこのことば】

愛煙家の方々がけむりを通して見えたもの・考えたことを語る直撃取材です。今回の愛煙家は、イラストレーター/文筆家のみうらじゅん氏です。

ーー タバコはリラックスのための嗜好品。このご時世、ますます肩身は狭いが、ひそやかで深い「大人の趣味」だ。タバコ銘柄・ライターや灰皿・喫い方にも愛煙家のこだわりポイントがある。
だからこそタバコは熱心な「コレクター」を生んでしまう。煙草の空き箱を集めたり、ついつい変わった柄のマッチを使ったり、ジッポライターをいくつも買ったことがある人は気持ちがわかるはずだ。

じゃあ……日本でもっとも有名なコレクターといえば?

「みうらじゅん」さんである。自分しか集めないモノ・出来事を膨大にコレクションする「マイブーム」の生みの親。そして……愛煙家!

みうらじゅんFES(@TFUギャラリー・ミニモリ 10/29まで)開催真っただ中のみうらさんに「タバコ」について直撃取材。そこにはコレクションから見える生き方、超・独特なスモーキング・スタイルと愛煙家像が見えてくる。

趣味に生き、趣味の力で世の中を驚かせ続けてきた伝説の趣味人の登場。…….ケムール読者の皆さん! 愛煙家の輪はついにここまで届いたぞ!

 

「不自然」に生きる

みうらじゅんFES マイブームの全貌展 より

ーー みうらさんが喫っている銘柄は?

みうら メビウスの1mgですね。原稿で事務所にこもると1日ふた箱くらい喫っちゃうときもある。でも家ではまったく喫いませんが。

ーー メビウスはもともとマイルドセブンでした。最初からマイセンを喫っていたんですか。

みうら 僕が生まれた家庭では、両親どちらもタバコを喫わなくて。最初にタバコを見たのは、高校時代にうちに来てくれていた家庭教師の大学生が喫っていた「ハイライト」の吸い殻でしたね。

ーー みうらさんの自伝的な小説『色即ぜねれいしょん』に出てくるロックな先生ですね。

©2009色即ぜねれいしょんズ
『色即ぜねれいしょん』(2004年/光文社)。2009年に映画化した際には家庭教師をくるり・岸田繁さんが演じた 

みうら そうです。その家庭教師がけっこう僕の生き方を決めてしまったところがある。タバコだけでなく音楽、価値観も教えてくれた。灰皿に残った吸い殻をちょっとだけくわえてみたりして。真面目な家で育ったから、ヒッピーのような服装で長髪にした家庭教師に強烈にあこがれた。「反体制」になりたかったんですよ。

ーー 原点はロックの精神ということですか。たしかにロックにはタバコも欠かせないアイテムのひとつです。

©ING LABEL

『大島渚』『ブロンソンズ』『勝手に観光協会』などのバンドで活動。
深夜のテレビに出演した時、尊敬する野坂昭如氏に「お前みたいなサングラスかけた奴の話なんか聞きたくねえんだよ!」と怒鳴られたが「今思えばアレは野坂さんの最高のボケだったんじゃないかと。『あんたもサングラスだろ』と返せばよかった……ビビッて黙っちゃったのを後悔してます」

みうら それで音楽をやったりとか。でも正当なロックにもなりきれないところがあるんです。だんだん気付くんだけど、僕にはロックンロールに生きる人が抱えている「要素」がない。平凡で真面目な家庭で育ててもらって……だから無理矢理「不自然」になろうとしたんですよ。その結果今があるという感じ。

ーー たしかに。「マイブーム」は尖った趣味ですが、時流に乗ることを頑張って拒むという、ロックな活動とも言えますね。

みうらじゅんFES マイブームの全貌展 より

みうら ですね。だから「マイブーム」も最初は「無理に」やるんです。みんなが集めたがらないものを無理矢理集めることを生業にするようになった。

ーー 無理矢理。好きになったから集めるわけじゃないんですか。

みうら 普通の人が集めているものは「好きなもの」でしょ。僕は無茶して集めているうちに「好きになっていこう」と。
1個だとなんでもないものが、100個あると「これはもう、好き『だろう』」と思えてくる。「自分洗脳」ですよね。たくさん集めたほうが好きになれる。
だから基本は「質より量」なんです。それを展覧会で陳列すると、人はその「モノ」よりも「量」に驚くんですよね。モノは大量に集まってしまい、使用目的から逸脱した瞬間に「美術品」みたいになってくるんですよ。

みうらじゅんFES マイブームの全貌展 より

ーー 「マイブーム」は趣味のようで趣味ではないと。

みうら そうそう。趣味だらけの人間だと思われているかもしれませんけど、大きな誤解なんですよ。僕は「趣味」と呼べるものはすべて仕事にしてきてしまったんですよね。
だから、僕の「趣味」ってタバコくらいしかないんじゃないかって。

 

使い切りライターは「誰のものか」?

ーー ケムールを運営しているライテックは使い切りライターのメーカーなんですが、ライターにこだわりはありますか?

みうら ライターですか……。実はこだわろうと思ったけどこだわれないんですよね。

ーー こだわれない?

みうら ライターって『置き忘れる』じゃないですか。
一度はこだわろうとしたこともあったんです。そう……ライターがロボットに変形するアニメ、あるでしょう。

ーー 『ゴールドライタン』ですか?

『黄金戦士ゴールドライタン』 ©タツノコプロ
ライターが変形するメカ次元の戦士「ライタン」が少年・大海ヒロシと協力し、悪のイバルダ大王の野望を阻止する戦いを描く。(1981年~82年放送)

みうら そうそう『ゴールドライタン』。伊勢丹でそっくりのデュポンの金色のライターを買ったんです。でも速攻失くしました、飲み屋で。ライターは大事にしようと思っても絶対紛失する。

ーー だから使い切りライター派に。

みうら でも僕は使い切りライターを飲み屋に持って行くのも忘れがちなんです。ライターを常備してない喫煙者なんですよ。だから一緒に飲んでる人に借りるんですが、酔うと持って帰っちゃう。その結果、リスがクルミを集めるみたいに、誰かの100円ライターが家に溜まり続けていく。

ーー たしかに使い切りライターは持って行かれたからといって怒るようなものでもありませんね。特に印象に残るわけでもないし。

みうら そうでしょう。でも例外もあるんですよ。あるとき一緒に飲んでいた友達が「そのライター、僕のですよね?」って言ったことがあった。
「いや……違うと思うよ。俺の家から持ってきたんだから」と答えたんだけど、よくライターを見たら「ラブホテルのやつ」だったんですよね(笑)。

ーー ああ、ホテルに行ったから覚えてたんですか。

みうら で、「持ってると困るからあげます」と。それにしても迷惑なライターですよ。どうしてラブホテルはわざわざ名前入りのライターを置くんだろう? ずっと疑問でした。

ーー 確かにラブホのライターはいらない……

みうら 集めたくないモノの代表だと思いますよ(笑)。
だからね、20年くらい前ですけど、テレビ番組で「一番困るライター」っていう企画を考えたんです。スタッフに渋谷のラブホテルのライターを集めてもらいましてね。カッコ良くアタッシュケースにラブホのライターをズラリ並べて(笑)。
収録後に「アタッシュケースはあげられませんが、ライターは持って帰っていいですよ」と言われてね。

ーー うわあ、それは嫌ですね。

みうら まだそれが事務所にあるんですよ。ごっそりある。やっと半分くらいまで減ってきました(笑)。

使ってもなかなか減らない名入れライター(ごく一部)※画像提供:みうらじゅん氏

エイトマンとチャールズ・ブロンソン

ーー 印象に残っている愛煙家は。

みうら はじめてタバコに憧れたのは、小学校のときに見た『エイトマン』かな。当時、日本のアニメにしてはシャープなタッチですごくかっこ良かった。

「エイトマン」©平井和正・桑田次郎/TBS

みうら エイトマンのベルト部分にタバコ型のアイテムが入ってたんです。これを戦いの途中に喫うんですよ。で、仕組みはわからないんだけどなんか強くなる。謎の道具でした。

■編集部注:正しくはタバコの形状の「小型原子炉の強加剤」がベルト部分に入っている設定
©平井和正・桑田次郎/TBS

みうら 当時駄菓子屋に「シガレットガム」ってタバコのカタチのガムが売ってて、それをくわえてよくエイトマンのマネをしてました。

ーー いまよりも喫煙が身近だった時代ですね。

みうら ええ。ヒットソングの歌詞にもよく出てました。『ベッドでタバコを喫わないで』とか、中条きよしさんの『うそ』にも「折れたタバコの吸い殻でアナタの嘘がわかるのよ」って歌詞がある。

©Pony Canyon

ーー 子供時代に聞くと、まったく意味不明な歌詞です。

みうら 子供心に「タバコには何かあるな」と思っていました(笑)。
大人になったときに考えたんですが、たぶん浮気を問い詰められた男が「落ち着かなくちゃ」と思ってタバコを喫うんだけど、焦ってるからうまく火が消せなくて煙草が折れちゃう。それを彼女は見抜いたんじゃないか、とか。

ーー タバコには所作と心情が出ますね。映画はどうですか。

みうら 中学生の時、観た『さらば友よ』ですね。アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンの。
ラストシーンで刑務所に入っていくブロンソンに、アラン・ドロンがタバコに火をつけてやるんですよね。そのときのくわえたばこのブロンソンの顔のカットが最高。

『さらば友よ』(1968年) ©日本ヘラルド映画

ーー 多くの愛煙家の記憶に刻まれる名作タバコ映画です。

みうら アラン・ドロンに、ぶちゃむくれのオッサンだったブロンソンの魅力が勝った。後に“ブロンソンズ”の相棒・田口トモロヲさんと「ぶちゃむくれ革命」と呼ぶようになりました。
でも実は、ブロンソンのシーンの後にドロンの顔がアップで写るんですよ。でもその印象が全然ない(笑)。それくらいブロンソンの渋い顔にくわえたばこが強烈にかっこよかった。

ーー 70~80年代はタバコの名画が花盛りの時代でした。

みうら 映画館の中もタバコを喫う人だらけでしたしね。映画のなかでも俳優が喫うと、客席も喫っている。お正月に『男はつらいよ』を見に行ったら、観客が吐いた煙に寅さんが薄っすら映っていたことがありました。
映画館の売店でタバコ売ってましたからね。あ、そういえば、煙草の他になぜか「酢こんぶ」と「甘栗」が売られてましたね。恋愛映画を見てるときに隣の人が酢コンブを食べるとね、何だかとても雰囲気に合わないなあと思ってました。甘栗は指先が汚くなる。爪の中に皮が入るしね。

ーー 古舘伊知郎さんもその時代の映画館の話をされていました。

古舘伊知郎“タバコVS人間「名勝負数え唄」” 名実況・報道のウラに愛煙家の苦悩と感動が! 直撃取材「#たばこのことば」

映画を観ながらプカプカたばこを喫っているんです。すぐ近くに「禁煙」って書いてあるのに、そのすぐ横で平気で喫っている。もくもくとした紫煙の中に「禁煙」という文字が浮かび上がっているというのは、なんとも皮肉な光景ですよね。ーー古舘伊知郎

みうら ですよね。特に場末のポルノ映画館はすごい煙でした。マジでお客さんの全員が喫ってたと思います。タバコも喫えないようじゃポルノは見れない……みたいな空気がありました。

ーー その後、大学時代の1980年に雑誌『ガロ』で漫画家デビューされています。

みうら 出版関係の人も当時は喫煙者だらけ。校了前には一晩で1カートン喫うっていう編集者もいましたしね。

ーー 一日で200本喫うってことですか?

みうら 当時はクリエイターにタバコは欠かせなかったと思います。
尊敬している小説家の松本清張さんの記念館が小倉にあって、そこに当時の書斎が再現されているんですが、大きなクリスタルの灰皿がドンと置かれていて、床がタバコの焦げ跡だらけなんですよね。〆切前の追い込みの痕跡という気がしてかっこよくて。

松本清張(昭和30年、46歳、東京都練馬区関町にあった当時の自宅書斎)
出典:『別冊文藝春秋』第46号

ーー 42歳で小説家デビューし、生涯で原稿用紙12万枚を書きまくったという松本清張の気迫を感じます。みうらさんも喫煙中のほうが原稿がはかどりますか。

みうら それが、僕の場合はタバコで原稿が進むってことはないんですよね(笑)。

 

思い出のタバコ、謎のタバコ

ーー タバコ遍歴は。

みうら ハイライトからはじまってセブンスターマイルドセブンですね。一時期メンソールも喫いました。サムタイムとか。それからメビウスになって、だんだんタールを軽くしていって今は1mg。

ーー メジャーな国産タバコが中心ですね。

みうら あ……でも変わったタバコを喫いたかった時期もあったなあ。「ミニ・スター」って銘柄、知ってますか? 

ーー いえ、聞いたことは……

みうら ものすごい細くて短いんです。当時、関西には売ってなかったタバコで。

ーー (ネットで検索しながら)こちらですか?

「ミニ・スター」30本入、長さ66㎜のミニサイズタバコ。パッケージに民家のデザインが配してある。中国・九州地区および静岡・群馬での限定販売だった
出典:muuseo.com

みうら そうそう、これです。僕は修学旅行をサボったんですが、その行き先が九州で。友達に買ってきてもらった記憶があります、コレ。
……あとね、どうしても銘柄が思い出せないタバコがあるんですよ。大学に入って上京してから付き合った彼女が喫っていたタバコなんですけど。細いメンソールで。

ーー ヴァージニア・スリムみたいな。

みうら いや、そんな有名な銘柄じゃなくて。すっごい細くてボディが茶色だった気がするなあ。吸い口もデザインされててオシャレで、高級チョコレートみたいな箱に入ってるんですよ。彼女が喫ってる姿を見て「東京だな」と思ったのを覚えています。

ーー あっ、もしかしてMoreでは?

モア…120mmのエクストラロングのタバコ。日本では2005年まで販売された。

みうら いや……Moreじゃないな。洋モクなのかな。僕もちょっともらって喫ったけど……。当時はAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)が流行ってて…..その空気も僕にはやっぱり合わなくて(笑)。

ーー 苦い時代を思い出すタバコなんですね。

©Sony Music Direct

みうら ですね。ボズ・スキャッグスの『シルク・ディグリーズ』ってアルバムがヒットしてて。彼女に合わせなきゃって、レコード買ったんですけどね。

みうらじゅん氏は喫煙者と言えるのか?

みうらじゅんFES マイブームの全貌展 より

ーー 禁煙経験は?

みうら まわりにはたくさん禁煙した人がいます。でも、僕は一度もないんですよね。僕は世間の「ブーム」にうまく乗れなくてね。だからこんな仕事をしてるのかもしれません。
でも、いつでも止められるんですよ。実際事務所でしか吸わないし、前に百日咳にかかったときはピッタリ100日間喫わなかったけど、その後は別になんともなかったから。

ーー 喫いたくて我慢できない! とはならないんですか。

みうら ええ。もっと不思議なのは、健康診断に行くと「タバコは喫っていないですよね」とお医者さんに聞かれるくらい肺がキレイなんですよ。

ーー それは良いですね。ちょっと珍しいですけど。

みうら ……たぶん、たぶんですよ。僕は「ふかしてる」だけなんだと思うんですよね。

ーー え、煙を吸い込まないってことですか?

みうら たぶんタバコの喫い方が間違っていると思うんです。

ーー 喫い方を知らないで40年以上も喫ってるなんて、そんなバカな……

みうら タバコの喫い方って誰かが教えてくれるものじゃないですからね。深く吸ったら咳こむと思います。でも、ふかしてるだけなんですよね(笑)。

ーー たしかに「クールスモーキング」のような「ふかす」吸い方もありますが……

みうら 僕がタバコを喫ったのは高校生の家庭教師のシケモクを喫ってしまったのが最初なんですけど、かなりチビた吸い殻で、すごくキツかったんですよ。だから深く吸いこむということがなくて、そのまま……。

ーー こんなタイプの愛煙家がいるとは。

みうら 僕にとって煙草は純粋に「かっこいいから」それだけなんですよ。だって趣味ですから(笑)。

 

みうらじゅん

イラストレーターなど。1958(昭和33)年京都市生まれ。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。在学中に漫画家デビュー。1997(平成9)年、造語「マイブーム」が新語・流行語大賞に。2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞を受賞。著書に『マイ仏教』『「ない仕事」の作り方』『人生エロエロ』『見仏記』シリーズ、『ラジオ ご歓談! 爆笑傑作選』(いとうせいこうとの共著)など多数。

公式サイト:http://miurajun.net/
X:https://twitter.com/miurajun_net

■みうらじゅんフェス~マイブームの全貌展~

2023年9月23日(土・祝)~10月29日(日)
TFUギャラリー ミニモリ (東北福祉大学仙台駅東口キャンパス)
仙台市宮城野区榴岡2−5−26
一般 1,500円  小・中・高校生 1,000円
公式サイト(詳しくはこちら▶)https://www.kahoku.co.jp/events/2023/07/fes.html


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僕の「趣味」ってタバコくらいしかないんじゃないかって。ーー みうらじゅん

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