高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第5話

▶これまでの『失われた青を求めて』
小説家+SF考証・高島雄哉氏と、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」による、人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第5話】 小説家のほうへ(五)

 あのとき『失った子』のほうから先にわたしを見つけ、駆け寄ってきてくれたのだ。その瞬間に、すべてが決まってしまった。
新入生歓迎コンパがあった日の帰り道、二人だけで抜け出したのだ。
二人で。その事実だけがわたしとあの子を繋ぐすべてであり、あの子を失ってしまった後のわたしを支えるすべてになった。わたしたちが恋をしたかどうかは定かではない。
『失われた何かを求めて』
それがあの子の最後の言葉だった。
タクシーが六本木駅を過ぎる。もうすぐ後輩の事務所だ。
「その子も探してみますか」
「は? 要らん」
「大学に来なくなるって結構普通じゃないですか。自分のクラスでも一番優秀だったやつが財務省の内定とってから行方不明になりました」
「それは──」
それは財務省の仕事がつまんなさそうだから、なんて言いつのるところだった。
「──色々あるんでしょう。わたしたちは、どんなに言葉を尽くしてもAIを何機使っても、わかりあえることは滅多にない」
「たまにはわかりあえるって余地を残すところが先輩のかわいさですね」
もちろんわたしは無視をして、開いたドアからタクシーを降りる。料金は七千円を超えていた。そういえばさっきのカフェもおごられたけれどわたしは一切気にしない。向こうだって一ミリも気にしていないのだ。
それが悪徳の都・六本木のルールである。
「ようこそおいでくださいました」
と後輩の出迎えを受け、勧められるがままに革張りの応接ソファに座っている。
わたしが小説家になったのは、もちろんあの子が好きだからだったし、新人賞に応募して、受賞してからはあの子とあの子を探し続けて生きてきた。わたしは小説家としてそれなりに売れて、いつか『失われた子』がいる村に行くのだ。
「それで、わたしの生徒はどこ?」
「はいはい」
後輩弁護士はパソコンに向かってなにやら打ち込み始めた。すぐに結果が出るらしい。AIは便利な世の中になってよかったと感心するけれど、あの子との別れを思い出すたびに少し寂しい気持ちにもなる。
「見つかりませんでしたね」
「……え?」
「だから、『失われた子』ですよ」
後輩はにこりと微笑む。
「いやいやいや、警察から出してくれたのは感謝するけど、こんなところまで引っ張り回して、どういうつもり?」
「どうせ暇なんでしょう」
「まあそうなんだけど」確かに忙しくはない時期だけれども。
「それに先輩、小説を書きたくなってるんじゃないですか」
「……まーた、そういうことを言う」
「はい。また、言いますよ」
…………………………
わたしは自分の小説を書くことにした。タイトルは「わたしと──何だったかな。全然思い出せない。
でも小説家になると決めた日のことははっきりと覚えている。
わたしとあの子は同じ寮に住んでいた。あの人は二年生、後輩たちはまだいなかった。
一年生の秋のある日、誰にも言わずにあの子は退寮届をわたしの部屋のドアに貼ってそのままいなくなってしまった。映画を見て夜遅く帰ったわたしはそれを開けることなく、あの子の部屋に駆け出した。いつから準備していたのか、部屋はからっぽだった。冷たい床に置かれたノートパソコン以外は。
以来、わたしは寮のロビーでずっと小説を書いた。
わたしはあの子が小説家を志していたことを知っていた。なぜあの子がそんなことをしたのか理解できたから、涙が出そうになることもあった。
やがてあの人は卒業していったが、その後もあの子は見つからなかった。
それから三年後の夏、後輩と悪徳の六本木で再会して、『失われた子』のことを聞かされた。
「わたしと、わたしと……」
後輩が──司法試験に受かったばかりの後輩が──わたしの肩に手を置いた。
「先輩とあの子のことは寮のみんな知っていましたから。いつでも人探しの依頼してください」
…………………………
思えばこの後輩は寮生時代から六本木によく遊びに行っていた。わたしはと言えば、今でも年に数回だけ、森美術館や国立新美術館あるいは2121デザインサイトの展覧会を見に行くくらいだ。
「『庵野秀明展』行った?」
「自分がフィクション摂取しないこと、知ってますよね?」
庵野監督は確かにフィクショナルな存在かもしれず、アニメもゲームも小説も映画もまったく触れることがないくせに、わたしが面白がりそうなコメントができるから──そのギャップだけが面白くて──わたしはこの後輩との連絡を切ることはなかった。あの子や、ましてあの人との唯一の接点だからではない。
「まさかあの子って寮の子じゃないよね?」
「あの子とあの子を混同しませんよ」後輩は笑う。
後輩は言う。
「わたしは、AIは絶対に人を傷つけることはあり得ないと信じています。でもAIに人間の魂を込めることができるかどうかには確信が持てません」
「わたしが信じているのはわたしだけだ」
「わたしもそう思いたいです」
わたしとあの子には決定的な違いがあって、それを埋められるのはわたしだけだった。あの子を失ってしまったのと同じように。
この世界においてAIは人を決して裏切らない。
だけどあの子を失ったように、この世界のAIがわたしの大切なあの子を見つけることはないだろう。それはあの子に申し訳なく、そしてとても悔しいことだった。
わたしは、わたしにしか見つけられないあの子のことを書こうと思った。

〔第5話:全2,143字=高島執筆1,096字+AI執筆1,047字/第6話に続く〕

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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