高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第11話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第11話】 花咲く乙女たちの中心に(三)

 本来わたしの頭蓋骨を突き抜けるように爆発するはずだった──書いているだけで空恐ろしくなる──致死性ドローンは、後輩が投げつけた〈アンチドローンドローン〉によって、わたしの目の前で弾け飛んだ。
 AIベンチャーの社長をしている後輩が車から降りて、わたしに駆け寄る。
「先輩! 生きてますか!」
「見たらわかるでしょ……。もうダメ」
「それだけしゃべれれば大丈夫です!」
 車椅子から転げ落ちたわたしは、後輩に助けられながらやっとのことで座り直した。どうやら電動車椅子は壊れていないみたいだ。
 そのとき笑い声が聞こえてきた。
 近くに飛んでいたメガネからだ。
 殺人鬼との通話はまだ続いていたのだ。
 後輩がわたしにメガネをかけてくれる。
『今ので死なないなんて、あなた頑丈なんだね。──ああ、なんだ。後輩に助けてもらったのか』
「わたしに話があるんじゃなかった? 殺しちゃっていいの?」
『あなたがイラつかせるから。ひとをイラつかせる天才ってあなたのことだね』
「新人賞獲ったときに審査員の誰かも言ってた気がする」
『ますます殺したくなる』
 後輩社長はもちろんわたしよりも早く状況を理解して、空中で手を動かす。本人にだけ見えているAR──拡張現実のキーボードで、わたしにメッセージを送っているのだ。
 ──先輩、その調子で話を引き伸ばして! あたしのドローンが弁護士先輩のスマホ使ってるやつのところまで行きます!
 そんなこと言われてもな。もう結構つかれてるんだけど。
 とはいえこのままわたしが死ぬと、先輩や後輩の弁護士たちはさておき、あの子(高校生)もあの子(わたしの同期)も殺されてしまうかもしれない。
「……わかったから、どうしてわたしを殺したいのか、早く教えてよ」
 引き伸ばしていると感づかれないように、逆に相手をせかすという、我ながら単純すぎる作戦だ。
 しかしこれは相手の──殺人鬼の──要求でもある。乗ってくるしかないはずだ。
『ホント、あなたってムカつく。さっき言ったとおり、あなたは自分勝手で、それはつまり、相手に選択肢を用意しないってことなんだよね』
「確かに。そうかも」
 と素直に認めるのもたぶんムカつかれるポイントなのだ。怒っている相手が怒りの矛先を見失ってしまう。二度も爆発に巻き込まれると、さすがにわたしへの悪意に気づかされる。わたしのことをムカついているのはこの殺人鬼以外にも結構いたりするのだろう。あんまり想像したくないけど。
「ん? ムカツクから殺すってこと? 殺されなきゃいけないくらい自分勝手かな」
『問題はあなた個人よりも少しだけ大きい。だからあなたの罪と罰がつり合ってないと言った。でも、これは理不尽な死ではないし、理由のない殺意でもない。あなたはある意味で、本当に悪なのだから』
「どんな意味でも善人って人がいたら、それはそれでまわりに悪いことが起きると思うけど。わたしなんてそんな人にあったら卒倒しちゃう」
 ひっひっひと引くような笑いが聞こえてくる。
 わたしは人が楽しいと思ってくれる小説を書きたい。それはデビューしてしばらくしてから自分のこととして理解したことだ。
 とはいえ笑いには色々な種類があって、この殺人鬼の笑いは──こういう種類の声音は初めて聴いたけれど──たっぷり殺意がこもった笑いだった。
 ──犯人いるの、吉祥寺です!
 ドローンを街中で飛ばすのはきっと問題があって、わたしたち大人の命でつり合うかどうかはさておき、高校生のあの子の命のためなら、ドローンなんて百機でも千機でも飛ばせばいい。
 わたしがさらに話を引き伸ばす元気を得た次の瞬間に聞こえたのは、殺人鬼の舌打ちだった。
『あなたの後輩は優秀だね。こっちのドローンがロックオンされちゃった。私とは別の方向に飛ばすけど。次は逃さないからよろしく』
「待った!」
 ここで切られてはたまらない。
「わたしを殺したい理由! 教えてよ! ヒントだけでも!」
 これは本当に知りたいことだった。
 自分がなぜ殺されるのか。
 これくらい知りたいことはなかなか思いつかない。
 もちろん知りたいことはたくさんある。小説の真実、宇宙の始まり、この世界の可能性のすべて、史上最高においしいコーラがあるというなら飲みたいし、完全無欠の善人がホントにいるなら会ってみたいし、どうして人は愛し合い、憎しみ合うのか、もしわたしの知的能力でわかるものならわかりたい──本当に知りたいことというのは、どうやら命を懸けないと知ることはできないみたいだ。
 わたしは半ば興奮しながら、殺人鬼の言葉を待った。
『あなたを殺すのは──あなたに生きていられると……困るから』
 困る……。困る? 困るから殺す? わたしは心のなかでその言葉を繰り返し、ぼんやりとつぶやく。
「なるほど……」
 ──先輩しっかり! 困るなんて、何も言ってないのと同じです! あたしたちだって困ってるし!
 賢い後輩はそう言うけれど、わたしとしては結構わかったこともある。
 この犯人は、わたしに恨みがあるわけではないらしい。ムカついてはいるみたいだけど、それよりもわたしが邪魔なのだ。
「たとえばそこに居座られると困る、みたいな? 店でずっと同じところにいる人っているよね。わたしも決めるの遅いから立ち尽くしがち」
『全然そういうんじゃない。たとえるなら、あなたの歌がうるさい、だから困るってこと』
「歌? 小説のこと? わたしの小説があなたの心をざわつかせてるなら〝ある意味〟光栄だけど」
『今のうちにバカ言ってればいいよ。じゃあホントに一旦撤退する。あなたは優秀な後輩に感謝するべきだよ。──また連絡する』
 そう言って今度こそ通話は切れた。
 ビルの爆発から目が覚めたら今度はドローンの爆発。最近うるさすぎて、耳をふさぎたいのはわたしのほうだ。
 そんなわたしをなぐさめるかのように、病院の中庭から、あの幼稚園児たちの奇跡のような歌声が聞こえてきた。

〔第11話:全2,365字=高島執筆1,084字+AI執筆1,281字/第12話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

あわせて読みたい