『仁義なき戦い』公開50周年! 東映”実録やくざ映画”に漢のタバコを学べ!心のコスプレ喫煙奮闘篇【シガレット・バーン/映画的喫煙術】

二台の映写機を交互に使って映画を上映していた時代。切り替えのタイミングの合図は、フィルムの端に出る黒丸印。
この印のことをアメリカ映画業界では“シガレット・バーン/煙草の焼け焦げ”と呼んでいました。
そう、昔から煙草と映画は切っても切れない関係にあったのです。
愛煙家ならもちろん、煙草を吸わない映画ファンにも、心に火をつけた魅力的な煙草の名場面があるはず。銀幕を彩った紫煙の名シーン・名優を紹介する新連載です。
今回は新年にふさわしくおめでたいテーマです。2021年に70周年を迎えた「東映」! その”名シリーズ”をタバコしばりで紹介します。
映画の達人・コダマさんの膨大な知識の無駄遣いをお楽しみください。

どこのメディアもやらない・追いつけない「最強のスモーキング・ムービー・ガイド」をどうぞ。

文・小玉大輔
レンタルビデオ業界を退いた後、『キネマ旬報』等雑誌、WEBでの執筆やTwitter (@eigaoh2)で自分の好きな映画を広めるべく日夜活動している70年代型映画少年。Twitterスペースで映画討論「#コダマ会」を月1開催。第2代WOWOW映画王・フジTV「映画の達人」優勝・映画検定1級・著書『刑事映画クロニクル』(発行:マクラウド Macleod)

ケムール編集部にて

「今月のシガレット・バーンは”東映”について書いたろ思うんですわ」
担当さん(以後、担)「いいですね! 東映といえば、『仮面ライダー』とか『戦隊モノ』ですか?」
「いえ、ちゃいます」
「じゃあアニメかな? 『SLAM DANK』の煙草を喫わなかった三井の話とか…分かった!『シン・エヴァンゲリヲン』でしょ! 赤木ハカセも加地さんも愛煙家だし、喫煙グッズも色々出てます。しかも『エヴァンゲリオン』って銘柄まであるみたいですよ」

※「Evangelion」というタバコの銘柄名が2021年5月に財務省の製造たばこの小売定価の認可を得ているのだ(発売は確認されていない)

「ちゃう!そもそも東映は『エヴァ』の配給だけやし。おまけに東宝と共同でっせ!」
「おっと失礼…だったら何についてなんです?」
東映いうたら“やくざ映画”ですがな!!担当はん、まさか今年公開50周年の『仁義なき戦い』知りまへんの?」
「そりゃあ、僕だって好きな映画ですよ。実際に起きた広島のやくざ抗争を描いたシリーズですよね」
「そう。“実録やくざ映画”ってジャンルを打ち立てた名画ですわ。ほんで“実録やくざ映画”に出てくる人らは無茶苦茶煙草を喫いますのや。それがえろうカッコようてね…思わず真似たくなりますねん。そこで今回は東映“実録やくざ映画”に出演したスターを参考にTPOに応じた喫煙作法を紹介しよう。まっ、そない考えた次第です。なんちゅうても私は“実録やくざ映画”が大好きですから。15シーンに絞るのが大変でしたわ」
「それは….ちょっと見てみたいかも」
「まず『仁義なき戦い』の顔、菅原文太から! 私の話を聞いたら、真似したくなりまっせ~」

ケムールが選ぶ・東映実録やくざ映画”15の喫煙作法”

菅原文太 篇
シーン1:『仁義なき戦い 代理戦争』(’73)-会議が退屈なとき

『仁義なき戦い 代理戦争』©東映

百家争鳴。延々と続く会議。「時間の無駄だろ…」と思いながらも出席しなければならないとなれば、ストレス以外何物でもありません。
これと同じような状況が『仁義なき戦い』の第3作『代理戦争』(’73)で描かれます。『代理戦争』は広島やくざの幹部たちが会議や会談を繰り返す映画です。しかも親分は身勝手、幹部連中は己の損得勘定ばかり。一向に結論が出ません。実社会で我々が経験する会議そのものです。
だから、あなたが退屈な会議に出席したら、ここは広島やくざの幹部会だと思ってください。そうすれば「今の俺は『代理戦争』の文太や成田三樹夫だ」と思えて気もまぎれます。
その会議が喫煙OKだったら完璧です。菅原文太のように所在なげに煙草をふかしながら、参加者の意見を聞きましょう。そして満を持して発言する時は、口火を切るきっかけとして喫っていた煙草を灰皿に投げ捨てるのです。きっといつも以上に雄弁に自分の意見を言えるに違いありません。
では実際の映像を見て、文太の仕草を覚えましょう。

 

『仁義なき戦い 代理戦争』©東映


シーン2:『仁義なき戦い』(’73)-待ち合わせに相手が遅れたとき

『仁義なき戦い』©東映

寒い中、外で人と待ち合わせ。相手はいつまで経っても来やしない。運悪く雨が降り始め、気がつけば本降りに。傘がないので軒先に雨宿りするも、冷たい雨が容赦なく服を濡らします…。
これと同じ状況に置かれたのは『仁義なき戦い』(’73)第一部の菅原文太です。ただの待ち合わせではありません。命を狙う敵親分の出待ちです。その焦燥感たるや、堅気の人間には想像も出来ません。文太ははやる気持ちを煙草で抑えます。気がつくと足元に捨てられた吸殻はどんどん増えて…。

『仁義なき戦い』©東映

堅気の我々がヒットマンになることなんてありませんが、人に待たされることはあります。そんな時、文太と同じことをすれば「今の俺は文太や」と思えて、嬉しくなってくるかもしれません。そうなれば冷たい雨も苦にならず、遅刻している相手にも腹が立ちません。そして文太ばりにどんどん煙草を喫って足元に捨てれば、どれだけ待たされたか分からせることが出来るのです。まさに一石二鳥! 但し、その場を離れる時は吸殻の回収を忘れずに。


シーン3:『仁義なき戦い 完結篇』(’74)-ベッドに横たわる一瞬に

『仁義なき戦い 完結篇』©東映
菅原文太は俳優になる前はモデルでした。自分をカッコ良く見せるすべが分かっているのです。例えば、『仁義なき戦い』の第5作『完結篇』(’74)で見せた、灰皿に煙草を投げ捨てる仕草です。
ベッドに寝そべって喫っていた煙草を枕元の灰皿に”ポイ”とするだけなのですが、これがすこぶるカッコ良いのです。これは相手がいなくても出来ますから、自宅や旅先のベッドで試してみてください。「今、俺は文太だ」と思えれば、疲れも癒え、やる気も出ようというもの。

 

『仁義なき戦い 完結篇』©東映

ただし、映画の中の文太と違って、煙草の火は自分で消さないといけませんがね。


シーン4:『日本の首領 完結篇』(’78)-大事な商談でハッタリをかますなら

『日本の首領 完結篇』©東映
『仁義なき戦い』シリーズなど実録やくざものでよく目にするのが、部下に煙草の火を点けさせる姿。昭和の時代はワンマン社長なんかが同じことをさせていたかもしれませんが、オフィス禁煙が当たり前の現在では難しいのではないでしょうかね。
関東・関西の巨大やくざ組織、右翼団体、政財界が実際に起こした事件や騒動を下敷きにした壮大な抗争劇『日本の首領』三部作『完結篇』(’78)で菅原文太はより凄いことを見せます。車椅子の経済やくざを演じた文太は人に煙草の火を点けさせるのではなく、消させるのです。方法は簡単。喫い終わったら煙草を後ろに控えた部下に渡すだけ。受け取った部下は当たり前のように火を消します。

 

『日本の首領 完結篇』©東映

もしも文太みたいに忠実な部下や後輩がいるのなら、絶対にキメたい、重要な商談でハッタリをかまさねばならない時に使いましょう。相手は絶対にビビりますぜ。


シーン5:『県警対組織暴力』(’75)-情事のあとに

『県警対組織暴力』©東映

菅原文太がマル暴の刑事を演じた『県警対組織暴力』(’75)で、愛人役の池玲子は東映的な不良性感度が高い男性なら一生に一度はやってもらいたい「夢」を叶えてくれます。
情事の後、火照った身体で横たわるふたり。池玲子は起き上がると煙草に火を点けます。その煙草を自分が喫うためではなく、文太の口へ持っていくのです。そして文太は当然のことのように礼も言わず、ゆったりと燻らせる…。

『県警対組織暴力』©東映

令和の時代に池玲子のようなことをする女性がいるかどうかが問題ですが…。もし奥さんや彼女が愛煙家なら、一度、お願いしてみてください。


「濃い…マジで全員タバコ喫ってますね」
「カッコええやろ~。どうです、今晩にでも奥さんに池玲子の真似をしてもらってください」
「無理、無理!断られるどころか怒られますって」
「じゃあ、せめてあん時の池玲子の右手の動きだけでも。ねっ?」
「それだったら、いつもしてくれます、テヘッ!」
「ほな、次は松方弘樹いきまっせ!」

松方弘樹 篇

シーン6:『仁義なき戦い 完結篇』(’74)-シガレットホルダーを使え!①

『仁義なき戦い』5部作に三度登場し、毎回、別人を演じた松方弘樹。菅原文太と並ぶシリーズの顔と言うべきスターであります。
時代劇から現代劇まで多種多様な役柄をこなす演技力の持ち主ながら、広く一般に認められなかった“無冠の男”・松方。彼が得意とするのは小道具を使った演技です。『仁義なき戦い』第5部『完結篇』ではちょっと長めのシガレットホルダーを効果的に使って、強烈な印象を残します。今の時代、シガレットホルダーを使っている人は少ないでしょうから、細身の無煙煙草や電子煙草の愛用者は是非、その仕草を参考にしてみてください。
ポイントはシガレットホルダーをしっかり歯で噛みしめること! そして歯をニッと見せて笑ってください。もし酒の席で真似るなら、友人を呼ぶ時は手招きも忘れずに。

 

『仁義なき戦い 完結篇』©東映


シーン7:『やくざ戦争 日本の首領』(’77)-シガレットホルダーを使え!②

『やくざ戦争 日本の首領』©東映

松方は『やくざ戦争 日本の首領』(’77)で東大卒のインテリやくざを演じた時もシガレットホルダーを使います。でも本作での喫い方は知的にして上品。役によってまるで違う煙草の扱いを見せるとは、さすがは松方です。

『やくざ戦争 日本の首領』©東映


シーン8:『仁義なき戦い』(’73)-『仁義なき戦い』ファンに出会ったら…

もしあなたが『仁義なき戦い』が大好きだと言う人に出会ったら、適当な時に上着の内ポケットに手を入れてください。その時、相手が『仁義なき戦い』第一部で松方弘樹がしたような大騒ぎをすれば真正のファン、そうでなければにわかファンです。

『仁義なき戦い』 ©東映

噂によると、『仁義なき戦い』マニアは若いファンが現れると、このテストを行って選別しているそうです。


「菅原文太と松方弘樹、ぜんぜん喫い方がちがうんですね…しかし”シーン8”みたいなマウントテストが本当にあるんですか(笑)?」
「信じるも信じんもあなた次第。けど人から聞いた時のメモが確か、上着の内ポケットにあったような…(ゴソゴソ)」
「え、なんですか? 見せてください」
「ふっ…にわかが…」

渡瀬恒彦 篇

シーン9:『仁義なき戦い 代理戦争』(’73)-お母さん、いつもありがとう

『仁義なき戦い』の第1作と第3作『代理戦争』に違う役で出演した渡瀬恒彦。
『警視庁捜査一課9係』(06-17)など晩年のテレビドラマでは優しいおじさんの風情でしたが、『仁義なき戦い』の頃は“狂犬”と呼ばれる荒ぶるキャラクターでした。しかしまれに心優しくイノセントな表情を見せる時があります。
『代理戦争』にこんなシーンがあります。菅原文太の子分になった渡瀬が親分のお供で出かけた時、偶然、仕事中の母に出会います。「母ちゃんよい」と声を掛けた渡瀬は洋モクを一本、母にくれてやるのです。
感激して、拝むように受け取る母。渡瀬はその態度に気が咎めたのか一度ポケットにしまいかけた煙草を「箱ごと」渡して、その場を去ります。

『仁義なき戦い 代理戦争』©東映

お母さんに日頃の感謝の気持ちを伝えたいなら、是非、この渡瀬と同じことをやって欲しいのです。えっ?母親は外で働いてないし、煙草を喫わないって? 大丈夫。家の中でもいいのです。重要なのは渡瀬のように呼びかけること、煙草なりお菓子なりの箱を一度、ポケットにしまいかけてから渡す…そしてニコッと笑って立ち去るのです。もしかしたら喜んでもらえず、「???」ってなるかもしれません。でもあなたはそのとき、確実に「渡瀬になれた!」のです。


シーン10:『やくざ戦争 日本の首領』(’77)-喧嘩を売るならこんなふうに

猛者揃いだった東映で、「あいつだけは怒らせてはいけない」と恐れられた狂犬・渡瀬。その片鱗がうかがえるのが『やくざ戦争 日本の首領』です。
演じた役は鉄砲玉。敵の賭場で片膝を立てて座り、マッチで火を点けたくわえ煙草で凄む姿は全方位、喧嘩売りまくり状態。この時、渡瀬が敵のやくざに言う「黙ってぇ、カス」は喧嘩の時に使ってみたい名啖呵です。

 

『やくざ戦争 日本の首領』©東映


「渡瀬みたいに渡す相手は母親じゃないとダメなんですか?」
「いや、大切な人なら誰でもよろし」
「あげるのは煙草じゃなくても?」
「何でもよろし」
「バレンタインの時、妻にやってみます」

渡哲也 篇

シーン11:『仁義の墓場』(’75)-クソ上司に説教されたら

『仁義の墓場』©東映

渡瀬恒彦の兄、渡哲也。テレビドラマ『大都会 PARTⅢ』(’78~’79)『西部警察』(’79~’84)のショットガンを撃ちまくる部長刑事が印象深いですが、実は東映実録やくざ映画とも縁が深いのです。そもそも当初『仁義なき戦い』の主演には渡が配役されるはずだったとか。
しかし当時、渡は病気療養中で出演は不可能。そこで主演は菅原文太になったわけですが…渡の『仁義なき戦い』を想像するのも一興ですね。
さて、日活のスターだった渡が東映映画に主演したのは1975年、『仁義の墓場』です。破滅的な生き方で戦後やくざ社会の語り草になった実在の男の物語。この映画で渡はデンジャラスな煙草さばきを見せます。
無茶な行動を兄弟分の梅宮辰夫から諫められる渡。こういう時は話す相手の方に向くのが礼儀ですが、渡は背中を丸め、下を向いて黙って煙草を吹かすだけ。顔も上げません。そして説教に飽き飽きしたら、「話すのやめろ」とばかりに目の前のコップや灰皿に煙草をポイ!

 

『仁義の墓場』©東映

説教や助言を「コップに煙草をポイ」で遮るなんて、実生活でも御法度。家族からは勘当、職場なら解雇、お店なら出禁の可能性大。
でもやってみたいんですよね、渡哲也のこのタバコの仕草。納得いかない説教や叱責を喰らった時なんか特に。自分で自分にしびれますよ、きっと。


「酒の席で酔っぱらった上司に絡まれた時にやってみます」
「やる前にはどこかに『大笑い、三十年のバカ騒ぎ』と書いておくのを忘れずに」

佐分利信&鶴田浩二 篇

シーン12:『日本の首領 完結篇』(’78)-怒りをおさえるオトナの喫煙作法

『仁義なき戦い』五部作と並び称される『日本の首領』三部作。そこで日本の首領の椅子を狙う“西の首領”を演じるのが佐分利信。常に煙草の火を子分に点けさせています。その姿は貫禄十分。こうありたいですね。
そんな首領が自ら煙草の火を点ける場面が『完結篇』にあります。信頼していた者が自分の思い通りの行動をしなかったと知った佐分利信は、憤怒の表情で煙草を口にします。子分たちが煙草に火を点けられないのも納得の恐ろしい顔です。
このように、心底腹が立ったら、煙草に火を点けずに噛みしめてください。どんなに頑張って怖い顔をしても、絶対に佐分利信以上の表情にはなれませんから、「佐分利信にくらべたら、自分の怒りなんてまだまださ」と気づき、ボルテージが下がって平常心に戻れるはず。

 

『日本の首領 完結篇』©東映


シーン13:『やくざ戦争 日本の首領』(’77)-喫煙所で差を付けよう

様々な“漢の喫煙法”を紹介してきましたが、今は令和。街中でも会社でも飲み屋でも東映実録やくざ映画全盛の昭和のように煙草を喫えません。そこで喫煙所や喫煙室で出来る喫い方をお薦めしましょう。『日本の首領』第一部での鶴田浩二の喫煙作法です。
鶴田浩二という大スターは肺がんで亡くなる最後の最後まで煙草を手放さなかった筋金入りの愛煙家。さまざまな映画で本当に美味しそうに煙草を味わっていました。煙草を吹かし、煙は口の中で充分に味わってから目を細めて、ゆっくりと吐き出す。惚れ惚れする喫い姿です。
『日本の首領』の喫い方を見てください。正しい煙草の喫い方のなんたるかが分かります。

『やくざ戦争 日本の首領』©東映

ポイントは口から離した煙草のフィルターを親指と人差し指で摘まんで、火を外側に向けること。
喫煙スペースで鶴田浩二の喫い方を完璧に行えば、「なんてカッコいい喫い方をする奴だ…」ときっと誰かに思われるはず。


担「こう見ると実にバリエーションがあるもんですね…コダマさんが一番好きな喫煙ポーズは?」
私「ふふふ。二つあるんやけど、実はこん中にはおまへんねん」
担「もう!早く教えてくださいよ」

【番外編】私の好きな喫煙ポーズ

シーン14:『脱獄広島殺人囚』(’74)の松方弘樹-ライターのガスが切れても絶対に諦めるな!

©東映 出典:amazon

煙草を喫いたいのに火がない。しかも周りには誰もいない-。
こんな時、あなたならどうしますか? 煙草を我慢する?
我らが松方弘樹はそんなことはしません。『脱獄広島殺人囚』(’74)で41年7か月という史上最長の懲役に抗い脱走を繰り返した男を演じた時のことです。彼は石で線路を叩き続けました。火花で煙草に火を点けようとしたのです。
そんなことしたって無駄だって? 誰もが不可能だと思うことに挑むことこそ男の道。何度捕まっても脱獄する松方の諦めの悪さ…いや不屈の精神がこのシーンに表れているのです。
私たちも見習おうではありませんか! ライターのガスが切れても松方を見習って親指を動かし続けましょう。

『脱獄広島殺人囚』©東映

劇中で松方は言っています。
「精神一到何事か成らざらん」
もし火が点いたら、一回り大きな人間になった証です。


シーン15:『鉄砲玉の美学』(’73)の渡瀬恒彦-こうやって名乗りたい

©東映 出典:amazon

“You Talkin’to Me?”
『タクシードライバー』(’76)ロバート・デ・ニーロは鏡に映る自分に言いました。公開以来、全世界の映画野郎たちがどれほど一人芝居を真似したでしょうか?
しかしデ・ニーロの数年前、愛すべき狂犬・渡瀬恒彦は既に鏡の中の自分に名乗りを挙げていたのです。それが『鉄砲玉の美学』(’73)。渡瀬が演じたのは抗争のきっかけ作りのために命を捨てる鉄砲玉。洒落た背広に身を包み、敵地に乗り込んだ彼は鏡の前で名乗りの練習を行います。いきがって名前を言う鉄砲玉。最初は様にならなかったものの、咥え煙草をすると見事に決まります。その時の狂犬・渡瀬の少年のような笑顔が最高過ぎるのです! 実はこれだけは実録やくざものではないですが、選んでしまいました。

『鉄砲玉の美学』©東映

もし結婚式などでめかし込むことがあったなら、渡瀬のように名乗りの練習をしてみてください。そして上手く決まったら、イノセントな笑みを浮かべながら、鏡の中の自分に「いけとるで」と言って〆るのを忘れずに!

日常を映画に変える方法

「あれ? 最後のふたつは映像を見せてくれないんですか?」
「この二本は最初から最後まで全部観て欲しいんですわ。大好きな作品ですから。どっちもDVDになってるし、サブスクにも入ってます」
「分かりました…で、話を聞いてて思ったんですけど、自分を映画の一場面に結びつけてマネしちゃうことって、誰もが無意識にやってる気がしますね」
「そう。それを私は“心のコスプレ”と呼んでるんですわ」
「…“心のコスプレ”?」
「世に言うコスプレというのは、コミケやハロウィンみたいな特別な時間と場所ですることやないですか。衣装を着なあかんし、良くも悪くも人の目が気になる。でも“心のコスプレ”はいつでもどこでもやれるし、自分がその気になればええ。本人だけがわかってることやから、恥ずかしくもなりません」
「それって自己満足ですよね?」
「自己満足で結構!!“結構大博覧会”ですわ!! 煙草を喫うなんて日常的なことが、映画の真似すれば“今の俺は●●になってるんだ”と思えて、映画の1シーンみたいに感じられる、楽しいやん? 今回は東映実録やくざ映画をテキストにしたけども、例えば生卵を呑むとするでしょ。それをただ呑むのと、“俺はロッキーや”と思って呑むのとでは全然違いますやんか」
「なるほど。(…生卵を呑むことなんかあるか?)」
「“心のコスプレ”はどんな時も人をポジティブにしてくれますねん。例えば船が沈没して、寒い海に投げ出されても“いま『タイタニック』のディカプリオみたい”と思えたら気が楽になりますよ」
「そんな逆境こないですけどね…」
「まぁ、担当さんもこれを機会に“心のコスプレ”を会得して、人生を豊かにしとくんなはれ」
「そうですね。じゃあ『県警対組織暴力』を“心のコスプレ”してみようかな」
「そら、よろし。せやったら川谷拓三から始めましょか?逃げられんようにしちゃるから」
「やめてぇぇ!」

 

『県警対組織暴力』©東映


▶いままでの「シガレット・バーン/映画的喫煙術」

著:小玉大輔(https://twitter.com/eigaoh2
扉絵:Tony Stella(https://twitter.com/studiotstella

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