奇才紳士名鑑〜⑯幼い頃から“空想都市”を描き続ける奇才紳士

世の中には、一つのものごとに「過剰な情熱」を注ぐ人が存在します。
一見は市井の人に見えながらも、よくよく話を聞いてみるととんでもないマニアだったり、途方も無い熱量の持ち主だったりする。そんな「奇才紳士&淑女」をご紹介していく連載です。

さて。今回も、とある話題になったツイートからご紹介を始めることにしましょう。

きっかけはこのツイート

サムネイル画像をパッと見ただけでもその凄まじさはわかると思いますが、クリックして拡大するともう、圧巻……。

びっしりと描かれているのは、架空の路線にある駅舎のイラスト。

よく見ると住所やホーム数も書き込まれています、設定が細かい!!

このツイートをされたのは、現役美大生にして絵本作家でもある「こた」さん。

実はこたさんの現在の作風にも通じるところがあるこの「架空の駅舎イラスト」、当時の背景と現在の活動についてお伺いしました。

こた さん

絵本作家、イラストレーター。2001年新潟県生まれ、東京都在住。多摩美術大学グラフィックデザイン学科3年在籍中。海の生き物のイラストや、緻密な空想都市のペン画を多く手掛ける。2022年夏に絵本作家デビューを果たし、2023年3月に初の個展を開催予定。
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その物量に圧倒!架空の駅舎イラストを描いていた理由は?

ーーまずは先日ツイートされていた「架空の鉄道路線図と駅舎」イラストについてお伺いできればと思います。描かれていたのは「小4の頃」とありましたが、その時期に集中して描かれていたのでしょうか?

はい、架空の鉄道路線図や駅舎を描いていたのはちょうど小学4年生の頃です。

いつから描き始めたかはっきりとした記録は残っていないのですが、小学3年生の終わりくらいには昼休みに自由帳に空想の地図を描いていたのを覚えています。

空想駅舎の一部。細部の設定の細かさがとにかく凄い……。

ーー何かきっかけはあったのですか?

小学3年生になると社会科の授業が始まったのですが、もともと小学生になる以前、幼少期の頃から鉄道が好きだった自分は地理分野にのめり込むようになりました。

学校で配られる地図帳を見ているうちに、自分で空想の地図を描きたくなり、それが空想路線図、空想駅舎や空想時刻表へと発展していきました。

最終的に小学6年生の頃には平面的な「空想地図」から立体的な「空想都市」へと変化し、それが今に繋がっています。

こちらは「空想地図」。濃密に詰まったイマジネーションの力に圧倒されます

ーー絵を描く事はその前から好きだったのでしょうか?

ものごころ着く前から絵を描くのが好きで、一番古いものだと1歳5ヶ月の時に描いた絵が残っています。

もしかしたら自分は絵を描くのが好きで、絵を描くのが得意なんじゃないかなと思い始めたのは小学1年生の時ですね。

学校の図工の時間に描いた絵をコンクールに出すと特選を取ったり、また地域の写生大会では金賞や特別賞を取ったりしていました。

ひとりっ子ということもあって、家にいてひとりで楽しめることが絵を描くことだったのもあります。

ーーあのイラストや地図はいつどんな風に作っていたのでしょう?

先ほどお話したように、もともとは小学校の昼休みの時間に自由帳に空想の地図を描いていたのが始まりです。

誰にも見せずにひっそりと描いていたわけでなく、むしろ友達や先生に見せていました。

机の上で地図を描いていると、友達が寄ってきて「私の家ここにして!」という感じで声をかけられたりしました。

当時は自由帳で色々なことをするのが流行っていて、例えば番号ごとに顔や性別、服装が違うパーツを描いて、それを選んでオリジナルのキャラクターを作る遊びだったり、複雑な迷路やあみだくじを描いてそれで遊んだりと、自分以外にも自由帳でオリジナルの遊びをしている友達がたくさんいたんですね。

そこで自分は空想の地図に友達の家をつくったりして遊んでいた感じです。

友達づくりのきっかけにもなっていました。

こちらは「空想路線図」。こちらも物量に圧倒されますが……
この「空想時刻表」がまたすごい。

ーーなるほど、子供同士の「遊び」のツールだったんですね!

そのうちに学校で描くだけでは物足りなくなり、家で描くようになりました。

Twitterに投稿したものは全て家で描いていたもので、これは家族以外の誰にも見せたことはありませんでした。

学校で友達と交流するための地図はちょっと控えめの簡単なもので、家で趣味として描いていたものはオタク心を解放して徹底的に描き込んでいました。

ーー当時のご家族や周囲のお友達の反応はいかがでしたか?

家族の反応は良い意味で全く無関心でした。

一日中描いていても止めなかったし、描いている内容に関して口出しをすることもありませんでした。

そのおかげでのびのびと自分の世界に入り込んで好き勝手に妄想を膨らませることが出来ました。

無関心とは言っても、ちゃんと大切に作品を保管していてくれたし、画用紙も買っていてくれたのでとても感謝しています。

友達もそこまで関心がある感じではありませんでした。

全員が地理や鉄道が好きなわけではないので、昼休みに絵を描いていると寄って来てくれるくらいで、特別に褒められたり話題になったりはしませんでした。

自分もあくまで趣味程度に描いていたので、むしろこれくらいあっさりしている方がやりやすかったです。

小学校6年生のときに書き上げた空想都市。わずか数年で画力が段違いになっているのが見て取れます。

ーーこちらからすると「子供の趣味程度」という質と量でもない気がしますが……ちなみにツイートが大きな反響を呼びましたが、描かれたものをご自身で改めて見たときはどう思われましたか?

まず熱量がすごいなと。

絵の良し悪し以前に、量が凄くてビックリしました。

ーーですよね!?

今はSNSを使って自分の作品を発信しているので、「たくさんの人に作品を見てもらいたい!」という気持ちは正直あります。

しかし、当時は別に誰かに見せたいわけではなく、完全に自己満足で描いていたので、それでこの熱量を出せるのも凄いなと思いました。

あんまり自分のことを褒めすぎるのもしたくないのですが、過去の自分を別人として見ると素直に尊敬できる部分があります。

ーーこういう形で作品が外に出たのも、なんだか感慨深いですね。

駅舎だけじゃなくて、駅舎の下に駅の所在地も書いてあるのですが、よく見ると芸の細かいことをしているんですよ。

例えば住所に「大字(おおあざ)」が含まれているところだったり、駅名が「西茜」と漢字なことに対して住所が「あかね区西あかね」とひらがなになっているところが、住所あるあるをおさえていて解像度が高いな〜と感心しました。

例えば住所に「◯条」とあったり、「大字」「◯◯温泉」と地方の地名あるあるが詰まっている芸の細かさ。地理好きなら頷くこと間違いなし。

ーー当時、既にどれだけ地理分野がお好きだったのかよくわかりますね……。

架空の駅名や住所を考えるときに意識していたのは、なるべく現実の駅名とかぶりたくなかったので、難読漢字を辞書で調べて取り入れたり、当て字で名称を作っていました。

純粋に地理や漢字をもっと知りたいという探究心が伝わってきました。

「空想駅舎」からつながる、創作の世界

ーー今のこたさんの作風を拝見していると、架空の都市だったり街を描くという点で、幼少期の頃から「好きなもの」が一貫されているのかなという気がしました。ご自身ではそういう点を感じられますか?

本当にそう思います。好きなものが全く変わっていないなと。

都市の絵に限らず、生き物の絵も昔からずっと好きで描き続けています。

一度興味が薄れた時期はもちろんありますが、思い出したかのようにまた戻ってきて気づいたら絵を描いています。

こちら、中学1年生のときの空想都市の制作風景とのこと。

ーーnoteなどで、お祖父様が残された世界一周の旅行記を掲載されたり、レポート新聞化されたりしていますよね。とても素敵なのですが、「街や行動を詳細に記していく」という点でお祖父様から影響を受けていたりするのでしょうか?
(注:こた氏のnote内「祖父のヨーロッパとびある記」やTwitterを参照)

祖父から影響されている部分はたくさんあります。

ただ、はじめは祖父がそういうことをしていたのは全く知らなくて、自分とそっくりじゃん!と思いました。

記録したり、絵にしたりするのが好きなのは確実に祖父に似たのだと思いました。

ーー経歴で中学は陸上部、高校は山岳部と拝見しました。「絵は趣味で」と思われていたとのことですが、美大に進学しようと決められた理由は?

美大に進学を考えたのは高校1年生のときで、理由は絵が好きというだけです。

ただ、目指すなら東京の多摩美か武蔵美がいいなと。

油絵や日本画といったような絵画ではなく、デザインやイラストレーションを学びたいと思っていました。

中学も高校も普通科で、美術部はどちらかというと受験対策ではなく趣味に近く、また絵画よりの制作をするような環境だったので、部活は陸上部や山岳部といった運動部に入っていました。

なので美大受験の対策は夏休みや冬休みといった長期休暇に上京して、美術予備校へ通っていました。

習うのは受験対策の絵だけでよくて、趣味の絵は指導されて描きたくないなという気持ちがあったんです。

こちら、こたさんの近年の作品例。ひらがな50音が1つ1つ都市になっている「ひらがな都市」
こちらもこた氏の作品。オリジナルの地図を作って遊べるはんこ「地図はんこ」

ーー「絵本を出版したい」という夢を持たれた理由と、実際に出版に至った経緯をお伺いできますでしょうか。

もともと明確に絵本作家になりたい!と思っていたことはなくて、描いている作風がたまたま絵本のような感じだったので、そこへTwitterを見て出版社の編集者さんが声をかけてくださり、絵本の出版に至りました。

声をかけて頂いた時は大学1年生だったので、嬉しさと同時に大学4年間で絵本作家として成長する明確な目標も出来てとても嬉しかったです。

ーー今後の活動予定とこの先の目標をお伺いできますでしょうか。

そうですね、まずは間もなく始まる個展を目標に頑張っていて、そのほかにも今年はすでに新しいプロジェクトも進行中なので告知を楽しみにして頂けたらと思います。

卒業制作もひとつの集大成ということで、頑張りたいです。

卒業後はフリーで活動していく予定なので、絵本もどんどん作っていきたいと思いますし、絵本以外のお仕事にも挑戦していきたいと思っています。

良いスタートが切れるよう、大学4年生は準備期間にしてスキルアップに繋がるよう精進したいなと思います。

コメントにもあるように、2023年の3月21日〜26日まで、初の個展を開催される予定のこたさん。今回のこのツイートや個展をきっかけにこたさんの作品を知り、その世界観のファンになってしまった人は多いのではないでしょうか?かくいう筆者もその1人。今後の活動を楽しみに追わせていただきたいと思います!

個展『こた展』〜 現役美大生絵本作家が描く空想の世界 〜
3月21日(火)〜3月26日(日)東京・恵比寿 弘重ギャラリー
▶︎詳細はこちら

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