高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第13話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第13話】 花咲く乙女たちの中心に(五)

 大学の寮で出会った四人組──あの人とわたしと後輩弁護士と後輩社長──は学生時代も今もたがいに連絡を取り合い、しょうもないことを相談し合っていた。
 あの人と後輩弁護士は、小説家で塾講師のわたしに質問してくることはほとんどなかったが、AIがらみの弁護案件が増えているようで、よく後輩社長と話していたようだ。
 後輩社長は学生時代からAIの使用データくださいと言って、わたしたちのメガネや携帯電話にAIを勝手にインストールしていた。
「どうしてあの子まで!」
「あたしがインストールしたわけじゃないっすよ。もうすぐ販売するからβ版を公開してて、あの子が自分でダウンロードしてたんです」
 つまり誰でもモニターになれたということだ。わたしや弁護士二人は勝手にモニターにされていたわけだけれど。
「じゃあ四人がモニターって偶然かもしれないじゃん。わたしも大声出して悪かったけど、なんでそんな暗い顔なの」
「偶然じゃないかもしれないからっす」
 わたしはこの子を、後輩とか後輩社長と呼んでいるけれど、この子は八年分の飛び級をしているから、実際はわたしよりも──大学で二学年下だったから合計して──十歳下で、わたしたち四人の中でひとりだけまだ二十代なのだった。
 しかも超かわいい。この子の容姿を一言で表すと──はっきり言うと──天使だ。しかし本人はその純然たる事実をまったく意に介さず、ひたすら自分の趣味のプログラミングを日々続けている。
 わたしも誰かから見ればまったく意味不明な文章を書き連ねているから、わたしが言うことでもないのだけれど、この子──後輩社長がひたすらキーボードでPythonやら何やら謎のプログラム言語を書き続けているのは、なんというか、天使的なかわいさとは無縁な気がする。
 しかしそういえば天使なんて普段は何をしているのかわからないし、存外、後輩のように──あるいはわたしのように──キーボードを叩き続けているのかもしれない。
「偶然じゃないって何? ウェブ公開でしょ? 高校生のあの子がふつうにきみの会社のサイトかSNS見て、AIをダウンロードしたんでしょ」
 後輩のAIベンチャーは知る人ぞ知る、というような認知度ではなく、社名だけなら高校生の半分は知っていて、使ったことがあるのは高校生の九割にのぼる。大人ならなおさらだ。
「あの子、うちの塾で一番成績良いし、そりゃ当然きみの会社は知ってるさ」
「……その子って、小説家になりたいんですか?」
「いや、どうかな、高校では文芸部だったから少しは興味あるかもね。──ん? わたしたち四人が使ってたっていうきみのAIは〈小説執筆支援AI〉なの?」
 わたしとしてはすごくまっとうなことを言ったつもりだったのだが、こういうときに限って、わたしの言葉は的外れなのだった。
 後輩はためらいがちに首を横に振り、それから普段の後輩とは思えないことを言った。
「あたし、魂を作ろうと思ったんです」
「魂?」純粋な理系のかたまりみたいな後輩が魂について語るとは。
「はい。魂なんて、あたしや先輩も持っていないかもしれませんけど、でもあたしの子たちだったら、魂に手が届くかもって」
 色々ツッコミたいところがある。後輩にわたしに対する悪意がないことはわかっているから、それ以外の色々なところにツッコミたい。
「えっと、まず、あたしの子たちって、きみのAIのことだよね?」
「もちろん。人間の子はいません」
 オーケー。
 では最も訊きたいところに行こう。
「魂って何。わたしはどこかに置き忘れたかもしれないけど、きみは魂あるでしょ。今日だってわたしを助けてくれたじゃん」
「逆だったら先輩来てくれないんですか?」
「どうだろうか。そもそもきみみたいに判断も行動も遅いからな。知ってのとおり。警察と弁護士二人にはすぐ電話するけどさ」
 そのとき楽しげな音楽が聞こえてきた。誰かの携帯かと思ったら、配膳ロボットがわたしの昼ごはんを運んできてくれたのだった。
 後輩はわたしへのおみやげである豆大福を食べることになり、ふたりで病室ランチとなった。
「きみとごはんひさしぶりだね」
 こんなに無難な話題があるだろうか、というところを攻めたつもりだったのに、またしてもわたしは的外れに、今度は正鵠を射てしまった。
「あたしずっと〈A-PRISM〉を作っていたから……」
 後輩はそれだけ言うと、口に豆大福がたっぷり残ったまま、さめざめと泣き始めてしまった。天使みたいな後輩を泣かせてしまって、泣きたいのはわたしのほうだ、なんて常套句は言わない。先輩としてがんばる。
「ほら。ティッシュだよ」
「……あざっす」
 それからお茶やら何やら、わたしのほうがケガして車椅子なのに、先輩として色々お世話をして、ようやく後輩は泣き止んだ。
 ようやく聞き出した〈A-PRISM〉とは──わたしのAIについての教養で判断するならば──まずは穏当なAIだった。
「検索AIの賢い版、新しい版ってことだよね?」
「A-PRISMは予測検索の一種で……。ただ、〈本当に忘れていること〉を探すことを目指してて」
「忘れてること? わたしの通話や小説から、わたしが忘れてることを推測する?」
「……先輩、これからうちの会社に来ませんか?」

〔第13話:全2,085字=高島執筆314字+AI執筆1,771字/第14話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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