高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第49話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第49話】 見出された青(六)

 巌流島にほど近い下関市立病院でわたしは二週間ぶりに後輩弁護士に会うことになった。
「巌流島って下関だったんですね」
「わたしも知らなかった。って第一声それ?」
「人と話すのがひさしぶりなんです」
「二週間ずっとキャンピングカーにいたって聞いたけど」
「です。運転席には行けないし、外は見えないし、どこにいるのかはわからなかったです」
「ていうかわたしの第一声がまちがってた。ごめん。わたしのせいで大変な目に遭わせちゃった」
「今のもう一回言ってもらっていいです?」
「なんで?いや、何回でも言うけども」
「録音してレコードにしようと思って」
「わたしも結構タフなことになってるから、そういう冗談は〈マリッジブルー〉を捕まえてからにして」
「こちらこそ失礼しました。こっちは三食昼寝付きでシャワーもあって、別に苦労してないんですけど、先輩はマジに命を狙われたわけで」
「二週間なにしてたの?」
「先輩の心配です」
 という後輩の軽口をたまにはやさしく受け止めてもいいのだけれど、後輩は後輩で、弱っているわたしにつけこむような真似はしたくないらしく、さっと話を変えてきた。
「というのは冗談ですが、キャンピングカーにはスマホも何もなくて、唯一あったのは──なんだと思います?」
「またそういう──」
 しかし今回ばかりはわたしにも心当たりはあった。なんといっても、〈マリッジブルー〉が準備したキャンピングカーなのだから。
「──わたしの小説?」
「さすが先輩。まったくそのとおりです。先輩がひとりで書いている本と、先輩の短編がはいっている本、あと雑誌もありました」
「単著とアンソロジー、あと掲載雑誌ね。なるほど」
「〈マリッジブルー〉は先輩の超ファンってことですか」
「超アンチなんじゃない?」
 ファンにしろアンチにしろ、後輩弁護士ふくめて4人も誘拐するくらいだし、並々ならぬものをわたしに向けていることは明らかだ。こうして生還した後輩弁護士と話しながら、わたしはあらためて戦慄していた。
「4人も誘拐するなんて」
「先輩、自分はその人数についてはあやしいと思っていて」
「実はきみが〈マリッジブルー〉で、誘拐されたのは3人ってこと?」
「あはは、確かにその可能性もあります」
「だってきみをキャンピングカーに運び込むのって大変じゃん。きみでかいから。先輩弁護士とかわたしの生徒にはできないよ。わたしの元同室者にも」
「いやいや、自分でやる必要はありません。少なくとも先輩弁護士だったら、そういうのに慣れた人間を雇うのは可能です」
「きみもね」
 わたしの元同室者がそういう荒っぽいことをするとは思えないのだけれど、二週間ぶりどころか、もう二十年も会っていない元同室者がどのような人物になっているか、全然わからない。
「で、わたしの小説どうだった?」
「どうって、面白いですよ」
 ん?現在形?」
「キャンピングカーで読まなかったの?」
「自慢ですけど、自分は先輩の小説はいつもすぐ読んでますから。キャンピングカーでは他の人のを読みました」
「それはどうも。──……なにか気づいた?」
「いやあ、どうでしょう。自分、基本的に先輩のしか読まないんで、他の人のは新鮮ではありました」
 なんだか口説かれているときよりも気恥ずかしい気が少ししたものの、そういう捉え方をするなら、わたしは浮気をされているがわなのだった。
「そういう捉え方はやめてください。なんていうか、先輩の小説って独特なんだなって気がついたってことです」
「独特、ね。もうちょっと話、広げてみて」
 消毒のにおいがする病室は──若干年季は入っているみたいだけれど──どこまでも清潔で、可能であるならば一週間くらいここで療養したいと思うほどだった。巌流島で斬られでもしたら、療養どころではない、ひどくぜいたくな夢になってしまうことはわかっているのだけれど。
「自分、評論家じゃないんですよ」
「弁護士なのは知ってる。小説関係者じゃない人の、素朴な意見が聞きたいだけ」
「……先輩の小説って、なんか登場人物が幼くないですか。すぐキレるし、感情的に動くし」
「そうでもなくない?って超言いたくなったけど、まずは聞くだけにする」
「あと、テーマって言うんですか、そういうのが感傷的ですね。セカイ系っていうのかな」
「それは絶対に違うけども、まだある?」
「主人公が高校生のもアラフォーのも、どれも青春っぽいです。いい意味で」
「つまり悪い意味でってことだね」
「そういうツンデレも、他の小説ではあんまり見なかったかも。なんかみんな大人びてますよね。先輩に比べて」
「わたし個人じゃなくて、小説がそうだと思ったんだね。うんうん」
 そしてわたしは沈黙する。
 もう、ずっと前からわかっていたことじゃないか。
 わたしの文章には、後輩弁護士にもわかるくらいの明らかな〈青さ〉があって、〈マリッジブルー〉はそれが──なぜか──憎くて憎くてたまらないのだ。
 そして先輩弁護士と後輩弁護士とわたしの生徒とその親であるらしい元同室者──4人とわたしは、いや、わたしたち5人の言葉は、後輩社長のAIサービス〈A-PRISM〉によってつながりあっている。
 わたしはあきらめるように、受け入れるように、後輩弁護士に語りかける。
「きみ、〈A-PRISM〉の調整、ちゃんとしてる?」
「仕事のときは〝法律用〟にしてますけど、ふだんは〝デフォルト〟ですね」
 そのデフォルトがまさに問題なのだ。
 デフォルト設定の〈A-PRISM〉は、わたしの言葉に、青い言葉に、汚染されている。
 真っ白な病室の壁に、青いしみが広がっていくみたいに。
 なるほど。
 これは──わたしを殺していい理由にはまったく足りないとは思うけれど──わたしを殺さなければ〈青の環境汚染〉はますますひどくなるばかりという理屈はなりたつだろう。
「──わたし、巌流島に行ってくる」
「え?ダメですよ」
 と言いながら後輩弁護士はふらついてベッドに倒れ込んでしまった。
 わたしのかわいい後輩をこんなふうにするなんて。
 わたしはわたしの言葉にむかいあう。

〔第49話:全2,421字=高島執筆67字+AI執筆2,354字/第50話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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