【銀幕の紫煙よ永遠に】フランス製犯罪映画/“フィルム・ノワール”のタバコ仕草【シガレット・バーン/映画的喫煙術】

愛煙家ならもちろん、煙草を吸わない映画ファンにも、心に火を点けた魅力的な煙草の名場面があるはず。銀幕を彩った紫煙の名シーン・名優・名監督を紹介する「最強のスモーキング・ムービー・ガイド」です。

今回はタバコの「最高にかっこいい喫い方」を多数生み出した映画ジャンル「フィルム・ノワール」を特集。謎めいた男と女、犯罪の危うい香り……。タバコを喫う人ならだれでも憧れる、クールでエレガントな、そしてちょっとやりすぎなほどキマってるタバコ仕草を学びましょう。

文・小玉大輔
レンタルビデオ業界を退いた後、『キネマ旬報』等雑誌、WEBでの執筆やTwitter (@eigaoh2)で自分の好きな映画を広めるべく日夜活動している70年代型映画少年。Twitterスペースで映画討論「#コダマ会」を月1開催。第2代WOWOW映画王・フジTV「映画の達人」優勝・映画検定1級・著書『刑事映画クロニクル』(発行:マクラウド Macleod)

ケムール編集部にて

「“フィルム・ノワール”って知ってます?」
担当編集「フィルム・ノワール……たしか1940~50年代にアメリカで作られた犯罪映画ですよね、モノクロの。悪女にハマって堕ちていく男の話って感じですか?」
「今じゃ、そういう認識ですわな」
「というと、昔は違ったんですか?」
「映画史的にみると“フィルム・ノワール”というジャンルが形成されたのはアメリカの方が先やから間違ってはいないんやけど、私が映画少年だった70~80年代半ば頃は“フィルム・ノワール”と言ったらフランス製の犯罪映画を指す言葉だったんですわ」
「アメリカじゃなくて、フランス?」
「4月27日から東京・新宿のK’sシネマでこういう特集上映が開催されますねん」

フィルム・ノワール映画祭

フィルム・ノワール映画祭!
「上映されるのは一作品を除いて、すべてフランス製犯罪映画です」
「本当だ! アラン・ドロンやジャン=ポール・ベルモンドの出演作もありますね」

「フランス製犯罪映画の何たるかがわかる素晴らしいプログラムですわ。ということで今回は“フィルム・ノワール”の魅力について一席ぶたせてもらいます」

アラン・ドロンから北野武まで…これが男の「ノワール歩き」だ!

 フランス製犯罪映画“フィルム・ノワール”の魅力と言えば、登場人物たちの日常行為です。例えば“歩く”という行為です。

 “フィルム・ノワール”の大家ジャン=ピエール・メルヴィル監督の『いぬ』(’63)のオープニングをご覧いただきましょう。

 

© 1962 STUDIOCANAL – Compagnia Cinematografica Champion S.P.A.

 カメラは歩く中年男の姿を延々と撮り続けます。「なんなんだ?」と面喰いながらも、画面には緊張感があり、これからどんな物語が始まるのか興味が高まっていきます。

 続いて同じメルヴィル監督がアラン・ドロンを主演に迎えて放った『サムライ』(’67)のワンシーンをどうぞ。

 

©1967 – Production Filmel – CICC – TCP / Editions René Chateau

 ソフト帽とロングコートを一分の隙もなく決めて歩くドロン。その姿から一瞬たりとも目が離せません。ただ歩くだけで画面を成立させてしまう。
 これぞ、 メルヴィル式“ノワール歩き”

 きっとあなたも街で“ノワール歩き”をやってみたくなるでしょう。やり方は簡単。一本道で本人がその気になって歩けば、心はノワール!
「何を馬鹿な!」と言うことなかれ。すでに“ノワール歩き”を行って、その気になった日本映画のビッグネームがふたりいるのです。

 ひとりは松田優作。『処刑遊戯』(’79)のエンド・ロールで完璧な“ノワール歩き”を披露しております。

©TOEI

 もうひとりは筋金入りのメルヴィル信者と言われる北野武/ビートたけし。監督デビュー作『その男、凶暴につき』(’89)でエリック・サティの調べが流れる中、自分流の“ノワール歩き”を見せました。

 

©松竹株式会社

 優作もたけしも完全に“フィルム・ノワール”の登場人物になりきっているのがわかります。

 ここでメルヴィル式とは別の“ノワール歩き”をご紹介しましょう。まっすぐ前を向いて歩くメルヴィル式と違い、あたりに視線を送りながら歩きます。
 名付けて“ノワール・スター歩き”

 この歩き方の第一人者はアラン・ドロンなのですが、ここではドロンの永遠のライバルだったジャン=ポール・ベルモンドの『追悼のメロディ』(’76)での“ノワール・スター歩き”を見ていただきましょう。

 

© 1976 STUDIOCANAL. Tous Droits Réservés

 カメラで撮られていることを意識しているような“ノワール・スター歩き”。我々一般人が真似ると「自意識過剰の危ない人」と思われる可能性が無きにしもあらず。しかし常に辺りを気にしている訳ですから、少なくとも他の人よりも早く危険を察知出来る利点はあります。


「“ノワール歩き”……たしかに歩くだけでムードが出ています」
「ドロンやベルモンドを見てると、“フィルム・ノワール”に主演するフランス俳優は、日常行為をカッコ良く見せる術を身に着けていると思いますわ」
「日常行為ということは、タバコとの相性も?」
「そりゃ、もう!“フィルム・ノワール”のタバコ仕草はホントカッコ良いんです」

 

“フィルム・ノワール”は紫煙の世界

 1950年代後半、フランス人男性の75%はタバコを喫っていたと言います。必然的に犯罪者が主人公になる“フィルム・ノワール”の喫煙率は高くなります。
 ジャン=ピエール・メルヴィル監督、初の“フィルム・ノワール”『賭博師ボブ』(’55)では出演者の大半が喫煙者。画面は常に紫煙に包まれています。
 歩きたばこ、路上のポイ捨ては当たり前。驚くのは撮影当時、16歳だったファム=ファタル、イザベル・コーレイです。いくら当時のフランスでは16歳から喫煙が許されていたとはいえ、その堂々としたタバコ仕草は、彼女が何年も前から喫っていたように見えます。


© 1955 STUDIOCANAL

友情タバコ、フィルム・ノワール・スタイル

 “フィルム・ノワール”の世界では必要欠くべからざるタバコ。時にそれは男と男の友情の証として使われることがあります。
 その代表例は何といってもアラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンが共演した『さらば友よ』(’68)でしょう。

 

© 1968 Greenwich Films Productions. All rights reserved.

 一見すると、見ず知らずの男のタバコに火をつけているだけに見えますが、それまでの物語を観てきた観客はドロンとブロンソンの内に秘めた“男の友情”に胸アツ必至です。

 タバコに秘められた男の情念を描いた“フィルム・ノワール”で忘れてはならないのは、ジャン=ピエール・メルヴィル監督最高作との呼び声も高い『仁義』(’70)。
 原題を「Le Cercle Rouge(赤い輪)」というこの作品は奇しき因縁に結ばれた男たちの一大犯罪ロマンです。物語の中で“因縁”を象徴するように使われるのがタバコです。

 囚人ジャン=マリア・ヴォロンテを刑事ブールヴィルが夜行列車で護送する場面から物語が動き出します。ブールヴィルは一服しようとしますが、自分だけ喫うことを一瞬、躊躇します。しかし囚人にタバコをやる訳にもいかず、彼はタバコを喫うのをやめてしまいます。
結局、刑事と囚人との間に絆が生まれることはありませんでした。


© 1970 STUDIOCANAL – FONO ROMA

 その後、隙をついて囚人ヴォロンテは列車から脱走。刑務所から出所したてのアラン・ドロンの運転する車のトランクに身を隠します。それに気づいたドロンは人気のないところに車を止め、ヴォロンテを待ち構えます。トランクに隠してあった銃を手に出てくるヴォロンテ。緊張が走ります。ところがドロンが懐からフランスタバコ、ジタンの箱をヴォロンテに投げ与えると一瞬で緊張が解けます。男の友情に言葉はいらない。ただタバコがひと箱あれば良いのです。
 これぞ、“友情たばこ”
 以後、ふたりは高級宝石店襲撃に向けて行動を開始します。

 

© 1970 STUDIOCANAL – FONO ROMA

 宝石店襲撃に成功したドロンとヴォロンテ。次は奪った宝石を換金しなくてはなりません。知り合いの紹介で故買屋と会う段取りをつけたドロン。口にしたタバコに火をつけるのは誰なのか?
 その正体が判った時、運命の「赤い輪」は閉じられ、男たちの“因縁”の物語は終幕を迎えるのです。


© 1970 STUDIOCANAL – FONO ROMA


「心憎いタバコ演出……! いったい誰が火をつけるんだろう」
「『フィルム・ノワール映画祭』で上映するから見に行って!」
「それにしてもアラン・ドロンばかり……名優の姿にシビれますよね」
「しやったら他のドロンのタバコ仕草を教えて、担当はんを“フィルム・ノワール”沼に案内しましょ」

 

セクシーで気品あふれる【アラン・ドロン流】ノワール・スモーキング・スタイル

 アラン・ドロンの名を一躍高めた『太陽がいっぱい』(’60)。親友を殺し、その身分、金、女をわが物にする完全犯罪を企む青年を演じたドロンは、その悪魔的美しさでフランスのみならず日本女性のハートを鷲掴みにしたのです。
 この時からドロンとタバコは切っても切れない関係となりました。ローマの街での歩きタバコは二枚目にしか出来ない至高のタバコ仕草と言えましょう。

 私が強烈に記憶しているのは、ドロンが殺した親友のサインをスライドを使って模倣するシーンでのくわえタバコです。


© 1960 STUDIOCANAL – Titanus S.P.A.

 くわえタバコで何かをしたことがある人はおわかりだと思いますが、これがなかなか大変なのです。煙が目に染みるし、灰が床に落ちるかもと気になって作業に集中出来ません。ところがドロンは煙も灰も気にせず作業をやり通すのです。さすがです。
 そして、私にとってドロンと言えば「くわえタバコ」。

 ドロンは初の“フィルム・ノワール”『地下室のメロディー』(’63)でも、これでもかとばかりにくわえタバコ姿を披露します。
 ドロンが演じるのは実家のこども部屋で暮らしている無職の不良。ひょんなことから老犯罪者と組んでカンヌにあるカジノの地下金庫襲撃に挑みます。
 金持ちの放蕩息子を装ってカンヌ入りしたドロンのくわえタバコはカッコ良いのですが、精一杯背伸びしている不良の役だからなのか、どこか身についていません。

 しかしそれ故に本作でのドロンのタバコ仕草は真似る敷居が低く感じられます。例えば、ナンパした踊り子と、自分の分とタバコ2本をくわえて同時着火したり、くわえる前にタバコで唇をスッと撫でるムーブなどは「俺にも出来そう!」って気になります。但し、劇中の女性の反応から察するに、これは育ちの悪さがわかる仕草のようです。

© 1962 Cité Films ( logo ROISSY FILMS)

 ドロンは『サムライ』(’67)で新たなタバコ仕草を生み出します。ドロンが演じた殺し屋ジェフが愛飲するのは煙が多いことで知られるフランスタバコ、ジタン。ジェフは大量に買い置きして棚に積む程のヘビースモーカーです。
 本作での眼目はタバコを懐から出す仕草です。ジタンのケースはしっかりした箱仕様。タバコを出す時は蓋を開けなくてはなりません。ところがドロンが懐のポケットに手を入れると、アッという間に一本、取り出すのです。蓋を開けた素振りはありません。まるで手品です。そのクールさは筆舌尽くしがたし。

 それまで女性ファンの方が多かったドロンですが、本作をきっかけに男性ファンが急増。フランスや日本ではドロンに影響されてジタンを喫う若者が急増したそうです。

 

©1967 – Production Filmel – CICC – TCP / Editions René Chateau

 このまるで「ドラえもん」の四次元ポケットからタバコを取り出すような“手品ムーブ”はドロンのもうひとつの特徴的なタバコ仕草になりました。

 新たなタバコ仕草を編み出したドロンはくわえタバコも洗練させました。それがジャン=ピエール・メルヴィル監督の遺作となった『リスボン特急』(’72)です。
 メルヴィルの過去2作でヘビースモーカーだったドロンですが、本作で口にするタバコは一本のみ。その一本がピアノを弾きながらのくわえタバコです。
 大人の落ち着きが感じられる仕草は『地下室のメロディー』(’63)のいきったくわえタバコとは比べ物になりません。当然、この時もドロンは鍵盤に灰が落ちることをこれっぽちも心配しません。

© 1972 STUDIOCANAL – Oceania Produzioni Internazionali Cinematografiche S.R.L. – Euro International

 マキシマムにクールなドロンのタバコ仕草と、あの“ノワール歩き”が合体するとどんなことになるのか?
 それがわかるのは、ドロンが製作・監督・脚本・主演の四役を務めた『鷹』(’83)。冒頭、宝石強盗ドロンが刑務所から出てきます。犯罪者が娑婆に出て最初にすることと言えば……。

© 1983 Adel Productions/T. Films

 まず周囲を見まわし、“手品ムーブ”で取り出したタバコに着火しますが、この時も、常に警戒するように辺りに視線を走らせます。煙を十分に喫い込んで味わうと歩き出します。と同時に、哀愁たっぷりのテーマ曲が流れ始めるのです。最初はまっすぐ前を見て歩いていたドロンが、ふいに視線を外します。この仕草を待っていたかのようにALAIN DELONのクレジットがドーンと飛んできます。
 このシーンにドロンの真髄が詰まっていると言っても過言ではありますまい。


「キマりすぎですね(笑)。令和のイケメンでは相手にならないくらいかっこいいです。こんなの誰にも真似できませんよ」
「いやいや、割と簡単でっせ」
「え?」
「歩いてたり、立ってたり、座ってたり、どんな時でも構いません。ちょっと間があったら左右に視線を送るんです。こんな感じで」

▼特に【1:22】あたりに注目だ!!▼

引用元:Tony Arzenta’s Entertainment Channel Z/YOUTUBE

「な、なんだ! このセクシーな目配りは!」
「“ダーバン、セ・レレガァ~ンス・ドゥ・ロム・モデルヌ”」
「まさか小玉さん……
「“ダーバンは現代男性のエレガンス”」
「……やってもうた……。この目つきをマネすれば、気分はドロンということですね!!!」
「……じゃあ、ドロンはこれぐらいにして、永遠のライバル、ベルモンドのタバコ仕草に行きます!彼もカッコええねん!」

ヤンチャで自由な【ジャン=ポール・ベルモンド流】ノワール・スモーキング・スタイル

 ベルモンドの名を高めたのは言うまでもなくジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(’60)。この映画でジタンをチェーンスモークしたベルモンドは、同じ年に公開された『太陽がいっぱい』のドロンと共に、新世代の不良役者として注目され、以後、二人は互いを意識することになります。

 “フィルム・ノワール”の大家、ジャン=ピエール・メルヴィルとはドロン同様三作品でコンビを組んでいます。その中で唯一の“フィルム・ノワール”は『いぬ』(’63)。ベルモンドが演じたのは、犯罪仲間を警察に密告する“いぬ”だと疑われる男です。

© 1962 STUDIOCANAL – Compagnia Cinematografica Champion S.P.A.

 タバコを口にするベルモンドが全面にフィーチャーされたポスター。当然、ベルモンドはタバコを喫います。しかしその仕草は同時期のドロン同様、上品ではありません。中でもびっくりするのはガソリンスタンドで給油中の一服。下手したら爆死です。

 アラン・ドロンのタバコ仕草がくわえタバコなら、ベルモンドのタバコ仕草と言えば着火です。『勝手にしやがれ』では様々なバリエーションのタバコ着火を見せましたが、それに負けないのがタイトルロールを演じた『オー!』(’68)で見せた仕草です。
 本作でベルモンドが演じるのは、ゲッタウェイ・ドライバーから暗黒街の顔役を目指すレーサー崩れのチンピラ。冒頭からベルモンドが見事な着火仕草を見せます。

©1968 – TF1 – MEGA FILMS All rights reserved.

 ロー式マッチをハンドルで擦るベルモンドの着火ムーブ、音楽の変調とカメラワークが一体化した映像。しびれるような“フィルム・ノワール”テイスト。実はこのシーンの後、ベルモンドは素人なら躊躇してしまう方法でタバコを消すのですが、それは本編でご確認ください。

 興味深いのは本作でのタバコの変遷です。チンピラだったベルモンドはタバコを喫っていますが、「ルパン&カポネ=オー!」とマスコミから呼ばれる大物になると、成功の証である葉巻にクラスチェンジ。しかし栄光の座から転げ落ちたベルモンドが口にするのはタバコ。この時の着火仕草からは挫折感が漂い、切ないものになっています。


©1968 – TF1 – MEGA FILMS All rights reserved.

 ベルモンドが最高の着火仕草を見せるのは『おかしなおかしな大冒険』(’73)です。
本作は“フィルム・ノワール”ではありませんが、架空のスーパースパイを演じたベルモンドがとんでもない着火仕草を行います。50年近く前にテレビで一度見たっきりの私が今も鮮明に覚えている珍妙さなのです。

©1973-Mondex Films,Les Films Ariane,Cerito Films,Oceania Film,Rizzoli Film

 やたら手を伸ばす、この着火仕草。どこかの喫煙所でしている人がいたら、近づくのを躊躇することは確実です。とは言え、一度はやってみたい不思議な魅力があります。

 本作は6月28日からはじまる「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選 GRAND FINALE」で半世紀ぶりに劇場公開されますのでお見逃しなく。


「ドロンとベルモンドは、オフ・スクリーンでもタバコとの縁が深いんですわ。タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムではドロンがオフィシャル認定している『アラン・ドロン』という名のタバコが売られてるんです」

「タバコが似合いすぎて銘柄になってる(笑)! もしかしてベルモンドも銘柄になってますか?」
「実は『ベルモンド』って葉巻の銘柄がありますが、あれは名前が一緒なだけ。ベルモンド当人は1968年に『ティパリロ』って葉巻のイメージ・キャラクターになってます」

「うーん、かっこいいけど……なんとなくベルモンドのイメージと違いますね」
「よそ行き仕様やないですかね」
「ふたりは共演もしてるんでしょうか?」
「ツートップ共演は『ボルサリーノ』(’70)と『ハーフ・ア・チャンス』(’98)です」
「気になるなあ。ヘビースモーカーのふたりだから紫煙まみれだったんじゃないですか?」

「それが『ボルサリーノ』で二人が一緒に葉巻を喫うのは2シーンだけ。それ以外の二人の出ているシーンはベルモンドが出世する毎に太くなる葉巻を燻らせているばかりで、ドロンはなかなか喫いません。せやけどドロンはひとりになると『コマーシャルか!』ってツッコみたくなるぐらいキメキメの喫いっぷりしますねん。カッコいいやらおかしいやらで」


©1997: FILMS CHRISTIAN FECHNER – UGCF – TF1 FILMS PRODUCTION

「『ハーフ・ア・チャンス』はどうですか?」
「ふたりとも60歳半ばやったから喫うのはパイプ。最後は飴を舐めてますわ」
「高齢ですし仕方ないとはいえ、ちょっと切ないっすね」
「ほんまにね。ベルモンドは亡くなるし、ドロンは脳卒中で倒れてから胸が痛くなるようなニュースしか聞きませんし。子どもの頃から彼らを知っている者にしてみたら、なんや悲しゅうなります」
「何を言ってるんです! ドロンとベルモンドのタバコ仕草はフィルムに残っているじゃないですか!そのために我々は映画を見るんでしょう?」
「そや!ドロンやベルモンドだけやない。リノ・バンチュラ、ジャン=ルイ・トランティニャン、ミッシェル・コンスタンタンもスクリーンの中で生きているんや!!!」
「だったら、寂しいことを言ってないで、劇場に足を運びましょう!」
「担当はん、あんた、ええこと言うなぁ!」


▶いままでの「シガレット・バーン/映画的喫煙術」

著:小玉大輔(https://twitter.com/eigaoh2
扉絵:Tony Stella(https://twitter.com/studiotstella

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