一見は市井の人に見えながらも、よくよく話を聞いてみるととんでもないマニアだったり、途方も無い熱量の持ち主だったりする。そんな「奇才紳士&淑女」をご紹介していく連載です。
ときには年間100か所以上の盆踊りに参加する「盆オドラー」が登場!
日本の夏の風物詩の1つ、「盆踊り」。実はこの盆踊りに魅せられ、ハマっている「盆オドラー」が近年増えているのをご存知でしょうか!?
今回ご登場いただく佐藤智彦さんは、盆踊りの魅力に取り憑かれ全国はもちろん、ときには海外含めて年間100か所以上の盆踊りに参加。今では、愛する盆踊りの魅力を伝えるためにさまざまな活動を行っている「盆バサダー」!
「盆踊り」の何が、そんなに彼を魅了するのか……?盆踊り初心者へのアドバイスも含め、たっぷりと伺いました。
佐藤智彦
「仕事はライフワーク、盆踊りはソウルワーク」
インテリア雑貨、キッチンウェアの販売や店舗運営、マーケティングを経て2010年独立。
フリーランスで企業の広報・執筆活動を行う。2011年夏に盆踊りの世界に目覚め、盆オドラー化。現在は、毎年国内外100箇所以上の盆踊りに参加。2022年には著書『ヤマケイ新書 東京盆踊り天国 踊る・めぐる・楽しむ』(山と渓溪谷社)を上梓。盆踊りの魅力を伝えるべく、雑誌やテレビ番組、WEB、ラジオなどさまざまなメディアで活躍中。愛称は「大ちゃん」。
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23区だけで1000か所!?東京は実は「盆踊り天国」
ーーなぜ「盆踊り」にハマったのか、経緯を伺えますか?
最初にハマったのは2011年8月です。きっかけは、築地本願寺納涼盆踊り大会。
もともと友人に盆踊りにハマっている人がいて、なんでこの人はこんなにハマってるんだろう……?と思い、ちょっと確かめに行こうと。
そうしたらミイラ取りがミイラになった、というパターンです(笑)。
ーー佐藤さんを虜にしてしまった、その理由は何だったんでしょう?
まず、築地本願寺納涼盆踊り大会はものすごく規模が大きいんですよ。大体4日間で約8万人集まるような状況で、そういった雰囲気やロケーションの素晴らしさもありつつ、基本的に曲がいいんです。
築地本願寺の盆踊りでしかかからない曲がほとんどなんですが、大体どの曲も2回ずつかかるんですね。
最初は踊れなくても、とりあえず体を動かしていると何となくできてきて、2回目になると「意外と踊れたな?」と、1曲ごとの達成感みたいなものが得られやすい。
そうするうちに次の曲を踊ってみようとなり、気がついたらハマってしまった……という感じですね。
実は、僕の母や姉がずっと盆踊りをやっている人間だったんですよ。
だから子供の頃は「一緒に行こう」って誘われても逆に行きたくなかったり、曲も「炭坑節」くらいしか知らない状態だったんですが……結局、その年だけで東京の盆踊りを20か所以上回りまして(笑)。
ーーハマってからの機動力がすごいですね!
次の年はあちこちの盆踊りを回りまして、8月には岐阜まで行って郡上八幡の「郡上おどり」にも参加しました。
ただこれが、4日ある徹夜踊りの1日だけ参加する予定で、朝まで踊ってそのまま帰ってくるという宿泊なしの強行スケジュールだったんですね。
ところが、その日の昼間は晴れていたのに夜になるとものすごい土砂降りでして……車から外に出る勇気もなく、一応観光協会に電話したら「災害警報が出ない限りやります」と。
まあせっかくだし1日だけだし、といざ車から降りてみたら、みんな土砂降りの中でものすごく楽しそうに踊ってるんです。なんかもう、天気とか関係ないんだろうなこの人たち……みたいな感じで。
ーーすごいですね、さすが郡上おどり……!
ずっと踊っていると汗だか雨だかもうわからないし、何なら雨が降ってるほうが涼しくていいぞ?くらいになってくる。もう、ある意味〝トランス状態〟なわけですよ(笑)。
この「土砂降りの中で朝まで踊る」という経験が僕の中でやはり衝撃でして、ここでスイッチが入っちゃったんですよね。そこからはもう、「盆踊り」に夢中です。
ーー盆踊りの魅力って何なんでしょう?
まず、盆踊りはみんな同じ振り付け、同じタイミングで踊るという点が特徴ですよね。
僕はクラブミュージックとかも好きだったりしたんですが、ああいう1人1人が自由に踊っているというのとは違うわけです。
だからこその独特のグルーヴ感のようなものがあったりする。
ーー確かに、盆踊りって「その場をきれいに形成したい」みたいな意識が全体にありますよね。
「みんなで祭りを作っている」と言いますか、参加した人もその祭りの構成要素の一つみたいなところがある。それにハマっちゃったんだと思うんですよ。
それに加えて、その場所場所によって踊る曲も、踊り方も全く違う。
例えば地方に行くと宗教的な背景があって生まれてきたものもあるし、歌詞が面白かったり、同じ曲でも振り付けが全然違っていたり……そういう楽しさもありますね。
ーー確かに、地方性はかなりありそうですね!
いろいろな場所に行くことで、今まで知らなかった地方について知ることができる……これがまた楽しくてハマってしまった部分もあります(笑)。
例えば「こういう食べ物が美味しい」とか「こんなお酒が美味しい」「ここにはこんな背景があり、だからこんな盆踊りが生まれてきた」とか……盆踊りも目的ながら、もうあちこちに「故郷が増えた」状態になってまして。
今となっては、毎年行くべきところが多すぎてちょっと大変ではありますね(笑)。
ーー佐藤さんのご著書を読むと、そもそも東京にもこんなに多くの盆踊りがあるんだ! ということと、こんなに長い期間にわたり盆踊りをやっているのかということに改めて気付かされました。
そうなんです。地方だと盆踊りは8月のいわゆる「お盆」の期間の1〜2日ということも多いですが、東京は6月から10月まであちこちで盆踊りが行われてるんですよ。
その期間、きちんと自治体や寺社等が主催になっているものだけをカウントしたら、僕が調べた限りでは23区内だけでコロナ前の2019年は約970ヶ所ありました。
僕が知り得なかったものもあると思うので、多分1000ヶ所くらいはあるのでは?と。
ーー1000!!!
そう考えると、東京って他の地域に比べると圧倒的に「盆踊り好き」なんですよ。
東京って地方から上京してきた人が多かったり、新たに開かれて歴史的な背景があまりない場所というのも多いので、「夏の行事」としてイベント的に取り入れることが容易だったというのも理由だと思います。
だからこそいわゆる「お盆」の時期とは関係ない日程で行われる盆踊りが多いと思うんですよね。
それこそ、昔は団地のイベントとして定番だった時代もあったんですよ。ただ、今では少子高齢化で町会等でもなかなか担う人が少なかったり、運営する側の事情もいろいろあるようで……。
だからこそ、場所によっては我々のような「他の地域から踊りに来る人」を見込んでいたりとか、盆踊りの規模やスタイルもさまざまにはなってきていますね。
本当に一か所ごとに違いますよ。
ーーご著書を読むと、東京に住んでいながら「知らなかった盆踊り」だらけで、またそのバラエティ豊かさに驚かされました。
盆踊りって、気をつけて見ていないとあっという間に櫓が立ち、2日間ぐらいやったらすぐ解体しちゃうんですよね。
夜中のうちに会場ができて、終わった次の日の朝にはなくなっていたりする。知らないと、気がつかないまま次に体験できるのは1年後……となりますから。
おそらく、これまで盆踊りに興味がなかった人でも、特に東京在住なら少し気をつけて情報を探せば必ず近くで盆踊りは見つかるはずなんですよ。
だから盆踊りに興味を持つことで、自分たちの住んでいる地域に改めて目を向けるきっかけにもなるんじゃないかなと思っています。
ーー小さな盆踊りだと、メディアに情報が出ていなかったりしますよね。町内会の回覧板でだけ回ってきたりとか……。
実は僕も、そういう「他の人に侵されてないような盆踊り」はあまり人やメディアに言わないようにしています(笑)。
多くの人が来ちゃうとその地域の良さがなくなっちゃう、そんな場所もあるんですよね……だから僕の場合、いわゆる「盆踊り初心者」、まだあまり盆踊りに行ったことがない人には、規模が大きくて、参加しやすい場所に行ってみることをおすすめします。
規模が小さい地域密着型の盆踊りは人が少なかったりしますから、視線を気にするとあまり落ち着いて踊れないと思いますし。
ときにはタクシー移動や車中泊も!?「盆オドラー」のハードな日常
ーーちなみにこの6〜8月の盆踊りハイシーズン、佐藤さんはどんなスケジュールになっているんですか?ご著書には盆踊りの「ハシゴ」指南なども書かれていますが……。
大変なことにはなっていますね(笑)。
ただ盆踊りって大体「この場所は◯月の◯週」という風に時期が決まっているので、それでまずは自分の行きたいところを優先的に決め、ハシゴできるときはそこから移動していきます。
盆踊り仲間と一緒に移動することもありますし、何ならタクシー移動することも……。
ーータクシー移動!
何回か参加すると、大体踊りたい曲がいつごろかかるかという目星もついてくるわけですよ。
それも合わせて計算してタイムスケジュールを立てています。
ーーそのハードスケジュールはそれはそれで悩みも発生しそうですね。
とにかく時間がないです(笑)。寝る時間がまずない。
本業は自営業なのであまり時間に関係なく動けますし、僕を知ってる仕事関係の人は「夏はこうなる人だ」と理解してくださってる方が多いのはありがたいんですが……夕方以降は仕事のやりとりをしなくて済むように段取りをつけておいたり。
あと、とりあえずどこかに踊りに行ったら、どんなに疲れていてもまず浴衣を洗って干して寝るというのが日課になっていますね。
そしてどこでも寝て体力を回復、次の日に疲れを残さない。
ーーほとんどアスリートですね……。
僕は「盆踊りはスポーツ」って言ってますから(笑)。
ーー地方の盆踊りもですし、何なら海外の盆踊りにもいろいろ行かれていますよね?そういう意味でもスケジュールが大変そう……。郡上おどりなど規模の大きな祭りだと宿の手配なども大変ではないですか?
これはあまりおすすめし辛い方法でもあるのですが……実は郡上おどりは、僕はもう宿を取らずに車中泊で過ごすんですよ(笑)。
近くに日帰り温泉がある道の駅がああったりするので、夜通し踊ったらそこに行き、そこを中心に動きます。渓流釣りの人たちのために洗濯できる場所があるので、踊ったらまずは浴衣を洗濯。
車のボンネットや近くの木にかけて干しておけば、寝ている間に乾きますから。
朝になったら道の駅で朝ごはんを調達して、地元のおいしい牛乳や豆腐を楽しむという。そして夜になったら踊りに行く、と。
ーーものすごく楽しそうですね!?毎年足を運ばれるほどハマる理由がよくわかりました(笑)。ところで浴衣といえば、よくSNS等でも新しく仕立てた浴衣を披露されたりしていますよね。浴衣に凝りだすと、それはそれで出費が大変ではないですか?
確かに、70〜80枚は持ってますね(笑)……でも僕の場合、普段着がほぼ浴衣や着物になっていて、もう他の洋服を買わなくなっているんですよ。
そう考えると、コストパフォーマンス的にはそんなに悪いものではないんです。
だってスポーツをするときにジャージに凝る人も多いと思うんですけど、アディダスとかナイキとか、ブランド物のジャージだって上下で揃えるとそれなりの値段がするでしょう?
高級ジャージと思えばいいんですよ。そういう意味でも、「盆踊りはスポーツ」なんです!(笑)。
ーーなるほど(笑)。自分好みのものを仕立てる楽しみも生まれそうですね。
ただ誤解してほしくないのは、別に浴衣でなくても気軽にできるものではあるということ。
浴衣の袖を押さえるような振り付けがあったりするので、もちろん浴衣のほうが様にはなるんですが、「浴衣持ってないし……」と気後れして参加しないのはもったいない!なので、まずは気軽に参加して欲しいなと。
ーー「初めての場所」に参加するコツみたいなものはありますか?
小さな規模のものは特になんですが、「おじゃまします」という謙虚な気持ちで参加すること。
僕は一応、踊りの輪の一番外側から参加することをオススメしています。時間があるときは主催している町会の人とかに挨拶をしに行くこともありますよ。
そうやって参加すれば、まず参加を断られるような場所はないと思うんです。
ーー東京ではまだまだこれからも盆踊りは開催されますが、おすすめの場所はありますか?
初心者の方にオススメな大規模なものは、8月の最終週、2023年の8月25日・26日に開催される「中央区大江戸まつり盆おどり大会」でしょうか。
またこれと同じ日程で、日比谷公園では「日比谷公園丸の内音頭大盆踊り大会」が開催されます。
ここは「東京音頭」の原曲となった「丸の内音頭」のルーツの場所と言われているんですね。
新型コロナウイルスの流行もあり4年ぶりの開催ということ、あと日比谷公園がこのあと改修に入ってしまうので、今の状態の公園で楽しめるのは今年がラストということもあり、かなり盛り上がるのでは……と思います。
ご興味ある方は、ぜひ足を運んでみてください!
まとめ
レイブ気分で楽しむもよし、地元や地域の良さを再発見するもよし。これを読んで興味を持ったなら、あなたも「盆オドラー」になってみませんか!?