高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第45話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第45話】 見出された青(二)

 それからというもの、〈AI〉というキーワードがまるで導くかのように、マリッジブルーへの階段が明るくなっていく。そういう気がするだけかもしれない。
 そしてわたしは今、わたしにAIでの執筆および連載を勧めた担当編集者とリモート打ち合わせをしていた。
 あと一週間でマリッジブルーが誘拐した四人をどうにかすると言っている以上、さすがのわたしも生活のために打ち合わせはしない。とはいえ、AIと並んで重要なキーワードは〈わたしの小説〉なのだ。まさか担当編集者が犯人とは思わないけれど、のこり一週間のうちの一時間をつかうことは有意義だろう。
 ──え?先生、ぼくを疑ってるんですか?
「犯人だったら面白い──という言い方はしないけど」
 ──もう言ってますよね。
「でも編集さんがマリッジブルーっていうのは、冗談じゃないっていうか、もしこれがミステリなら、結構いい感じの距離感じゃない?」
 ──先生にAI執筆を依頼したぼくが、実は先生が学生時代からつけ狙っていて、ストックホルムのIKEA本店でのトラブルも引き起こしたと?
 トラブルというのは、わたしが店員の悪口をIKEAのアンケートに書き込んで、その店員がどうやら辞めてしまったという、十年前の──本当だったら超申し訳ないことなのだけれど、あんまり記憶にない──出来事のことだ。
「だから冗談ですって。何か手がかりっぽい話ができたら良いなって思っただけなので失礼しました」
 ──大丈夫です。先生のわかりにくい冗談には慣れてますから。
「わかりにくいんですね。最近自覚というか、そう思われていることは認識しました」
 ──IKEAの件もそういう誤解かもしれません。先生がいわゆるクレーマーをするのはなかなか想像できませんから。
「どうでしょう。学生の頃だし、わたし、このまえ記憶喪失になったって言いましたけど、もしかして何度かなってるのかも」
 わたしとしては結構深刻な話をしたつもりだったのだけれど、伝わっていないのか、むしろ気をつかわれているのか、ともかく担当編集は話題を強引に変えてきた。
 ──じゃあ、手がかりになるかどうか、ちょっと仕事の話をしてもいいですか?
「もちろん」
 ──今の連載、次回分から挿絵を入れたいと思いまして。
「ああ、いいですね」
 こういうときも、チーフがいたらきっといっしょに喜んでくれるのにと思って、底抜けにうれしがれない。
「イラストレーターさんの候補は、どなたか考えてるんですか?」
 ──実は〈AI絵師〉さんにお願いしようという話になっておりまして」
「AI絵師さん?そういうペンネームじゃないですよね」
 ──はい、つまりAIに描いてもらうわけです。
「良いんじゃないですか。文章は今〈執筆支援AI〉をつかってますけど、挿絵もAIということで」
 ──ご承認ありがとうございます。挿絵のほうは支援AIというよりは、〈イラスト生成AI〉ですね。先生の文章を丸ごと食べさせると、何枚でもイラストをつくってくれます。
「食べさせる」
 ──AIが参照する元データとしてつかうことをそう言うんです。
 食べさせるという言葉に、わたしは少しだけ──なんと言うべきか、それを考えるのが小説家の仕事だと思うのだけれど──本当に何かに自分が食べられてしまうのではないかと空想してしまった。
 しかし〝虎〟などを考えなくても、わたしたちは死の間際、世界に食べられていくのではないか。
 あるいは死の間際でなくとも、わたしたちはいつも何かを失って、自分の一部を食べられているのではないだろうか。
 小説家としてはおそらくかなりのAIヘビーユーザーであるわたしが、今さらAIに対して怖がるということはない。でも、
「AIは道具だという意見は、一定程度は正しいと思います。でも、たぶん、きっと、ただの道具ではない……」
 ──どういうことでしょう。
「ワープロや音声入力アプリは、本当の意味で執筆支援ツールです。でもAIはAI自身が言葉を生み出します。それも、〈人間とは違う論理〉で」
 ──人間と違う論理……ですか。
「ええ。たとえば──AIは人の言葉を理解できません」
 ──情報として似たものを選び出すことはできますが、そうですね、人間が話たりするのとは、まったく違う論理ですね。
「それなのに、文章を食わせて絵を?」
 ──心がないから、だとは思います。純粋な文字列からイメージを導き出す。
「それだと人間の心は不純物みたいです」

〔第45話:全1,789字=高島執筆103字+AI執筆1,686字/第46話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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