高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第2話

▶これまでの『失われた青を求めて』
小説家+SF考証・高島雄哉氏と、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」による、人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。第二回です。

【第2話】 小説家のほうへ(二)

 原稿料は月1万2千円。原稿はテキストデータで送ることになっているから、校正や直しの指示がきて、直せばまた原稿を返すという流れ。だから、このあと何度校正や修正が入るかわからない。でもそれはきっと小説が生まれるために必要なことで──とそこまで考えて気づいた。
 わたしの小説家としてのキャリアは、十年前に始まり今ここで終わっている。
 わたしは、小説家になるのだ! ◆わたしは十年前の自分に「小説家になったよ」と言う。きっと「だからなんなの?」と冷たくあしらわれることだろう。でもそれでもかまわない。きっと信じないのだから。そして今、ここにいることの意味がなくなるのだから。
 だから、今、十年前のわたしに向かって言うのだ。
「小説家は楽しい」と。
 このすぐ前の『「小説家』までが、連載第一話をふまえてAIが書いてくれたものだ。文章的にも内容的にも読めるものにはなっている。
 ただ、さすがに原稿料はもう少しもらえるし、何より今回は直しのやりとりが違っている。
「AIが書いたままの文章のほうが面白いでしょう」
 電話の向こうの担当さんの言葉に、わたしは全力で同意した。
 AIの文章は、わたしの文章を入力として、出力される。わたしの文章が少し変わるだけで、続きを書くこのAIの出力は変わってくる。だから、AIの文を直さないなら、わたしの文も直せないのだ。
「面白いと思います。それでいきましょう。ところでタイトルの青って何か意味はあるんでしょうか」
「あります。あるとおもいます」
「は?」
 わたしは、わたしが十年前に送ったタイトル案がディスプレイ上に表示されていることに気づいた。
「じゃあそういうことにしておきます」とだけ言って、わたしはこの会話を終えた。
* * *
 ◆AIは十年後のわたしだった。十年かけて、ようやくここまで辿り着いたわたしは、「そう、そうなんだよ」と一人呟いたのであった。
「先生」
「あ、はい!」
 わたしがあわてて顔を上げると、生徒の顔が視界に広がった。どうやらわたしの思考は教室を出て、十年先の自分との対話へと飛躍してしまっていたようだ。いやそんなことを言い訳している場合ではなく、今日もまた一日の授業が終わったところなのだから、わたしには帰らねばならない現実がある。
 今AIは『あります。』から『帰らねばならない』までを出力した。会話文は何とか成立しているし、わたしが塾講師をしていることにも触れてくれた上、こうして続きが書ける出力にはなっている。
 しかしちょっと長い気がする。せっかく対話みたいなことをしているのだから、わたしもAIも250字ずつくらいで往復したほうがいい。あと八十字書こう。
 これは長編小説の連載だ。いつまでも同じところにいては面白くない。タイトルの意味がわかるのはもう少し先であって、今回はそこにたどりつくためのストーリーを考えるべきだ。
 AIもそれを待っているのではないか。
 ではこの日誌は、今日の授業について書けばよい。
 授業で話したのは主に英語と数学だが、国語の話もしなくてはならない。国文科の教師をしているわたしが、古典で習うような言葉を、英語で喋ったらおかしいからだ。わたしの国語の成績は普通だったし、今もあまり変わっていないと思う。でも「それはちょっと」と言いたい出力もある。
 この小説はきっと、どこまでがAIでどこからがわたしが書いたのかを想像しながら読み進めるものになるだろう。それは広い意味ではストーリーと呼べるのかもしれないが、わたしが「待ってい」たのはもっとわかりやすいストーリーだ。
 AIが待ってくれているみたいだし、わたしが考えるしかないみたいだ。
 黒板をきれいに拭き終わって塾を出たところで後ろから声をかけられた。……もう少し書こう。
「先生、質問いいですか?」
 振り返るといつも一番前の席に座っている子だった。
 いつもまっすぐ前を向いて真剣な顔をしているけど、よく見たら結構可愛い子でもある。その子は鞄の中から文庫本を取り出した。「この本にでてくる『失われた(何か)』というのはいったいなんでしょうか? 先生が授業中に話していた内容と関係するのかなと思ったのですが……」……この展開を待っていました。
「失われたものは、きっとそのようにしか呼べないもの、少なくとも今はそう呼ぶしかないもの、というのが今のところのわたしの意見です」
 わたしは生徒に対して丁寧語で話す。この展開?
「あれ? その文庫って──」
 確か学級委員をやっているというその子は、訪れつつある冬の冷気みたいな笑みをわたしに見せた。
「先生、小説家さんなんですね」
 まさかこんな展開になろうとは。
 わたしが勤めている塾は地域密着型の小規模校で、塾講師の名前入りのパンフレットなんてないし、この子は高校二年生だから、自動的にわたしが受け持つ「受験国語2」を受講しているだけにすぎない。
 なのに、なぜバレてしまったのだろう。もしかしたらあのときの会話を聞かれていたのだろうか。だとしたら「あります。」「帰らねばならぬ」「それは違うんじゃないでしょうか?」あたりだ。ああ、まずいなあ……。でもバレてしまったなら仕方がない。この生徒は真面目でいい子だというのはわかっている。ここで隠すと却って印象が悪いし、わたしが塾講師をしていることをネットに書かれるのも──別に困るわけではないけれど──できれば避けたい。
「私、SNSしてないので、そういうことは心配しなくて大丈夫です」
「ああ、そう……」
 つまり、別の心配はしたほうがいいということか。
 わたしは身構えつつ、
「じゃあ質問はそれだけならまた来週ということで、気をつけて帰ってください」
「用事はこれからです」
 わたしはため息をついた。「で、どういうことなのかしら?」
「私は文芸部に所属していて、うちの学校は文化祭の時に『図書室で何か面白い企画をしなさい』と校長に言われていて、去年から『小説家になっちゃおう』の企画を始めたんです。で、一年目で三冊出したから『今年は何にするの?』という話になって。──先生、助けてください!」
 なるほどなるほど。さすがAIというべきか、わたしの口調はちょっと違うけど、ストーリーの始まり方としては悪くない。高校に行けば何かが起きるだろうし、この子には何か別の狙いがあるのかもしれない。
 これは塾講師としてのわたしではなく、小説家のわたしへの依頼だろう。口調をちょっとだけ砕けたものにして、泣きそうになっている子に話しかける。
「わかったから安心して。企画書、簡単でいいからメールしてくれると良いかな。来週までに考えておくから」
「企画書って何ですか? 私行きたかったカフェがあるのでそこで教えてもらえませんか。あ、もちろん私のおごりです!」
「それはありがたく受け取るけど、その前にわたしに企画の説明とか説明用のテキストをくれると助かるかな」
わたしの言葉を聞いて、目の前の子の顔が輝く。
「ありがとうございます。それじゃあ詳しいことは放課後、教室までお願いします」
 と言ってその子は小走りで駅の方に向かっていく。
「あーちょっと」
 わたしはあの子が去り際に押し付けてきた名刺を眺めた。放課後って明日の?
 一定時間が過ぎたせいで、ARメガネが読み取りモードになって、名刺のアドレスから勝手に挨拶メールを送ってしまった。すぐに返事が来る。
 ──明日よろしくお願いします。高校に着いたら電話してください!
 次回予告のように──AI向けに──書いておくと、翌日あの子に会うことはできなかった。あの子は高校の中で行方不明になったのだ。わたしに渡した青い名刺一枚を残して。

〔第2話:全3,070字=高島執筆1,724字+AI執筆1,346字/第3話に続く〕

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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