みなさんこんにちは。炎上ウォッチャーのせこむです。
ネット上の炎上ニュースを野次馬としてチェックし続けたこの連載がちょっぴりリニューアル! その炎上の背景や理由を、わかりやすく解説する内容へとアップデートいたします。
目指すは「炎上界の池上彰」。このキャッチフレーズ、怒られそうな気もしますが気にしない!
というわけで、今回取り上げるのはこの炎上。
これは新宿のとある居酒屋の看板らしいのですが、この圧倒的な煽りマインドが敏感に嗅ぎつけられ、日本のみならず海を超えた炎上を巻き起こしてしまったのでした。
「福島第一原発の処理水海洋放出に関して看板に書いた新宿の居酒屋が、中国人配信者によって炎上させられてしまった件」、この背景をじっくり解説していこうと思います。
簡単な経緯まとめ
参考:<処理水放出>『中国人へ 当店の食材は全て福島産です』と看板に書いて炎上した飲食店店主が「ジョークだった」と心情を告白。一方、日本在住の中国人からは「普通に魚食べてます」の声も
ちなみに居酒屋側としては割とこういった「煽りにとれるようなジョーク」を看板に書いていた店ということもあり、「いつもの感覚で書いたら思った以上に騒動になってしまった」という状況のよう。
一応、一件落着したかのように見える今回の件。
しかし、ある意味「異なる国籍者同士の争い」として一触即発間近にも見えたこの状況は、なぜ起こってしまったのでしょうか?というかそもそもなぜ電凸は起こったのでしょうか?
今回はこの「炎上の背景」を解説します。
なぜ中国で処理水問題がこんなに広まったのか?
①処理水放出に関して、そもそも中国では虚偽の情報が拡散されている
②中国SNSの状況が日本にわかりづらく対策が取りにくい
③中国国内の人気SNSアカウントが虚偽情報拡散のキーマン
④中国における若者の「生配信ブーム」文化
⑤「反日」ニュースが中国社会では「必要とされる」
以上、今回の炎上を読み解くにはこの5つの背景を理解しておく必要があります。1つずつ確認してみましょう。
まず、この居酒屋がこんな看板を出すに至った理由には、中国人による「電凸」被害があります。
日本国内でも処理水放出に関しては賛否が分かれていますが、中国における伝わり方は日本とはまったく異なるもの。
なぜなら、処理水に対し「科学的に全く正しくない情報、むしろデマ」が拡散されているからです。そのため、この情報を鵜呑みにしてしまっている中国人は日本人が思うより多いと思われます。
参考:処理水放出“福島で黒い水”“魚が突然変異”“イワシ多量死”…中国SNSで偽情報拡散
SNSにおいて海外で日本に関するデマが拡散されると、意外とすぐに日本人が英語や現地語等で訂正したりするもの。
しかし、中国だとそうはいきません。
中国社会においてSNSは日本同様もはや不可欠なものですが、日本や他国と大きく違うのは基本的にインターネットが規制されている国だということ。X(Twitter)やFacebook、Instagram、GoogleなどのGAFAのものは(通常の状態では)利用できません。
そのため、中国のSNSの状況はごく一部の外国人しかわからないし、中国の人たちも他国の「正しい情報」にふれる機会が少ない。
当然、デマは訂正されずに拡散され続けます。
参考:グレートファイアウォール(金盾)とは?世界最高峰のセキュリティを誇る中国の壁
いわゆる「インフルエンサー」が情報発信の鍵を握るのは世界中のSNSで共通かと思われますが、中国においてはこれを「国」がコントロールしているという特殊な状況があります。
「国にとって不都合な情報は消されるし、都合の良い情報は消されない」ということ。
では今回、処理水放出に関するデマは電凸の動画などが消されなかったのはなぜか?……はい、そういうことです。
こちらのポストを見ていただきたい。
日本でも着々と成長しつつある「生配信者=ライバー」市場ですが、中国におけるそれはちょっと事情とケタが違うというのがこれを見たらお察しいただけるかと思います。
ポストにもあるように、人口14億人の市場なので0.1%としても140万人にリーチ、そうなるとビジネスとして普通に成立する収入になるしチャンスとして飛びつく若者が多いのも致し方ない状況。
この背景には、2023年4月には16〜24歳の若者の失業率がなんと20%を超えたという非常に深刻な社会状況があります。
全年齢での雇用は改善傾向とのことですが、若年層においては「格差社会」が拡大しつつある。その状況が、ライバーとなって一発逆転を狙う若者たちの増加を産んでいるのです。
となると、日本への「電凸動画」が当たればそれを真似する人たちが続出するのも当然。日本人とは動画配信者の母数が違いますから、大変な数の被害が起きてしまった。
ですが、その動画自体を日本人たちはなかなか見ることができなかった……それゆえ、凸が起きたときに怒りというより日本人には「意図がわからない」という困惑が広がっていったのだと思います。
新型コロナウィルスの流行における経済の打撃、上記の経済格差の状況など、中国における国内状況は非常に厳しいものがあります。そうなると、中国当局としては国民への「ガス抜き」がしたいところ。
そこでターゲットとされたのが日本。要は「反日運動」は中国政府が必要としているものであり、だからこそデマや電凸動画もわざと消さずに拡散したのでは……と言われています。
また、反日的な言動をすることで「愛国心」パフォーマンスにもなり、国からはそういうアカウントだと認識されることでメリットも大きい。
なぜ「処理水放出」が問題なのか?
ここで、「というか、なんでそんなに『処理水放出』で騒いでるの?」という疑問を持っている人もいるかもしれません。
今さら恥ずかしくて聞けない、そんな人も実はいるんじゃないでしょうか? そこで、現状の「処理水放出問題」をまとめてみます。
東日本大震災で発生した福島第一原発の事故は皆様御存知だと思いますが、原子炉自体は地震の直後に停止しても、膨大な熱を発生する核燃料を冷やすための設備および電源が津波によって喪失。加熱によって溶けた燃料等が冷えて固まったものを「燃料デブリ」と言います。
この燃料デブリは常に冷却しておく必要があるのですが、冷却するとその水が放射性物質を含んでしまう。これが「処理水」で、廃棄するわけにもいかず1000基を超えるタンクで保管されてきました。
しかし 東京電力によると「タンク容量の限界が迫り、廃炉作業の支障となるために処理する必要がある」とのこと。そのために今回の状況が発生したのでした。
©metichannel・【ALPS処理水って何?】みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと
もっと知りたい人は、この辺のWEBページを参照。
実は海洋放出以外にも、大気中に帰化させる「水蒸気放出」や、コンクリート固化という方法も検討されたとのことですが、前者は蒸気中の放射性物質のモニタリングが難しい、後者は今度は固めたあとのコンクリートが膨大になってしまうため難しい、という理由で却下。
実は世界中の数多くの原子力施設でも、放射性物質の濃度が基準を満たすよう希釈した上で処理水の海洋放出が実施されていることから、海洋放出を選択した……という経緯があるようです。
©metichannel・【海洋放出しても大丈夫?】みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと
参考:経済産業省 みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと
海流はトリチウムの広がり方を予測しやすいため、モニタリングが比較的容易とのこと。きちんと希釈した上で、魚介類にも影響はない……という話ではありますが、さまざまな物質が魚等に溜まっていく「生物濃縮」が行われるかどうかに関しては、実は諸説あるのですが……それを理解するには、「トリチウムとは何?」を理解する必要があります。
通常の水は水素2つに酸素1つの「H2O」なのに対し、トリチウム水は「HTO」。通常の水素が1つ、酸素が1つ、そして「T」、トリチウムが1つ結合しています。
平たく言うと「水分子に近い」存在のため、水から取り除くことが難しい。私達人間の体内にも微量が存在しているようです。
つまり、「水と同じようなものなので魚等の体内には貯まらない」というのが一般的な考え方。人間の体でも、水分は常に循環していますしね。
©metichannel・【近海でとれた魚は大丈夫?】みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと
ただし、これはあくまでも簡単な考え方。
実はNature誌では安全説とリスクはある説を両論併記していたなど、自然科学クラスタを中心にここはSNS上でも議論が行われているところ。社会学者の宮台真司氏が生物濃縮説を発言し、こちらも炎上となりました。
参考:高橋洋一氏 宮台真司氏に「ド文の社会学者だからなあ」処理水のトリチウムの生体濃縮する?しない?ネット上で論争
福島県を中心とした漁業関係者からは処理水放出の差し止め要望が出ています。
福島第一原発の事故による放射能汚染と風評被害で打撃を受けた漁業関係者たちの気持ちもわかるといえばわかるところ……。
そのあたりの説明や保証に関する話し合いが十分だったのか? というのも今回ツッコまれているところです。
ちなみに国は、もともと風評被害対策に用意しておいた800億円の基金をこれに当てる予定とのこと。800億!!
そのあたりの金額も、いわゆる世論として風当たりが強くなっているところ。
結局、処理水って問題があるの?
とりあえず国が発表している基準値などの情報やデータが本当なら、科学的には問題がないとされているわけで、処理水に関しては一旦気にしなくてもいいんじゃないかというのが私、せこむの意見になります。
そもそも、基準値を超えたら有害になるのはアルコールやカフェインも同じなわけで、トリチウムに限った話ではありません。
ということで、これからも魚を気にせずに食べていきますし、なんならサーフィンでもしようかと思います。
中国、この炎上にいっちょかみする必要あった?
さて、話を戻しましょう。前述の通り、処理水放出については中国だけでなく日本国内でもいろいろ物議を醸している昨今。
そもそもこの処理水問題は中国にそこまで影響があることなのか?という根本的な疑問が残ります。
面しているのは日本海ですからね。そもそも沿岸の都市もごく一部ですし。
上海や香港など大都市において日本産の魚が高級魚として輸出されている現実はありますが、福島、宮城、それに東京など10の都県からの輸入を停止していますし、消費の大部分を担うほどの存在かと言われると……。
2021年に中国の原発から放出された排水に含まれる放射性物質トリチウムの量が、17カ所中13カ所で今回放出予定の処理水のトリチウム濃度上限を超えていたとのこと。
参考:中国の複数原発がトリチウム放出、福島「処理水」の最大6.5倍…周辺国に説明なしか
まとめ
……要は、科学的に安全かどうか、人体に影響はあるのか、海洋放出した際に魚等にどのくらい影響があるのか……こういった「科学的議論」は、今回の中国からの電凸や配信動画拡散をする動機には全く関係がないのが厄介なところ。
処理水放出は中国に外交カードとして使われ、そして中国国内のガス抜きにも利用された。これが大筋の見方であると思います。
というわけで。「中国人たちの電凸で迷惑している」というニュースだけが拡散、ネット上でもそれについて吹き上がる人たちが多い昨今ですが、こういった背景を知ると「なぜ電凸が起こったか」に関して少し理解できるのではないでしょうか?まあ迷惑なのは迷惑なんですけど……。
これは本当に個人的な推測なのですが、今後同じような「反日感情を利用する」状況が起きた時にはまた同様の「電凸動画ブーム」が起きる可能性があると思います。
そうならないよう日中関係の友好と、そして万が一に備えて心の準備が必要かもな、と思った今回の出来事でした。
VOICEVOX:ずんだもん
せこむ
生粋の炎上ウォッチャー。「三度の飯よりネット上の揉め事とゴシップ」を自称。火のないところに煙は立たぬ、立つ煙を見る人だかりにはせこむあり。