奇才紳士名鑑~⑦ 「透かしブロック」に魅了された紳士・淑女親子

世の中には、一つのものごとに「過剰な情熱」を注ぐ人が存在します。
一見は市井の人に見えながらも、よくよく話を聞いてみるととんでもないマニアだったり、途方も無い熱量の持ち主だったりする。そんな「奇才紳士&淑女」をご紹介していく連載です。

超・身近なモノに注目

これまでさまざまな奇才紳士・淑女をご紹介してきましたが、「特殊な技能や知識を持っている人」ばかりではありません。
生活の中で見落としがちな、ごく身近な対象に魅力や面白さを発見し、探求する……それもまた、一つのあり方なのです。今回はそんな奇才紳士・淑女の方々が登場、彼らが研究するものはこれ。

あなたのご近所にもこんなブロック塀、必ず存在しませんか? この「透かしブロック」の魅力にハマった「ブロック塀研究会」の方々です。

■プロフィール

ブロック塀研究会会長・藤井美奈子(左)、副会長・藤井克彦(右)。2015年より「ブロック塀研究会」を名乗り、透かしブロックの写真集を作成したり、グッズの作成・販売を開始。これまで「タモリ倶楽部」「マツコの知らない世界」等のテレビ番組やトークショー、新聞等への出演、カプセルトイの監修など近年活躍の幅が増大中。
ブログ:https://block-days.com/

プロフィールを読んで「同じ名字?」と思った方もいるかもしれません。また、つい先日(2022年6月7日)放送された『マツコの知らない世界』にもご出演されていたので、「あっ! あの人たち!?」と思った人も多いかもしれませんね。「ブロック塀研究会」のこのお2方、なんと「親子サークル」(!?)です。
今回、インタビューにご登場してくださったのは副会長・ふじいブロックさんこと克彦さん。

――もともと、会長であるお母様が近所にあったブロック塀、透かしブロックに興味を持ったことから活動を始められたと伺いました。ここに副会長として参加するようになったのはどういう経緯だったんでしょうか?

母が透かしブロックの写真を撮ったり、ブログを始めたりしているのをなんとなく「面白いな」とは思っていたんですね。ブロック塀の写真というのは誰でも気軽に撮れるものなので、僕も撮るようになりまして。本格的に関わりだしたのは、撮りためた写真で「写真集を作ろう」という話になったときですね。母はあまりそういうのが得意ではなかったので、僕がデータを作るのを手伝ったんです。そこからガッツリと関わるようになっていったという感じですね。

誰もが一度は見かけたことがある、こんなブロック塀。しかしよく見ると、意外と装飾的な面を持っていたり、1つ1つが違っていることに気付かされることも 提供:ブロック塀研究会

親子で活動した理由は?

――なるほど。それでも、ご自身が透かしブロックに興味を持たないとただの「お手伝い」で終わっていたと思うんですね。ふじいブロックさん自身が透かしブロックに面白さを感じたのはどんなところだったんでしょう?

母は純粋に「透かしブロックの写真を記録する」ということが好きですし、僕自身もデザインのバラエティ豊かさとか、そういうところは面白く感じました。ただ、そのときに「アメリカではブロック塀のミニチュアを販売して成功している会社がある」というニュースを知ったりして、「ブロック塀ってもしかしたら、いろいろと面白いのでは?」と思ったのも理由だったりします。

参考▶ミニチュアの建築資材を販売して月200万円を売り上げるスタートアップが振り返る「成功へのノウハウ」

――お母様はそれまでも、そういう趣味は持たれていたんでしょうか?

特に「これにハマっていた」というものはなかったように思いますけど、でも赤瀬川原平氏の著作は好きだったみたいです。

編集注:赤瀬川原平……日本の随筆家・作家であり前衛芸術家。不動産に付随する無用の長物「トマソン」や、マンホールの蓋、看板などを発見し考察する「路上観察学会」を創設。

――なるほど! 「路上観察」のスピリットが根にあるのかもしれませんね。

僕も小学生の時、赤瀬川さんの著作である『新解さんの謎』にハマりまして。これは面白いぞと。

――英才教育じゃないですか(笑)。

いわゆる「路上観察」的なことに関してはあとから知ったんですけどね。だからどこかしら、母と趣味や面白がるものが共通しているんでしょうね。だからこそ、一緒に活動ができているのかなとも思います。

――新書サイズなのに500ページ超えという同人誌『君は透かしブロックを見たか』など、ブロック塀研究会のお2人の活動はアウトプットの形も面白いなと思うんです。会長の探究心を副会長のふじいブロックさんがうまく形にできている、それも理由なのではとお話を伺っていて思いました。

確かに、僕は「作る」というか、形にするのが好きなんですね。音楽や映像を作ったりとかそういうことはもともとやっていたので、母が撮りためた写真を何かしらで形にしたら面白いだろうなっていうのは自然な発想でした。かつ、せっかくだったら皆さんに楽しんでいただきたいですし。


凝った装飾の透かしブロックも多々。提供:ブロック塀研究会

透かしブロックの業界事情

――ブロック塀研究会さんの活動を通して、透かしブロックは全国的にあるけれど形はそれぞれが自由に作っているのでバリエーションがとても豊富なこと、製造会社がどんどん減っていることなどいろいろ知ることができました。こういった歴史的経緯などはどのように調べていったのでしょうか?

取材等で聞かれることが多くなったので、自分たちでも調べるようになった、というのが大きいですね。もともとは戦後に耐火性の高い材料で家を作ることが推奨されるようになり、でも日本は気候の問題で家自体にブロックを使うことが難しい。そこで塀に使われるようになった……という経緯があったようなんですが。透かしブロックに関しては塀の向こう側がある程度透けて見えるので、装飾的な面もありつつ、防犯上の利点もあって広まっていったみたいです。

――戦後の歴史と関係があるんですね。耐震性の問題などもありブロック塀がどんどん減っている昨今ですが、「透かしブロック」は消滅してしまうのでしょうか?

いえ、これが装飾的な建築資材として活用しようという動きが出てきているんです。たとえば沖縄なんかはもともと、「花ブロック」という名前で建物の装飾に使われていることが多いんですね。コンクリートでできた家が多いなど、いろいろな経緯があるようなんですが。


花ブロックの装飾が美しい、沖縄文化芸術劇場なはーと。 提供:ブロック塀研究会

――これはカッコいいですね!

本州の会社でも、こういう花ブロックを建築資材として売り出す会社が出てきたり。そういう意味では、透かしブロックはまた新たな形で生き残っていくのかなという気がしています。

――本やブログを拝見していると、透かしブロックにつけたネーミングなどがとても独特で面白いなと思うんです。

あれは基本的に母が中心になって決めています。コメントもそうですね。そういうところは圧倒的に母のほうが面白いので。実は本の中には少し荒い部分があったりするんですよ、例えば丁寧語とそうでない言葉が混ざっていたり。直すかどうか迷ったんですけど、これは「母のセンス」的なものをそのまま残したほうがいいなと思い、あえて残したりしています。


この定番透かしブロックは、ブロック塀研究会の分類では「みやま」。他にも「穴」「アーティスティック」「純粋ダイヤ」など、その分類やネーミングの面白さも魅力。 提供:ブロック塀研究会

歴史を背負う使命

――あくまでも、「お母様の世界観」をそのまま伝えることが大切と。ちなみに、今後の活動に関してはどのような予定なのですか?

『マツコの知らない世界』に出演したことで、メディア出演に関してはちょっとやりきったかな感がありまして(笑)。ここからはしばらく、次の本作りに専念しようかなと思います。というのも、取材をきっかけに透かしブロックの歴史などについて自分たちもいろいろと調べているんですが、透かしブロックについて研究したり、形にしている人って他にはほとんどいないんですよ。最初こそ「ミニチュアで儲けてる人もいるし、面白そうだぞ」的な興味で僕は始めましたが、だんだんと使命感のようなものが出てきたんですよね。

――これは、自分たちが記録しておかないと……と。

次の本は、そういう歴史的なところをしっかりと入れ込みたいんですよ。そうすると、きちんとしたリサーチと裏を取る作業が必要になる。しばらく時間はかかりそうですが、形にしたいなと思っています。

お話をお伺いしていると「本当に身近なものを調べてみたら戦後文化史が見えてきた」というパターンで、これははからずも前回の「たぬきケーキ」とも同じ。もしかしたらこれを読んでいるあなたの周辺にも、思わぬ「深堀りすると面白いもの」が眠っているのかも……そんなことを教えてくれた、ブロック塀研究会さんの活動でした。

次回も、あなたの隣にいるかもしれない「奇才紳士・淑女」をご紹介します。

取材・文 ケムール編集部

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