高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第25話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第25話】 XRとR(二)

 わたしとチーフは下着のようなインナースーツに着替えた後、それぞれスタッフ二人がかりでXRダイブスーツを着せられていた。
「先生はVRどれくらい体験したことがありますか、っていうか覚えてますか?」
「VRはVirtual Realityでしょう?それは覚えてる。子供の頃から知ってるみたいに。でも体験なんてしたことない」
「先生は記憶喪失前、VRゲームすっごいしてたんです。メガネもARメガネで、今も何か視界に表示されていると思うんですけど」
「ああ、あなたの胸元には〈チーフ〉って文字が浮かんでる」
「それはAR──Augmented Reality、拡張現実です。先生、ワタシのことチーフって呼んでたから」
「このメガネもわたしのことを覚えているってことだね」
「で、先生はその〈チーフ〉という文字を見てると車酔いみたいになったりしますか?VR酔いって言うんですけど」
「ううん。全然」
 VR酔いとは、自分のR(現実)の視点と、VR(仮想現実)の視点が、わずかにズレることで生じると考えられている、車酔いみたいな症状のことらしい。車酔いの薬で抑えられるところもなんとなく似ているという。
「さすがVRゲーマです。じゃあこれから行くXRも大丈夫だと思います。でもダメそうだったら絶対無理しないで、すぐに言ってください。ワタシも気づいたらすぐ緊急停止します」
『あたしもモニタリングしてますからね!』
 あたまにかぶせられたフルフェイスのヘルメットの内部に、後輩社長の声が響く。
 直後、視界がひらけて、元のXRルームが見えた。ヘルメット内側のディスプレイに外部映像が表示されているのだ。わたしの前には同じヘルメットをかぶったチーフが立っている。チーフだとわかるのは、ヘルメットがチーフのそばに顔画像をとても自然に見せてくれるからだ。
「これすごいね。あとでもらってもいい?」
『先輩、そのヘッドセット、一個で一億四千万円で、日本には今ふたりが使ってるその二つしかないんですから、絶対に壊さないでください』
「もちろん大切にするよ!」
『ええ、大切にしてください。そしてもちろんあげませんからね!──先輩もチーフも気をつけて』
 そうしてわたしとチーフは、スーツを着たまま、それぞれ大きな可動式シートに座らされ、次の瞬間にはXRに移動してしまった。

 * * *

 朝。目が覚めた瞬間、昨日のわたしのことも過去のことも未来のことも全部が嘘みたいに思える瞬間がある。今日は本当に、何もかもうまくいく気がする。
 しかし、今日のわたしは、昨日までのわたしと、ほとんど同じだった。
 わたしが目を開けたのは、まだ真っ暗で真夜中といっていい時間だったが、カーテンの隙間から漏れた街灯が、ベッドに横たわるわたしの顔を照らしていた。
 いつもどおり、寝癖がすごい。
 洗面所へ行って、鏡の前で髪を整えると、ようやく頭が冴えてくる。顔を上げてみれば、わたしはまた少し背が伸びたようだ。
「おはよう」
 返事はない。わたしは一人で朝食をとった。目玉焼きとハム。サラダとヨーグルト。こういう言葉はすべて覚えている。
「行ってきます!」
 と元気よく挨拶をして家を出る。同居人はいないけれど、朝から声を出したほうが気持ちいい。
 電車に乗って仕事に向かう。
 朝の電車は、通勤ラッシュの時間帯を過ぎていることもあって、そこまで混んでいない。わたしが通うオフィスは電車で一本の場所にあるので、通勤時間は二十分ほど。
 ただ一つだけ残念なのはオフィス街のある東京都心が海面上昇のためにすっかり水びたしということだ。
 おかげでわたしもまわりの人も、短パン姿で、バシャバシャと水を蹴りながら歩いている。
「さいあこ」
 わたしは自分の会社が入っているビルにたどりついて、昨今では当然の設備になっている備え付けのタオルで足を拭いてからエレベータに乗った。帰りもあるから、みんな短パンのままだ。
 最上階で降りると、短パンのチーフが出迎えてくれた。
「先生!こんなに早く会えるなんて!」
「ん?わたしって社長では?」
「しっかりしてください。ここはXR、先生が作り出した──正確に言うと先生の記憶から〈A−PRISM〉が作り出した──拡張現実です」
「え?地球温暖化は?」
「地球温暖化はR(現実)でもちろんきっちり深刻化していますけど、ここはXRの現状は先生の思考によるものです。さすが、ここまで鮮明に想像できる人はほとんどいません」
 そういう言葉は、わたしが先生──小説家先生であれば、お世辞的に機能するのかもしれないけれど、今のわたしはそういう自認みたいなものを完全に忘れてしまっていて、そのくせ自我だけはしっかりとあって、なんだかチーフとうまく話せないのがもどかしい。
「えっと、このXRで、わたしを殺そうとしている犯人のことがわかるんだっけ?」
 そしてチーフは断言する。
「きっと手がかりは見つかると思います。先生の思考はこんなにもあざやかですから」
 チーフが広い窓の外に広がる水没世界を指し示した。
 東京は、見渡すかぎり青い水に覆われて、まるで世界が青く染め上げられているみたいだった。
 わたしは、青を隠すなら水の中、なんて思いついてしまったけれど、ともかくもこうしてわたしとチーフの犯人探しが始まったのだった。

〔第25話:全2,096字=高島執筆560字+AI執筆1,536字/第26話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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