『セクシー田中さん』問題から見る原作者・出版社・テレビ局・脚本家の関係【2月のSNS炎上ニュース】〜たいへんよくもえました

みなさんこんにちは、炎上ウォッチャーのせこむです。

さすがの炎上ウォッチャーも、やりきれない事態とニュースが続きます。

え?何のことかって?ドラマ『セクシー田中さん』を巡る一連の騒動です。

まず最初に、芦原妃名子先生のご冥福をお祈りいたします。

そして、こんな悲劇は二度と起こしてはならない。

全ての「ものづくり」に関わる人のためにも、この事態が起こってしまった構造と流れを知って未来に活かしてほしい……今回の「たいへんよくもえました」、非常に重めとなっております。

これまでの経緯

まずは、メインの騒動の流れを確認しておきましょう。実は意外と報道では、この当初の経緯を、特に12月のInstagramでの投稿をすっ飛ばしているものが多いのです。

2023年10月22日〜 ドラマ『セクシー田中さん』、日本テレビにて毎週日曜日の22時30分から放送開始。

2023年12月24日 ドラマ『セクシー田中さん』最終回。この日、脚本家の相沢友子がInstagramを更新、「最終の2話は原作者が書いた」等コメントする。

2024年1月26日 原作者 芦原妃名子がブログとXでドラマ化に至るまでどういう経緯があったかを長文で発表。

2024年1月28日 芦原妃名子、投稿を削除。

2024年1月29日 栃木県内で芦原妃名子の遺体が見つかったと報じられる。遺書らしきものは残されていたとのことだが内容は公表されず。

Instagramと原作者コメントの内容について

では、発端となった脚本家のInstagram投稿と、それに対応した原作者の投稿は何を書いていたのか?

現在は双方ともに見ることができないので(相沢氏側は鍵垢に、芦原氏のものは削除)あくまでもこちらでまとめたものですが……

【相沢友子氏のInstagram内容】
・最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、残念ながら急遽協力という形で関わることになった。
・(その投稿へのコメントを受けて)自分が脚本を書いたのは1〜8話、最終的に9・10話を書いたのは原作者。
・今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものだった。
・この苦い経験を次に生かしたい。
・今後同じことが二度と繰り返されませんように。
【芦原妃名子氏の投稿内容】
・この投稿はあらためて時系列を小学館と確認し、小学館も了承の上で書いている。
・ドラマ放送が終了するまで脚本家とは一度も会っていない。
・ドラマ化の話をもらい、プロットや脚本をチェックしながら最終的に同意したのは6月上旬。
・ドラマ化にあたっては「必ず漫画に忠実に」を条件にしていた。
・漫画が完結していない以上、終盤のドラマオリジナルの展開も「原作者があらすじからセリフまで」用意する、原作者が用意したものは原則変更しないという条件を出していた。
・しかし、毎回大幅に改変されたプロットや脚本が提出されていた。1〜7話は粘りに粘って原作者が加筆修正したもの。
・窓口はプロデューサーの方々のみ。脚本家や監督、ドラマ化スタッフにどう伝えていたかは知るすべがない。核となるベリーダンス表現も間違いが多かった。
・小学館サイドからは日テレに何度も申し入れをしたが大幅な改変プロット・脚本の提出は止まらなかった。
・脚本家交代を申し入れていたが聞いてもらえず、時間的な限界もあり、9・10話は自分が書くことに。
・慣れないドラマ脚本執筆で力不足が露呈することになり反省仕切り。心よりお詫びを申し上げます。

これらの内容を消した後、最後の投稿がこちらです。

この投稿のあと、主に何が起こったか?

芦原先生の投稿後、Xを中心とするSNS上では大きな議論と「炎上」が起こります。

そしてそれは、芦原先生の自殺という最悪のケースでさらに加熱することに。起こった反応を大きく分類すると

①脚本家叩き……26日の声明発表後、「原作者の芦原先生の心労は、脚本家がそもそもInstagramで原作者を一方的に攻撃したせいだ」「原作者の意向を無視したドラマ制作はおかしい」というネット世論が加熱。特にInstagramで「原作者〝の方〟」など敬称をつけない、『セクシー田中さん』関連のポストのハッシュタグに「芦原妃名子」の名前を入れていないなど、「原作者へのリスペクトがない」「原作ありきで仕事しているくせに最初に原作者にケンカを売ったのが悪い」という論調が目立つように。ここに相沢友子の過去作品を挙げ「原作クラッシャー」と揶揄、攻撃する声も加熱していく(後述)

②脚本家叩き、スタッフ叩きの加熱……そこに「原作者の自殺」という最も起きてはいけないことが起きてしまった。もともとファンの多い作品だったこと、原作はまだ完結しておらず続きが読めなかったファンの悲しみの声もあり、脚本家やスタッフ叩きが加熱。

③訃報への日テレのコメントが火に油を注ぐ……テレビ局の責任を問う声もSNSで挙がっている中、原作者訃報後にドラマの公式サイトで出した日テレのコメントがこちら。

「芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。2023年10月期の日曜ドラマ『セクシー田中さん』につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております」

このコメントを読み、「訃報への第一報がこれ……?」と怒り、困惑する人が続出。「ひどすぎる」と騒動がさらに加熱してしまうことに。

④「脚本家」という立場の炎上……原作者の訃報後、脚本家への攻撃が加速すると予測した映像関係者たちから「脚本家攻撃は良くない」というコメントが相次ぐ。しかし、先のInstagramの経緯があまりにもインパクトが強かったため、「先にSNSで攻撃したのは脚本家。叩かれるのは自業自得」と相沢友子を叩く言説はさらに加速。

なぜこんなに炎上した?

①そもそも「原作者・出版社・テレビ局・脚本家」の関係は?

この件が「原作者の自殺」という悲劇はあったとはいえ、なんでここまで〝炎上〟という形になったのか。

皆さん意外と誤解している気がしますが、「センセーショナルな出来事」が起こっただけでは「炎上」はしません。

「言及せざるをえないほど義憤に駆られる状況」や「立場の違いや誤解が怒りを増幅する」ケースで、初めて炎は上がるのです。

今回、なぜこんなにも火力が強かったかを1つずつ読み解いてみましょう。

まずは、出版社とテレビ局、漫画家と脚本家というそれぞれの関係を誤解している人が多かったのが一因ではないでしょうか?
ざっくりと関係性を説明すると、こうなります。

・漫画家や小説家などの原作者は、出版社に「出版権」という「著作を出版する権利」を付与。著作権自体は原作者にあるものの、大半の場合は出版社が「著作権の管理をすることができる」契約も結んでいる。

・そのため、テレビ局や映画会社はまず出版社とドラマ化、映像化の相談をする。出版社は原作者とテレビ局の間に立つ「窓口・交渉役」となる

・ドラマ化のOKが出たら、テレビ局は脚本家に脚本を依頼する。あまり知られていないのが、ドラマスタッフはほとんど変わることはないが、脚本家交代はよくある話。つまり脚本家は弱い立場であり、よほどの大御所作家でない限り、どれだけ自分の意向を通そうとしてもテレビ局側の人間、プロデューサー等がOKと言わないと通らない。

・原作者が「思ってたのと違うようになるなら映像化は断りたい」と思っても、ほとんどの出版社は「漫画家側に映像化OKを言わせたい」が本音。なぜなら、どんなに原作が改変されようがマンガが映像化になると「原作は売れる」から。そのため、担当編集レベルでは漫画家の味方になって抵抗しても、大手出版社の場合はその上層部やメディア事業部が圧力をかけることも。編集者も会社員ゆえ、原作者の説得に動かざるを得ないという場合が少なくない。

つまり、大きな原因はおそらく「出版社とテレビ局のやりとり」にあり、脚本家には権限がないのです。

それを察している人たちは脚本家たたきをしている人たちを諫めるものの、Instagramの一件があったため「だって脚本家もリスペクトがないのは事実」と大義名分を与えることに。泥仕合の様相となったのです。

②水面下の『不満』が爆発した

炎上のスタイルとして、「もともと不満が溜まっていたところになにかの火種が投下され、それらが延焼に延焼を繰り返す」という形のものが近年多くなっています。

今回も、いわゆる「メディアミックス」で出来上がった作品に関して不満を持っていた人たちが便乗してさまざまな意見を延べたことで、全体としてこの件に言及する人たちが増える……という結果に。

・過去の相沢友子脚本作品において、『ビブリア古書店の事件手帖』での剛力彩芽キャスティングや『ミステリと言う勿れ』での女性刑事の立場の改変など、原作ファンが不満に思っているドラマ作品の「改悪」が相次いでいた。特に『ミステリと言う勿れ』は比較的近年の作品であり怒りの記憶が新しいところにこの事件が起こった。

・漫画家、脚本家双方ともに「自分の関わってきた仕事や立場に対する不満」は溜まっていた。特に漫画家がメディアミックスをめぐりひどい目に合うケースが多く(詳しくは後述)、そういった「漫画家自身の怒り」がネット上に山程吹き出してくる状況が勃発した。

この「実は目に見えないところで被害者が多かった」事件は「ジャニーズ性加害報道」や、前回の「松本人志性加害報道」などもそうですね。

今後、こういうケースはもっと増えるんだろうなという気がしています。

③「場外乱闘」が火に油をそそいでいる

今回の件、責任として「脚本家」を責めるのは筋違いではあると思うのですが、あまりにも加熱する脚本家叩きのせいか関係者がとってしまった行動がさらに火に油を注いだり、また原作者サイドであるはずの小学館側の対応も疑問が多く、これらをめぐり「場外乱闘」的な炎上が更に続いているという地獄の様相です。

・1月29日に日本シナリオ協会が「【密談.特別編】緊急対談:原作者と脚本家はどう共存できるのか編」という動画を公開。脚本家の伴一彦氏と黒沢久子がこの動画で語っていた内容の中に「原作者に会いたくない」など、そもそも脚本家を敵視する人たちの神経を逆なでするような発言が多数あり、テキスト書き起こしがXで拡散され物議に。これを受け、同協会は「出演者・関係者への誹謗中傷や脅迫が相次いだため」という理由で、2日までに動画を削除。しかしこの削除の理由や、早々に削除したことがさらに憶測を呼び、そもそもこの対談を出すべきだったのかどうかというところも含めて炎上が続く。

・小学館は6日に社員向けの説明会を開くも、経緯についてなど社外発信をする予定がないと報じる記事が報道される。この報道を受け、多くの漫画家たちが怒りと嘆きのポストを投稿する状況に。また、現場の編集者は納得していないという声も。

参考:小学館の「社外発信の予定無し」を受けて漫画家さんやクリエイター、編集者の皆さんの嘆き

映像化を巡るトラブル、これまでどんなことが事が起きてきた?

今回の件の報道やポストの中で、過去のメディアミックスにおける悲惨な事例……主に原作者と映像化や出版社サイドの揉め事なども再度注目されるという結果に。

・佐藤秀峰『海猿』……伊藤英明の主演で大ヒットしたドラマ・映画『海猿』に関し、原作者無視の製作やアポ無し取材、連絡・許諾なしの関連書籍発売などが相次ぎ、映像に関する許諾を一切出さないことを決意。
参考:佐藤秀峰note『死ぬほどイヤでした』

・辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』訴訟……NHKが辻村深月の小説『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』をドラマ化したいと講談社と交渉するも、改変された脚本の内容に辻村氏が異議を唱え、撮影直前にドラマ化が白紙に。NHK側は損害賠償を講談社に求めたが敗訴。
参考:【NHKが講談社に敗訴】「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」ドラマ化白紙訴訟は氷山の一角か

・『おせん』改変騒動……今回の『セクシー田中さん』プロデューサー・三鴨絵里子氏が関わっている件。ドラマ化のクオリティと内容の変更にショックを受け、作者が連載を休載に
参考:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

・『しろくまカフェ』騒動……2012年に放送されたアニメ『しろくまカフェ』に関し、原作者のヒガアロハ氏がアニメ化に意見出来ない状況に対する不満をSNS上で投下、後日原作の無期限休載を発表。正式な契約がないまま企画がスタートしていたことやアニメ制作会社との間に入っていた編集担当が原作者の確認なしに進めていたことが明らかになる。
こちらのポストは、後述の『城塚翡翠』シリーズの相沢沙呼氏のポストに反応したもの。

主なものを4つ挙げましたが、ここで紹介したのは今回に関連して言及された「あくまでも大きなものだけ」です。

メディアミックスというものは慎重に行わないといかに難しいか、がよくわかっていただけたかと思います。

ちなみに、これまでも芦原妃名子作品は映像化されており、2007年にはTBSで『砂時計』が、2012年には日本テレビで『Piece』という2作がドラマ化されています。

特に『砂時計』はいわゆる「昼ドラ」枠で全60話という大長編だったこと、原作ファンのみならずこのドラマ化で原作を知った人たちも多く、今回の訃報で『砂時計』を挙げる往年のファンも数多く見られました。

芦原氏もコミックスにドラマ撮影現場のレポートを掲載するなど関係は非常に良好だった模様。

しかし、そういった経験があったからこそ「映像化に際し非常に厳しい条件」を最初につけていた。

それがテレビ局サイドから無視をされたことが、心労となってしまったことは想像に難くないでしょう。

こういった炎上を防ぐためにはどうしたらいい?

「関係者の死」という最悪の事態がなくても、そもそも起こっていた今回の炎上。

どうしたらこのような状況が防げるのでしょうか……?いくつか、炎上ウォッチャーなりの見解をまとめてみました。

・「メディアミックス」に関わる人達はもう少し丁寧に物事を進めよう……今回の件、非常に進行がタイトなテレビドラマ撮影の現場で見切り発車でスタートしてしまい、「早く脚本にOKを出せ」というプレッシャーが一因となったのは事実でしょう。しかし、それはテレビ局側の論理。テレビ局は「まあどうせOKを出すか」とたかをくくらず、出版社も無理に漫画家を丸め込まず、NOというときはNOという。前述の『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』訴訟という前例もあるのですから。

・漫画家はエージェントを持つなど法的知識と自衛を……今回の件に関し、もともと漫画家側にも出版社との間に入り自作の権利を守ってくれる「エージェント」が必要なのでは……という論が活発になってきています。正直、出版社としてはこの動きは嫌がる人が多いのではと思うのですが、抗えない時流と言えるでしょう。

・テレビ局は「原作者が脚本を担当する」ケースを二度と作ってはいけないのでは?……実はこの日テレの日曜22時30分枠では、2022年に放送された『城塚翡翠』シリーズでも原作者・相沢沙呼氏が最終的に脚本に協力する事態を引き起こしています。この件がどんなに不本意な状況だったかは当人のポストを辿っていただきたいのですが……しかし、今回の『セクシー田中さん』はどんなに時間がなくても「脚本は脚本家が担うべき」という原則を崩すべきではなかった、そうすれば今回の件でも9話・10話の不評は芦原先生の責任にはならず、ドラマの出来にまで芦原先生が自分を追い込むことにはならなかったのではと思うのです。

・「水面下の火種」はなるべく自浄を……こういった「解消されていない問題がガソリンになる」ケースは今後も色んなジャンルで多発する予感がします。ある意味、炎上とともに膿が出されていく時代だと言えるでしょう。でも今回のような犠牲を伴う形はなるべく避けたい。そのためにも、自浄できるところはなるべく自浄しておく、というのが自分たちの身と心を守る方法だと主思うのです。

まだまだ悲しみとともに焼け野原が広がっていく今回の炎上。今後の展開を少し絶望的な思いで眺めているせこむなのでした。

あわせて読みたい