「 #鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 」をタバコで超解説【シガレット・バーン/映画的喫煙術】

愛煙家ならもちろん、煙草を吸わない映画ファンにも、心に火を点けた魅力的な煙草の名場面があるはず。銀幕を彩った紫煙の名シーン・名優・名監督を紹介する「最強のスモーキング・ムービー・ガイド」です。

今回は水木しげる生誕100周年記念作品! 映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を特集します。

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

タバコ映画専門連載で、なんで『鬼太郎』!?
でもこのアニメーション映画…ただものではありませんでした。

文・小玉大輔
レンタルビデオ業界を退いた後、『キネマ旬報』等雑誌、WEBでの執筆やTwitter (@eigaoh2)で自分の好きな映画を広めるべく日夜活動している70年代型映画少年。Twitterスペースで映画討論「#コダマ会」を月1開催。第2代WOWOW映画王・フジTV「映画の達人」優勝・映画検定1級・著書『刑事映画クロニクル』(発行:マクラウド Macleod)

ケムール編集部にて

担当「小玉さん!嬉しいことが起きました。Xで『シガレット・バーン/映画的喫煙術』のポストがバズってます! 12/18までのインプレッションは18.3万、1279リポスト、2725いいね!!!!」
「それはすごい」

引用:X

「タバコで映画紹介なんて、時代錯誤だと叩かれ笑われ……(涙)。でも愛煙家と映画ファンの方々の応援を頼りにほそぼそと1年以上続けてきました。こんなたくさんの反響、初めてなんです。このビッグウェーブに乗りましょうよ」
「というと?」
「バズったポストは〇〇怪獣バスコドン@vasco_1970さんという方がしていただいたそうです。それが……公開中の長編アニメ『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』通称『ゲ謎』に絡めた内容なんです。 小玉さん!! 今回のシガバンは『ゲ謎』をネタにお願いします」
「なんで⁉」
「それが『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はとんでもない喫煙映画らしいんですよ。決まり!! 今から観に行って確かめてきてください! もう告知のポストしときましたからね!!」
私「ゲゲゲ…」

 こうして“私”は『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を公開している劇場に放り込まれたのだった…。
~数時間後~

「おかえりなさい。いかがでしたか!?」
「では語ろうかの。この映画で起こったすべてのことを…。その前に担当さん。あんたは鬼太郎がいかに生まれたか知っておるか?」
「いえ……(口調どうした?)」
「では、原作漫画を引用して、その話から始めようかのぉ」

鬼太郎誕生の秘密は「大人になってから」

©水木プロダクション/講談社

 昭和30年前後、輸血された者を生きた屍/幽霊にする血液が出回った。
 銀行頭取の依頼で調査を開始した銀行員、水木は問題の血液の売血者が自宅の隣の住人であることを知る。その家を訪ねた水木を出迎えたのは、やつれた身重の女と体が溶ける病を患った全身包帯の男。二人は「幽霊族」と名乗り、治療費のために血を売ったと告白。そして子供が生まれるまで見逃して欲しいと水木に懇願した。哀れに思った水木はその願いを聞いてやることにした。
 数か月後、隣人宅を再訪した水木は二人の死体を発見。どろどろに溶けた夫の死体はどうすることも出来なかったが、生前の姿を残している妻を墓場に埋葬してやるのだった。
 数日後、気になって墓場にやってきた水木の耳に赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。そして幽霊族の妻の墓から赤ん坊が現れた。最初は気味悪がった水木だったが、泣き叫ぶ赤ん坊に情が移り、自ら育てる決心をするのだった。
 その頃、廃屋で朽ちていた死体から目玉がどろりと床に落ちた。やがて目玉から胴体と手足が生えてくる。不気味な生き物。これこそ、我が子の行く末を案じ、“目玉おやじ”として蘇った幽霊族の男なのだ…。

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

 こうして鬼太郎と目玉おやじが誕生したのですが、この物語は思いのほか知られていません。その原因はいくつかあります。あまりに展開、描写がおどろおどろしいので昭和43年(1968年)から6度も作られている子供向けのアニメ・シリーズでは描けなかったということ(具体的に描いたのは深夜アニメ『墓場鬼太郎』)。そして水木しげる翁が原作漫画をリセットする毎に誕生エピソードを描き直しているため、細部が毎回、微妙に変わっていること。
 何より誕生を描いたエピソードが今に続く『鬼太郎』人気を決定づけた昭和40年(1965年)に始まる『少年マガジン』の連載で描かれなかったことが大きいでしょう。当時の子どもが誕生の秘密を知るには大学生向けの漫画誌『ガロ』か昭和30年代半ばに出版された貸本を読むしかなかったのです。

金田一耕助+ルパン三世+シン・仮面ライダー=鬼太郎-1.0(マイナスワン)

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

 その内容の面白さから口コミで尻上がりに興収を伸ばしている『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、実はタイトルから連想される「鬼太郎の誕生の謎」に迫っているのではありません。
 鬼太郎が生まれる前、昭和31年の日本を舞台に、やがて目玉おやじとなる鬼太郎の父がまだ人の姿をしていた頃の物語が語られます。そこで描かれるのは鬼太郎の父と母の愛の絆、後に鬼太郎の育ての親になる水木との友情、そして身体が溶ける病を患う原因となった事件です。
 水木しげる翁は原作で目玉おやじの若い日を描いていません。ですから今流行の言い方をすれば「鬼太郎-1.0(マイナスワン)」と呼ぶべき物語は映画のための完全オリジナルなのです。

 その物語の下敷きになっているのは閉鎖的な因習が巣食う村で起こる連続殺人を描いた横溝正史の金田一耕助ものです。

『犬神家の一族』
(C)KADOKAWA 1976

 横溝ミステリー映画の代表作『犬神家の一族』(’76)や謎解きミステリーをホラー映画に脚色した『八つ墓村』(’77)を思い起こさせる遺産相続争いや祟りが物語の軸になっています。

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

 観客は水木と共におどろおどろしい殺人劇に引きずり込まれるのですが、最初の内は面喰うかもしれません。だって『ゲゲゲの鬼太郎』を観に来たら、横溝正史が始まるし、『ルパン三世/カリオストロの城』(’79)のクラリスを思わせる深窓の令嬢がヒロインとして登場するのですもの。正直言って、「俺は何を見せられているんだ!?」ってなもんです。
 それが変わるのは鬼太郎の父が登場してから。クールな彼と世を拗ねた水木の間に友情が芽生え始めると、『ゲゲゲの鬼太郎」を離れて、新手のコンビ探偵ものとして興趣が湧いてくるのです。そうなると『カリオストロの城』の暗殺部隊のような殺人集団が登場し、『ルパン三世VS複製人間』(’78)の悪役マモーのような諸悪の根源に鬼太郎の父と水木が挑む『シン・仮面ライダー』(2023)のクライマックスに「金田一耕助からルパン三世!」と楽しくなってきます。
 その後は、エピローグで切ない涙を思わず流し、エンドクレジットで「あのセリフも、あのキャラクターがああなったのも、こうするためだったんだ」と感心することになるのです。

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

「ミステリーというか活劇というか…。一筋縄ではいかない映画のようです」
「金田一からルパン三世になるという、広げるだけ広げた風呂敷を最後は『鬼太郎』ものとしてちゃんと畳む展開に唸りましてな。しかもホラー譚の中に敗戦から高度経済成長期に至る日本の姿を描いてますねん。これはもうね、離れ業ですわ」
「近代の時代劇の趣もあるわけですね」
「で、この時代の日本の象徴として使われるもののひとつがタバコ、言う訳です」
「待ってました! たばこ解説!」

『ゲ謎』の舞台は”タバコ黄金期”

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の舞台になるのは昭和31年(1956年)の日本。
 当時の日本は朝鮮戦争をきっかけに始まった“神武景気”(日本初代の天皇とされる神武天皇が即位した年(紀元前660年)以来の好景気)の真っ只中。前年の昭和30年にはGDPが戦前の最高水準を上回り、昭和31年7月17日に発表された政府の『経済白書』では「もはや戦後ではない」と戦後復興の終焉を宣言したのです。


出典:昭和31年7月17日付読売新聞

 そして昭和31年には冷蔵庫・洗濯機・白黒テレビ発売、日本で最初のスーパーマーケット開店、通天閣再建、住宅公団の入居開始、道路公団の設立、売春防止法施行、石原裕次郎とエルヴィス・プレスリーの登場という昭和48年(1973年)までの“高度経済成長期”に繋がっていく様々なものや出来事が生まれ、起きたのです。

 この時代、日本のサラリーマンはバブル時代の「24時間戦えますか?」どころか「24時間戦います」状態で、物質的な富を追い求めていました。
 そんな男たちに“心の日曜日”を与えていたのが、タバコです。
 男たちは昭和31年3月に発売された大ヒットたばこ“いこい”の宣伝コピー「今日も元気だ たばこがうまい」そのままに、いつでもどこでもタバコを喫って仕事に当たっていました。


出典:たばこと塩の博物館

 “International Smoking Statistics”という2016年に発表されたアメリカの調査資料によると昭和31年当時、日本の成人男性の82%が喫煙していたとしています。
 ちなみに昭和40年(1965年)から現在まで続いているJT(旧・日本専売公社)の調査では成人男性の喫煙率のピークは昭和41年(1966年)の84%となっています。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はこんな時代を舞台にしていますから、冒頭からタバコの煙まみれです。語り部である主人公、水木が勤める帝国血液銀行のオフィスのデスクにはそれぞれに灰皿があり、行員たちは誰憚ることなく、“心の日曜日”を享受。銀行頭取は部下と話す時もパイプを燻らせることをやめません。高度経済成長のとば口だった昭和31年は喫煙者にとって天国のような環境だったのです。

昭和63年(1988年)の滋賀県市役所。『鬼太郎誕生』から30年後でも日本はこんな状態でした。(引用元:アミンチュ公式チャンネル)

超・愛煙家としての水木しげる

 この環境ですから水木も当然、喫煙者です。いやヘビースモーカーと言っていいでしょう。ひと息つく時に一服、考え事する時に一服と何かあるとタバコに火をつけます。しかも歩きタバコ、寝タバコ、ポイ捨てと今では非難の目で見られる悪しきタバコ仕草をあらん限り、行います。
 水木が愛飲する銘柄は両切タバコの“ピース”。発売されたのは敗戦の翌年1946年1月13日。商品名には第二次世界大戦後の混乱期にあった日本に夢や希望、平和な未来が訪れるようにとの願いが込められていたそうです。10本入りタバコが20~60銭だった時代に10本7円という高価格にも関わらず爆発的な売上を挙げたといいます。
 昭和27年(1952年)には“ラッキーストライク”を手掛けたアメリカ人デザイナーを破格のギャラで雇い、今に続く「オリーブの葉をくわえた鳩」というトレードマークが生まれました。鳩が象徴しているものが「平和」であることは言うまでもありません。


出典:たばこと塩の博物館

キャラクター造形におけるタバコ

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を見ていると作品の作り手たちが水木にこの銘柄を喫わせたことに意味を持たせているのが分かってきます。

主人公「水木」
©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

 まず水木が“ゴールデンバット” “しんせい”や発売したばかりの“いこい”といった昭和31年当時の大衆タバコではなく、高級タバコ“ピース”を喫っていることから、彼には高級品を嗜めるほどの収入があることを示しています。
 また劇中で水木が明治天皇の愛飲した英国産高級スコッチウィスキー“オールド・パー”の味が分かって、龍賀製薬社長に褒められる場面があります。
 この様子から、どうやら水木は日頃から高級なタバコや酒を嗜む、将来の成功を夢見る上昇志向の持ち主であることが想像できます。
 しかし“ピース”という銘柄が秘められた重大な意味が分かるのは、物語が終局を迎えてからです。注意深く観ていたら、作り手たちの意図に気づくはずです。

重要なタバコシーン『列車』


画像:全国視聴覚教育連盟第二回企画作品『こどもは見ている』より

 高級志向のヘビースモーカー、水木ですが、ある場所では紫煙を立てることが出来ません。それは後に名状し難い恐怖を体験することになる哭倉村(なぐらむら)に向かう列車に乗った時のことです。当時、国鉄は山手線、大阪環状線などの大都市圏通勤型列車、夜行寝台列車以外は全車両で喫煙が可能でした。
 哭倉村に向かう深夜列車も国鉄だったようで、アニメの映像からタバコの匂いがしてきそうなぐらい、あちこちの席から煙が上がっています。ニコチンとタールまみれの車両の中で聞こえるのは、少女の咳き込み音だけ。多分、喘息持ちの少女は車内の汚れた空気でまともに息が出来ないのでしょう。しかし副流煙による受動喫煙なんて言葉も概念もない時代、大人たちは少女の咳など気にもしません。当時、長距離の列車旅が子供、非喫煙者、そして気管支に病気を抱える人にとって過酷な地獄旅だったことがこのシーンから分かります。

 この状況の中、ヘビースモーカーの水木もタバコをくわえ、マッチに火をつけます。一瞬、咳き込む少女の存在に気付いた素振りを見せますが、気にせずマッチをタバコに近づけます。 この時、不思議なことが起こるのです。いきなり車両が真っ暗になり、誰もいなかったはずの通路の向こう側の席に男が座っていることに気づくのです。
 しかもその男は水木に「死相が見える」とか何とか気味の悪く、意味が分からないことを言い放つのです。気圧された水木が言い返そうと口を開けた、その瞬間、車両が明るくなります。すると男の姿が霞の如く消えていました。

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

 この不思議な男こそ鬼太郎の父です。水木とは哭倉村での奇怪な事件を通して奇妙な友情の絆を結ぶことになるのです。しかしそんなこととは露知らぬ水木はあまりのことに言葉が出ません。彼を現実に戻したのは、指の先で燃え尽きたマッチの火の熱さを感じた時でした。そして水木はタバコを喫うのを止めてしまうのです。

 水木がマッチに火をつけた時、鬼太郎の父が現れなければ、確実に彼は咳き込む少女を気にせず、タバコを喫っていたに違いありません。そうなれば、嫌煙が当たり前の現代の観客の多くは水木に反感を覚えて、以後、彼を好ましいキャラクターと思えなくなったかもしれません。
 そう考えると鬼太郎の父は未来の相棒で、息子の育ての親になる水木にベストのタイミングで声を掛けたということになります。この出会いがきっかけなのかどうか分かりませんが、水木は哭倉村では一人の時、または喫煙者が近くにいる時にしかタバコを口にしなくなるのです。
 タバコを喫わせないことで非喫煙者の観客にキャラクターへの好意を持たせる。嫌煙時代ならではの描写と言えるでしょう。

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

 余談になりますが、国鉄の長距離列車で最初の禁煙車両が新幹線「こだま」に導入されたのは昭和51年(1976年)。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の物語から丸20年が経ってからでした。

タバコの映画文法「上下関係」

 先ほど紹介した水木が龍賀製薬社長から高級酒を飲まされるシーンには続きがあります。社長は酒の味が分かった水木に今度は葉巻を勧めるのです。そこで水木は葉巻を燻らすのではなく、タバコ同様に大きく吸い込んで咳き込んでしまいます。葉巻の嗜み方を知らぬ水木の姿に大笑い。「君にはまだまだ早かったようだな」という態度を見せます。

 このシーンで分かるのは水木と社長の上下関係です。酒と葉巻を使って、社長は水木に自らの優位を言外に伝えた訳です。現代の言葉で言えば社長はマウントを取ったのです。水木の立場になれば、こんなことをされて嬉しいことは何ひとつないでしょう。しかし当時のサラリーマン社会を考えると酒や葉巻を味あわせてくれる分だけ龍賀製薬社長はマシなのかもしれません。
 というのもこの時代のサラリーマンは上の者から何か貰うのではなく、差し出すことが今の時代とは比較にならないほど多かったのですから。真夏や年末にはパワハラを受けようが何をされようが、「お世話になった」という名目で上司に何かを贈らなければならなかったのです。もし贈らないなんてことをしようものなら、勤務評定は覚悟しなくてはなりません。

 それだけではありません。上司との酒席では上司がタバコをくわえた時には言われる前に火をつけるのがサラリーマンの作法だったのです。つまり物だけでなく、火も差し出さなければならなかったのです。そんなことをするのはやくざの子分だけじゃないの?と思われるでしょうが、これが当時のサラリーマンの常識でした。

 その様子は様々な昭和のサラリーマン映画で描かれています。機会があれば是非、ご覧ください。平成生まれの令和のサラリーマン諸氏はぞっとすること確実。
 龍賀製薬社長の最初から味わえないと分かっているのに喫わせる葉巻、上司のタバコに火をつけるサラリーマン作法を考えるに、日本映画の中で描かれる、男性間で交わされるタバコ仕草は“上下関係/優劣・強弱関係”を固定するために使われるものではないかと思うのです。


出典:株式会社 中日映画社

「水平」は友情の証

 ここで海外の映画でこの行為をどう描いているのか印象的な男たちのタバコ仕草をいくつか挙げてみましょう。

 例えば『手錠のままの脱獄』(’58)。白人トニー・カーティスは手錠に繋がれた状態で脱獄した黒人のシドニー・ポワチエと喫いかけのタバコを分けあう時、必ずポワチエが口にした部分をちぎります。逃亡を続ける内、二人の友情が生まれるとカーティスは喫い口を気にせず喫うようになるのです。

#sidney poitier from last night i dreamt i went to manderley again.

© MGM (1958)

 例えば『さらば友よ』(’68)。この映画のエンディングでアラン・ドロンは警察に自分のことを隠し通してくれたチャールズ・ブロンソンがくわえたタバコに火をつけます。ふたりの男の無言の行為に多くの想いがこもっていたことは言うまでもありません。


© 1968 Greenwich Films Productions. All rights reserved.

 例えば『48時間』(’82)。刑事と囚人として敵対しているのにも関わらず協力し、事件を解決したニック・ノルティとエディ・マーフィー。ラストでマーフィーはヘビースモーカー、ノルティがタバコをくわえてジッポーを手にすると、横から奪って火をつけてやります。この後、彼らの間に芽生えた奇妙な友情を表すやりとりがあるのですが、それは見てのお楽しみ。


48 Hours & Copyright © 2015 By Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 例えば『サンダーボルト』(’74)。ジェフ・ブリッジスは年長の相棒クリント・イーストウッドに大掛かりな銀行強盗を成功させた暁には最上級の葉巻を共に味わおうと約束します。そしてその時がやってきた時、イーストウッドは自分で火をつけた葉巻をブリッジスにくわえさせてやるのです。


THUNDERBOLT AND LIGHTFOOT 1974 (C) Malpaso Productions. All Rights Reserved

 こうして見てくると海外の映画ではタバコや火のやり取りは“友情”や“絆”を表現するものとして認識されているようです。つまりタバコは“水平関係”を固定する道具なのです。

 昭和31年の日本を舞台にしているにも関わらず『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』には、そんな“友情”の証として“水平”のタバコ仕草が描かれます。行うのは水木と鬼太郎の父親です。

 とある事情から水木は一晩、鬼太郎の父の見張りをするはめになります。出会いが出会いなだけに水木は父にいい印象を持っていません。ですから父にタバコを求められた時に即答で拒絶します。しかし哭倉村での様々な出来事を通じて、二人の間にあった壁は消えていきます。そしてある夜、互いの心に秘めたことを語りあった時、水木は自分が火をつけたタバコを父にやるのです。これぞ、友情タバコです!

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

ーー 煙るオフィス、列車での咳き込む少女、お恵み葉巻とタバコを批判的に見つめていた『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』でしたが、ここでようやくタバコを肯定的に描きました。これには多くの喫煙者が「わが意を得たり」となるのではないでしょうか?

 日本が紫煙に包まれていた昭和31年を舞台に喫煙の正の面も負の面も描いた『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、近年稀に見る“タバコ映画”と言えるでしょう。

「ゲ謎」が問いかけるもの

「・・・これがわしが観てきたことのすべてじゃ」
「すごいな…まさに令和に生まれたタバコの名画ですね」
「じゃが、私が感心したんは、タバコ仕草と描写よりエピローグなんじゃ」
「……?」
「見て貰えば分かるが、この映画は『もはや戦後ではない』と政府に宣言された戦後復興は日本人の力ではない、と描いておる。復興の原動力になった邪悪なものは、水木と鬼太郎の父の活躍で倒される。そうすると東京タワー建設、新幹線開通、オリンピックやエキスポ70といった、その後の高度経済成長期の様々な出来事は日本人自身の手で成し遂げられたと解釈出来る訳じゃ。けれどもその礎になったのは誰だったのか?って考えるとな、エピローグで、あるキャラクターの言葉に切のうて、悲しくで涙が流れてくるのじゃよ」
「・・・その場面をこの目で見てみとうなりました」

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
大ヒット公開中!
©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
【配給】 東映
【制作】 東映アニメーション
■公式HP:https://kitaro-tanjo.com/
■公式X:@kitaroanime50th

 


▶いままでの「シガレット・バーン/映画的喫煙術」

著:小玉大輔(https://twitter.com/eigaoh2
扉絵:Tony Stella(https://twitter.com/studiotstella

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