高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第17話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第17話】 結婚式フォトグラファーのほう(一)

 自分がしてしまったことが原因となって、世界になんらかの結果がもたらされる。
 そんなこと──因果なんて、人間的な想像にすぎないと言ったのはヒュームだった。
 ここで、ヒュームというのをわたしは思い出せなくて、後輩社長が作った予測検索AIが教えてくれた。
 どうせ古代から現代まで、どんな言葉だって──本当は──誰が言ったのかは不確定で、わたしはそれでも誰が言ったのかを知ろうとするべきだと思うのだけれど、今や言葉の担い手は人間だけではなくなって、どこで言葉が生まれてくるのか、ますます見えにくくなっている。
「先生、お待たせしました」
「いいえ。いつだって結果発表は苦手なので」
「そうなんですか? 先生は結果を出してるほうでしょう」
「出してないですし、出していたとしても次に出るとは限らないじゃないですか」
 担当編集はあらゆる予想を拒絶するような空疎な笑顔を見せた。
 わたしは依頼された原稿を──三分の一ほど書き上げたところで──先週この担当にメールした。返事まで時間がかかると思っていたのだけれど、週明けには電話があって、わたしは半年ぶりに編集部をおとずれていた。
「色々あったみたいですね。これはどれくらい実話なんですか?」
「これが実話だったらわたし五回は死んでません? ……と言いたいところですが、ほぼ事実です」
「つまり殺人鬼まわりは脚色ということですね?」
「残念ながらそこはホントです。わたし、今日ここに来るの、時間ずらしてもらったじゃないですか」
「ええ、寝坊したのかなと」
「違うんですって! 警察で特別捜査本部っていうのが立ち上がるからって、もう一回事情聴取されてたんです。超つかれました」
 高校生のあの子はもちろん間違いなく行方不明となっていて、連絡が取れない弁護士ふたりについては弁護士会がなにやら強硬に捜査を求めたらしく、この三人を爆発のなかで見たわたしは、超がつく重要参考人になっていた。
「爆発は端的な事実ですからね。屋上のガス爆発はテレビで見ました。よくご無事で」
「あれがなかったら警察もわたしの言うことを信じてくれなかったと思います。今も、寮のあの子があの屋上にいたことは信じてくれないし」
 そうは言っても、わたしにはスーツ姿のPO(Protection Officer)身辺警戒員がふたりもつくことになり、今も編集部の廊下に立っている。
 後輩社長もドローンで警備したいと言ってきたが、POもドローンを併用して警護するということで、ひとまず社長は引き下がった。
 POの存在は今回初めて知った。SP(セキュリティポリス)は政府要人のためのもので、POは一般人向けということらしい。
「殺人鬼が実話ということは、チーフさん関連がフィクションですか?」
「それ聞きます?」
「そうおっしゃるということは、最後ですか」
「そっちこそ、そう言うってことは、この原稿、オッケーってことですか?」
 原稿に興味を持つというのはそういうことだろう。
 案の定、今度こそ意味が──肯定という意味が──わかるような笑顔を担当編集は見せてくれた。
「仕方ないですね、プライベートなのでちょっとしか話しませんよ?」
「あ、ホントに最後のところでしたか。まだ二章分の最後ですけど」
「それはごめんなさい! 全七章のつもりなので、それなりに進んでるでしょう?」
「ここまでは面白いと思います。スケジュールはまたあとで相談しましょう。最後だけ違うということは、ホントはもっと手ひどく振られたんですか?」
 普通はそう思うだろう。わたしだってそう思う。
 しかし現実は小説より奇なり。そういったのは江戸川乱歩あたりか──と思っていたらバイロンだった。バイロンは大学四年のとき英詩講読という授業で少しだけ読んだ。わたしは例によって単位ぎりぎりで、四年生になってから手当り次第に授業登録して、全部単位が取れれば卒業要件に足りるということになったのだけれど、この英詩講読が最後のくせもので、危うく留年するところだった。
「先生は就職するつもりなかったんですよね? 留年しても良かったのでは? あるいは大学院とか」
「授業料を稼ぐのがめんどくさくて」
「ああ、先生はお父さんが早くにお亡くなりになったんでしたね」
「家族構成的には母子家庭ではあったんですけど、母は普通に稼いでいたので経済的には関係なくて、単にわたしが自分で稼ぎたかっただけです。できれば小説で」
「売ることをきちんと考えている点で先生は立派です」
「ほめてます?」
「もちろん。──で、そのチーフというかたとはどうなったんです」
 わたしは世界に高らかに宣言するみたいに──言うはずもなく、ためらいがちに、他の編集者に聞こえないように小声で言う。ここは打ち合わせ用のスペースでまわりには棚もあるけれど、特に仕切りがあるわけでもないのだ。
「今いっしょに住んでるんです」

〔第17話:全1,981字=高島執筆697字+AI執筆1,284字/第18話に続く〕
▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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