一見は市井の人に見えながらも、よくよく話を聞いてみるととんでもないマニアだったり、途方も無い熱量の持ち主だったりする。そんな「奇才紳士&淑女」をご紹介していく連載です。
今回の奇才紳士図録は特別編!
現在話題となっている映画『劇場版 センキョナンデス』をご存知でしょうか?
ラッパー・ダースレイダー氏と時事芸人・プチ鹿島氏が自ら出演・監督したこの映画は、「選挙」というものに対して野次馬のつもりだった2人が、はからずも安倍元首相銃撃事件の日の選挙戦を記録してしまった……というロードムービー。
コメディタッチな部分も多々ありつつ、選挙とは?民主主義とは?とさまざまなことを考えさせられる作品です。
お2人が語る『劇場版 センキョナンデス』、そして「選挙」の面白さとは?
プロフィール
パリ生まれ、幼少期をロンドンで過ごす。全国東大模試6位の実力で東京大学に入学するも、浪人の時期に目覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビュー。日本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設立など、若手ラッパーの育成にも尽力する。2010年6月、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左目を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な活動を積極的に続ける根っからのエンターテイナーとして活躍。
Twitter:https://twitter.com/DARTHREIDER
YouTube:https://www.youtube.com/user/akashaachee?app=desktop
時事芸人。新聞14紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く。2019年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。2021年より「朝日新聞デジタル」コメントプラスのコメンテーターを務める。コラム連載は月間17本で「読売中高生新聞」など10代向けも多数。《レギュラー番組》 TBS-R 「東京ポッド許可局」 YBSーR 「プチ鹿島の火曜キックス」 YBSーR「プチ鹿島のラジオ19××」
Twitter:https://twitter.com/pkashima
選挙は『人間の感情が渦巻いている場所』
D……ダースレイダー
P……プチ鹿島
――もともと、映画を⽬的に撮影された映像ではないんですよね。
D 僕らは毎週金曜日に『ヒルカラ ナンデス(仮)』というYouTube配信番組をやっているんですね。
その週に起こった時事ネタを紹介するという内容なんですが、実際起こったことだけでなく観てきた映画とか読んだ本も紹介する機会が多く。
そんな中で鹿島さんが『なぜ君は総理大臣になれないのか』という、四国の香川1区の選挙戦を描いた大島新監督の作品を紹介してきて、僕も観に行ったらこれがとても面白くて盛り上がり。
あと僕らは「師匠」と呼んでいるんですが、ずっと選挙取材を続けているジャーナリストの畠山理仁さんが『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)という本を出されて、これはコロナ禍でどうやって選挙が行われているのかというのを現地レポートしてきた本なんですけど、その中で選挙を観に行く……「漫遊する」という概念を教えてくれているんですよ。
選挙を観て、そのついでに土地のものを味わったり、選挙事務所に行ってみたりとか話しかけてみたりするのが面白いんですよ、というようなことを紹介している本なんですが、確かにそうだなと。
そう言っていたタイミングで選挙があったので、観に行ってみようとなったわけです。
――それが映画の前半、2021年の衆議院だったわけですね。
D しかも『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編にあたる映画『香川1区』をまさにその衆院選を舞台に撮影すると大島さんが発表したから、これは香川1区に行ったら映画も撮影してるわ、あの『なぜ君に〜』に出てきた小川さんと平井さんが選挙戦やってわだし、めちゃめちゃ面白そうだぞと。
――動機としては「あの映画の現場を自分たちで観たい」だったと。
D 選挙そのものというより、「面白かった映画の続きがその場にある」みたいな感覚で行ったんですよね。
P あと僕は選挙特番が元々好きだったので、「自分たちで選挙特番をやってみよう」というのもありましたよね。
――プチ鹿島さんは「時事芸人」として新聞やニュースを徹底的に追われていますが、「選挙の現場」というのはそれまで行ったことがなかったんですね。
P そうなんですよ。特に避けていたわけではなく、たまたまなんですけどね。
D 実際に行って感じたのは、選挙というのは「人の喜怒哀楽が一気に集中するイベント」。
候補者を支えるボランティアやスタッフ、その人たちの熱量もすごいですから。
いろんな意味で感情が交差する場だなと改めて思いました。
なかなかそういう現場ってないですよ。
――その「熱気」が、まさに映画に記録されていますよね。
D 僕らが訪れたのは最終日で、まさに一番最後の選挙戦でしたから。
候補者が人前に立って喋ったり、支援者の人たちが集まったり、選挙スタッフや秘書の人とかがワーッと集まって、候補者がこういうことやってるんだとかいうのをすごい勢いで説明したりしている。
そんなエネルギーが渦巻いているところにポンと飛び込んだというのもあり、思惑も感情も、それこそ利益とかも含めて、いろんなもの全部乗っかっているのを目の当たりにしましたからね。
それに当てられて僕らがすごく元気になっちゃったという。
――最初に「香川1区」という場所を選んだ、そのチョイスも良かったのかもですね。
D ある種のラッキーではあったかもですね。
ただ、別に「香川1区」だけが面白い場所だったかと言われれば、そうではないだろうと思うんです。
見方を変えれば、各地で行われる選挙ではこうやっていろんな感情やドラマが生まれているに違いないと、行ってみて気づいたというのがあり。
そこで翌年の参院選で「今度はどこが面白いかな」と考えた結果、大阪の立憲民主党VS維新という現場に行ったわけですが。
――実際に現場に行ったことで、「選挙」の見方が変わったと。
D 選挙報道って、新聞とか週刊誌では「接戦」とか「誰々が優勢」とかそういう文字で語られることが多いじゃないですか。
香川1区の平井さんと小川さんの場合、その前の選挙では平井さんが勝っていて、しかも接戦ではなく。
でも2021年のときは「接戦」と言われていて、同じ戦いをして競っているようなイメージを持って現場に行ったら……ああいう雰囲気だったわけです。
P 映画でも描かれていますが、朝四国新聞の記事で平井陣営が「今日パレードを行う」って書いてあるわけです。
これはすごいパレードに違いない!と思うわけですよ。これが蓋を開けたら……という。
――ここは皆さんにぜひ映画を観てご確認いただきたいところですね。
D 同じ「接戦」という文字でも、各自やっていることは全然違う。
「接戦」って言われてる選挙区は、全国にたくさんあると思うんです。
でもきっとそこには、それぞれ違う「接戦」がある。それがわかったことも発見でした。
じゃあ自分の近くの選挙区はどうなんだろう? というのも改めて思いますし。
誰もが「野次馬」になれるし、なっていい
――この作品の後半は2022年の衆議院選挙になり、そしてカメラを回し取材して回っている最中に安倍元首相の銃撃事件が起こります。お2人は「野次馬」のスタンスで、選挙をエンターテインメントとして楽しんでいたわけですが、この事態をどう受け止めるか逡巡している様子が印象的でした。
D 選挙というのはハードルがない、政治に詳しくなくても誰でも参加できるお祭りであり、フェスである。
僕らはそう思っていたわけですが、もしかしたら「選挙」の形が変化するタ―ニングポイントになるかもしれない、そういう認識はやはりありましたね。
僕らはもともとトーク番組のために映像を撮っていたわけですが、あの日もずっとカメラを回しっぱなしで。
はからずともあの日に僕らがどう思ったか、どういう会話をしたか、周りの候補がどういう行動を取ったかっていうのが記録できていた。
この日、その逡巡を含めて記録してあるということが、すごく大事なことだったというのがのちのちわかるわけですが。
――それがこの映画化へのきっかけになったわけですもんね。
D 結果的に、現状の選挙制度に変化は今のところはないですが、選挙制度が変わる……「自由に観ることはできませんよ」となってしまうかもしれない。
そういう可能性は常にあるし、今自分たちができることをやっていかないといけないな、とは思いましたね。
――この映画を見ると、自民党の松川るいさんや立憲民主党の辻元清美さんはじめ、登場する政治家の方々が皆さん魅力的に見えてきたのが印象的でした。
D 僕らはほぼみんなに同じスタンスで、同じこと聞いているんですよ。
でもやっぱり人間ですから、それぞれ反応する感情があり、いろんなことを考えながら行動するわけで、それが出ているんですよね。
だから結局、「人間って面白い」という話なんですよ。
選挙は特に喜怒哀楽とか感情や人間が見えてくる、それが魅力なんだと思います。
やっぱりこの映画でも次々にいろんな人が感情や姿を現していく、くっきり見えるのがやっぱ面白いんだろうと思いますよ。
だって今松川さんと辻元さんって続けて出ましたけど、政治的スタンスや思想は全然違うお2人ですからね!?
――確かにそうですね(笑)。
でもこの映画を観ると2人とも気になるでしょう?
選挙ってそもそも、そういうのをふまえて選んでたはずなんだよな……って思うんですよね。
だからそういうのを見ないで選んでたとしたら、すごくもったいないことをしていたなと。
P この映画に出てくる政治家の方の中で、実は平井さんが一番お話できてないんですよね。
僕たちはそもそも平井さんに会いたくて現地に行っていたわけですから、それがちょっと残念なんですよ。
だからまたチャンスがあったら追いかけたい、と思ってます。
D 実はそこは大事なポイントで、要は平井さんにしろ小川さんにしろ次の衆議院選挙は普通に考えたら3年後なんですけど、もし解散総選挙をするとなったらすぐに衆議院選挙が始まり、そしたら多分香川1区ではこの映画に出てくる平井さんと小川さんが再び戦う可能性がある。
そうしたら「この間はこうだったけど今度はどうするの?」とか、そういう視点で見れると思うんですよね。
だからいろいろな地域でそれがずっと繰り返されているという視点で見るのも、すごく面白いと思うんですよ。
――盛り上がりや現場の状況を実際に観た上で選挙の結果を見ると、印象がぜんぜん変わりそうですね。
D 手伝ってる人のテンションとかね(笑)。
すごく頑張って手伝ってるスタッフもいれば、なんか呼ばれてやってる感がある人とか。
それは行ってみないとわからない。
そして後日「なんであんなに盛り上がってたのに負けたんだろう?」とか「なんか粛々とやってたのに勝ったのはなぜだろう」とか考えるのも面白いし。
P 「分析」まで小難しいことを考えなくてもいいと思うんですよ。自分なりの争点を見つけて、そのポイントを比べていく。
なんで自分が最初「この人が勝つ」と思ったのかなとか、実際にどういう動きをしていたか、そういうことでいいと思うんですよね。
D 選挙は「スタートライン」ですから。本当の仕事は議会ですから!
その人が議会でどういう仕事をしたかを確認して、自分が前の選挙のときにした判断はどうだったのかを次の選挙で考える。そういう「答え合わせ」がいいんじゃないかなと。
――先程の松川さんや辻元さんもそうですが、女性陣の力強さが印象に残りました。
D 女性政治家の言葉ってすごく「自分の言葉」で喋ってたり、目線が低かったりしいいなと思うんです。
でもその反面、女性の議員は非常に少ない。世の中には男女が半々いるのに、あれ?なんで政治家になった途端にバランスがおかしくなるの?という見方をすることもできると思うんですよ。
「選挙」がテーマと言うと難しく思うかもしれないですけど、この映画は何も知らないままで観てもらって大丈夫なんです。
「政治のことはわからないから」とか思うかもしれないけど、そのハードルは実は勝手に作られたもので、選挙って誰で有権者として参加できるし、政治は「詳しくないと語っちゃいけない」ことなんてない。
全部日常なんですよ。だからこそこの映画は、観終わった後に誰かと話をして欲しい、そんなきっかけになったらいいなと思ってます。
――平井候補と小川候補をめぐる四国新聞の報道でフェアではない部分があり、鹿島さんがそれについて映画の中で四国新聞の記者に質問したり、新聞社を訪れている様子がすごく印象的でした。映画公開後に周囲の方からなにか言われたり、反応が変わったりというのはなかったですか?
P うーん、特に変わってはないですよ?
D いや、「プチ鹿島さん凄いね」っていう話は出ていると思いますよ(笑)。
僕はこの映画は「プチ鹿島映画」だと思ってますから。
でもね、ここが大切なところなんですが、この映画でプチ鹿島さんがやっていることは「特別な資格を持った人でないとできないこと」ではないんです。
だって僕らは別に許可を得た記者でもない、単なる「野次馬」ですから。その場に記者の人がいたから聞いたし、そうしたらああいう展開になった。ただそれだけのことなんです。
だから「野次馬で行ってもここまでできるんだよ」ということをこの映画は見せている気がしますね。
候補者だって、別に気になることがあったら直接聞きに行けばいいんです。
選挙期間中は街頭に立っていますから、いくらでも直接聞くことができる。これは大切な視点じゃないかなと思います。
――確かに!
D あと思うのは、よく自分が応援している選挙候補が負けると「なんでみんなあんな奴に投票したんだ」みたいな話をする人がいるんですよね。
それをやっているうちは駄目だなと思います。誰が当選しても、「地域全体のための候補」を選んでるわけだから。
自分が望む候補者が当選しなかったからといって「もうこの地域は終わりだ」とか言っちゃう人は、そもそも選挙というのは何なのかをもう1回じっくり考えた方がいい気がしますね。
――これから公開がスタートする地域もありますし、『センキョナンデス』の熱がまだまだ広がりつつありますね。
D 「上映したい」という館の人や、「地元で上映会をしたい」という人はぜひぜひ配給元の「ネツゲン」にご連絡ください。
例えば町長や村長でもいい、選挙を控えた地元で上映してもらえたら最高に面白いと思いますよ。