2月に入り相次ぐ大火
慌ただしい日が続いております、ネット炎上ウォッチャーのせこむです。
何が慌ただしいって? 前回の記事を更新してから、火力の高い炎上が相次ぎまして。炎上ウォッチャーとしてはいろいろ観測するのに忙しいことこの上ないわけです。別に無理にチェックする必要はないのかもしれませんが、一応「炎上ウォッチャー」たるもの、観測しておかないとという義務感が働きます。
いや、楽しんではいますけどね。
というわけで、景気よく燃え盛っている感のある直近の炎上がこちらです。
★の数は独断と偏見の炎上度合いバロメーターで、5つ星が満点です。
張り切ってどうぞ〜。
2022年1月後半〜2月前半の主な炎上
① 水泳・池江璃花子選手 自由形予選をバタフライで泳ぎ勝利するも物議 ★★★
参考:週刊実話web▶池江璃花子の“自由形バタフライ”に賛否!「いくらなんでも失礼…」② アニメ『プラネテス』をJAXA職員が批判、騒動に★★★★
参考:まいじつエンタ▶アニメ『プラネテス』批判が大騒動に! 原作者&元JAXA職員の謝罪で誰トク展開…③ YOASOBIのキービジュアルで知られるイラストレーター・古塔つみ氏、「他作家の作品のトレース」疑惑で大炎上 ★★★★★
参考:サイゾーウーマン▶“トレース疑惑”のイラストレーター・古塔つみ氏、謝罪後も批判続出! アート業界の現状を芸術大学教授に聞く④ 映画『大怪獣のあとしまつ』酷評 ★★★
参考:みんなでワイワイ盛り上がれるネタ集▶【炎上】映画「大怪獣のあとしまつ」が大不評! 邦キチ案件と話題
時系列に沿って4つピックアップしました。いつもより少なめですが、小物感のある炎上はあえて省いています。これだけ大物があれば充分でしょう。
①自由形でバタフライに関しては「自由を履き違えている」というコメントがネットニュースに引用されましたが、いやお前が履き違えてるのでは? と全力でツッコみたい気分です。「自由形」のルールを一度検索してみろと。
個人的に気になったのは②プラネテス。過去の作品の科学的な考証がデタラメだとか、そういうところが気になって仕方ない、面白くないとJAXA職員の方に酷評されたことに対し、作者の幸村誠氏が謝罪したことについて物議が醸されました。
ですが。実は幸村誠氏は「科学考証と事実」に関しては別に謝罪をしてないんですよね。あくまでも「作品として面白くないのであれば謝ります」というニュアンスの発言なのです。意外とそのあたりも誤解されたまま燃えてる気がしました。
④大怪獣のあとしまつ は……「三木聡監督の作品ってそういうものですよね?」。ただ、実は私が未見の作品でして、燃やすにしても作品を見ずにネタとして消費するのは性に合いませんので、今回はこのくらいで。
今回の「たいへんよくもえました」
というわけで、今回取り上げる炎上は、③古塔つみ氏・トレース疑惑でございます。超人気バンド・YOASOBIのキービジュアルなどを手掛けるなどしてここ2年ほどで一気に人気を博したイラストレーター・古塔つみ氏の作品が、写真などを無断でトレースする(上からなぞる)いわゆる「トレパク」ではないかと炎上している件。
経緯を簡単に整理しますと、
■1月28日
youtuberコレコレ氏の「コレコレ生放送」にてトレース疑惑が放送される。
次々と作品のトレース元画像が発掘され、SNSと5chを中心に祭り状態に
■2月2日
古塔氏がデザインした商品を販売していた雑貨メーカー「マークス」が氏のイラストを使用した商品を販売停止(現在は復活)
■2月3日 午前0時
2018年に写真作品をトレパクされたという作家が当時のやりとりをTwitterに投下、元ネタ表記も断った挙げ句作品は全削除、やりとりも見られたくないから削除してくれと頼まれていたことがわかり火力増大
■同日・午後4時
古塔氏がTwitter上で謝罪文を掲載。「写真そのものをトレースしたことはない」、「引用・オマージュ・再構築である」との内容に批判が集まり鎮火失敗
参考;Twitter▶古塔氏の謝罪文(参考リンク切れ)
■2月5日
再びコレコレ氏配信。古塔氏が関連取引先企業に対し「ネット上の憶測には惑わされないようにお気を付けください」と注意喚起していたことが関係者によって暴露、いよいよ大火となる
参考:The Audience▶古塔つみ「偽物に騙されないで」コラボ企業へ注意喚起も…強烈な裏切りにあっていた
2月8日現在、5chの芸スポ+では2月3日から立ち始めた関連スレッドが最大91まで伸びるなど、久々の大規模火災の様相を呈しております。芸スポ+ではスレ数で炎上度合いが図れるのですが、直近96時間内に立ったスレ数では歴代ベスト20に入る大火力です。
炎上ウオッチャーの意見
――本当に、たいへんよくもえました。(現在進行形ですが)
古塔氏のアイコンは若い女性の顔イラストなのですが、実は女性ではなく50代男性であるとの疑惑も出ており、そのパブリックイメージの「利用」も、ますます火に油を注いでいます。が、こうした周辺火災は置いておき、ここからは問題の中心である「トレースと炎上」という点に絞って考察したいと思います。
これは往年のネットウォッチャーの方なら誰もがご存知だと思いますが、他作家の作品をなぞる(トレース)したものを加工し、自分の絵として発表する一種の盗用(パクリ)、いわゆる「トレパク」案件は、まず間違いなく燃えます。著作権侵害に関する炎上のなかでも「トレパク」は特に火力が強い傾向があるのです。
もともと絵画・イラスト・マンガなどは写真作品を「参考」にすることが多く、著作権侵害訴訟なども多々起こってきましたが、近年インターネットの普及によってますます影響が大きくなっています。盗用を暴くためにネット上の画像・情報を検索しまくるユーザー=「検証班」が登場し、元ネタの画像がすぐに集まってきちゃうのですよね……。
ネットの普及によって発覚した権利侵害事件といえば、漫画家・末次由紀氏の件でしょうか。検証サイトができるほどの大きな問題になりました。
©講談社
末次氏は事件を受けてきちんと謝罪&活動を自粛し、その後、代表作『ちはやふる』で見事な復活を遂げたという点も含め、いろいろと教訓の多い事件でした。
ですが。
そのうえで、私は「トレパク」が燃えやすいのは別の理由があると考えているんですよね。つまり、著作権侵害という犯罪を批判し、法の下に権利者を守りたいという気持ちではなく――、「トレース」という“楽”な方法を使って「評価されている」のが「ズルい」と思ってしまう。この「こいつズルいな」という感情こそが最大の燃料だと思っています。
実際、今回の件含め、完全に法的にアウトなトレースなのか、著作権の侵害として裁判所がどういう判断を下すのかというところまで考えて燃やしている人はほとんどいないはず。
ただ、「ズル」だから燃えているのです。
教訓:「ズル」は全てを燃やす
過去にあった類似の炎上で比較しますと。
2019年、モデルであり銭湯絵師見習いとして活動していたアーティスト・勝海麻衣さんがイベントで描いたライブペインティングが既存作品の無断使用だったことがわかり、大炎上となりました。
参考:ABEMA TIMES▶「著作権の認識が薄く、想像力が働いていなかった」炎上した元銭湯絵師見習い・勝海麻衣さんと考える“パクリ”問題
彼女の場合は他の作品にも「盗用ではないか」という疑惑があり炎上に拍車がかかりましたが、よく考えれば駆け出しの新人画家がここまで燃えるのは異例なことです。ではなぜ炎上したのかというと、彼女はモデルとしても活動するような容姿に恵まれていたこと、おそらく家庭環境も裕福であったこと、武蔵野美術大から東京藝術大学の大学院に行く、というネット民が揶揄するところの「学歴ロンダリング」にあてはまるなど、「ズルい」と判断されやすい要素が揃っていました。
ちなみに5chスレを見ていると「銭湯絵師として利権を独り占めしようと云々」という壮大な陰謀論を掲げてた人が多かったのは笑いましたが。ないってばそんな利権。
ある作品が「模写」なのか「トレース」なのか、「引用」や「オマージュ」なのか。これはアート界でも山のように訴訟や事件が起きているわけで、ちょっとネットニュースを見た程度の人が判断できるものではないでしょう。
それでもこの手の指摘を(特に著作権者から)受けた場合、速攻で真摯に対応しておいたほうがいいのがこのご時世だということを教訓としたいですね。
「ズルい」という感情と衝動に論理は通用しないのがきわめて厄介です。ほんの少しでも「ズルい」という要素を匂わせた途端に是非を問わずキャンセルカルチャーが発動するので、その防御のために、という思いが大きいですね。
そうした意味で、今回の古塔氏の対応は、「悪手中の悪手」と言えるでしょう。創作活動を志す人はぜひ、これを他山の石としてほしいと思っています。
文・せこむ
- マネー
- たいへんよくもえました, トレパク, 炎上