高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第28話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第28話】 XRとR(五)

 この図書室でいちばん高い場所、一番奥の棚の上に〝それ〟はあった。
「え、あれ、きみたちには見えないの?」
「見えないっす、先輩」と後輩社長。
「先生の認識がこのXRに反映されるまでタイムラグがあるんです。あるいは先生の認識がまだあやふやなのかもしれません」とチーフ。
 仕方ない。わたしは直接それを取りに行くことにした。
 手に取れば「認識」は明晰化するだろうし、ふたりに見せることもできるだろう。
「先輩、それじゃ届きません」
「うーん。梯子かな」
「じゃあ、あたしがはしごになります」
「は?」
 次の瞬間、後輩社長のホログラムがはしごになってしまった。
 ──このXRは先輩の意識情報から作った情報空間ですけど、あたしやチーフのデータはシステムが強制注入したものですからね。
 後輩社長が変身したのは古い木製のはしごだった。
 わたしは一段二段とあがっていきながら、何かを思い出す。
「……こういうふうにはしごをのぼるのは、高校生のころのわたしの楽しみだった──。高校のときに何かあった?」
「それは先輩しか知りません。思い出してください」
 今のわたしには個別の、固有の文字通りかけがえのない、交換不能な記憶というものはない。あるのは一般論だけ。
 一般論で言うと、高校のときなんて──見た目の人付き合いなんてものはさておいておくと──誰だって荒ぶっているものだろう。だからわたしにも当然そういうことがあったはずである。それがわたしの〈青〉であるはずだ。
 わたしは高校三年生だった。もうすぐ卒業する。高校生活の最後の日、つまり卒業式が近づいているということだ。
「先輩、あと二分ですよ」
 そう言って誰かがわたしに呼びかけた。
 後輩社長ではない。後輩社長は大学の後輩だから。
 わたしは校舎の屋上にいた。
 わたしは息を切らしながら必死に走る。わたしの背後から追いかけてくる存在がいる。あれは、あの黒い塊はいったい何者なのか。わたしはなぜ追われなくてはならないのか。
 あと何秒?
 振り向くとそこには巨大な青い影が迫っていた。何よりも速く、恐ろしい速度で。一瞬でわたしとの距離が詰まる。
 高校生のわたしは死を覚悟した。しかしそのときわたしは信じられないものを見た。巨大な手がゆっくりと迫ってくる。わたしを優しくつかむために。
 手? これは……この大きな手は、まさか……!
「……先輩! 先輩!」
「あっ!」
 気づくとそこは高校の図書室。R{現実}ではなく、作られたXR{拡張現実}にまだわたしはいた。
「……ああ、びっくりした。夢見てたってこと?」
「そうです」
「さすが、超リアルなやつ」
「超リアル?」
「うん。わたし、今すごくひどい夢を見て、少し思い出したかも。たぶんわたし、高校生のころにすごい怖い経験をしてるんだよ」
 後輩社長が悲しげな表情を浮かべたのを見て、チーフが助け舟を出してくれた。
「そうですか……。わかりました、先生」
「うん。なんかごめん。思い出したいんだけど、全然思い出せない。このことについては思い出さないといけないって思ってる」
 ──大丈夫。ゆっくりいきましょう。
 後輩社長の声がXR図書室のスピーカーから聞こえてくる。
「あの、先生……」
「ん?」
「先生が持っていらっしゃるものって……」
「え?」
 そう言われて初めてわたしは気がついた。わたしの右手は今、何かを握っている。
 このXR内はとても繊細で、歩いたり触ったりした感覚はすべてRのわたしの体に感じられている。
 ──先輩、慎重にお願いします。
「うん……」
 わたしは意識的に自分の手を目の前まで動かした。まるで遠隔操縦の巨大重機を動かすみたいに。
 その何かはひどく軽い。そしてわたしの手からはみ出している。
「スカーフ?」
 わたしは落とさないように慎重に両手で広げていく。記憶喪失前のわたしはスカーフなんて使うキャラだったのだろうか。
「あれ、これは……」
「国旗ですね。えっと北欧のほうの──」
 記憶喪失前のわたしもきっと世界各国の国旗については無頓着だったのはなんとなくわかる。チーフはチーフで数学ばかりしていたのだろう。そして記憶喪失前も後も、わたしはそういうチーフがすきみたいだ。
 ──スウェーデンだよ、チーフ! あたしIKEAのヘビーユーザーなので!
「あ! IKEAはわかる!」
「先生、それは記憶の連鎖回復反応です!」
 ──チーフ、ゆっくり、だよ。
 チーフがうなずき、わたしもテンションを抑える。
「落ち着いていこう。IKEAには行ったことがある。東京にはいくつかあるよね?」
「……はい。先生、ワタシは最小限の返事しかしませんので、どんどん思い出してください」
「うん……。IKEAのホットドッグは超安い……。立川だ。東京都立川市にある?」
「はい!」
 でもわたしの部屋なんてそんなに広いはずもなく、なんて考えているということはIKEAが主に家具を売っているところだということも思い出してきたわけだけれど、
「IKEAで国旗なんて売ってる?」
 ──……どうでしょう。あんまり答えないほうがいいですが、探せばあると思います。スカーフとかタオルとか。
「あー、わかる」
 わたしはチーフに半分持ってもらっていたスカーフを首に巻いてみる。この感触。全然覚えてない。だけど、
「わたし……思い出したかも」
 ──まじすか。
「先生! わたしの名前は?」
「あー、ごめん。口調が深刻だった? 記憶全部じゃなくて、これどこで買ったのかって」
 チーフはあからさまにがっかりして、それでも記憶の連想は起こっていることには喜んでくれていて、それはわたしにとってとてもうれしいことだった。ってさっきから何回も言ってるな。
「これ、わたし、スウェーデンで買ったんだ」
 XRの宇部市は光と共に切り替わって、わたしとチーフはXRスウェーデンに立っていた。

〔第28話:全2,325字=高島執筆128字+AI執筆2,197字/第29話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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