世界一タバコを喫った映画キャラは誰だ? キング・オブ・ヘビースモーカー決定戦【シガレット・バーン/映画的喫煙術】

二台の映写機を交互に使って映画を上映していた時代。切り替えのタイミングの合図は、フィルムの端に出る黒丸印。
この印のことをアメリカ映画業界では“シガレット・バーン/煙草の焼け焦げ”と呼んでいました。
そう、昔から煙草と映画は切っても切れない関係にあったのです。
愛煙家ならもちろん、煙草を吸わない映画ファンにも、心に火をつけた魅力的な煙草の名場面があるはず。銀幕を彩った紫煙の名シーン・名優を紹介する新連載です。
今回は、ある「1位」を決める、前代未聞の独自調査を行います。読者の皆様も優勝者を予想しながらお読みください。

どこのメディアもやらない・追いつけない「最強のスモーキング・ムービー・ガイド」をどうぞ。

文・小玉大輔
レンタルビデオ業界を退いた後、『キネマ旬報』等雑誌、WEBでの執筆やTwitter (@eigaoh2)で自分の好きな映画を広めるべく日夜活動している70年代型映画少年。Twitterスペースで映画討論「#コダマ会」を月1開催。第2代WOWOW映画王・フジTV「映画の達人」優勝・映画検定1級・著書『刑事映画クロニクル』(発行:マクラウド Macleod)
目次

ケムール編集部にて

主人公がヘビースモーカーの映画ってありますやん?」
担当さん(以後、担)「ああ、『コンスタンティン』とかですね」
「そうです、そうです。で、映画の中でコンスタンティンがタバコ何本喫ったのかご存知?」
「いえ、知りませんが」
「気になりますやろ? 」
「えっ、何が?」
本数ですがな。今回の『シガレット・バーン』はそのネタでいこうと思います」
「??」
「誰が一番のヘビースモーカーかもう何年も前から気になってましてん。せやからこの連載の場を借りてはっきりさせたい思いましてな」
「??????」
「ヘビースモーカーが出てくる映画を思いつく限りリストアップしましてな、誰が一番か決めますねん」
「…どうやって?…」
「映画を観ながら喫ってるタバコを数えるんですがな。で最も本数が多いキャラを『ケムール認定 キング・オブ・ヘビースモーカー』とすると。まぁ、そんな段取りですわ」
「…どんな記事になるか、ぜんぜん想像できないです…そもそも何、言ってるのか全く分かりません…」
「心配は無用。アントニオ猪木も言ってますやん。『迷わずいけよ 行けばわかるさ』って。とりあえずカチカチ・カウンター、経費で落ちます?

 ケムール編集部を煙に巻いて、企画を通した私が次にやったことはヘビースモーカー登場映画のリストアップ。その数、25本/25人。読者から「あれが入ってない!」「これを知らないのか!」と後でお叱りを受けたくないですからね。

 さてここからは簡単。ただひたすら映画を観ながら主人公が喫ったタバコをカチカチ・カウンターで数えるのみです。まずは『クラシック映画』『アクション映画』『ドラマ映画』の3ジャンルで喫煙姿が印象的だった10人からスタートです。

 暇な奴だなぁと笑いながらしばしお付き合いください。

まずはタバコ映画の超・有名作をカウント!ーーだが、実際の本数は…

1.クラシック映画篇

“疾風のエディ”ことエディ・フェルソン【9本】

出典 Amazon.ca
© 20Th Century-Fox Film Corp All Rights Reserved.

 ビリヤード映画の最高峰『ハスラー』(’61)でポール・ニューマンが演じた若きビリヤード・ギャンブラー。
 今も昔もビリヤード場で目にするのは、咥え煙草で玉を撞くエディのポスター。ここ一番のショットを放つ時、煙草を灰皿ではなく台の縁に置く仕草が印象的でした。演じたニューマンはヘビースモーカーだったので、本編の2/3を占めるビリヤード・シーンではずっと煙草を喫っていると信じていたのですが、エディが喫ったのはたったの9本。絶え間なく喫っていたのは対戦相手のミネソタ・ファッツの方でした。

イタリア製西部劇の無口なヒーロー、モンコこと名無しの男【12本】

出典 Variety 
© 1965 ALBERTO GRIMALDI PRODUCTIONS S.A.. All Rights Reserved.

マカロニ・ウエスタンの最高作との呼び声も高い『夕陽のガンマン』(’65)でクリント・イーストウッドが演じた凄腕の賞金稼ぎ。
ほぼ全編で細身のシガーを咥えているモンコですが、いつも目を細めて不機嫌そう。ちっともシガーが好きなように見えません。それもそのはず、イーストウッドは非喫煙者。シガーを喫うことが本当に嫌で不機嫌な顔になっていたみたい。でもその表情が人を撃っても顔色一つ変えないクールなキャラを生み出したのです。咥えた本数は12本。しかもよく見るとシガーに火が着いていない時がかなりありました。とんだ食わせ者です。

失われた愛のためナチに抗う男、リック・ブレイン【12本】

出典 Movie Smoke Database
© 2012 Turner Entertainment Co. & Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 公開から80年を経た今も愛され続ける『カサブランカ』(’42)でハンフリー・ボガートが演じた酒場のダンディなオーナー。
 古今東西の喫煙映画ファンに多大な影響を与えているボガート。彼が親指と人差し指で煙草をつまむ仕草を真似た男性がたくさんいました。リックことボガートがグラスを傾け、煙草を燻らせながら、失った愛を一人回想する姿は失恋男の理想型。そんな男だからかなりの本数を期待したのですが、非喫煙者イーストウッドと同じ12本という残念な(?)な結果に。しかもその中の一本は編集ミスで不自然な喫い方になっていました。


いざ本数を数えてみると、煙草を燻らせている姿が印象的な大御所たちが案外、喫っていないと分かり、ちょっぴりショック。どうやら彼らはイメージだけの“なんちゃってヘビースモーカー”だったようです。挫けず、どんどん数えていきます。


2.アクション映画篇

“死なない”刑事、ジョン・マクレーン【5本】

出典 Georgeromero.tumblr.com
© 1988 Twentieth Century Fox Film Corporation.

90年代以降のアクション映画に革命を起こした『ダイ・ハード』(’88)でブルース・ウィリスが演じたニューヨーク市警の刑事。
ニューヨークから別居中の妻がいるロサンゼルスにやって来たマクレーンは到着早々、空港のコンコースで一服。今では信じられませんが、昔はどの空港でも許されたのです。このシーンと高層ビルで12人のテロリストと戦う最中、煙草を美味しそうに喫ってひと息つく姿が印象的なので、かなりの本数を煙にしていると思われがちですが、本数はたったの5本。彼もまたイメージ先行のヘビースモーカーでした。

“殉職希望”刑事、マーティン・リッグス【8本】

出典 Fanpop
TM & © Warner Bros. Entertainment Inc.

 近くシリーズ第5作の製作がスタートすると噂の『リーサル・ウェポン』(’87)でメル・ギブソンが演じたロス市警の暴走刑事。
 妻を亡くしたショックで自殺願望に憑りつかれてしまった男なので、当然、健康のことを考えず、煙草をヘビースモーキングしていると思ったのですが、本数は8本。どうして勘違いしたのか、つらつらと考えてみましたが、最初の喫煙姿が強烈過ぎたようです。だって寝起きの一服をすっぽんぽんで喫うんですもの。

ハードボイルドなエクソシスト、ジョン・コンスタンティン【14本】

出典 GameSpot
© Lonely Film Productions GmbH & Co KG

 21世紀最高のヘビースモーカー・キャラは誰?と映画ファンに問えば『コンスタンティン』(’05)でキアヌ・リーブスが演じたジョン・コンスタンティンの名が挙がるはず。
 その喫煙姿は、机に置いた煙草が煙に変わる前に悪魔祓いをやり終える冒頭からイカしています。演じたキアヌが実生活でもなかなかの愛煙家なので特製ライターの操り方もピシリと決まる!コンスタンティンが火を着けた煙草は14本。「十五の時から日に30本喫い続け、肺がんになって余命宣告されても煙草を止めない」という設定なのに思ったほど多くなくて、なんだか裏切られた気分。


 またまた期待外れの結果に終わったのですが、よくよく考えるとアクション映画のスモーカーたちって途中から危機の連続になりますから、ゆっくり煙草を喫っている暇が無いんですよね(ちなみにマクレーンとリッグスは後のシリーズで、コンスタンティンは映画の最後で煙草を止めます)。
 ではアクションが無いドラマの主人公はどうでしょうか?


3. ドラマ映画篇

境界性パーソナリティ障害を抱える文学娘、スザンナ・ケイセン【14本】


出典 Movie Smoke Database
©1999 GLOBAL ENTERTAINMENT PRODUCTIONS GMBH

 精神病棟に入院する少女たちの青春群像を描いた『17歳のカルテ』(’99)でウィノナ・ライダーが演じた自殺未遂の反体制少女。
 意識が高すぎる文学少女スザンナが喫うのは反体制のシンボルになっているフランス煙草ジョルジーナ。心に壁を作っている序盤、彼女はジョルジーナの煙が人避けになるとでも思っているかのように頻繁に喫います。しかし周囲と打ち解けてからは本数が激減。後半は病状が回復していない周りの患者たちが彼女の分まで喫っており、どうやら煙草は病が治る過程の表現として扱われているようです。それでも喫った煙草は『コンスタンティン』と同じ14本。やるな、反体制(?)。

ヘロイン中毒の若者、マーク・レントン【14本】

出典 Movie Smoke Database
©Channel Four Television Corporation MCMXCV

 ヘロインに溺れるスコットランドの若者たちの破天荒な青春を描いた『トレインスポッティング』(’96)でユアン・マクレガーが演じた薬物中毒の青年。
 クスリのためなら恐ろしく汚い便器に手を入れる筋金入りのマークですが、かなりのスモーカー。ヘロインを注射していない時はほぼ確実に煙草を手に持っています。働いてもいないのにヘロインと煙草を買う金をどこから捻出しているのか全然分からないのはご愛敬。ラリッていない時に彼が消費した煙草は14本。ヘロインにもハマっていることを考えるとなかなかの本数です。こんな極道が真人間になれるのか?それは観てのお楽しみ。

ファッション・デザインの革命家、ココ・シャネル【15本】

出典 MUBI
©Haut et Court – Cine@ – Warner Bros. Entertainment Inc. France et France 2 Cinema

『ココ・アヴァン・シャネル』(’09)でオドレイ・トトゥが演じた伝説のファッション・デザイナー。
 婦人服に革命を起こしたココ・シャネルは、晩年まで1日50本を喫うヘビースモーカーでした。本作のココも序盤から頻繁に煙草を口にします。咥え煙草が様になっているのはフランス女性ならでは。特に終盤、デザイナーとして名を成したシャネルがモデルの衣装を直す時の咥え煙草はさすがの貫禄。そんなシャネルも恋に落ちると殆ど煙草を喫わなくなります。喫煙と恋心の反比例は興味深いところです。劇中でココが喫ったのは15本。何だか物足りない本数です。

ブルックリンの煙草屋店主、オーギー・レン【16本】

出典 Movie Smoke Database
©1995 Miramax/N.D.F./Euro Space

 ニューヨーク・ブルックリンの街角に立つ煙草屋の店主と常連が織りなす深イイ話を綴った『スモーク』(’95)でハーヴェイ・カイテルが演じた煙草屋の店主。
 煙草屋の店主ということもあって、店内でも店外でもよく喫います。オーギーが火を着けた煙草は16本とそこそこの本数なのですが、ヘビースモーカーには全然見えません。きっと喫い方にメリハリがあるのでしょうね。とりわけ終盤、自身が体験した“クリスマス・ストーリー”を話すオーギーに注目です。話始めから終わりまで1カットの長廻しで撮影する、この大事なシーン。喫煙者だから話ながら一服しそうなものなのですが、オーギーは体験談を語り終わるまで煙草を口にしないのです。煙草でオーギーの話が中断されることなく聞けるから、最後にウルっと来てしまいます。喫うべき時と喫うべきではない時。その違いが分っているとは、さすがは煙草屋の主人。


 タバコ映画の傑作と呼ばれる10作品、いかがでしょうか。ここまでで数えたタバコの総数は119本です。
 しかし…ヘビースモーカーに違いないと思っていた登場人物たちが残念な結果に終わってしまいました。ちなみに一般的なヘビースモーカーは一日にひと箱(20本)以上、喫う人だそうです。
 正直言って煙草の本数を数えている内に私はおかしくなってきております。画面に向って「もっと喫え!」とか「そんだけしか喫わないのか!」と言うようになっているのです。いやはや、これはどうした訳でしょう…。

 さて、ここからは15位から順番に、映画に登場した真のヘビースモーカーをご紹介していきます。


『ジョーカー』も『48時間』も不発… しかしついに”20本超え”のキャラが登場

4. ヘビースモーカー・ランキング ベスト15

第15位 DCコミックの名悪役、アーサー・フレック【17本】

出典 slate.com
© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

 DCコミックの名悪役誕生の物語をまったく新しい視点で描いた社会派アメコミ映画『ジョーカー』(’19)でホアキン・フェニックスが演じたコメディアンになりたい男。
 社会から徹底的に阻害される哀れなアーサー・フレック。最初のうちは常識の範囲内の喫煙者。しかし絶望の末に精神のバランスを崩し、“ジョーカー”として覚醒した後は煙草の本数が急上昇。煙草を手放さなくなります。そしてアーサー・フレックだった時には想像もつかないクールな煙草捌きを披露!この姿にインパクトがありすぎて、ヘビースモーカーと思われていますが、劇中で喫った本数は17本。決して少なくはないけれど、多くもない、中途半端な結果で終わりました。残念…。

第14位 タフな刑事、ジャック・ケイツ【18本】

出典 Elements of Madness
© 2015 By Paramount Pictures. All Rights Reserved

 1980年代初頭、映画通を唸らせたシャープでタイトな刑事アクション『48時間』(’82)でニック・ノルティが演じたサンフランシスコ市警の鬼刑事。
 公開当時からジャックの喫煙本数の多さはファンの間で語り草になっています。特に火を着けたばかりの煙草を車の窓から捨てる時のしかめっ面が印象的。喫いすぎて気分が悪くなったんでしょうね。そしてエンディング。愛用のジッポー・ライターを盗もうとするエディ・マーフィ演じる囚人レジー・ハモンド。彼にジャックがポロッと言ったひと言「俺のライター返せ」はマッチョなユーモアがあって最高です。ケイツが喫った本数は18本。48時間で凶悪犯罪者を捕まえなければならない切羽詰まった状況にもかかわらず、なかなかの本数です。でも二日に分けると日に9本…普通です。

第13位 古書探偵、ディーン・コルソ【20本】

出典 Eye For Film
© 1999 Artisan Pictures Inc. All rights reserved.

 悪魔が書いたと伝えられる稀覯本を巡るホラー・テイストのミステリー『ナインスゲート』(’99)でジョニー・デップが演じた古書探偵。
 本作のようにハードボイルド小説風の一人称スタイルで謎に挑む作品は、常に主人公が登場していますので、煙草の本数は増える傾向になります。しかもコルソは一部で「煙草を吸う姿が世界で最もクール」と評されているジョニー・デップ。当然、本数はだだ上がり。カフェで考えごとをする時は勿論、世界に三冊しかない稀覯本のページをめくる時も煙草を手放しません(「そんなことをしていいのか?」と心配になります)。という訳でコルソが悪魔の書を追う間に喫った本数は20本。本作の上映時間は133分ですから7分弱に1本、デップは煙草を口にしていたことになります。

第11位 【22本】三流弁護士、ネッド・ラシーン  蛇革服の前科者、セイラー・リプリー

出典 This Distracted Globe
TM & © Warner Bros. Entertainment Inc.

出典 Taste Of Cinema
© 1990 Universal Studios. All Rights Reserved.

第11位には2人がランクイン。1980年代最高のフィルムノワールと称される『白いドレスの女』(’81)でウィリアム・ハートが演じた三流弁護士。そして独特の映像感覚でファンの多いデヴィッド・リンチ監督のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作『ワイルド・アット・ハート』(’90)でニコラス・ケイジが演じた蛇革服の前科者。
2人は映画冒頭から喫いまくります。特にジョギングで一走りした後、桟橋で一服するネッドと、殺し屋を返り討ちにした後に咥え煙草で殺しの依頼主を睨みつけるセイラーの姿は印象的。面白いのは愛した女性を前にした時の2人の喫煙スタイルの違い。ネッドは自分を罠に陥れる悪女を愛し始めると、彼女の前では煙草をほぼ口にしなくなります。一方でセイラーは恋人ルーラが彼に負けず劣らずのスモーカーなので遠慮なく喫い続けるのです。しかも彼女から妊娠を告げられた時には“2本同時喫い”という豪気なことをやってのけます。どうやらネッドにとって煙草を喫わないこと、セイラーにとって煙草を喫うことが愛の証だったようです。そんな2人が喫った本数は共に22本でした。

続々と真打登場…。”30本超え”が出るか?

 いよいよ、映画の中のヘビースモーカー・ランキング ベスト10の発表です。喫煙本数はどこまで増えるのでしょうか?

第10位 フランスが誇るスーパーコップ、ロジェ・ボルニッシュ【25本】

出典 Filmstarts
© 1975 STUDIOCANAL – Pathé Cinéma – Mondial Tefi Televisione Film

 フランス犯罪史に残る凶悪犯エミール・ビュイソン逮捕の全貌を描く実録映画『フリック・ストーリー』(’75)でアラン・ドロンが演じたフランス国家警察の敏腕刑事。
 咥え煙草で署に出勤する冒頭からボルニッシュはノンストップで喫い続けます。煙草に火を着けるのはマッチやライターではありません。直前に喫っていた煙草の火です。これぞ、チェーンスモーカー。普通の男がそんなことをやったら、「どうかしてるぜ…」と呆れますが、やっているのは悪魔のような男前ドロン。「どうかなってまう」カッコ良さです。驚くのはフランス国家警察署内の廊下。煙草のポイ捨てもお構いなしなのです。そんな環境でボルニッシュが喫った本数は25本。映画の1/4がジャン=ルイ・トランティニャンが演じた凶悪犯の登場シーンでしたから、もしボルニッシュが出ずっぱりだったら、本数はもっと増えていたはず。

第9位 ハリウッドの落ち目スター、リック・ダルトン【27本】

出典 Screen Rant
© 2019 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.

 1969年、全米を震撼させた事件と映画業界の内幕を虚実ないまぜに再構築した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(’19)でレオナルド・ディカプリオが演じた落ち目のスター。
 キャリアのどん詰まりを迎えているリックが不安定な精神を落ち着けるために必要なのは煙草。喫煙者が圧倒的多数派だった時代ですから、それも当然。登場シーンのほぼ全てで煙草を手に持っています。という訳で27本となかなかの本数を記録。しかし煙草の扱い方があまりに日常的なので記憶に残らないのは残念。おまけに出演した煙草のコマーシャルが超ダサい。むしろブラッド・ピットが演じたリック専属のスタントマン、クリフ・ブースの数少ない喫煙姿の方が印象的です。とりわけ屋根の上で一服する姿はいたくカッコ良いのです。

第8位 “赤狩り”に立ち向かうキャスター、エドワード・R・マロー【28本】

出典 Pinterest
© 2005 Good Night Good Luck, LLC. All Rights Reserved.

 ヒステリックな共産主義者弾劾運動“赤狩り”に立ち向かったTV局員を描いた『グッドナイト&グッドラック』(’05)でデヴィッド・ストラザーンが演じた実在のニュースキャスター。
 “煙草を喫うことが男の証”なんて風潮の1950年代アメリカ。エドワード・R・マローが煙草片手に出演しても誰もクレームは入れません。かえってブラウン管に映る姿はアメリカの知性の象徴のように思われたようです。実際、軽く握った指の間に煙草を挟んで肘を付くマローの決めポーズはとても知的に見えます。劇中でマローが喫った本数は28本。ヘビースモーカー・キャラが社内外で定着しているので、TV局の社長の前でも臆せず煙草を口にします。この時のモノクロ映像の中に漂う紫煙。とてもスタリッシュなのです。

第7位 無軌道な犯罪者、ミシェル・ポワカール【31本】

出典 Movie Smoke Database
© 1960 STUDIOCANAL – Société Nouvelle de Cinématographie – ALL RIGHTS RESERVED.

 映画の作り方を根底から覆したジャン=リュック・ゴダール監督の長編デビュー作『勝手にしやがれ』(’60)でジャン=ポール・ベルモンドが演じた無軌道な犯罪者。
 衝動的に警官を殺し、惚れた女に恥ずかしげもなく「セックスしよ!」と誘うナチュラル・ボーンな悪党ミシェル。彼の憧れはハンフリー・ボガート。だから当然、煙草を喫います。それも尋常じゃない本数を、です。その本数は31本。これがどれぐらいすごい本数なのかというと、本作の上映時間は90分。つまり3分弱に1本、煙草を口にしていることになるのです。その喫い方も尋常じゃない。『フリック・ストーリー』のボルニッシュ刑事のように前の煙草で新しい煙草の火を点けるというスタイル。思えばボルニッシュを演じたアラン・ドロンは同世代のライバルだった本作のベルモンドの喫い方に対抗したかもしれません。ミシェルのように煙草を喫うには「息切れ」の覚悟が必要です。

第6位 ダメ男が夢みる理想像、タイラー・ダーデン【34本】

出典 BBC
© 1999 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 男性が心の奥に秘めた願望を抉り出した反社会ファンタジー『ファイト・クラブ』(’99)でブラッド・ピットが演じた謎の男。
 タイラー・ダーデンは男のダークな理想像。そんな男の必需品は勿論、煙草。ダーデンは闇堕ちして“ジョーカー”になって以降のアーサー・フリックのように常に喫っています。とりわけクールなのは秘密結社“ファイト・クラブ”の殴り合いが終わった後、上半身裸で咥え煙草をしている姿。エドワード・ノートン演じる主人公“僕”同様、憧れますよね。もしもそうなら、一度、ダーデンになったつもりで煙草を咥えてみてください。映画をご覧になった方は分かると思いますが、その時、あなたは確実にダーデンになっているはず。そんなみんなの憧れ、ダーデンが本作でキメた煙草は驚きの34本

健康診断中も喫煙、クルマに跳ねられても喫煙…もう数えきれん! はたして1位は?

 遂に今回、エントリーされたスモーカーも残り5人になりました。ここから煙草はとんでもない本数になっていきます。
 一体誰がキング・オブ・ヘビースモーカーの称号を勝ち取るのでしょうか? 

第5位 天才振付師、ジョー・ギデオン【43本】

出典 The Film Spectrum
© 1979 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

 同じ年に映画とテレビと舞台の最高賞受賞という前人未踏の偉業をなした伝説的振付師にして映画監督ボブ・フォッシー。彼の伝記映画『オール・ザット・ジャズ』(’79)でロイ・シャイダーが演じたフォッシーの分身。
 もしも私が「ヘビースモーカー映画と言えばどれ?」と尋ねられたら、迷わず本作を挙げます。何を隠そう、この作品は私の生涯のベスト10の中の1本なのです。ギデオンは煙草の喫い方がカッコいいだけでなく、消費量も尋常じゃないんです。
 自らが演出する舞台のオーディションをする時、映画の編集に立ち会う時、振付をする時、どんな時もギデオンは口から煙草を放しません。シャワーを浴びる時や保険加入のために健康診断をしている最中も咥えっぱなし。その喫煙への姿勢は驚きを通り越して感動すら覚えます。彼が唯一、ニコチンから離れるのは別れて暮らす愛娘との面会時だけ。当然、こんなことを続けていたら身体に良いわけありません。遂に心臓発作を起こして緊急開胸手術を受けることに。しかしそれでも煙草を止めないのですよ、この男は。煙草を創作活動の潤滑油にした希代の天才が喫った総数は43本。遂に40本台に突入です。

第4位 私立探偵、フィリップ・マーロウ【46本】

出典 cult film freak
© 1973 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC. All Rights Reserved.

 レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の古典を自由闊達に脚色した『ロング・グッドバイ』(’73)でエリオット・グールドが演じた私立探偵。
 公開から約半世紀。世界中の映画マニアの間で“ヘビースモーカーのカリスマ”として語り継がれているのが、このフィリップ・マーロウ。探偵が単独で事件の捜査にあたる物語なので、マーロウが登場しないシーンがありません。そのほぼ全てのシーンで彼は煙草を咥えているのです。結果、喫った本数はなんと、なんと46本
 ライターではなく、ロウマッチで煙草に火を着けるマーロウの姿は“カッコ悪いカッコ良さ”の極みです。マーロウが凄いのはこんなに煙草を喫っておきながら、車を追って走っても息切れしないこと。しかもその時、咥え煙草なんですから驚きます! おかしいのはこの追跡の最後。車に撥ね飛ばされてもその口から煙草が離れることがないのです。カリスマの面目躍如です。
 ちなみに松田優作も本作のファンのひとり。TV版『探偵物語』(’79)と映画『ヨコハマBJブルース』(’81)がお好きな方には是非、ご覧いただきたいです。

第3位 異端のスポーツ記者、ラウル・デューク【50本】

出典 Flickering Myth 
© 1998 Universal City Studios Productions, Inc. All Rights Reserved.
 
 異端のジャーナリストがラスベガスで体験した破天荒な数日間を映画化した『ラスベガスをやっつけろ』(’98)でジョニー・デップが演じたやさぐれ記者。
 ラウル・デュークのモデルは原作者ハンター・S・トンプソン。演じるデップは髪を剃ってトンプソンと同じ禿げ頭にし、その特徴的な歩き方も真似ています。
 舞台は1970年代初頭のラスベガス。この時代、この場所だからデュークの口から煙草が無くならず、その喫煙本数は凄まじいことになっていきます。しかし正直言って、この男の喫煙本数を数えるのは困難を極めました。シガレット・ホルダーに差した煙草の長さがカットによって変わるので、いつ次の一本を喫い始めたのか分からないのです。おまけにドラッグ漬けのデュークの感覚をそのまま映像化しているから時間の経過も曖昧。何とか数えた結果は大台突入の50本。もしかしたら、もっと喫っているかもしれません。
 少なく見積もった上で凄い記録を達成したラウル・デューク。しかしジョー・ギデオンやフィリップ・マーロウら、これまでランクインして来た人たちのように、そのヘビースモーカーぶりを真似したくはならないのです。

第2位 ベガスのカジノ支配人、サム・“エース”・ロススティーン【51本】

出典 BAMF Style 
©1995 Universal City Studios and Syalis Droits Audiovisuels. All Rights Reserved.

 マフィアが支配していた時代のラスベガスの裏側を暴く年代記『カジノ』(’95)でロバート・デ・ニーロが演じたカジノの伝説的支配人。
 時は1970年代、所はラスベガス。第3位の『ラスベガスをやっつけろ』と同じです。しかも本作は3時間に及ぶ大河物語。煙草の消費量は半端ではありません。エースの手には常に煙草があります。しかもエースはほぼ全てのシーンに登場するので、本数はどんどんどんどん増えていきます。面白いのがエースはあまり煙草を口に運ばないことです。指に挟んでいるだけの方が多いのです。彼にとって煙草はカジノにおける自らの力を示す“指輪のようなもの”なのかもしれません。かくてラスベガスでの栄光と転落の日々でエースが指の間から煙を立てた本数は51本。僅差でイカレたラウル・デュークを抑えました。けれども実はデュークの方が多いかもしれず、疑惑の順位です。

第1位 整備士になりたいタクシー運転手、コーキー【??本】


出典 Twitter 
©1991 Locus Solus Inc.

 世界の各都市で同日同時刻に起こる5つの物語を描くオムニバス映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』(’91)でウィノナ・ライダーが演じたタクシー運転手。
 ロサンゼルスで働く、二十歳になるかならぬかのタクシー運転手コーキー。彼女の喫煙スタイルは独特です。煙草を口に運ぶと箱からもう一本取り出して耳に挟む。それが次の一服かと思いきや、火を着けるのは新たに箱から抜く一本。何とも不思議な行動です。そんな彼女が堂々のNo.1ヘビースモーカーの座に付きました。
 コーキーが劇中で喫った本数は6本のみ。たったこれだけで栄冠を手にしたのには理由があります。他の出場者が映画中で過ごした期間は数時間から数年間。それに対してコーキーが登場するエピソードは24分。この間に彼女はほぼリアルタイムで6本喫います。煙草1本を喫うのにかかる時間は約4分。つまりコーキーは登場時間中ノンストップで喫ったことになるのです。このペースで喫うと彼女はひと箱20本を80分で空にしていることになります。これほどのヘビースモーカーは実生活でも早々、お目にかかれません。 しかもタクシーの客は喫煙界の女傑、ジーナ・ローランズ。二人が一緒に煙草を喫う様は素敵です。
 こんなコーキーに“キング”、もといケムール認定“クイーン・オブ・ヘビースモーカー”の称号を与えずして、誰に与えろとおっしゃりますか!

史上最モクの作戦、終了

~ケムール編集部にて~
「ウィノナ・ライダーが1位とは…。25人が喫ったタバコの合計は何本だったんです?」
「…559本…」
「よく数えましたね。他にこんなこと、やった人いませんよ!イグノーベル賞に値するかもしれません!…あれ、どうしたんです。浮かない顔して?」
「数えてるうちに切のうなってきましてな。何十年もヘビースモーカー№1やと信じとった人が負けたもんですから。そもそもこの企画、10代の頃から大好きな『オール・ザット・ジャズ』と『ロング・グッドバイ』を“キング・オブ・ヘビースモーカー”映画としてプッシュしたろ、と思いついたんです。せやのに、結果はこの通り…画面ん中のデ・ニーロとジョニデにもう喫わんといてくれと何度、言うたことか…」
「???」
「おまけに毎日、毎日、無茶苦茶タバコ喫っている連中を見てるうちに、なんや、煙った喫煙室に閉じ込められたみたいな気になってきて…そいで気づきましたんや。ヘビースモーカー ベスト5の人らより、5本だけやった『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスの方が旨そうにタバコを喫ってたなぁと。やっぱり一本、一本、大切にせなあかん。せやから担当さんも喫い過ぎはあきませんで」
「…そうですよね…ぼくもたまに思うんですよ。これじゃ身体にいいわけないよって。でもね…」
「でもね?」
「分っちゃいるけど やめられねえ」
「アホレ!」
「♬喫う喫う 喫―ダラダッタ スラスラ喫い喫い喫い♬」

 お後がよろしいようで。

ケムール認定【キング・オブ・ヘビースモーカー決定戦】結果発表

作品名 登場人物 タバコ本数
ハスラ― エディ・フェルソン 9本
夕陽のガンマン モンコ 12本
カサブランカ リック・ブレイン 12本
ダイ・ハード ジョン・マクレーン 5本
リーサル・ウェポン マーティン・リッグス 8本
コンスタンティン ジョン・コンスタンティン 14本
17歳のカルテ スザンナ・ケイセン 14本
トレインスポッティング マーク・レントン 14本
ココ・アヴァン・シャネル ココ・シャネル 15本
スモーク オーギー・レン 16本
ジョーカー アーサー・フレック 17本
48時間 ジャック・ケイツ 18本
ナインスゲート ディーン・コルソ 20本
白いドレスの女 ネッド・ラシーン 22本
ワイルド・アット・ハート セイラー・リプリー 22本
フリック・ストーリー ロジェ・ボルニッシュ 25本
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド リック・ダルトン 27本
グッドナイト&グッドラック エドワード・R・マロー 28本
勝手にしやがれ ミシェル・ポワカール 31本
ファイト・クラブ タイラー・ダーデン 34本
オール・ザット・ジャズ ジョー・ギデオン 43本
ロング・グッドバイ フィリップ・マーロウ 46本
ラスベガスをやっつけろ ラウル・デューク 50本
カジノ サム・“エース”・ロススティーン 51本
ナイト・オン・ザ・プラネット 【ケムール認定王者】

コーキー

6本
(24分間ノンストップ)
合計本数 559本

▶いままでの「シガレット・バーン/映画的喫煙術」

著:小玉大輔(https://twitter.com/eigaoh2
扉絵:Tony Stella(https://twitter.com/studiotstella

あわせて読みたい