【怪談一服の集い】~三~

 

「吉田悠軌の”怪談一服”」の関連企画。

読者の方々から寄せられた「たばこ」「一服の時間」にまつわる実話怪談をお届けします。

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~紫煙夢~【マイルドセブン】

私はよく喫煙所で怪談を集める。
今では喫煙所には「黙煙」と貼り出され、いわゆる「タバコミュニケーション」もとりづらいのだが。
この話も会社の上司である、50代男性、野口さんが喫煙所で聞かせてくれた。
野口さん、幼少期によく見ていた夢があったという。
その夢というのは、何にもないがらーんとしたフローリングの部屋の床に座りながら、ベランダの外を眺めて、ゆっくりタバコを吸っている。そのうち、
「ジャッ」
という砂利を踏むような音が聞こえると同時に、夢から覚める。
「一番古い記憶だと、小学校低学年から見ていたと思うんだよ。いくら夢の中でも、タバコを吸ったりするもんかね?」

当時は、今よりタバコを見る機会も多かっただろう。
ただ、家族全員誰も吸わなければ、幼少期に吸っていたわけもない。
そんな夢を年に数回見ていたそうだが、成人したあたりですっかり見なくなった。

野口さんは、大学を卒業すると商社に就職した。
成人したタイミングではタバコを吸うことは無かったが、社内に喫煙者も多く、勤務中でもオフィス内で喫煙しているような環境で、野口さんもついにタバコを吸い始めた。
「結局、結婚を機に禁煙したんだけど。」
取引先の女性と結婚し、マンションの一室を新居として、結婚生活が始まった。
だが、長くは続かなかったそうだ。
野口さんの浮気がきっかけとなり、奥さんが出ていってしまい、別れることになった。
独り身ではとても広い部屋だったので、引っ越すことにしたという。
「何日もかけて、たった一人で荷造りしたのは精神的にも体力的にもキツかったよ。」

引っ越し当日は、春のとても暖かい日だった。
荷造りした段ボールを玄関に詰んで、今日飲んだコーヒーの空き缶以外、何にもないリビングのフローリングの床に、へたりこむように座った。
引っ越し業者のトラックが来るまでは、まだ時間がある。
何をするわけでもなく、換気のために開け放たれたベランダの外を眺めていた。
「魔が差した代償はデカかったなあ……」
するとすぐ横でコトン、という音がした。
目を向けると、床にタバコの箱が転がっている。
今から30年以上前のこと、当時の自分の吸っていた「マイルドセブン」。

「作業中にどっかから出てきたのか。でも、さっきまで無かったような気がする。」
おもむろにタバコを拾うと再び床に座り、壁にもたれた。
ここ数日の疲れと、やさぐれた気持ちもあっただろう。
箱から一本取り出すと、口にくわえた。

当時気に入っていた、黄色のライターも入っている。
ゆっくり火をつけ、煙を吹かす。
コーヒーの空き缶も灰皿には丁度良かった。
久しぶりのタバコは、くらくらした。
ベランダの外を眺める。
その窓の外には、同じ高さに桜の木があって。

タバコの煙のせいか、ヤニクラってやつのせいなのか。
カーテンの無いベランダの外の風景は、一段と綺麗に映った。

そこで強い風が吹いて、桜の花びらが部屋の中に入ってくる。
「あぁ。せっかく掃除したのに。」
すると、手元から小さい音がした。
「ジャッ」
指に挟んだタバコの火種に桜の花びらがついて、焦げた音。

「子どもの頃に見た、あの夢を思い出したんだ。」

野口さんは優しく笑いながら語り終わると、今は「マイルドセブン」から「メビウス」と名称を変えたタバコに火をつけた。


東京都・木根緋郷 さん Twitter:@hisato_kine

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