一般の方にとって「金融取引」というモノは政府か何かに管理された公的なもので、大きなミスだとか間違いが起きたりしないもののようなイメージがあるのではないでしょうか。近代金融市場は巨大化、システム化が進んではいますが、そこはどうしても人のなせる業なので、たまーに天才的な閃きでシステムの穴を突かれたり、運用者の凡ミスから大変な事件を巻き起こしてしまうこともあるものです。今回は金融市場で起きた歴史的事件をいくつかご紹介します。
ジェイコム株大量誤発注事件
2005年(平成17年)12月8日午前9時27分56秒、東証マザーズ市場に新規上場された総合人材サービス会社ジェイコムの株式(発行済み株式数14,500株)において、みずほ証券の担当者が「61万円1株売り」とすべき注文を「1円61万株売り」とコンピュータに誤入力。
ジェイコム株はこの注文が出る直前まで90万円前後で推移していたが、1円での大量の売り注文を受けて初値67.2万円がついた。その後、株価は急落し、9時30分にはストップ安57.2万円に。
ネット掲示板ではこの急落について「誤発注」と書き込みがあったことから、この書き込みを見て大量の買い注文を入れた投資家がいた一方、株価の急落に慌てた投資家の中に安値で売りに出すなどして市場は大きく混乱した。
みずほ証券側はすぐに誤発注に気づいたが、東証側のシステムにバグがあったため3回の取り消し注文が受け付けられなかったため、全発注量を反対売買による買い戻しを決定。
反対売買によって全注文が執行し株価は上昇。9時43分には一時ストップ高77.2万円に。
なお、反対売買によって相殺することができず、すでに注文を出されていた9万6,236株の買い注文については売買が成立していました。
発行済み株式数14,500株に対して、売買が成立していた9万6,236株であることから、みずほ証券は存在する総株式数の6.6倍の引渡しを求められることに。
日本証券クリアリング機構は現金による強制決済と裁定し、みずほ証券は一株91.2万円で買い戻しを迫られた。この買い戻しでみずほ証券が負った損失は407億円。逆に、9万6,236株を取得していた人は大儲けすることに。投資家のB・N・Fは、7,100株を誤発注の間に取得し、1,100株を当日売却。残りの6,000株はみずほ証券から現金決済を受けて20億円以上を受け取った。
トレーダーの中には、誤発注による大幅下落に混乱し売ってしまう人もいたが、1円61万株売りというのは誤発注の可能性が高いと冷静に考えれば分かります。
そして冷静に判断できた人が、大儲けをしています。このような機会は今後ほとんどないでしょうが、市場を見る時の冷静さが非常に重要だと分かる事件です。
リーマンショックの暴落中に大儲け「ポールソン・アンド・カンパニー」
2005年当時、アメリカ経済は絶好調で金融市場も低金利が続き、バブル景気に浮かれていました。住宅価格は高騰を続け、日本のバブル期のように「不動産は下がらない」という神話が信じられていました。その中でも「バブルは必ず弾ける」と信じていた人がいます。それが、投資助言会社のポールソン・アンド・カンパニーの創業者ジョン・ポールソンです。
そんな中でポールソンは、高騰を続ける金融市場が暴落する逆張りの機会をうかがっていました。景気が少しでも悪くなれば真っ先に破綻するものをポールソンは探し、目をつけたのがサブプライムローン(信用力の低い借り手に対してお金を貸し付ける住宅ローン)です。ポールソンはサブプライムローンの暴落を信じCDS(投資信託商品に発行する保険のようなもの)を空売り。結果リーマンショックによってサブプライムローンは暴落し、ポールソン&カンパニーは、150億ドルもの利益を手に入れました。
株式分割で大儲け「ライブドア」
ホリエモンで有名なライブドア。メディアにたびたび登場し、近鉄買収やニッポン放送買収などによって世間の注目集め、そのたびに株価は上昇していきました。株価が上昇すると「適正な株価に戻すため」という理由で株式分割。当時、株式分割で新しい株券が発行されるまで約50日間かかったため、この間株は品薄になり株式は上昇します。そして分割した株価が上昇したところでライブドアは株を売却。
すると株価が下落し、下落したところで「株価の下支えをするため」という理由で株を買い戻します。その後、また株価が上昇→株式分割というように、ライブドアは複数回の株式分割を繰り返し、巨額の資金を手にしてきました。このような中、2005年にライブドアによる粉飾疑惑事件が発覚し、2006年1月16日、東京地検特捜部がライブドア本社などに証券取引違反容疑で強制捜査。1月23日には堀江社長を逮捕。翌日から株式市場は暴落。ライブドア関連銘柄3日連続ストップ安に。2006年4月にライブドアは上場廃止になった。
今は株券は発行していないので、株式分割を行っても株が品薄になることはありません。しかし当時は株式分割によって株券が不足するため株式が上昇することは一般的でした。現在は品薄になることはありませんが、Apple株が1株を4株に分割した後に上昇したように、株式分割によって1株の値が下がり買いやすくなれば株価は上昇する傾向にあります。株式分割前の株を狙うというのは1つの有効な投資手法だと言えるかもしれません。
ミシシッピ泡沫事件
1720年というずいぶん前にフランスのパリで起きたアメリカ植民会社の事件です。この会社はスコットランドの投機業者 J.ローが設立したミシシッピ川沿岸の植民、開拓を目的とした会社です。株式を発行後に「この地方に金鉱,銀鉱が発見された」というニュースをJ.ローは意図的に流します。これによって株価は急激に上昇し100ドルの株が4000ドルと実に40倍になりました。J.ローは株券への支払い額の4分の1を貨幣、残りを公債という割合で要求。これによってフランス公債は大幅に値上がり、フランス政府もこれに便乗して公債発行額を増加することになりました。19年末投機業者が株を売出したことによって公債価格は暴落しました。J.ローはフランスから逃亡したため、政府は債権者に対し総額3億4000万ドルまでその損害を補償することになった事件です。
いわゆる風説の流布によって株価を操作するということはおよそ300年も前から行われていることです。現代ではネットの存在によって情報を収集することが容易になり、場合によっては情報の裏を取ることはそれほど難しくありませんが、当時は噂話程度の情報が市場に大きな影響を与えたのです。株式投資においては情報収集が非常に重要になるという教訓になる事件だといえます。
個人投資家が機関投資家に大損をさせた「ゲームストップ事件」
ビデオゲーム小売りチェーンの「ゲームストップ」の株を、インターネットの掲示板に参加している個人投資家が大挙して購入し株価を高騰させた事件です。ゲームストップは1984年に誕生したゲームストアで実店舗でゲームやゲーム機器を販売しており10ヶ国におよそ5,000店舗を展開しています。「ゲームストップ」の株は大手ヘッジファンドのメルビン・キャピタルが空売りを行っていましたが、個人投資家が株を高騰させたため、メルビン・キャピタルは大量の損切りを余儀なくされ、45億ドルもの損失を計上したのです。
ネット掲示板で個人投資家が大手ヘッジファンドを打ち負かした事例として日本でも大きく注目されました。これまで、個人投資家は大手メディアが発信する情報をもとに投資判断をしているケースがほとんどでしたが、SNSやYouTubeなどでインフルエンサーとなっている投資家が「この株は上がりそう」と発信することで株価が動く時代になっています。今後、投資家は大手メディアが発信する情報だけでなく、ネットのインフルエンサーが発信する情報にも耳を傾ける必要があるでしょう。
今や「投資」は一般人にとっても身近なものになりつつあります。投資は多額の資産を持っている資産家や投資家が行うイメージを持っている方がいるかもしれませんが、実際のプレイヤーは会社員や公務員の方が多いと言われています。投資を続けていれば、みなさんもいつか今回ご紹介したような事件に出会うことがあるかもしれません。損をする可能性もありますが、B・N・Fさんのように一瞬で億万長者になる可能性も少なからずあるのです。もしそんなチャンスに恵まれたときは、お気軽に私までご連絡ください。
ファイナンシャルプランナー。簿記2級。証券外務員資格。
地方銀行に8年勤務し、住宅ローン・カードローン・フリーローンなど個人ローンの他、事業性融資・創業融資など幅広い業務を担当。ファイナンシャルプランナーの資格を有する。100件あまりのフリーローン、住宅ローン数十件、その他に投資信託・個人年金・国債販売も取り扱う。現在は、飲食店のオーナーを務める傍ら、金融ライターとして大手メディアでの寄稿や監修を数多く担当。