高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第15話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第15話】 花咲く乙女たちの中心に(七)

 2022年2月22日の地球にはもちろん十メートルを超える〈スライム〉なんておらず──わたしとしてはいてもらっても全然かまわないのだけれど──後輩社長の新しい研究所を飲み込もうとしている巨大な泡は、後輩によれば、液体ドローンの群れなのだった。
 後輩は研究所の手前、埋立地に渡るための橋の手前で車を停めた。
 海よりも深い青をしたスライムはゼリー状のドローンの体で、ところどころチラチラと見える透明な粒が周囲一メートルほどのゼリーをコントロールしているのだという。
 スライムは自在に形を変えながら研究所の入り口に迫り、ぐいぐいとドアを押しているように見える。
「ふつうに物理攻撃してるみたいです!」
 後輩が所内の監視カメラ映像をわたしのメガネにも見せてくれた。
 途端に入り口の一番外側のガラスが割れて──空調のために二重になっているよくあるビルの入り口で──もう一枚が割られれば、一気にビル内に流れ込むだろう。
「きみの会社の人は?」
「みんな部屋に避難してます。でもこの調子だと部屋のドアも危ないっす! 裏口から逃げたほうがいいのかも!」
 そのとき建物内の誰かが作動させたらしく、玄関のシャッターが降りてきた。
「わたし外に出ていい? ここからだとスライムがよく見えん」
「ダメですって! そういう先輩を狙って、ちょっと離れたところに致死性ドローンを飛ばしてます!」
 しかし見たいものは見たい。
 駄々をこねていると、後輩がためいきをつきつつ、今わたしたちが乗っている車の天井から全天球カメラを伸ばして──地形情報を録るためのものらしく──今度はその画像をメガネに転送してくれた。
「でか!」
 見るのを邪魔していた車体がなくなって、わたしの目の前には巨大な泡が膨らんでいた。離陸直前の気球を見たことがあるけれど、あれよりもずっと大きい。しかしこっちは流体で、常にぬらぬらと動き続けている。
「先輩!」
「はい?」
「青って何かのキーワードですか?」
「は?」
「どうして先輩の小説のタイトル、『失われた青を求めて』なんですか? 失われた青ってなんですか?」
「いや、それはネタバレになっちゃうから」
 というのはウソで、青というのはAIが出してくれた言葉のひとつに過ぎなくて、担当編集はもちろん、わたし自身も何も考えていないのだ。
「いいから早く教えてください!」
「なんなの? これ今する話? あのでかいのが青いから? たまたまでしょ!」
「だって! 先輩たち三人とあの高校生の子、四人にA-PRISMが出した答えは共通して「青」だったんです!」
「答えってなんのこと? わたし青も何も受け取ってないよ?」
「だからそれは先輩が勝手にAIを削除しちゃうから! 今回はそうされないように先輩だけは隠蔽モードだったので。弁護士二人と高校生にはちゃんと通知が行ってます」
 そして弁護士二人のうち後輩のほうは特に返事もなかったけれど、先輩弁護士からは珍しく後輩社長宛に電話があって面白いと感想まで言ったという。面白い?
「高校生のあの子は……青い名刺をわたしにくれた……」
「なんなんすか、マジで!」
 青いスライムはどうやら狙いを入り口から屋上に変えたらしく、のそのそと研究所に登り始めた。全部ドローンなんだから登るのは無意味な気もしたけれど、後輩によれば、そもそも群れひとかたまりで一体のものとして定義されているから、急にバラバラになって飛び立つのは難しいらしい。
「確かに青って言葉になにか引っかかるものはあった。だからタイトルに入れた。それは青い名刺をもらう前だし、弁護士二人からは何も聞いてない、わたしだけの感情」
「そしてA-PRISMからも通知は行ってない、先輩オリジナルの感情っす」
「ただの偶然でしょ。青なんてみんな思いつくっていうか、何かしら青についての記憶はあるでしょう。A-PRISMがきみに出した答えは?」
「あたしのは──」
 そのときごんごんと窓ガラスが叩かれて、白衣をまとった三人が後部座席に乗り込んできた。
「所長!」「社長!」「所長社長!」
 三人は運転席の後輩社長にすがりつくように迫った。
「みんなおちついて。状況説明、チーフにお願いしていい?」
 後輩社長の言葉に三人はいったん深呼吸をして、中央に座るチーフらしき人物が話し始めた。小柄で、後輩よりも年下のように見える。
「スライムの狙いですけど──って、あれのことスライムって呼んでいいですか?」
 チーフの言葉に後輩社長が肩をすくめて、
「いいよ。ここでもあたしの先輩がスライムって呼んでたから」
 どうもどうもとわたしとチーフは互いにぴょこぴょこ頭を下げた。なんだかリズムが合って気持ち悪いのか心地良いのかよくわからない。
 わたしとしては珍しく初対面のチーフになるたけの笑顔を見せて、
「中のこと教えてもらっていいですか? あ、わたしは御社の社長の大学時代の先輩で──」
「──存じてます。小説家さんはうちの会社の最重要人物のおひとりですから」
 ここで慌てて後輩社長が口をはさむ。
「そういうのは言わないの! 状況早く!」
「あ、すみません。──端的に言うと、スライムの狙いはうちの地下にある量子コンピュータだと思います。一直線に向かってるので。あれ買ったばっかなのに……」
「脱線するのはこっちの先輩だけで充分だから。──〈アンチドローンパルス〉使った?」
 なんだか悪口を言われた気がしたが、今はそれどころではない。
 アンチドローンパルスというのは、強烈な電磁波でドローンの回路をショートさせるものらしい。
「研究室から何度も起動しようとしたんですけどダメでした。たぶん外部から乗っ取られてます」
「だからとりあえず避難したんだね」
「チーフはちゃんと避難指示を出しました!」とチーフの左から。
「所員の九割は外に出て、公園全体に広がって避難しています」とチーフの右から。
 どうやら慕われているチーフのようだ。
 人気の理由はすぐにわかった。
「私が直接装置を動かします! 高いところは得意です。ここには所長の管理者キーをもらいに来たんです」
「危ないよ!」
 と真っ先に言ったのはなんとわたしだった。続いて後輩社長もチーフの部下らしい左右の子たちも懸命にチーフを止めつつ、自分が自分がと言い始めてしまった。
 わたしは後輩に耳打ちする。
「どれくらい危ないの?」
「わかんないっすけど、とりあえず非常用のはしごで屋上まで行かないと、なんです。途中でスライムが襲ってくるかもしれないし、スライム自体は押してくるだけでも、高いところから落とされたら死んじゃいますっす」
 なるほど。
 わたしはおもむろに手をあげた。
「先輩?」
「わたしが行く」
「は? 絶対ダメっす! 先輩は部外者だし、ケガしてるし!」
「ケガはしてないの。それにこれ、どう考えてもわたし関係だよね? わたしが姿を見せれば、量子なんとかも守れるかも」
 それからちょうど一分間、後輩社長と所員たちのかんかんがくがくの議論がおこなわれた。
 チーフの左右の部下たちは泣き出してしまったが、最後には後輩社長が決断した。
「……確かに先輩の言うとおり、先輩は関係者かもしれません。これ、見てください」
 後輩の手のひらには、さっき拾っていたドローンの破片があった。
「こっちの白いのはあたしのです。で、こっちのが敵の致死性ドローンの破片です」
「これも青……」
 犯人はわたしを殺そうとしているのだけれど、とはいえいきなり問答無用で殺すのではなく、話をしてからということになるはずだ。
 スライムに会話機能があるかどうかはさておき、わたしが屋上に行けば、きっと時間稼ぎにはなるだろう。
「超不本意ですが、先輩に行ってもらいます」と後輩社長。
「やった!」
「やったじゃないです。マジ気をつけてください。で、チーフと一緒に行ってくださいっす」
「え? ひとりでいいのに」
「先輩、アンチドローンパルス操作できないでしょ。あたしはここからナビします」
 チーフが力強くわたしにうなずく。
 左右の子たちは泣きながら文句を言い続けているが、ふたりとも未成年とのことで、当然ここは大人であるわたしが行くしかない。
「チーフも未成年に見えるけど?」
「小説家さん、すみません、ワタシは社長と同い年です」
「あ、そうなんだ。別に謝らんでも。よろしくね。──おし! 行こうか!」
 後輩社長がハンドルを握り直しながら、わたしに声をかけてきた。
「先輩、あたし不安です。これからどうなるんですか?」
「そんなの──」
 わたしは、そんなの知らん、と言うのをやめて笑った。
「先輩?」
「これからどうなるって? そんなの、面白くなるに決まってるじゃん!」

〔第15話:全3,458字=高島執筆601字+AI執筆2,857字/第16話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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