高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第29話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第29話】 XRとR(六)

 スウェーデンの夕暮れが美しい。雲が金色に輝き、街の明かりはオレンジ色だ。
 隣にはチーフがいて、わたしにやわらかくほほえんでくれる。
 これは夢でもXRでもない。
 ここはR{現実}のスウェーデン、その首都ストックホルムなのだった。
 唯一の問題があるとすれば、わたしのせいで四人が誘拐されているということだ。記憶喪失でいまいち罪悪感が薄めなのは申し訳ない。
「ホントにストックホルムまで来る必要あったかな。わたしが行きたがったんだけど、今さらながら心配になってきた」
「XRで再現も可能ですが、どうしてもデータが少なめになりますから。きっと何らかのヒントは得られるはずです」
「これって新婚旅行みたいだよね」
「……!」
 わたしは素朴に感想を言っただけなのだけれど、チーフは夕焼けのなかでもわかるくらいに赤面してしまった。
 これに勝る幸せってどこかにあるだろうかと不安になってしまう。その不安すら幸せだ。
「えふん」とわざとらしくせきばらいしたチーフは、色々なことがあやふやになっているわたしに代わって、誘拐犯につながるわたしの記憶の手がかりを求めて、ストックホルムの道案内をしてくれる。
「先生、ここがIKEAの本店です!」
「おお──ってほど感動ないんだけど、これって記憶喪失のせいだよね?IKEAのこと多少でも知ってたら、『本店すっご』とか言いそうなのは予想できる」
「先生はそういう気さくなノリはありますからね。そうですね、記憶喪失の関連症状としてはあります。感情と記憶は深くむすびついていますし、物理的にも先生の脳は今少なからずダメージを受けている状態でもありますし」
 なのでチーフも後輩社長もわたしのスウェーデン行きには反対だったのだけれど、わたしの無意識下の──高校生的なものかもしれない──荒ぶる何かがわたしをつきうごかしてしまった。
「それでエアチケットとか全部手配してもらっちゃってバカみたい」
 ──先輩、ずいぶん殊勝じゃないですか。
 わたしがかけているARメガネから後輩社長の声が聞こえてきた。
 チーフのイヤリングにも聞こえているようだ。
「きみってわたしにいくらおごったか覚えてる?覚えてるよね、天才児なんだから。あ、きみが天才って話、今思い出したよ」
 ──思い出してくれてうれしいです。で、おごった金額のほうは確かに覚えちゃってますけど、それを言うなら先輩の『ベストセラー出したらメッチャおごるからね』っていう言葉も覚えてます。
 記憶喪失前のわたしの恥ずかしさのせいで、今のわたしが恥ずかしい。今のわたしは過去のわたしの言動の責任をもちたくないけれど、きっともつべきなのだ。
「それは絶対おごるから」
 ──超期待してます。お、IKEAですね。さっきから通信状況悪いので、あたしは作業と仮眠させてもらいます。チーフ、先輩をよろしく。
「え、もう行っちゃうの?」
 ──あたしがいないほうが、思い出しやすいですよ。あとはがんばってください。社長より。
「わかった」
「社長、了解です!──先生、それでは行きましょう」
 チーフと二人きりになると急に緊張してしまう。ような気がする。いつもは三人でいることが多かったから。ような気がする。それにチーフも少しそわそわしているのはわたしと同じような気持ちだからだろうか。
「チーフ、手」
「は、はい」
「手をつないでもいい?」
「……もちろん」
 わたしは記憶がないぶん慎重だ。でもそのぶん大胆なことを言ってしまって、あとからすごく後悔したりしているのだろう。幸いなことに、IKEAはこれから新生活をはじめようという夫婦やカップルもたくさんいて、多少距離をつめたところで誰も気にしない。寝具コーナーの脇を通るときは、妙な気持ちになったものだが。それにしても、北欧のテキスタイルデザインというのはどうしてこう自然の解釈が巧いのだろう。抽象化された木々のパターン、木漏れ日のような淡い光沢のあるベッドマット……。しばし、なぜ自分がここにいるのかを忘れてウィンドウショッピングを楽しむ。選んでも、どこに何を置くべきかもしらないのに。
「あ、この形かわいい。真っ白な部屋に置いたら、似合うだろうね」
 試験管のような形の、赤いフラワーベース。それを聞くと、チーフがはっとする。
「それ、どこかで聞いたような……」
「ホワイトキューブに赤。ホラー風にいえば、病院と血。牧歌的に言うなら、日の丸弁当」
「あっ、そう、それ。たしかSNSで戯れに書いたら、なんでかよくわからないけどバズったんでしたっけ」
「なにがうけるかわからないよね。……ってあれ?」
 前もこんな会話をしたような……。この時二人が同じ気づきを得ていたのかはわからない。が、足早に次のコーナーにうつった。キッチンコーナーだ。
「先生なら、どれを選びますか?」
「真っ白なテーブルに、赤いキッチンクロスかな」
「おめでたい色が好きなんですね」
「というか、消去法なんだよ。なんていうか……選びたくない色があって、それを避けてる感じ。自分の部屋に、嫌いな色は置きたくないから」
「好きな色に囲まれたい、とかじゃなく?」
「そう。消去法」
 モデルルームを眺めながら、妄想のマイルームをつくりあげる。この時気づいたのは、好きなものを集めるというよりは――もちろん皆無ではないのだが――嫌いなものをさっぴいた中で、妥協点を探している感覚があるのだ。
「先生、なにか思い出しました?」
 一点を見つめしばらくぼうっとしていたわたしを見て、チーフが声をかけた。
「あ……いや、思い出したんだけど……つまらないことだよ」
「何ですか。どんなつまらないことでも、言ってみてください」
「わたし……」

 あれはいつのことだったのか。
 ──お客様、何かお困りですか?
 その時、二人の間に割って入るかのように、にこやかな店員が現れた。
「その、色で、迷ってまして」
 ──白い空間に青い刺し色がいま人気ですよ。海や空のようで、解放感があります。
「青?」
 ──はい。
「その発想はなかった……」
 ──ご参考になれば幸いです。
 店員をやりすごすと、のろのろ歩きながら、違和感を表現するのにしっくりくる言葉を探していると、そこはすでに出口付近だった。“お客様の声をお聞かせください”。アンケートを書き込むタブレットが置いてある。私は何の気なしにペンを手に取った。そして、店員の言葉を思い出しながら、ほとんど自動筆記的に書き込んだのだ。
「私は青が嫌い。20××年×月×日×時、テキスタイルコーナーにいたあの店員は、私に青を押し付けた。いま、とても不快な気分」
 暗転……。ばっつりと頭の中が電源オフになった。

「先生!先生」
 揺さぶられて起きると、そこはIKEAのバックヤードだった。
「大丈夫ですか?突然頭を抱えて……」
 わたしは夢見心地だったが、一つだけ明確に思い出したことがあった。
「わたしは、以前もあんなふうに……青と、人を消去しようとしたことが……」
「そんなことってありますか? 人の名前を忘れたりとか?」
 わたしはその問いに、首を振った。そうじゃないんだ。わたしは、わたしは。あの日、誰かがわたしの目の前で消えたのだ。
「ううん、もっとひどいの。わたしが消しちゃった」
「先生、落ち着いて。深呼吸しましょう」
「わたし、誰なのかわからない。名前も顔もわからない」
「先生」
 チーフの瞳がわたしの視線をとらえる。わたしの目はチーフの目を見ているが、その焦点はわたしを見ているように思えなかった。

〔第29話:全2,977字=高島執筆144字+AI執筆2,833字/第30話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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