一見は市井の人に見えながらも、よくよく話を聞いてみるととんでもないマニアだったり、途方も無い熱量の持ち主だったりする。そんな「奇才紳士&淑女」をご紹介していく連載です。
「1本のサメ映画」が人生を変えることもある
皆さん、「サメ映画」と聞いてどんなものを思い浮かべますか?
往年の名作『ジョーズ』かもしれません。この夏大ヒットした『MEG ザ・モンスターズ2』という人もいるでしょう。
いわゆるB級映画のイメージを持つ人もいるかもしれませんね。
今回はそんな「サメ映画」マニアであり、サメ映画のバイヤーや字幕などのお仕事をされている「サメ映画ルーキー」こと喜多宗則さんが登場です。
なぜ「サメ映画」にハマったのか、その魅力は何なのか。
これを読めば、あなたも「サメ映画」が観たくなること間違いなし!?
サメ映画ルーキー
たまたま出会ったサメ映画の面白さに魅せられ、今ではサメ映画専門のバイヤー兼翻訳家に。『(ほぼ)月刊サメ映画』編集長。日本サメ映画学会会長。
X(Twitter):https://twitter.com/Munenori20
サブスクの「オススメ機能」からサメ映画に出会うことに
――いつ頃から、どんなきっかけでサメ映画にハマったのでしょう?
本当に偶然なのですが、サブスクで映画を観ていると「おすすめ」に他の作品が出てきますよね?
その中にたまたま『シャーケンシュタイン』という作品があったんですよ。そのサムネイルがすごく強烈でして。
「なんだこれは」と思って観始めたら、中身はもっと凄かったという。
――あらすじを拝見しますと「第二次世界大戦中にドイツが密かにフランケンシュタインを生物兵器化しようとしていて、現代のネオナチがサメとフランケンシュタインを合体させ最凶の生物を生み出そうとしていた」と……なかなかの内容ですね。
何が凄いって、サムネイルでは普通にサメの形が出ているわけです。
しかしこれが、本編のサメとは全く違う。消費者庁に何かを言われてもおかしくないぐらい違うわけです。
しかもレビューを読んでみると、またそのギャップを楽しんでいる人たちもいる。
元々映画は好きでしたけど、いわゆる「ジャンル映画」と呼ばれるようなものを観ていたわけではなかったので「こんな世界があるのか!」と衝撃だったんです。
これが2018年なので、まだサメ映画を観始めて5年くらいなんですよ。
――なるほど。いわゆるB級映画や「ジャンル映画」をよく観ていたら、その衝撃はなかったのかもしれませんね。
しかも『シャーケンシュタイン』に関しては、途中から雷に打たれてサメから手と脚が生え、上陸することになります。
もう「サメである必然性」ですらない、これがまた衝撃だったんですね。
「サメ映画というジャンルなのにそれすら辞めてしまうんだ!」と。
出典:コンマビジョン|【予告】シャーケンシュタイン予告:taki様 ©2016 all rights reserved. Wild Eye Releasing
――しかし、そこからジャンル映画やB級映画好きという方向性に行ってもいい気がしますが、なぜ「サメ映画」だったのでしょう?
サブスクで観ていた、というのが大きいですね。
1本サメ映画を観ると「オススメ機能」がサメに汚染されてしまい、サメ映画がどんどん出てくるわけです。
そこで片っ端から観ていったらこうなった、というわけです。
――「オススメ機能」、罪深い……。
一応、並行してゾンビやワニとかの映画も観ていたんですけど、そこには大体ゾンビだったり、クリーチャーであることの必然性があるんですね。
しかしサメ映画だけはほとんどが「サメである必然性」を感じられなかった。
そこに何か不条理さといいますか、この人たちは本当に好きなことをやっているんだな!?というのを感じまして、どんどんサメ映画を深掘りしていった感じです。
――ゾンビ映画も一大ジャンルだと思うのですが、確かにサメ映画とはちょっと扱われ方が違うような気がします。
ゾンビ映画は作られる数自体が多いですからね。
とんでもない作品ももちろんあるんですが、沼自体が深いのでそういった作品になかなかたどり着かない。
でもサメ映画というジャンルは沼自体がそんなに深くないので、一度掘ると目も当てられないような作品も一緒にわーっと浮いてきちゃって、事故のように出会ったりする。そこが違いでしょうか。
――ジャンルとしての深さ、広さがそんなにないということでしょうか……?
どうでしょうね。
例えば自主映画作品などをどこまで入れるか問題というのもありますが、僕がこれまで確認したものだと「サメ映画」と言われるものは大体180〜200本くらいかなと思っています。
言ってみれば、基本はやはり『ジョーズ』(1975年)なんですよ。
『ジョーズ』という作品がある上で、“縛り”の中でどう面白いことをやっていくかを創り手たちは考えているんだろうなと。
ただ、最初はそう思っていたんですけど、途中から実はこの人たちは『ジョーズ』にも興味がないのでは?サメを出しておけば観る人がいるから出しているだけでは?という商人魂のようなものを感じることも多くなりました。
でも、そこもやっぱり面白いんですよね。
元祖はやはり『ジョーズ』! 奥深き?サメ映画の歴史
――ちなみに、サメ映画のムーブメントというのは今までどんな形であったのでしょう?
最初に『ジョーズ』がヒットした際、似たようなアニマルパニック映画がいろいろと出るわけです。
1987年の『ジョーズ4』のあとに一段落するわけですが、これが第一次サメブーム。
次に1999年に『ディープ・ブルー』という映画が公開されまして、これまでサメ映画は『ジョーズ』以上のものはムリだろう……と思われていたのをCG技術などを駆使することで越えてきたわけですよ。
次に2009年に『メガ・シャークVSジャイアントオクトパス』という映画が登場します。
これはいわゆる劇場公開を前提としない「ビデオ映画」なんですが、バカでかいサメとバカでかいタコが戦うという内容でして、このあたりから「サメで遊んでもいい」とプロデューサーたちが気づいたのか、おかしなサメ映画が連発されるようになるんですね。
そして2013年に『シャークネード』が登場します。
――台風によって吸い上げられたサメがロサンゼルスを襲うという映画ですね……。
この『シャークネード』の世界的ヒットが今に繋がっている感がありますね。
こう考えると、『ジョーズ』、『ディープ・ブルー』、『シャークネード』というのが大きなサメ映画ムーブメントの象徴的作品と言えるでしょうね。
実は『メガ・シャークVSジャイアントオクトパス』も『シャークネード』も「アサイラム社」という低予算のビデオ映画製作をメインにしている会社が製作しているのですが、このアサイラム社の存在も重要だったりはします。
――大手映画会社のパ◯リタイトルなどでおなじみ、アサイラム社ですね。
今年、2023年の夏には『MEG ザ・モンスターズ2』が劇場公開され大ヒットしましたが、あれは僕はめちゃくちゃお金のかかったB級映画といいますか、いわば「お金のかかったアサイラム作品」だと思っています。
ただ、『MEG〜』は凄く面白いですよ! 僕は映画館に5回観に行きました。
出典:ワーナー ブラザース 公式チャンネル|映画『MEG ザ・モンスターズ2』日本版予告 2023年8月25日(金)公開 © 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
――今、世界的なサメ映画の流れとしてはどういうことになっているんでしょうか。
圧倒的なマジョリティはアメリカなんですが、最近は中国やエジプト、フランスの作品が面白いですね。
中でも中国の作品はなかなか興味深くて、サメ映画って言葉をオブラートに包まなければ多くが「『ジョーズ』のパ◯リ」になりがちなんですが、それでも大抵はオリジナル要素を入れようと頑張ってくるわけです。
しかし、中国のサメ映画を観ていると「本当にそのまんま」だったりするんですよ。
――“オマージュ”という便利な言葉もありますが……。
いや、あれはオマージュを超えていますね。“そのまんま”ですから(笑)。
例えばアサイラム社なんかはいわゆる“ブロックバスター映画”といわれる大作を堂々とパクったタイトルの映画をたくさん作っているんですね。
『ターミネーターズ』とか『トランスモーファー』とか……でもこれらはタイトルこそ大作映画に似ていてますが、中身はオリジナルなんですよ。
でも中国のサメ映画は逆で、ビジュアルやタイトルはすごくオリジナルなのに、中身を見てみると知っているサメ映画そのまんまだったりする。
そういった方向性の違いが興味深いですね。
研究者から「サメ映画」の世界へ。実は共通点がある?
――日本におけるサメ映画ファンはどんな方が多いんですか?
色々な方がいますよ。
生き物としてのサメが好きという人もいれば、アニマルパニック映画やモンスター映画が好きという人、あとはもともと映画好きでサメ映画に流れ着いたという人……面白い人が多いので、自分でもそういうサメ映画好きが集まる場をつくろうとイベント(日本サメ映画学会など)を主催したりしています。
ただ特徴が1つあるとすれば、集まると意外とみんなサメ映画の話はしないんですよね。
サメ映画は好きという点で共通はしているのですが、最近観て面白かった他のジャンルの作品をしていることが多いです。
サメ映画、そんなに語ることが基本的にはないんだなあと。
――切ない……。ちなみに今ではサメ映画の翻訳や買付などのお仕事をされているとのことですが、ニッチなジャンルだと苦労とかはないですか?
うーん……特にないですね。
実は今の仕事をする前から、よく海外の監督たちにメールを出してやり取りはしていたんです。
そういった映画を作っている人たちは横のつながりが強いので、例えば「配給会社があの映画を買い付けたいんだけど権利元がわからなくて」と相談したら「監督と友達なんで相談してあげるよ」と返ってきたり……そういうネットワークを使いながら仕事をしている感じですね。
――監督たちに自分で連絡をしていたんですか? なかなかそこまでやるファンの方はいないのでは?
僕はもともと大学院で研究をしていた人間なので、「論文を読んでわからないことがあったら筆者に連絡をして聞く」というのが当たり前のことだったんですね。
そういうのも関係しているかもしれませんね。
――サメ映画に出会った時点では大学院で国際政治学を学ばれていたと伺いました。今の状況は、御本人的にはかなりの方向転換なのでは?
外から見るとそうかもしれませんね。
でも、ジャンル映画ってやっぱり“積み重ね”で、そのジャンルの中で先人がやっていない「新しい何か」をやろうという気持ちだけはみんな持っていて、僕たちは「どんな新しいことをやってくれるのだろう」と確認をするわけです。
アカデミアの世界でも、過去の文脈に乗っ取りながらなにか新しいことをやっていくというのは大枠では同じ。
だから僕の中では違和感はないですし、全部繋がっているんですよ。
――なるほど……! でも、ひどい作品を観続けると「もういいかな」とはならないですか?
ならないですね。「次行ってみよう!」という感じです。需要が有っても無くてもサメ映画を作りたい人は作るので、次々と観るべきサメ映画は登場しますから。
そうなるともう戦いですよね。
そもそも、どんなに酷い映画でも1か所くらいは「観るべきポイント」があると思うんですよ。
覚えておいていただきたいのですが、おそらくサメ映画に関しては「1本全編を通して鑑賞に耐えうる」作品なんていうのは1割に満たないです。
減点方式で観たら全て0点を下回ってしまうような世界なので、ぜひ加点方式で観ていただきたい。
「良かった探し」をしながら観る、それがサメ映画の楽しみ方です。
サメ映画の世界へようこそ! おすすめサメ映画
――せっかくなのでケムール読者へオススメのサメ映画をお伺いできますでしょうか。まずは、「サメ映画初心者にオススメの3本」をお願いします。
まずタイトルだけ挙げますと、『MEGザ・モンスターズ2』(2023年)、『シャークネードカテゴリー2』(2014年)、『ロスト・バケーション』(2016年)です。
『MEGザ・モンスターズ2』に関しては先程もお話しましたけど、ここからサメ映画に入ってもいいのでは? というくらいとてもバランスがいい作品。
ぶっ飛んではいるんですがまだ理解できる範疇ですし、“面白いサメ映画”として貴重な1本です。
『シャークネードカテゴリー2』はサメ映画の概念を変えてしまったエポックメイキングな作品で、何が凄いって「サメが飛行機を襲うシーンから始まる」という。
こんなサメ映画あるわけない、って思うかもしれませんがこの2が大ヒットしたことで『シャークネード』シリーズは6まで続編が作られます。
そういう方向性を決定づけた作品なのでぜひ。
というかこの『シャークネード2』がだめだったら大体他のサメ映画もダメだと思います。
――試金石的な作品なわけですね……『ロスト・バケーション』は。
これはもう、普通に映画としてよくできている作品なんです。
サメと人間のマンツーマンバトルだけで一本映画を作る、しかもそれだけで面白くしているという凄い作品。
「サメと人間の戦い」以外の要素を徹底的に排除し、シチュエーションスリラーとして見せているんですが、面白さに驚かされましたね。
そういう意味でオススメしたい作品です。
――ありがとうございます! では次に、サメ映画ルーキーさんが個人的に推したい映画3本をお伺いできますか?
『BAD CGI SHARKS/電脳鮫』(2019年)、『SANTA JAWS』(2018年)、『地獄のジョーズ/‘87最後の復讐』(1976年)です。
まず『BAD CGI SHARKS/電脳鮫』は昔脚本家を目指してた兄弟がケンカ別れをし、ある程度年を経てから再開するのですが、昔書いていた脚本が魔法のカチンコの力で現実になってしまうというお話で。このサメが酷いCGなんですよ。
――だから「BAD CGI」!
そうです。
ある意味サメ映画というジャンルそのものをメタ的にした作品であり、「ジャンルとしてのサメ映画の成熟」を表すような作品かなと思っています。
何本かサメ映画を観た後にぜひ観て欲しいですね、Amazon Primeとかで観られますので。
出典:コンマビジョン|【予告編1】BAD CGI SHARKS / 電脳鮫 コメント入り ©2019 A MaJaMa / ThisGasThing Production. All rights reserved.
『SANTA JAWS』は、日本未公開作品です。マンガを描くのが好きな男の子がいて、その子がクリスマスプレゼントで魔法のペンを貰うんですけど……。
――また魔法!
そうです(笑)。そのペンでたまたま描いてしまった殺人サンタが現実になってしまい、背びれにサンタ帽を被ったサメがクリスマスの街を襲う……という映画です。
これもサメである必要もサンタである必要も特にない映画なんですが、「理由のないもの同士を組み合わせてさらに理由のないものにする」という面白さの極地みたいな作品だなと。
日本未公開が悔やまれます。
――最後、『地獄のジョーズ』は。
1976年製作なんですが、サメに命を助けられたことがあるダイバーの男が主人公で、サメを守る活動をしているんですが、悪い人間に騙されて愛していたサメたちを殺されてしまう。
それに怒り狂った彼は、サメを使って殺した人間に復讐する……というある意味ダークヒーローものですね。
実は『ジョーズ』シリーズがヒットしたことで実社会でもサメのイメージがすごく悪くなり、レジャーとしてサメを殺す……というようなことがたくさん起こっていたらしいんですが、その状況を予見するような作品です。早いんですよ。
――面白そうですね! これは日本では観られないんですか?
VHSでしか出ていないんです。名作なので、ぜひどこかが配信や円盤化してくれるといいんですが……。
――今後注目の作品はありますか?
実は僕自信が関わっているものなのですが、2023年完成予定の『温泉シャーク』でしょうか。
特撮畑の人たちが集まって作る作品なので、最近の映画はCGばかりだな……と思うような人こそ楽しめる作品になると思います。
日本映画界の人たちは基本的に「サメ映画は売れない」と思っているのですが、この『温泉シャーク』という作品のクラウドファンディングがなんと1140万円を達成しまして。
いろいろな映画関係者に会うたびに「『温泉シャーク』凄いね」と言われるようになりました。
サメ映画は儲からないとは思いますが、「お金が集まるかもしれない……?」という勘違いが若干生まれているような気もしていて、これがいい流れに繋がるといいな、と思っています。
まとめ
ご興味を持った方は、この記事に出てきた作品をぜひ鑑賞してみてください。サブスクの「オススメ機能」がサメに占領される日も、遠くないかもしれませんよ……?