高島雄哉×AI連載小説『失われた青を求めて』第50話【新訳】

小説家+SF考証・高島雄哉氏が、日本語最大規模の自然言語処理AI「AIのべりすと」の自動物語生成機能を使って綴る、文芸ミステリ。人間とAIのふたつの知の共作による人類初の小説実験。

【第50話】 見出された青(七)

 わたしは巌流島に向かう船のなかで、マリッジブルーとの決闘のことを考えていた。
 小学生の六年間でわたしは合気道2級になっていたけれど、もちろんドローンひとつ叩き落とせないだろう。
 しかしここに後輩社長はいないし、後輩社長からもらったXR──拡張現実メガネも回線を切っている。
 わたしと〈マリッジブルー〉、誘拐された4人と殺害されたチーフ、あるいは大学寮とIKEA──関係者や関係先のすべてをむすびつけるのは、後輩社長の〈A-PRISM〉だけだ。
 わたしの小説、わたしの言葉をむさぼり食って、〈A-PRISM〉は育っていった。
 わたしはわたしで──今もこうして──〈A-PRISM〉を使いながら小説を書いている。
 後輩社長を疑いたくはないのだけれど、いわゆる重要参考人レベルなのは間違いない。もし巌流島にいるのが後輩社長だったら、後輩社長が〈マリッジブルー〉だったら──わたしはどんな顔をすればいいのかわからない。
 わたしや関係者が生きていると、せっかく作った〈A-PRISM〉が汚染されるから、こんな事件を起こしたのだろうか。でもあの天才が〝せっかく〟なんて考えるとは思えない。めんどくさがりのわたしじゃあるまいし。後輩社長の天才性があれば、〈A-PRISM〉くらい百でも千でも作れるだろう。
 ──本船はまもなく巌流島に到着します。二時間後に巌流島を出発する船が最終便となりますので、必ずお時間には港に戻ってください。最終便以降は島から出ることは極めて難しくなります。ご注意ください。
 巌流島までは下関からも門司からも船で10分の小さな離島で、島内にあるのはトイレだけ。下水用の地下水はあるが、水飲み場はない。携帯電話の電波もかなりあやしく、フェリーに乗り遅れても、運良くネットにつながれば、地元の漁師たちにお願いできるらしいけれど、当然いつもチャーターできるわけではない。
 フェリーが小さな港に接舷した。この船がそのまま島を出る最終便になるから、これから二時間ずっと停船することになる。
 巌流島は東西にも南北にも500メートルもない小島で、心臓みたいな形をしていた。港の反対側には砂浜が広がっている。島内には数本の木以外に、ほとんど凹凸はなく、一番高いところにある四阿{あずまや}からは全島が見渡せる。
 武蔵と小次郎が戦ったのは江戸時代だったはずで──今はネットがなくて年号までわからない──400年前も今も、決闘にふさわしい。どこかに隠れるみたいな小細工はできそうもない。
「だから武蔵は遅刻したのか。遅刻くらいしか戦略がなくて」
 ──あいかわらずひとりごと。しかも長い。
 わたしは赤面しつつ、声の主をさがした。ひとりごとをひとりごととして認識されることほど恥ずかしいことはない。
「はあ?そっちに聞こえてるって思ってたし!」
 ──はいはい。
 どこ?
 音色からスピーカーなのはわかる。島には公共放送の設備などはないから、ドローンに違いない。しかし以前のようにわたしのまえに姿を見せてこない。
「隠れる意味ある?」
 ──隠れてない。
「え?」
 わたしはあらためてあたりを見渡す。
 まさか武蔵みたいに小舟で乗りつけるつもりなのか?しかし見えるのは瀬戸内海を行き交う大型船ばかり。時々高速フェリーがその船たちを追い抜いていくけれど巌流島に寄る気配はない。
 ──見えるでしょう?
 海風によって散ってしまう音の源をさがして、わたしは小さな島を歩き回る。
「ん?」
 海岸に透明な箱が置かれている。
 違う。青いコンテナだ。
 あたかも保護色のように、空や海に溶け込んで、気づいてからも見失いそうだ。
「また青」
 ──当然でしょう。
 わたしは遊歩道から海岸に下りて、まっすぐに青いコンテナにむかう。
 武蔵は遅刻という戦略を選び、〈マリッジブルー〉は待ち伏せというわけだ。ただ待っていた小次郎のように、わたしも無為無策で決闘に臨んでいる。これでは決闘の結末は火を見るよりも明らかではないか。
 青いドアがあり、青いドアノブがある。
 罠だと確信していながらも、中にわたしの教え子がいるかもしれないという疑念は消し切ることができない。
 ──ドア、開けないんですか?
 音源はコンテナの天井らしい。
 催促されても関係ない。これからドアを開けるのは、間違いなくわたしの意思だ。
「……違うか?」
 ──言葉は決してあなたのものではない。
「そんなの思いっきり知ってるよ!」
 ──認識も決してあなたのものではない。
「でしょうね!」
 それらが〈マリッジブルー〉の言いたいことだということは、さすがのわたしも理解している。
「わたしのせいであなたの言葉の〈青さ〉が失われたって言いたいんだろうけど、だからって4人も誘拐して、しかもチーフを……殺すなんて!絶対許さない!」
 ──〈失われた青〉は永遠に元には戻らない。
「そんなの!」
 ──……知りなさい、小説家。あなたはグレタ氏に会ったでしょう?
「あれは偽者!」
 ──さあ、中に入って、あなたの罪を知りなさい。残りの3人にも会わせてあげます。
「当然会うから!」
 わたしは青いドアを勢いよく開けた。

〔第50話:全2,023字=高島執筆23字+AI執筆2,000字/第51話に続く〕

▶これまでの『失われた青を求めて』

高島雄哉(たかしま・ゆうや)

小説家+SF考証。1977年山口県宇部市生まれ。東京都杉並区在住。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、ハードSF「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞受賞。同年、数学短編「わたしをかぞえる」で星新一賞入選。著書は『21.5世紀僕たちはどう生きるか』『青い砂漠のエチカ』他多数。2016年からSF考証として『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』やVRゲーム『アルトデウスBC』『ディスクロニアCA』など多くの作品を担当。
Twitter:@7u7a_TAKASHIMA
使用ツール:
AIのべりすと

Twitter:@_bit192

次回をお楽しみに。毎週木曜日更新です。

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