人間の知的な活動を模したプログラム=人工知能(AI)。
その活用範囲はロボット・スマホ・スーパーのレジまでどんどん拡大・進化中、推論・判断・学習・対話・創作などを行うAIが日進月歩しているのは、ケムール読者のみなさまもご存じのとおりです。
しかし面白いのは、AIが進歩するごとに「人間」のあり方も変化していくこと。知性とは人間だけのものではないのか?AIの知性はいつか人間を上回ってしまうのか?そうなったら人間はAIを制御できるのか…?
そんな期待と不安を表すように、時代とともに移り変わってきたAIのイメージ。敵か、味方か? 道具か、生命か。楽しくてちょっと怖いAIの世界をガッツリ濃厚に楽しむなら映画やアニメですよね。
というわけで、ケムールではAI共作小説『失われた青を求めて』の1/27の再スタートにあたって、作者の高島雄哉氏(小説家+SF考証)監修のもと、AIと人間を考える映画・アニメ10作品+高島氏が制作に参加した2作品をピックアップしました。
① 『マトリックス』シリーズ
近未来、自立したAIが人類と戦争状態となったディストピアを描く。人間は機械の電力源としてポッドのなかで眠らされながら「現実=マトリックス」という夢を見続ける――。
第一作『マトリックス』から『リローデッド』『レボリューションズ』で徐々に明らかになり、また深まっていくナゾ。〈マトリックス〉とは、AIなのかVRなのか、敵なのか味方なのか、支配なのか欲望なのか。監督・ウォシャウスキー兄弟が惜しみないSFオタク知識を注ぎ込んだ怪作にして『AIという他者』を描き出す現代の古典。 最新作『レザレクションズ』は劇場で!
「マトリックス」1999年/136分
「マトリックス・リローデッド」2003年/138分
「マトリックス・レボリューションズ」2003年/129分
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★劇場公開中★
「マトリックス・レザレクションズ」2021年/148分
監督:ラナ・ウォシャウスキー 、リリー・ウォシャウスキー /アメリカ映画
② 2001年宇宙の旅
人工知能の代表格といえば、本作に登場する「HAL9000」。自然言語を介して人間とコミュニケーションを取り、地球からの指令のために乗組員たちを騙すことに葛藤する。そして徐々に人間の命令とは異なる判断を独自に下すように――。
生存本能と自我を持つ「新しい生命」としてのAIは、本作のテーマである巨大な宇宙的意思と接続していく。
宇宙船ディスカバリー号の機能全体を統率する統合システムであり、ロボットのような固定の姿を持った存在として描かれない点も、現代のAI像を予見していると言える超重要作品。
2001年宇宙の旅
スタンリー・キューブリック監督/1968年/142分/アメリカ・イギリス
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③ 月に囚われた男
〈HAL9000〉の悲劇への21世紀型の回答のひとつと言えるのが、本作に登場する宇宙船内のAIナビゲーター〈ガーティ〉。『2001年宇宙の旅』と同様、矛盾した命令を与えられたAIがいかに成長し人間とともに状況を乗り越えていくのかを、見事な”共感”と”学習”によって描く。ネタバレしたくないのでとりあえず観てください!
月に囚われた男
ダンカン・ジョーンズ監督/2009年/97分/イギリス・アメリカ
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④ 『ブレードランナー』シリーズ
短い寿命を設定され涙を流しながら反乱分子として処理される奴隷としてのAI=レプリカントの運命からは、人間の罪深さを感じざるを得ません。続編『ブレードランナー2049』はレプリカントの「記憶」と「繁殖」がテーマの、さらに深い話。
AI的視点で言えば、レプリカントは現在のAIに不可欠なハードとソフトの構造を持っておらず、それゆえ人間に非常に近い存在として描かれていることも時代を感じさせます。
「ブレードランナー」リドリー・スコット監督/1982年/116分/アメリカ・イギリス
「ブレードランナー 2049」 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/2017年/163分/アメリカ
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⑤ 『ターミネーター』シリーズ
AIが反乱を起こすかどうかは現実的に言って未知数ですが、それはさておきケムール的AI視点でオススメしたいのは2作目『ターミネーター2』。前作で宿敵だったシュワルツェネッガー演じる「T-800」の中身が、「2」では再プログラミングされてすっかり主人公の味方に入れ替わっている点は、AIの奉仕・犠牲を考えるうえで実にあざやかな設定でした。
「ターミネーター」 ジェームズ・キャメロン監督/1984年/108分/アメリカ
「ターミネーター2」 ジェームズ・キャメロン監督/1991年/137分/アメリカ
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★他にも派生作品が多数あります!
⑥ デッドリー・フレンド
監督のW・クレイヴンは「エルム街の悪夢」「スクリーム」など、いわゆるB級ホラーの名匠。「デッドリー・フレンド」も実にマッドなSFホラーです。しかし本作は現代だからこそ響きそうな大きな問いを含んでいます。
主人公の天才少年が、破壊されてしまった自分のロボットのコンピュータを、少年が恋していたが脳死してしまった少女に埋め込み、蘇らせようとする。さて蘇ったのは「ロボット」なのか「少女」なのか?――いや、色々とヤバいだろ!?という驚きの設定。知性・感情・意志の区別をテーマにした傑作です。
デッドリー・フレンド
ウェス・クレイヴン監督/1986年/91分/アメリカ
視聴方法=【DVD&Blu-ray】
⑦ メトロポリス
近未来、階級社会の転覆をもくろむ科学者が生み出した「アンドロイド・マリア」は、労働者を扇動して権力者階級への暴動を引き起こす。人工的に生み出されたアンドロイドが、その完璧な美によってまるで女神のように労働者を従えていくさまは、人間の愚かしさも同時に描いています。常に最先端技術を追求する映画産業において、その草創期からAIの脅威をテーマにしていることは極めて興味深い、っていうか凄すぎる…。
メトロポリス
フリッツ・ラング監督/1927年/104分/ドイツ
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⑧ アイの歌声を聴かせて
高校に転入してきたAI「シオン」と同級生たちが織りなす青春群像劇です。登場するAIたちは機能も知能も様々で、人間側のリアクションも人それぞれで極めてリアル。日常系AIのイメージを一気に最先端に刷新しました。ラストも感動的!
アイの歌声を聴かせて
吉浦康裕監督/2021年/108分/日本
視聴方法=★劇場公開中
⑨ 『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ
みなさまご存じ『エヴァ』の見どころは数あれど、AI的には、NERV本部にあるスパコン〈MAGIシステム〉に注目を。天才・赤城ナオコ博士の思考パターンを〈メルキオール=科学者〉〈バルタザール=母〉〈カスパー=女性〉の3つに分割した「人格移植OS」です。3つの異なる思考を持つAIが合議し、使徒殲滅作戦から第三新東京市の政策提言まで行うという、管理機能に特化した超ハイスぺAI。
AIは身体を持てるのか? 一人の心を3つのAIに分けることは可能なのか(三者の意見が決裂する場面もありましたよね)? などなど、SF度最高潮の美しいAI設定です。
『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ
庵野秀明 監督/日本
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⑩ ゼーガペイン 【高島氏・参加作品】
劇場版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』からTV版『涼宮ハルヒの憂鬱』の神回「エンドレスエイト」まで、「世界が同じ時間軸を繰り返す=ループもの」は、アニメーションで描かれ続けてきたテーマですが、『ゼーガペイン』ではループの裏付けを「量子コンピュータ」を用いて構築した仮想世界として描き出しました。データ化された人間=〈幻体〉や〈AI人格〉などの緻密な世界観設定で知られる、ゼロ年代最高のハードSFアニメーションのひとつです。高島氏がSF考証として参加した劇場版『ゼーガペインADP』はテレビリーズの総集編の性格を持ちつつ大きく設定をアップデートした10周年記念作品。
『エンタングル:ガール』は、ヒロイン守凪了子を主人公にしたスピンオフ小説。ただいま完全新作の姉妹編を鋭意執筆中!
「ゼーガペイン」 (TVシリーズ)2006年/日本
「ゼーガペインADP」 下田正美監督/2016年/117分/日本
小説「エンタングル:ガール」 著:高島雄哉 装画:あきづきりょう
視聴方法=【amazonプライム】【GYAO!】【DVD&Blu-ray】
⑪ 鋼の錬金術師
本作の〈錬金術〉は魔法のようでいて違う。近代科学とは別の〈科学〉である錬金術によって〈肉体〉と〈知性〉を作ることはできるのか!?「命」を求める人々の想いと欲望とは――。
すでにご覧の方なら説明不要の「魂の錬成」「合成獣(キメラ)」「人造人間(ホムンクルス)」「賢者の石」などのモチーフで描かれる〈命の創造〉と〈倫理〉のせめぎ合い。”等価交換の原則”が素晴らしい設定で、命を作り出すことは禁忌とされている世界観の重厚さ。現代のAIをめぐるテーマが満載です。
「鋼の錬金術師」(TVシリーズ)2003年、2009年/日本
「鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」 水島精二監督/2005年/105分/日本
「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」 村田和也監督/2011年/110分/日本
視聴方法=【amazonプライム】【U-NEXT】【DVD&Blu-ray】
⑫ ALTDEUS: Beyond Chronos(アルトデウス: BC)【高島氏・参加作品】
高島氏がシナリオライター+SF考証として参加した本作では、AIは仮想空間において実際にキャラクターの姿を持って存在し、プレイヤーと一人称で交流します。操作に使われる〈ARインターフェース〉もAI活用が不可欠な分野。 これからAI=人工知能はVR=仮想空間のなかで飛躍的に進化し、新しいドラマを生み出す重要な道具になっていくでしょう。 【公式サイト】
AIと人間の行方は?
【監修】高島雄哉(たかしま・ゆうや)
小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA