高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第8話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第8話】 小説家のほうへ(八)

 弁護士をしている後輩は、あの子(塾講師としてのわたしの生徒)の件で取り調べられていたわたしを警察から連れ出すためにやって来た。それがいつのまにか、あの子(かつて大学生だったわたしの同級生)の件に変わっている。
 つまり、あの子(現在の生徒)とあの子(かつての同級生)は何らかの関係があるのは間違いない。
 わたしはAIに問いかけてみる。
《予想1》「親子」
《予想2》「親戚」
《予想3》「従姉妹」
 以下同じパターン5回続いたところで読む気が失せてしまった。
《予測5:「友人・同僚」あるいはそれに準ずるもの》 とハイヤーAIが告げる。
 うーん?
 ……確かにわたしたちは友達ではあった。わたしがあの子をすきなのと同じように、あの子はたぶん──おそらく──わたしがすきだった。わたしたちは一緒にいて楽しい時間を過ごしていたはずだ。だけど、あの子とわたしの関係を何と呼べばいいのか。あのときの感情がうまく思い出せない。あの子に恋人がいたのかもわからない。
 しかし今はそんなことをぐずぐず考えている場合ではない。
 とにかくまずはこのビルにあの子がいるかどうかだ。あの子がいたら──どちらのあの子であっても──いっしょにここを脱出しなければ。
 AIがビルの入居状況を見せてくれる。
 上層階には弁護士事務所がずらりと並んでいる。後輩の名前も、わたしたち共通の先輩であるあの人の名前も、見当たらない。
 ──どちらもお電話はつながりません。
 後輩はわたしを放置して外出してしまった。わたしに気がある素振りをするのは学生時代からの、あの不器用な後輩なりのわたしへの距離のつめかたで、本気ではないとはわかっている。とはいえわたしのことは最優先に近いところに置いてくれていて──いくらわたしでもそれについては感謝を数度は伝えているはずだけれど──そういう事情を超えて、後輩ともしかするとあの人は、このビルとは全然別のところで、あの子の件とは全然別の案件に対応しているかもしれない。たとえば大物タレントが何かやらかして複数企業のCMを急遽差し替えることになったみたいな。
 ビルの地下駐車場から非常階段で上がることにする。一階の非常ドアをそっと開けると、警官や消防士が何十人と詰めかけていて、慌てて閉めた。
「さいあこ」
 寮時代、わたしが例によって寮のロビーで卒論を書きながら「最悪、最悪」と独り言をつぶやいていると、後輩が通りかかった。
「先輩、楽しそうですが最悪なんですか」
「うるさいな、じゃあさいあこにする」
 という、しょうもない売り言葉に買い言葉で生まれた言い方ではあったけれど、存外わたしは気に入ってしまって、以降こういう──階段を三十階ものぼるようなときには、いつも使っている。
「あー、もう、さいあこ!」
 わたしのバカみたいな叫びが非常階段の上下に響く。
『最悪のタイミングはいつ訪れるのか?』
 AIたちに尋ねると、ハイヤーAIがまっさきに回答した。
 ──現在進行形です。
 なるほど確かに。
 わたしが最上階のフロアに入った途端に扉のセンサーに感知されたようで照明がついた。
 天井と床と窓枠のガラスが割れている以外は、いたって普通のオフィスビルだ。普通は何も割れてないわけだけれど。
 何台もあるエレベーターの前には消防士たちが集まっていて、わたしはささっと手近の部屋にすべりこんだ。
 ──おめでとうございます。あなたの運勢は非常によくありません。
 ハイヤーAIはまだしゃべっていた。ハイヤーAIは客の気分が良くなるような話をするはずで、不運なんて、事実に違いないものの、わたしに言うはずがない。もしかするとハイヤーか通信環境に何かトラブルが起きている?
 ──あなたの職場には「元カレ」「今カノ」「既婚者」「セフレ」など、あなたを誘惑する存在が多数いますが、「上役」だけは警戒する必要がほとんどないと言えるでしょう。
 誘惑か。わたしは面白くなってしまう。
「まじで?」
 ──マジですよー。わたしの言うことを信じましょうよ。あなたってばかわいいしー!
「わかった。信じる」
 わたしは謎の元気を受け取って、爆発音のするほうへ駆け出した。
 フロアは広大で、煙も薄く立ち込めていて、消防士に見つかる確率は低そうだ。
 わたしは後輩とあの子とあの子の名前を呼んだ。だけど何も反応はない。
 代わりに屋上への避難口を見つけたわたしは何も考えずに駆け出した。
 ──先輩はどうするつもりですか。
 ハイヤーAIに尋ねられたものの、わたしの行動原理は揺るがない。
 あの子だけだ。
 後輩やあの人が──わたしのために動いてくれている可能性は高いのだけれど──何をしていようと、わたしはあの子のがわに立つ。
「さいあこだ。落ち着け、わたし」
 わたしは慎重に屋上のドアノブをひねっていく。非常時だからだろう、鍵はかかっていない。扉を開く。冷たい風が吹いてきた。空は暗く、星がいくつか瞬いている。わたしは息を止めて、一歩ずつ進んでいく。
 ヘリポートにあの子が立っていた。わたしのバッグの中にあるタブレットの持ち主。わたしの寮の同室者。
 あのときとほとんど変わらない。髪を長くしているくらいだろうか。
 あの子はじっと下を向いている。
 わたしは声をかけようとして、でもためらった。あの子の顔が──ひどく歪んでいるように見えたからだ。あの子は泣きたいのを必死で我慢していた。そして、そんな自分を呪っているようにさえ見えるのだ。
 その理由はすぐにわかった。いや、詳細はずっと後になるまで全然わからないのだけれど、あの子が置かれている状況が混乱していることは明白だった。足元にはあの人が倒れている。二人の後ろには後輩も横たわっているではないか。
「先輩?」
 わたしは思わず駆け寄ってしまう。だってあの人──先輩は爆弾のようなものを握っているから。スイッチのようなものを押そうとしているから。
──先輩はどうするつもりですか?
 ハイヤーAIの予想機能も、しかしここまでだった。
 先輩がスイッチを押す前に、屋上全部が爆発して、せっかく会えたあの子も、先輩も後輩も、わたしのメガネもわたしの意識も吹き飛ばされてしまった。

──「第一編 小説家のほうへ」完──
次回より「第二編 花咲く乙女たちの中心に」

〔第8話:全2,469字=高島執筆823字+AI執筆1,646字/第9話「花咲く乙女たちの中心に(一)」に続く〕
▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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