”映画”にとって”タバコ演出”とはなにか?超愛煙家映画【シン・シティ】を解説

愛煙家ならもちろん、煙草を吸わない映画ファンにも、心に火を点けた魅力的な煙草の名場面があるはず。銀幕を彩った紫煙の名シーン・名優・名監督を紹介する「最強のスモーキング・ムービー・ガイド」です。

2024年も映画を喫っていこうぜ!

どんどん肩身が狭くなる喫煙者。新幹線の喫煙所も廃止されるとか、加熱式タバコも値上げとか……そんな時代にも、ケムールはもちろんタバコ映画紹介をやめません!
新年一発目は景気よく、タバコの煙がとにかくかっこいい映画ではじめましょう!
読者の愛煙家の皆様。2024年も、ルールとマナーを守って喫おう! だけどスクリーンの中には……愛煙家の無限の自由とロマンがあるぜ!!

文・小玉大輔
レンタルビデオ業界を退いた後、『キネマ旬報』等雑誌、WEBでの執筆やTwitter (@eigaoh2)で自分の好きな映画を広めるべく日夜活動している70年代型映画少年。Twitterスペースで映画討論「#コダマ会」を月1開催。第2代WOWOW映画王・フジTV「映画の達人」優勝・映画検定1級・著書『刑事映画クロニクル』(発行:マクラウド Macleod)

ケムール編集部にて

私&担当編集ケムール読者の皆様、あけましておめでとうございます!
「ところで担当さん、『シン・シティ』って知ってます?」

「もちろん知ってますよ。子どもの頃ハマったなあ。スーパーファミコン買ってもらって……。結局、50万人の都市を作ることは出来なかったけど」
「それは『シムシティ』やぁ!!!」
「あ、違いましたか? 『シン・シティ』……って、アメコミ? でしたっけ」
「そうです。正確にはグラフィック・ノベルっていうんですけどな」
「へー。映画化してるんですか?」
「2005年に一作目、2014年には続編が作られてます」
「観てないんですよね、僕。それがどうかしたんですか?」
「映画とタバコのコラム『シガレット・バーン』の担当として、それはあきまへんで……」
「……ってことは、タバコ映画?」
「とりあえず予告編を観て!」

 

©2005 Miramax Film Corp. All Rights Reserved.

©2014 Maddartico limited. All Rights Reserved.

「うわっ、モノクロでかっこいいですね!」
「二作とも、ひとつの物語のような予告編になってますけど、連作/オムニバス映画なんです。平たく言うと『三丁目の夕日』の犯罪版ですわ」

 

『シン・シティ』とは?

 “シン・シティ/罪の街”と呼ばれる悪徳に満ちた街で生き、死んでいく男と女の姿を描いたグラフィック・ノベル『シン・シティ』

作者は、1980年代半ば、『バットマン: ダークナイト・リターンズ』でアメリカン・コミックに新風を巻き起こしたコミック・アーティスト、フランク・ミラー
執筆にあたり彼の念頭にあったのは1940年代から1950年代後半にアメリカで流行した“フィルム・ノワール”と呼ばれるジャンル映画でした。“フィルム・ノワール”は犯罪の世界に生きる男女を白と黒のコントラストを強めた陰影に富むモノクロ映像の中で描くことが特徴。そこでミラーは“フィルム・ノワール”に倣って、『シン・シティ』の基調を黒と白にします。

これまでのカラフルな色使いのコミックとは違う画調の世界で繰り広げられる、大人向けの連作『シン・シティ』は1991年に発表されると、一般的な知名度は得られなかったものの、熱狂的なファンを生み、2000年までに長編6冊、短編集1冊が出版されたのです。

このカルト・コミックを映画にしたのは、ロバート・ロドリゲス監督。彼は7,000ドルで作った自主映画を足掛かりにハリウッドで成功を収め、クエンティン・タランティーノに並ぶ映画オタク出身の監督であり、原作の大ファンでした。
ロドリゲスは原作を脚色して映画に“翻案”するのではなく、原作のコマを映像化し、「コミックを映画に“翻訳”する」ことにしたのです。そして共同監督としてフランク・ミラーを招き、コミックの「映画化」ではなく、「映像化」に挑みました。

まず有名スター揃いのキャストが演技をするのはほぼスタジオ内。それもグリーン・スクリーンの前です。背景は屋外であれ、屋内であれ、コンピュータ・グラフィックスで描かれた風景を後で付け加えます。シーンによっては別々に撮ったカットを同時に撮影したかのように合成しています。
そして色彩は原作に倣って、白と黒のコントラストを強めたモノクロ。時としてそこに部分的な色を加えて、変化を与えました。

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実写とアニメーションのハイブリッドと呼べる技術によって、ロドリゲスは「ミラーのコミックを映画に“翻訳”する」ことに成功したのです。

担「すごく変な作り方ですね…
「2005年のカンヌ映画祭で『シン・シティ』に技術大賞が贈られたそうですわ」

「この映画とタバコにどんな関係があるんです?」
「この写真を見てください」

©JOHAN SWANEPOEL

「モノクロの世界やと、煙の白さが際立ちます。でも色彩のある現実の世界では全然目立たへんし、匂いを嫌がる人も多いですからなぁ」
「モノクロ映画ならタバコの煙がクールに見えますもんね」
「だから、『シン・シティ』に登場する連中の大半はスモーカーなんですわ。彼らの吐き出すタバコの煙が漆黒の世界でとんでもなく存在感を示しているんです」


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「それだけやおまへん。真似したくなったり、やってみたいけど、一生涯、その機会に恵まれないだろうタバコ仕草が次から次へと登場するんですわ」
「やってみたくても一生できないタバコの喫いかた?」
「ということで、私のお気に入りのタバコ仕草を紹介していきまっさ」

超・タバコ仕草【男性編】

★ マーヴ(ミッキー・ローク)

『ナインハーフ』(’86)等で80年代、日本でも女性人気を集めたミッキー・ロークが素顔の分からないぐらいの特殊メイクをして演じたのが、容貌魁偉で怪力無双の暴れん坊マーヴ。一作目で醜い自分を愛してくれた女の仇を討つために巨悪に挑み、その前日譚になる二作目では親しい女の復讐に協力。
彼は登場人物きってのヘビースモーカー。酒場のカウンターでウィスキーを味わう時は勿論、ひと暴れする毎にタバコに火をつけ、考え事をする時にはタバコの火を見つめます。この男の面白いのはタバコを喫っていない時には口に爪楊枝があること。どうやら彼は口唇期を卒業していないようで口寂しいのが嫌なようです。
けれども、感心なことに彼はいくら深くタバコを喫いこんでも絶対に煙を鼻から出しません。どんな二枚目でも煙を鼻から出したらカッコ悪いですから、そこはこの化け物のような男を見習いたいものです。


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★ ドワイト・マッカーシー(クライヴ・オーウェン/ジョシュ・ブローリン)

元私立探偵の謎の男ドワイト・マッカーシー。一作目ではクライヴ・オーウェン、二作目ではジョシュ・ブローリンが演じています。俳優が変わったのはスケジュールの問題だそうですが、前日譚である二作目で巻き込まれる事件のために整形で顔を変えたという設定になっています。
一作目のオーウェンは車を運転しながら助手席に積んだ死体と会話する時にタバコをくわえます。この時のタバコのくわえ方、ジッポーでの火のつけ方は運転中の喫煙の理想形。ちなみにこのシーンを監督したのはクエンティン・タランティーノなんです。そのためかどうか分かりませんが、オーウェンが喫うタバコはタランティーノ映画御用達の架空のタバコ“レッド・アップル”だそうです。

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ジョシュ・ブローリンが演じた二作目のドワイト。内なる暴力衝動を抑えるために禁酒禁煙生活を送っています。ところがかつて彼を傷つけた元恋人と再会した夜、目覚めるとベッドにタバコと灰皿、テーブルには酒瓶。いけないと思ったものの時すでに遅し。悪癖が蘇ってしまいます。そして元恋人とよりを戻すと喫煙者に逆戻り。

その時の彼の仕草にご注目。煙を吐き出すと指に挟んだタバコをチラリと見ます。タバコと縁が切れなかった癖に、こんな風にカッコつけるヤツはなかなかいません。禁煙に挫折した時には是非、このポーズを真似てください。やましさが薄れるやもしれませぬ。


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★ ジャキー・ボーイ(ベニチオ・デル・トロ)

一作目でベニチオ・デル・トロが凝ったメイクで演じたジャッキー・ボーイ。女性を平気で殴るゲス野郎ですが、タバコの出し方はちょっぴりクール。左手に持った箱を右手で叩き、タバコが出てくると一瞬の早業で箱を右手に移してくわえるのです。


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あまりの早業はまるで手品のようです。この動画を何度も見て、動きをマスターすればちょっと嬉しくなるかもしれません。
もうひとつ、ジャッキー・ボーイで真似したいのは、クライブ・オーウェンのタバコ仕草を紹介する動画での表情です。タバコに火をつける時に、ここまで下品な目をする男はそうそういません。喫煙所の仲間の前でやれば、一目置かれること間違いなし(?)。

★ ロアーク上院議員(パワーズ・ブース)

“シン・シティ”を牛耳る権力者として二部作通して悪役を務めるのは、パワーズ・ブース演じるロアーク上院議員。こういう男が嗜むのはタバコではありません。そうです、葉巻です。


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ご覧ください。この憎々し気な表情。ギャンブル・ルームは当然として、横たわる病人の前でも平然と葉巻をくゆらせます。彼にとって葉巻を吹かすことは己の力を誇示することなのです。これぞ、“権力葉巻”
もしあなたが他を圧する力を得た時にはタバコなんてみみっちいものではなく、ロアークのように堂々と葉巻をくわえて人に接してください。きっと道理が引っ込んで無理が通るに違いありません。

「あれ?さっき見てた予告編にブルース・ウィリスが出てたと思うんですけど」
「ブルースは喫いまへん」
「そうなんですね。『ダイ・ハード』であんなに美味そうにタバコを口にしてたのに残念ですね」
「『シン・シティ』でブルースが演じたハーディガンって役は『ダーティハリー』がモデルですねん。何でも『ダーティハリー』シリーズ最後の作品になった『ダーティハリー5』を観たフランク・ミラーが、「こんな映画でハリー・キャラハンの物語を終わらせるのは許さん!俺が本当の終わらせ方を見せてやる!」って思って、ハーディガンのエピソードを描いたんですって。でね、ハリー・キャラハンはスモーカーちゃいますねん。せやから」
「タバコは喫わないと。なるほど」
「まぁ、男の話はこれぐらいにして、ここからは女性の話、させてもらいまっせ。悪徳の街シン・シティに生きるタフな女たちは、それはそれはイカす喫いっぷりを見せますねん」

超・タバコ仕草【女性編】

★ ナンシー(ジェシカ・アルバ)

『シン・シティ』二部作の一番の見せ場と言ったら、ジェシカ・アルバが演じたダンサーの踊りです。モノクロ画面に躍動するアルバの肢体はスーパー・セクシー。とりわけ二作目の後半で彼女が魅せる踊りはミッキー・ローク演じる巨漢マーヴが「妹のセックスを見ているようだ」と言って、目を背けるぐらい煽情的です。
彼女の内には復讐の炎が燃えあがっています。しかし愛する男を死に追いやった仇を目の前にした時、拳銃のトリガーを引くことが出来ません。自らの弱さに自暴自棄になった彼女は酒とタバコに逃避します。そのやさぐれっぷりがすごい。右手に持った酒瓶からラッパ飲みし、左手に持ったタバコを落ち着きなく喫い続けるのです。
愛煙家の女性は是非、このアルバのタバコ仕草を身につけて欲しいものです。日々の人間関係に疲れて、やさぐれた時、自己嫌悪に陥ったりした時に再現すれば、「今、私はジェシカ・アルバみたい」と思えてきて、落ち込んだ気分がまぎれるかもしれませんから。


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★ ゲイル(ロザリオ・ドーソン)

ロザリオ・ドーソンが演じたのは、女が支配する娼婦街“オールドタウン”のリーダー、ゲイル。街を守るためならどんな男が相手だろうが、何の躊躇もなくマシンガンを撃つ鉄火肌キャラ。それ故にタバコの喫い方も豪快です。
人前でタバコを喫う時、箱から一本取り出して口に持っていく女性が多いと思いますが、ゲイルは違います。多くの男と同様に箱から直接くわえるのです。しかもそれはヴァージニア・スリムみたいなガーリーなタバコでなく、シガータバコ/シガリオときています。まさに“姐御”です。

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★ エヴァ(エヴァ・グリーン)

『シン・シティ』二部作きっての悪女はエヴァ・グリーン演じるエヴァ・ロード。自らの欲望のためにあらゆる男を手玉に取ります。
まずは彼女の初登場シーンをご覧ください。

 

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霧のように辺りに漂うタバコの煙に包まれて登場する彼女は“ファム・ファタール/運命の女”の実像そのもの。そして悪女の必需品は勿論、タバコ。
取り出したタバコを箱でトントンしてから口にする動作も堂に入っています。とりわけシビレるのはタバコの煙を嫌がる男をちらりと見てからの微笑みです。こんな男のマゾッ気を直撃する表情は、彼女のように悪い女じゃなければ不可能です。
悪女ならではのタバコ仕草と言えば、もうひとつ。それは全裸タバコ。全裸でベッドの上に横たわり、タバコを喫いながら男の帰りを待つのです。狙いは男を利用するため。カラー画面で見たら少々、下品に感じるかもしれませんが、『シン・シティ』のエッジの効いたモノクロ画面の中でアートと化した裸体には抵抗不可能。彼女の邪悪な蜘蛛の糸に絡めとられてしまうに違いありません。


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「たしかに一生涯できない喫い方です(笑)。野郎も女性も真似たくなるタバコ仕草」
「そりゃ、罪の街ですからね。禁煙なんて一昨日来やがれでっせ」
「この街のスモーカーの男と女が出会ったらどうなるんでしょうね」
「これがカッコよろしいねん。ではお見せしましょう」

超・タバコ仕草【恋とタバコ】

女性スモーカーを嫌がる男性が多いそうです。しかし喫煙者というだけで白い目で見られる昨今。同じ愛煙家として男も女も互いに手を取り合って紫煙を味わうべきではないでしょうか?
そこで参考にしていただきたいのが、このジョシュ・ハートネットが演じた男が見せたムーブ。今後、喫煙所などで女性スモーカーと出会ったら、彼のようにクールにタバコを勧めてみてはいかがでしょうか?
もしかしたら、これがきっかけで恋が芽生えるかもしれません。

そうなったら、次はこのタバコ仕草に挑戦してください。喫っている間だけ、周りの色彩がモノクロに変わり、二人は『シン・シティ』の住人になっているかもしれません。

なお、実はハートネット仕草は禁煙家が喫煙者をあぶり出す時にも使えます。タバコを勧める人に出会った時はご注意ください。

「映画という虚構の世界でしか、お目に掛かれない仕草を現実世界で自ら真似てみる。一瞬でも映画の登場人物と一体化出来れば、日常的な行為が非日常の特別なものに変わり、人生がちょっと豊かになる。これが常々、私が提唱している心のコスプレの意義ですわ」
「たしかに心のコスプレ。タバコのカルチャー的な豊かさにも触れられる映画でした」
「合言葉は『シン・シティの住人になろう!』ですわ」
「タバコ喫ってる人は資格十分ということで」


▶いままでの「シガレット・バーン/映画的喫煙術」

著:小玉大輔(https://twitter.com/eigaoh2
扉絵:Tony Stella(https://twitter.com/studiotstella

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