高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第3話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏と、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」による、人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。
【新訳】として再スタート、3話目です。

【第3話】 小説家のほうへ(三)

 自分の浅はかさがおかしくて、思わず一人で笑い出す。そんなことをすればかえって怪しまれることはわかっているのに。
 あの子と文化祭について話し合うつもりで学校内にのこのこ入って──たまたま守衛にも教師にも会わずに図書室までたどりついて──あの子を待っているつもりが、今やわたしのまわりは教師たちが取り囲み、警官もつめかけている。
 メガネが没収されるのではと思ったけれど、録画データをネットに挙げないようにと警官から注意されただけで、そう言われて初めて録画を思いつく始末だった。
 外は暗く、生徒はとっくに全員下校している。ひっそりとした校舎の裏口から、駐車場へと連行された。
 この頃には開き直って、パトカーに乗るのは初めてだと期待したものの、実際は普通の電気自動車だった。左右は屈強な刑事に座られて、逃げようという気すら起きない。
 荻窪警察署の取調室は明るく、しかし装飾も何もない白い立方体で、わたしや机や椅子が展示されている美術館みたいだ。
 対面に座る刑事が、ファイルから目を離さずに話し出す。
「先生のご自宅からあの図書室まで、監視カメラに一度も映らずに行くルートが三つありまして」
 うつむいたその表情からはわたしを疑っているかどうか全然わからない。
「未成年が行方不明ということで、先生のご自宅はこちらで家宅捜索させてもらいました」
「協力はまったく惜しみませんけど、わたしはあの子のことをほとんど何も知らないんです」
「知らない子と図書室で会う約束をして、受付も通らずに図書室まで入ったと?」
「それはわたしが大人げなかったというか、まずは保護者さんか担任の先生と話せばよかったし、受付が見つからなかったんです。わたし方向音痴なので、ってこれ全部さっきあなたに言いましたよね?」
「警察の仕事の多くは確認なんですよ、というのは昔読んだ推理小説のセリフだったかな。先生、ご存じですか」
「わたし、ミステリくわしくないので!」
 こういうのも取り調べのテクニックだったりするのだろうか。
 あの子はうれしいことに──今となってはうれしがっている場合ではないのだけれど──わたしと会うことをとても楽しみにしていて、親や友達にも伝えていた。
 ところが約束の今日、わたしには全然めずらしくないこととして、寝過ごしてしまった。メガネにはあの子からの着信履歴が五十件はあった。
 落ち合う日時や場所を確認するためにあの子の青い名刺のアドレスにメールを送って、これもわたしにはよくあることとして、うっかり仕事上の署名を入れたまま送ってしまって、あの子にはわたしの電話番号も住所もバレてしまったのだ。
 寝坊したわたしはともかく謝ろうと電話をかけつつ、急いで家を出て高校に向かった。あんなに着信があったのに、電話はつながらなかった。怒っているのだろうと、荒ぶっていた高校時代のわたし自身を思い出しながらあの子が通う高校の図書室の扉を開けたのは一時間前。でも──あの子はいなかった。
 わたしは図書室の隅でメガネAIに尋ねた。
『約束、本当に今日?』『はい。ただし百七十一分の遅刻をしています』
 図書室の生徒たち全員がちらちらとわたしを見ていた。──そうか、あの時点でわたしのことが話題になっていたのか、と今にして思う。
 視線を避けるように廊下に出ようとしたところを、教師陣に捕まえられてしまった。
 そして目の前の刑事さんがわたしをここまで連れてきた。
「三十分ほど前に110番通報がありまして。あの子が図書室にスマホも鞄も置いたまま、塾の先生を探しに行って二時間帰ってこないと」
 そういうことなら当然通報されるべきだ。わたしが疑われるのも仕方ない。当人としては疑いを晴らそうと思うけれど。
「メガネのAIがわたしの活動を記録してるはずです」
「AIの証拠能力は議論中ではありますが、お話は了解しました」
 取調室のドアが開き、部下らしい若手が刑事さんに耳打ちしてすぐに出ていった。
 刑事さんはファイルからわたしに目を移した。
「お母さんが下にいらしていて、先生に会いたいと。今お会いするのはよろしくないと判断しまして、別室に通すように指示しました」
 きっとお母さんはわたしを疑っているだろうし、いきなり殴ってくるかもしれない。こちらとしては少しくらい殴られてもいいのだけれど、お母さんにとって良いこととは思えない。
「弁護士……」わたしはつぶやく。
「はい?」
「当番弁護士を呼んでください……」
「さすが先生、よくご存じだ。塾の国語の先生で、小説家の先生でもあるんでしたね。手続きしてきます」
 事実確認なのかイヤミなのか、ともかくそう言って刑事は出ていった。わたしと共に残された記録担当の警官は、タブレットで何やら仕事を始めた。これまでの調書をまとめているのだろう。
 わたしはメガネを小説モードに切り替えた。原稿を直して来週中には送らないと。こういうところでこそ仕事がはかどるらしく、一時間後には二話目まで修正することができた。
 果たして現れた弁護士は、わたしの先輩──あの人──ではなかった。
「今日、きみの番だったのか」
「何してんすか、先輩」
 弁護士は、わたしを先輩と呼ぶ、わたしやあの人にとっての後輩だった。
「何もしてない」
「高校に勝手に入っちゃダメでしょ」
「それは……! きみのことだから全部知ってんでしょ?」
 そつのない後輩はあちこちにコネがある。仕事も早い。
「ええ、話はついたので行きましょう。忘れ物しないでくださいね」
「……費用は?」
「要らないです。申請書類を書くほうがめんどくさいんで」
 二人で取調室を出たところでわたしのメガネに着信がある。
 警察の廊下をとぼとぼ歩きながら電話に出た。
「もしもし? 今ちょっと立て込んでるんだけど」
『どうしたの?』
「警察で事情聴取されてた」
『はあ!? 大丈夫?』
「平気だよ。もう出るし」
『もしかしてあいつに出してもらった? 私も行っていい? ほら、私って──』
 ここでわたしは電話を切った。いきなり新キャラが出すぎだ。
 初回から言及されている〈あの人〉はわたしの先輩で、かつてわたしと一緒に住んでいた。そしてわたしたちには後輩が二人いる。
 四人は同じ大学の学生寮に住んでいて、腐れ縁と言うべきなのだろう、卒業後もこうしてたまに連絡をとっている。あの人とわたしの前を歩く後輩は弁護士になり、わたしは書いてきた通りの人生を送り、電話をかけてきた後輩についてはまた今度書くこともあるだろう。
 警察署を出て、弁護士の後輩が振り返った。
「ごはん食べに行きましょう」
「いいけど、まさかわたしとごはん食べに来たの?」
「まさか。これでも飛んできたんですよ。先輩が困ってると思って」
 わたしに構わず、悪徳弁護士らしく銀座にでも行けばいいのに、みたいなことは言ってやらない。調子に乗るに決まっているから。
「このへんの店知らないし、うちもダメ」
「それは残念」
 結局、近くの喫茶店に入った。正直わたしは疲れていて、もう断る元気もなかったのだ。
 珈琲党のあの人とはよく荻窪の喫茶店に行った。
 ──言いたいことがある。
「なんですか? それよりこれにガムシロ入れてもいいですか?」
 ──いや、わたしのカフェラテだし、きみもう入れてるね。
 これは十年以上前の会話だ。こんな他愛のないことを覚えている自分にムカつく。後輩がカフェラテなんて頼むからだ。
「ちょっとちょっと先輩、なんでひとのカフェラテにガムシロ入れるんすか」
「うるさい」
 あのときあの人は何かを言いかけていたのか、それとも単にガムシロを入れるなと言いたかっただけなのか、もし今日ここに来てくれれば──なんてことを考えている場合ではない。
 今大切なのはあの子の行方だけだ。
「あの子が見つかったら警察から連絡は?」
「何か進展あれば、うちの事務所に連絡が入ることになっていますから、すぐ先輩に知らせます」
「……ありがとう」
「あ、なんかしおらしい」
「だまれ」
 ちょうど後輩のパスタとわたしのオムレツが運ばれてきて、しばし何も話さずに食べ続ける。
 寮ではたいてい四人で飲み食いしていたけれど、そういえば次に多かったのはこの後輩と二人きりの食事だった。もしかしてあの頃からこの後輩はわたしに関心があったのだろうか。昔はもうちょっとかわいげがあった気がするのだけれど──
「実はですね」
「はい?」
 突然話しかけられて声が裏返ってしまった。
「先輩には今夜連絡するつもりだったんです」
「へえ」
「先輩が昔から探している〈同期の子〉に関する情報が手に入ったんです」
 わたしたちは互いの顔を眺め合ったまましばらく黙っている。
 やがて、後輩が先に口を開いた。
「先輩、あの子に会いたいですか?」
 わたしは後輩をにらみながら、ゆっくりとうなずいた。

〔第3話:全3,516字=高島執筆1,908字+AI執筆1,608字/第4話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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