高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第26話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第26話】 XRとR(三)

「おし!じゃあ最初はどこに行く?」
「……」
「……ん?」
「あの、どこに行くべきかはワタシにはわかりません。先生は何か感じませんか?」
「いやあ、特に何も」
 そもそもわたしは〈マリッジブルー〉に殺されそうになっていたことも忘れているし、東京のこともなんだかぼんやりとしか思い出せないでいるのだ。
「わたしってどこ生まれ?」
「先生は山口県宇部市生まれです」
「……全然わからん。そこって何があるの?」
「先生のファンであるわたしにとっては憧れというか夢みたいな場所ですよ!『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督も先生と同じ宇部高校だし」
「エヴァ……何か聞き覚えあるな」
 そのとき後輩社長のホログラムがわたしたちの前に現れた。
「この姿で失礼します。ここに入ることができるのは本来二人までなので」
「社長、どうしました?音声だけで指示は大丈夫なのに」
「チーフ!先輩はあたしの先輩なんだから!あたしも助けたいの!」
「なるほどです。気づかなくて申し訳ありません」
「謝られるとかえって恐縮しちゃうけども!」と言いつつ後輩社長はわたしのほうを向いて話しだした。「先輩、ここは先輩の記憶を読み取って作り出した世界なんです」
「記憶を読み取るってどうやって?」
「今かぶってるヘルメットで。初めは脳波でドローン飛ばしたいって思って作ってたんですけど、もっと色々できそうだってわかって。メタメタお金かかってるんです」
「億超えってホントなんだ」とわたし。
「ホントです!共同開発した試作機なので!」

 いささかわかりにくい気がするけれど──長期的な記憶①を喪失してしまったわたしは、どうやら忘れてしまったらしい〈青〉にまつわる記憶②を求めて、脳内記憶③から作り出された〈XR水没世界〉を探索することになった。
「どこに行くべきかは先輩が決めるしかありません。ていうか──」
 後輩社長が言い終わる前に、わたしたちは凍りついた湖のほとりに立っていた。
「──ていうか、わたしが思い浮かべるだけでいい?」
「そういうことです!」
 後輩社長は──自分の装置がとにかく動いたからだろう──やけにうれしそうだけれど、わたしの置かれている状況はほとんど変わっていない。
 まわりは吹雪いていて、たぶん北海道かどこか、ということしかわからない。今のわたしからは経験というものがすっぽり抜け落ちていて、海外経験なんて全然思い出せないのだ。我ながらそんなに自分が旅ずきとは思えないのが笑えてしまう。
 そしてすごいのは脳波ヘルメットだけではなく、今着ているスーツもなかなかで、XRの──つまりは情報空間の中の──情報の氷に触れると驚くほど冷たかった。
「皮膚に冷たさを感じさせる微弱電流を発生させているんです」とチーフ。
「びっくりしたあ」
「氷がヒントになりそうですか?」
「どうだろうか。まさか氷を使った殺人をわたしがしちゃったとか?」
「先生!あんまり冗談を言っているとXRに反映されてしまいます!」
 チーフはかわいらしくわたしをたしなめる。早く同棲しているというチーフの家に転がり込みたい。
「……水没とか氷とか、わたしの小説に出てくる?」
「!調べます!ですがワタシはファンなので全作覚えていまして、メインのモチーフとしては扱われたことはないと断言できます。先生の小説の舞台は宇部か東京か、あとは北京……それから宇宙ステーションでの恋愛短編もあります」
「宇宙ステーションの恋愛?なにそれ、面白いの?」
「すっごい素敵です!」
「ホントにい?」
「ホントったらホントです!先生、その短編で初めてファンレターをもらったってWebインタビューでおっしゃっていました。先生にとっても大切な作品なんだと思います」
 自分が宇宙にくわしくなさそうなのは──さっきから確認しているとおり記憶喪失なので断定はできないけれど──きっと間違っていない。
 きっと〈記憶のにおい〉みたいなものがあって、わたしの脳内にはどこにも宇宙の記憶のにおいがしないのだ。
「先生は色々取材するんですよ?」
「チーフのほうがわたしよりもわたしにくわしいね」
 別にほめたわけではないのだけれど、チーフが超かわいくエヘヘと笑っているのでわたしとしても文句はない。しかし取材か。取材したという記憶のにおいもほとんど全然しないのだけれど。
「あ、わたしって〈耳学問〉って言葉がすきかも。そういう気がする」
「記憶がよみがえってきましたか!」
「あー、うん、そういうことかも」
 わたしは自分で能動的に情報を取りに行くというよりは、受動的に情報を片耳に聞いて満足するタイプだと思うのだ。……またしても我ながらカッコいいとは思えないのだけれど、そういうものかもしれない。
「──社長、先生に自分の作品を読んでもらうと、さらなる記憶刺激になるように思うのですが」
 チーフがふり返って、ホログラムの後輩社長をうかがう。
 社長は頭をかきながら、
「いいよ、いいですよ、先輩。ただしヘルメットはそのままで。脳波測定をし続けたいので」
 実際のわたしはふかふかのシートに包まれて、ヘルメットの重さも感じることはない。もちろん全然オッケーだ。
 自分の記憶の中で、自分の──自分で書いたことは完璧に忘れている──小説を読むのはなかなか面白そうではある。なんといってもわたしには書いた記憶がまったくなくて、それでも書いたのは自分で、自分自身の秘密を見るみたいな気分になる。
 しかし、わたしがその楽しそうな体験ができるのはもう少しあとになる。わたしの面白そうという気持ちが強かったのか、〈A-PRISM〉が新しいXRをわたしたちのまわりに作り出したからだ。

〔第26話:全2,254字=高島執筆291字+AI執筆1,963字/第27話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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