奇才紳士名鑑~②”駅の窓口”を持ち歩く紳士の団体~

 

世の中には、一つのものごとに「過剰な情熱」を注ぐ人が存在します。
一見は市井の人に見えながらも、よくよく話を聞いてみるととんでもないマニアだったり、途方も無い熱量の持ち主だったりする。そんな「奇才紳士」をご紹介していく連載です。

”駅の窓口”を蘇らせる紳士の団体

第2回に登場してくださるのは、「交通法規研究会」氏。「物流や公共交通を社会科学の要素から研究する」任意団体とのことですが、彼らの存在を一躍知らしめたのがこちらのツイート。


11月3日に行われた「おもしろ同人誌バザール」というイベントで撮影されたこの動画&つぶやきが2021年1月16日現在で2.1万RT、4.5万いいねとバズりまくったわけです。これは気になるぞ! と、まずは年末にイベント参加された現場にお伺いしてきました。

■今回の「奇才紳士」


交通法規研究会
代表・佐野豊氏を中心にメンバー15人+顧問で構成された任意団体。「マルス端末券総集」シリーズや「障害者割引きっぷの手引き」などを発行、同人誌即売会などのイベントや一部書店、Amazonなどで販売。▶Twitter:@trrc_editorship ▶公式サイト

そこにあったのは「窓口」だった!

12月30日、大崎駅前で開催されていた「おもしろ同人誌バザール」会場に出向くと……そこにあったのは、あのツイートでバズっていた光景! すごい、なんだか懐かしい感じの駅の「窓口」がある!! 実はこのアクリルパネル、感染対策のために導入したものなのだそう。実用的というかなんといいますか……。

こちらでは冊子の販売だけでなく、「硬券」という昔ながらの厚紙でできたきっぷも販売しています。というかこれ、私的に作ることができるんですね、びっくり。ちなみにコミックマーケットではあまりにもお客様が多くなるという事情もあり、前述のアクリルパネルは使用していないとのこと。コロナ前は1日で1000枚前後の売り上げを記録していたこともあるとか……1000枚!?

アクリルパネルの裏側におじゃますると、こんな感じ。この什器はかつて本当に駅の切符売り場で使われていたものをリサイクルショップで発見したのだとか。この硬券、一部は活版印刷で印字されていたりとかなり本格的なもの!

硬券を購入すると、この「ダッチングマシン」という乗車券に日付を印字するマシンで日付を入れることができ、そして昔懐かしいハサミでの「入鋏(にゅうきょう)」を受けることができます!

 

中を開けた状態でダッチングマシンを使ってもらいました。きっぷを左から右に通すと……。

はい、日付が印字されました! そもそも「きっぷを買う」という体験が減って久しい今日このごろ、この硬券の手触りやレトロな感じがとても楽しく、新鮮です。

そもそも「交通法規研究会」とは?

イベント当日は次から次にお客様が来られていたので、後日あらためて主宰の佐野さんとメンバーの方々3名にお話をお伺いしました。

代表・佐野豊氏

――サークル結成のいきさつをお伺いできますでしょうか?

佐野 私自身が活動を初めたのは2010年からですね。その後2012年に初期のメンバーと活動をスタートし、2014年に初めてコミックマーケットに参加しました。その後メンバーが増えるなど変遷を経て今に至ります。今は下は16歳、上は36歳までのメンバー15人と顧問が1人という構成です。

――16歳!

佐野 若い人材を積極的に登用しないと活性化しないですから(笑)。

――「交通法規研究会」というお名前ですが、「交通法規」を「研究」していると。
おそらく鉄道を普段使われている方でも、いわゆる道路交通法や鉄道営業法などの法律、鉄道各社の旅客営業規則などはほとんどの人が意識していないと思います。どんな場面で法規が重要になってくるのでしょうか?

佐野 そうですね。例えば運賃改定があったとして、運賃改定前に買った定期券を運賃改定後に払い戻す場合はどうなるか。こういうのは各社の旅客営業規則で決められているのですが、一般の消費者の方に大きく関わることですよね。
また、いわゆる「運賃テーブル」という運賃を算出するための方法は鉄道会社によっては非常に複雑なので、分割してきっぷを買うほうが安くなることもありますしね。

――そうなんだ…考えたこともありませんでしたが、場合によっては料金を損することもあるわけですね。「知っておいたほうがいいこと」がたくさんありそうです。

佐野 実は、私が最初に鉄道に興味を持ったのは貨物列車だったんです。
ところが中学校1年生の時、JRの駅で釣り銭のトラブルにあったことがありまして。お金を入れたけど出てこない、それを申告したら「調べないとわからないから後で来て」と言われて、まるで嘘をついたかのように扱われたことがショックだったんですね。その怒りから、鉄道会社の旅客営業規則などを調べ始めたのがきっかけです。

――たしかにそれは頭に来ますね…それが現在の研究に。
頒布物では「交通法規」に関するものをしっかりと出されていますが、同時に硬券も販売されていますよね。これはどういう目的で販売を初めたんでしょうか?

佐野 リサイクルショップで乗車券ケースを偶然見つけたのが大きいんですが、正直なところ硬券に関しては「自分たちの活動を知ってもらうためのツール」という意味合いが大きいです。
「乗車券」に関する本というのは、いくら宣伝してもやはり理解されにくいものなんですね。なので「きっぷとはなにか」を身を持って体験してもらうための、一番効率的で効果的な宣伝ツール、というところでしょうか。1枚100円なのでお客様も気軽に購入してくださいますし、最近では「レトロブーム」の影響で、あのスタイルが可愛いと買われていく若い方も多いですね。
目標として、「なるべく自分たちの殻にこもりたくない」というのがあるんです。幅広い方に自分たちのことを知ってもらい、コミュニケーションを取るきっかけにもなってくれています。

――メンバーの方はどうやって集めているんですか?

佐野 人となりがわかるので、主にSNSで声をかけることが多いですね。ときにイベント等で直接「入会したい」と言ってくる方もいるので、そういう場合は一応形式上、入会試験を受けてもらったりします。

――入会試験! どんな内容なんですか?

佐野 例えば「『契約』とは何か、あなたの意見を書きなさい」とか、「乗車券やきっぷについてどう考えているか」とか、そういうことですね。あとはイベント等でお客様と接しなければいけないので、きちんと会話ができるかとかそういうところを見させていただいて。

――すごくきちんとされていますね……。

佐野 実はイベント等で来られる方の中には、鉄道会社や官庁の人といった「内部の方」がいらっしゃることも多々あるんです。そういう方々から情報をいただくためにも、お客様とのコミュニケーションはとても大事なんですよ。

――「研究」のために必要だと。

佐野 そうなんです。
実はこういった鉄道などの法規に関することを研究している人たちは少なくて、私たちの出している本の中には鉄道会社の研修センターでは教えない分野というのも含まれているんですよね。
それは実務の中で指導されるらしいんですが、そういうものを補完するために実際に働かれているかたが購入されることもあるんですよ。また、私たちとしても、自分たちの活動を続けてきた中で、こういったことの変遷や歴史を記録していくことの重要性というのを実感しているところでして。
今、そういう鉄道に関する法規の歴史をまとめたものというのを計画しているところです。

 

多彩な奇才紳士の面々

ちなみにこの取材日、インタビューに参加してくれた他のメンバーの方にもお話を伺いました。
現在関西在住の小原さんは18歳、「券売機の画像をTwitterにあげていたら声をかけられて」参加。ちなみに例のバズった動画で窓口にいるのは小原さんだそう!
藤田さんは佐野さんの中学・高校の先輩で、以前からサポートはしていたものの正式に参加したのは3年前から。もともとデザイン周りにも興味があったことから、主に書籍のデザインや硬券の印刷などを担当しているとか。
入会してまだ1年という山岸さんはもともと「きっぷ好き」というところからSNSで佐野さんに声をかけられたメンバー。佐野さんいわく「人当たりが良くて接客が上手いオールラウンダー」。上のプロフィール写真の左側にいるのが山岸さんです。
メンバーそれぞれが地元の駅や鉄道の研究をしたり、居住地近くの書店販売を管理したり。とてもしっかりした組織のようです、交通法規研究会。

交通法規研究会・ロゴマーク

余談ですが。
新型コロナウィルスの影響で減収が激しい鉄道業界、今後の変遷はありそうですか? と個人的な興味で伺った質問にも、いろいろと的確に答えてくださった交通法規研究会さん。普段意識することがない「法規」の部分に気づかせてくれただけでなく、個人的に鉄道などへの見方がちょっと変わってきたような気がします。
イベント参加は基本的におもしろ同人誌バザール」「コミックマーケット」です。興味を持った方はぜひ参加して「駅の窓口」を見つけてみてください!

次回も、あなたの隣にいるかもしれない「奇才紳士」をご紹介します。

取材・文 ケムール編集部

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