高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第23話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第23話】 結婚式フォトグラファーのほう(七)

 そうだ。この式場は青がテーマカラーで、メニューもテーブルクロスもナプキンもすべて青だった。
 そう思ったとたん──〈A-PRISM〉が、わたしの視線か何かから、今のわたしの思考を抜き取ったのか──わたしのまわりのホログラムがいっぺんに青く色を変えていく。
 そのシンプルな幻想はわたしを過去へと追いやる。
 そうだ。
 わたしがまだ二十歳だった頃も、この式場の入り口のカウンターには、結婚式を挙げようとする人々のための連絡先を記した青いショップカードが置いてあった。
 ここはわたしが初めて結婚式フォトグラファーをした会場だ。
 わたしは必死にピントを合わせてシャッターを切った。
 ウエディング業界で少し働けば、結婚式トラブルは全然珍しくないことがわかる。結婚するはずのどちらか一方が来ないこともあれば、両方来ないこともある。家族が来ないことは日常茶飯事だ。家族が来ないとき、多くの場合、結婚する二人の顔は晴れ晴れとしていた気がする。
 わたしは青い名刺のホログラムを手に、振り返りもせずに言う。
「──担当さん。どうしてわたしに〈結婚式フォトグラファー〉の話をしたんですか?」
「特に理由は……、いえ、数日前に取材依頼のメールが来たんです。デビュー前に面白い仕事をしていた独身作家特集というもので、もちろん丁重にお断りしました」
「……そのメディアの名前、覚えてますか?」
「えっと結婚系だったんですけど、何だったかな。ちょっと待ってください」
 担当編集はすぐメガネの視線検索を始めた。会社のメールボックスと連携しているのだ。
 しかしわたしにはだいたいわかっている。
「きっと〝青〟と〝結婚〟が名前に入っていると思うんです。〈青い結婚式〉とかかな?」
「あ、メールありました。えっと──」
「わかった! 〈マリッジブルー〉!」
「……当たりです。さすが先生、と言ってもいいんでしょうか」
「全然うれしくないですけど」
「自分も面白くありませんし、なにより先生には申し訳もありません。思考を誘導されてしまいました」
「それを言うなら、わたしが原稿の〆切を伸ばしてもらう連絡をそろそろするだろうって予測されてたってことですよね。さいあこです」
「さいあこって何ですか」
「最悪より悪い、今の気分を指す言葉です」
「なるほど、さいあこですね」
 ようやくチーフの量子モジュールが落ちついたのか、わたしたちのまわりに湧きたっていたホログラムが消えていく。
「先生……、もしかして犯人の名前って」
「あ、きっと〈マリッジブルー〉ですね。色々言いたくなるネーミングセンスしてます」
 担当編集さんにメールが届いたのは三日前、わたしとチーフがスライム漬けになったのは二日前だから、まさかわたしたちが同棲したりするなんて、殺人鬼または誘拐犯あらため、〈マリッジブルー〉にわかるはずがない。
 わたしとチーフが出会ったのも、そのままいっしょにスライム退治したのも、ただの偶然だ。
 よかった。チーフとの関係まで青にまみれていてはたまらない。青は結構すきな色だけれど、こうも青あお青あお言われては食傷気味になってもしかたない。
 わたしの手のひらで最後まで残っていた青いカードのホログラムが強く輝いてから消えた。
 どうしてあの子──高校生のあの子は青い名刺をわたしにくれたのだろう。
 わたしたちは式場を出て、護衛車に戻った。
 車が発進すると、どどっと疲れが出てきたけれど、ここで眠るわけにはいかない。
 わたしはチーフに電話をかけた。
「うん、わたし。今そっちに帰ってるところだから待ってて! 訊きたいんだけど、高校生のあの子はどうして〈A-PRISM〉を使おうとしてたの? そういうのわかる?」
 他ならないあの子自身を見つけるためだ。データは使わせてもらおう。
 『動機はわかりませんけど、使用履歴だったらわかります。──えっと、スマホで写真解析してますね。これ転送します。先生、絶対寄り道しないで帰ってきてくださいね!』
 幸せすぎて卒倒しそう。
 しかし送られてきた画像を見て、わたしは一気に殺されそうになっている現実に引き戻される。
 あの子が見ていたのは、紛れもない、あの子の写真だった。
「あの子があの子の親……?」
「先生?」
 二十五歳くらいのあの子(寮でいなくなってから七年くらいたった元同室者)が、五歳くらいのあの子(十年後に高校生になってわたしの授業を受けることになる生徒)といっしょに笑っている写真だ。
「このふたり、どういう関係だと思います?」
 わたしは客観的な意見を聞くために、ふたりの顔を知らない編集さんに写真を見せた。
「似てるような似てないような、親子のような親戚のような──すみません、わかりません」
 写真の中であの子もあの子も楽しそうに笑っている。細かい関係性はどうでもいい。とにかくこの二人には接点どころではない関係があったのだ。
 そしてここは──ああ、当然そこになるのか。
「あの、先生……これって」
「はいはい。わたしも編集さんと同時に気づきました。ここ荻窪ですよね。10年前ルミネってこんな感じだったかな」
「いえ、写真の左端、ダイエットコーラのペットボトル飲んでるの、これ、先生ですよね?」
「はあ?」

──「第三編 結婚式フォトグラファーのほう」完──
次回より「第四編 XRとR」

〔第23話:全2,098字=高島執筆531字+AI執筆1,567字/第24話「XRとR(一)」に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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