高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第38話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第38話】 囚われた小説家(八)

 咳と涙が止まったのは、それから十五分後のことだった。
 グレタ氏も軽くケホケホしている。
「さいあこです」
「日本語の変形ですね。面白い」
「ただの口癖ですけどね」
「私たちは未来を作り出すことができる。でも──その未来を完全には制御できない。こういうとき日本語では何と言いますか?」
「そういうの苦手なんですけど、そうですね──ままならない、かな」
「MAMANARANAI。最後にAIが付くんですね」
「はは、確かに。」
 わたしの心を見透かすようなグレタ氏のまなざしは変わらない。その視線から逃れたくて、思わずうつむいてしまう。
「わたしが小説を書きはじめたばかりのころは、AIは小説を書くことはできないと言われていたんです」
「今では違う?」
「そうですね。今では多くの作家がAIを使って小説を書いています。わたしもです」
「100パーセントAIが書いた小説もあるんでしょうね?」
「ネットには超たくさんあります。クオリティはさておき──っていう保留つきの言い方も、もうすぐ終わると思います」
「クオリティは上がる?」
「ええ、それは確実だと思うし、〈100パーセントAI小説〉が読まれない理由の半分以上は別のところにあるかも」
「人間が書いたものを人間は読みたい?そういう思い込みがある?」
「わたしはそう考えています。そして思い込みは根強い気もしますけど、一夜にして消え去る気もします」
 一瞬、グレタ氏がくすっと笑ったような気がする。勘違いかもしれないけれど。あるいは、錯覚か。
「小説家さんはAIから影響を受けていますか?」
 わたしは少し考えるふりをする。それから、ゆっくりと口を開く。
「わたしは全面的に助かっています。」
 それはわたしの本心だった。
 なんとなれば、大学時代から今この瞬間まで、ずっとAIで書いているのだ。
 あれ、なんだか、なにか、おもいだしてきたかも。
「では、小説家さんはAIに影響を与えていますか?」
「わたしからの影響ですか?」
 大通りでは──きっと初めて聞くと思うけれど──銃声や爆発音がますますひどくなっていた。
「後輩社長はわたしの言葉を使ってAIの強化学習をしているみたいですけどね」
「データに過ぎない?もうAIは独自に進化している?」
「だと思いますよ。わたしなんて小説ぎりぎり十作いくかどうかですから。確か、前に後輩社長に聞いたときには、〈A-PRISM〉は人間が書いたすべての小説を読み終えていて、今は毎秒百作は長編を出力していて、一兆作は書いているはずです」
 A-PRISM?
 グレタ氏と話していると記憶がどんどん鮮明になってくる。
 でも何か……大切なことを忘れているような気がする。
「小説家さん、あなたが書いている小説を読んでみたいのですけれど」
「残念ながらわたしの小説、翻訳されてなくて。機械翻訳で読んでみます?」
「いえ、私が読みたいのは〈今あなたが書いている小説〉です。」
「それは存在しないですね。記憶喪失になってから全然書いてなくて」
「書きかけのものなら?端末に入っているのでは?」
「ああ、あるかも。──はは、グレタ氏、わたしよりわたしにくわしいかも」
「そういうこともあるかもしれません」
 グレタ氏に笑みを返しながら、わたしはメガネを視線操作していく。
「これかな……」
 過去のわたしが作ったのだろう、様々なメモのなかに【新作箱】というフォルダがあった。
 中には、
 ──『線のごとく』
 ──『スナメリの塩』
 ──『むせる』
 ──『青い星』
 などなど我ながら謎のタイトルのファイルが並んでいる。
 全然記憶はないものの、間違いなくわたし自身のものだとわかる。スナメリ。
 いつか完成させるときが来れば、もうちょっと良いタイトルにしよう。
 わたしは4つのタイトルをグレタ氏の端末に送った。
「どれか読みたいのあります?」
「『青い星』は素敵そう」
「ですか、ね。これ読んでみますか」
「いいえ」
 またしてもグレタ氏は断言した。とても小気味よく。
 あれ?確かグレタ氏が読みたいって言っていたような。
「そろそろ時間ですから」グレタ氏が言った。
「大通りの事件?騒ぎ?収まりそうってことですか?」
「そうですね。そして私たちの楽しいおしゃべりも終わりです。──小説家さん、あちらに見えるのが誰か、わかりますか?」
 グレタ氏が大通りを指さした。
 わたしに、その先を見る勇気はなかった。

〔第38話:全1,745字=高島執筆80字+AI執筆1,665字/第39話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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