村田らむの”裏・歳時記2022” 【1月】癖のある初詣

あけましておめでとうございます。
皆様お正月休みはどのように過ごされましたか。もう長らく続いてもはや日常となりつつあるコロナ禍で、海外旅行など夢のまた夢という感じで年が明けてしまいました。
ケムールでもあゆまっくすさんや丸山ゴンザレスさんによる、在りし日の海外トラベルの過激な振り返り連載が好評です。

▶スイーツマニアの激辛シュガートリップbyあゆまっくす
▶煙のあった風景by丸山ゴンザレス

まだまだ予断を許さない昨今ではございますが、人間の好奇心はたくましいもの。自宅待機と外出自粛の一方で、感染防止に取り組みながらの近場でのレジャーや国内小旅行に注目が集まっています。見渡せば電車で日帰りできる場所にも、素晴らしい景色や歴史に語り継がれる名勝が見つかる素晴らしい祖国・日本。
ということで、ケムールでも国内旅行連載をスタートすることといたします。
その旅の案内人は「ホームレス」や「樹海」取材のパイオニア、村田らむさん!


村田らむ
一九七二年生まれ。愛知県名古屋市出身。ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマン。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教などをテーマにした体験潜入取材を得意とし、中でも青木ヶ原樹海への取材は百回ほどにのぼる。著作に『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)、『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)などがある。

オイなんでそうなる!? 絶景は? 名勝史跡は? と怒らないでください、飛沫が散ります。「じゃ●ん」や「楽●トラベル」では決して見つからないディープな旅の達人に、存分に日本の(裏側の)楽しみ方を学ぼうではありませんか。
さあ初回、1月のテーマはもちろん「初詣」
明治神宮に殺到してクラスターを起こしている場合ではありませんよ。らむさんは、知られざるいわくつきの寺社仏閣を詣でて、新年を迎えたようです。

一月・癖のある初詣

 日本人なら新年には初詣に行きたいところだが、普通の神社の初詣には行き飽きちゃったよ……。
 とお嘆きのあなたのために、今回は

『癖のある神社に初詣・3連チャン』

 をお届けしたいと思う。
「最初の神社は初詣だけど、2つ目の神社は初詣じゃないじゃん」
 と難癖をつけてくる人がいるかもしれないが、『新年になって、その神社に初めてお参りすること(新明解国語辞典)』だそうなので、3連チャンしたら、3回とも初詣なのである。

 というわけで、筆者である村田らむは今年の大晦日は大阪のネット番組に出演していた。
 年を越して軽い打ち上げがあった後に、解散になった。仕方なく新大阪駅近くの漫画喫茶に行き、始発の時間まで仮眠をとった。
 早朝、新幹線ひかりの始発で小田原駅に向かい、11時頃にカルト新聞を主催している藤倉善郎さんと合流した。
 藤倉さんは、主にカルト宗教と呼ばれる団体の取材をしているライターである。

 小田原駅前で藤倉さんの自動車に乗り込み、1つ目の神社に向かった。

 

其の一:箱根大天狗山神社

 目的地は小田原駅から20分くらいと比較的近い。1号線から732号線に移り、どんどん山の中に入っていく。
(こんな山の中にどんな神社があるのだろう?)
 と思っていると、かなり大きい赤い鳥居が見えてきた。手前にあった駐車場に自動車を停めて、近づいていく。

 鳥居のど真ん中には『大天狗山』と書いてある。そう、ここは『箱根大天狗山神社』だ。


 ただその鳥居にはちょっと変なところがあった。鳥居に2体の何かが停まっているのだ。三本足の八咫烏(ヤタガラス)あたりがとまっていたら納得だが、それは背中に白い羽のついた幼子だった。


 西洋の絵画に出てくるキューピッドか、天使にしか見えない。立派な鳥居にはかなり異色なキャラクターである。
 違和感を感じながら進んでいくと、もう一つ赤い鳥居が出てきた。こちらの鳥居には天使は乗っていないが、その代わり横に青い服を着たブッダが座っていた。
 まあ西洋風天使に比べたら、神仏習合だと思えば違和感は少ないか。

 鳥居をくぐり境内を歩く。
 赤白の幕がはられキラキラと光る吹き流しが無数に飾られてとてもきらびやかだった。
「ピッピッピー、ドンドン、それ」
 と笛太鼓の音が聞こえてきた。テープで流しているのかと思いきや、大人と子供が混合で音を鳴らしていた。
 階段を登っても天使がいっぱいである。
 女性像(たぶん稲荷)に大勢の天使が群がる像もあった。肌色に着彩してあるので、妙に生々しい。
 壁に天使の秘密が書いてある『幼神神社のいわれ』という説明書きを見つけた。


 幼神は一般にいうところの水子だそうだ。水子とは一般的に流産や中絶した胎児のことだ。人間に生まれ変わるにはすごく大変なのに、無残にも命を断たれてしまったら“うらみ”に変化してしまうこともある。きちんと供養しないと、水子は永遠に浮かばれないし、生きている人間にも障りがある。箱根大天狗山神社は、そんな幼子の聖なる庭(楽園)として神々の修法により、天上界への道を切り開いた日本で唯一の『幼神神社』なので、心当たりある人は来いよ、というようなことが書かれていた。
 看板の四隅には、花や籠を持った天使が描かれている。
 お菓子が大量に置いてある部屋もあり、これも幼神に対するプレゼント的なものだろう。
 信者の人と話をすると、

「彼らは水子と呼ばれるのは嫌がるんですよ。幼神と呼ばれていますが、私は親しみを持ってエンジェルさんと呼んでます」

 ハッキリ、エンジェルって言ってしまっている。あと「エンジェルさん」って小学校の時流行った、コックリさんの別バージョンみたいなヤツと同名だなあ。

「ちなみに普通は中絶したり流産した子供を水子といいますけど、私どもは数え年で19歳までに亡くなった子供を幼神としています」

 19歳のズルムケチ●ポで無精髭でパチンコ行きまくってる男も、死んだら水子なのか~と感慨深い思いがした。

 しかしすっげえエンジェル推してるけど『箱根大天狗山神社』のメインである天狗は全然ない。天使にブッダに稲荷に完全に負けている。ふと見ると、
『悪魔祓 八雷龍虎殿』
 という極彩色の建物があった。どうやら入るのに1000円かかるらしい。ドアが開くとカーテンが敷かれていて、中は暗い。お化け屋敷のようなシステムだ。
 中に入ると中もギラギラだ。目が赤く光った虎がいる。突然、大声が聞こえる。
 天狗だった!!
 天狗が真言みたいなのを唱えている。
 初天狗に感動しているとすぐに照明は切れて、出口のドアからおばちゃんが
「はい~出てきてください~」
 と急かした。
 1分足らず……。お化け屋敷なら相当なボッタクリだが、悪魔祓いができたなら、良いとするか。やっと天狗も見れたし。

 ブッダのいたあたりに戻ってくると、ちょうどバスが着いたところだった。
 同じ系列の『箱根天聖稲荷大権現神社』まで送り迎えしてくれるバスだった。稲荷と言っているだけあって稲荷神の眷属(神使)である狐の像がたくさん祀ってあった。
 天狗、ブッダ、天使、ときて稲荷である。なかなかのごちゃまぜだが、そもそも稲荷神とはよくわからない神様だ。
 日本神話に登場する女神 宇迦之御魂神(ウカノミタマ)と同一視されて主祭神として祀られることも多いがもともとは別物だ。
 仏教では荼枳尼天と習合されている。荼枳尼天はインドの魔女ダーキニーから来ている。ダーキニーは空を駆けて、敵を殺し、人肉を食う、なかなかワイルドな神様である。だけどこれもそもそもは別物だろう。
 渡来人である秦氏が信仰した氏神だとも言われるが詳細は何も分からない。
 なんだかよく分からない神様だから、ごちゃごちゃと色々な神様が並んでいる神社にいても、そんなに不自然ではなかった。

「まあそれにしても、もうちょっと天狗要素ほしかったよな~」

 などと話しながら、我々は第二初詣地点に向かった。

 

其の二:『ワールドメイト 皇大神御社』

 お次のポイントは、箱根大天狗山神社から自動車で一時間の場所だった。神奈川県の伊豆市。でっかく富士山が見える。木製の看板には
『ワールドメイト 皇大神御社』
 と書かれている。


 ワールドメイトとは、深見東州氏が教祖をつとめる宗教団体の総本山だ。俺は、
「本部はまともな名前なんだ!!」
 と驚いてしまった。なぜなら、ワールドメイトの支部の名前は深見東州自らつけたかなり変わった名前からだ。いくつかあげると、

『本タラバ毛ガニ手足バタバタ・忍者走り!!北海道エリア本部』

『ミトコンドリア免疫力上げる帯広支部(北海道帯広市)』

『ジャンジャン行けそんなこと言ったらマッキンリーまで行きますよ東北エリア本部』

『完熟トマトあちらにポロリこちらにポロリ、結局畑はトマトだらけ何て真っ赤な幸せ新宿エリア本部』

『光の国から僕らのために来たぞわれらのマルトラウン支部』

『宇宙戦艦トヤマ支部』

『ソーキそばを想起させる、早期幸せ実現!支部』

 となかなかのインパクトのある名前だらけなのだ。受付の人も電話がかかってくるたびに、

「ジャンジャン行けそんなこと言ったらマッキンリーまで行きますよ東北エリア本部」

 とか言うのだろうか。
 落語の『寿限無』みたいである。
 まあこんなに変わった宗教団体なのだから、総本山もさぞかしおもしろ要素がいっぱいだろう!! と期待して境内に入る。 

 が……普通だ!!
 めっちゃ普通だった!!
 そして正月なのに、誰もいない。
 あまり大々的に初詣をやっていないようだ。

お守りもめっちゃ普通だった

 長い境内を歩いていくと社があった。
 その奥には
『金比羅神社』『廣田神社』『住吉神社』『鹿島神社』と全国の神社の名前が書かれた小さな社が並んでいた。
 総本山を回っただけで全国の神社を回ったことになるのかな? と思っていると、多くの社に張り紙が貼ってあることに気がついた。

『こちらのお社は、深見先生のご神魂入れがまだ行われておりませんので、お社に向かってのご祈願はご遠慮下さいますよう、お願い申し上げます。』

 とのこと。なんだかよく分からないけど、ほとんどのお社、ご神魂とやらが入ってないんだって。
 ざ~んねん。

 なんか面白要素はないか!! と探していたら、池の看板にながながと説明書きがあった。
『菊水神泉御祭神
タスマニアの神
ミューズの神
つたの姫
メルボルンの神
アーナンダ竜王
アメノマサカリヒコネの神
ゼウスの御龍体
(略)』
 とのこと。これまた箱根大天狗山神社に負けず、全世界からたくさんの神様が集まっていること。
 ネタ少なかったな……と物足りなさを感じつつも、第三の初詣スポットに向かったのであった。

 

其の三:不二阿祖山太神宮

 最後のスポットはより富士山の近くの、富士吉田市だ。
 ワールドメイト総本山からは一時間半ほどかかった。到着した頃には夕方になっていた。
 スポットの名前は
『不二阿祖山太神宮』
 である。どこかで聞いたことがある人もいるかもしれない。安倍晋三元内閣総理大臣の妻、安倍昭恵さんがの関連団体のイベントの名誉顧問を務めていたと報じられ、一時期話題になった神社だ。

 安倍昭恵さんはなかなかぶっとんだ考えを持つと有名だが、『不二阿祖山太神宮』も負けていない。
『不二阿祖山太神宮』の説明によれば、始原神であり唯一神、宇宙の創造神たる「富士太神(不二太神)」を祀る日本最古の神宮、とのこと。2~300万年前に天皇を頂点とする富士王朝があったと主張している。
 2~300万年前である。古さもすごいが、誤差が100万年あるのがすごい。キリスト誕生~現在までの約2000年の500倍の年数が誤差だ。
 ちなみにアウストラロピテクス・アフリカヌスが2~300万年前だと言われている。そんな頃に天皇を中心とする王朝があったとは!!
 すでに初詣タイムは終わっていたようで、境内を参拝することはできたが、人はほとんどいなかった。


 一見、普通の神社に見えるのだが、よく見るといろいろおかしい。鳥居は柱が三本で、三角柱のようになっている。以前来た時に信者の人に聞いたところ、
「鳥居の真ん中はパワースポットになっているんですよ。肩こりがスーッとなくなったりするんですよ。電磁波に影響があるんです」
 とニコニコと説明してくれた。
「電磁波がなくなるんですか?」
 と聞くと
「電磁波がなくなるわけではないと思うんですが~」
 と言っていた。電磁波がなくなるわけではないが影響はあって、肩こりが治るらしい。
 ありがたいことである。
 看板には
『三柱鳥居 天からミロク真太神様(火・水・土の太神)の偉大なるエネルギーが宇宙の中心からこの地に降りています。三柱鳥居では携帯電話などを使った電磁波実験等を体験していただけます。』
 とよく分からないが、素晴らしそうなことが書かれていた。

 初詣三連チャンで疲れた身体を癒すためにしばらくボーッと鳥居の下に立ってみたが、変化はなかった。

 境内にある施設のひとつひとつには、説明書きがあった。

『スワスチカ ムー大陸の絵文字の一つ 神の四大源力を表します。ここでは、神の回転のエネルギーの違いを体験していただけます。』

『蓬莱山島石組み ~略~世界最大の宇宙エネルギーがある所と言われております。ここでは火・水・土の太神様のエネルギーを感じていただけます。』

 などなど。
 神社に『ムー大陸』とか『スワスチカ』とかの単語を見る機会はめったにない。
 ちなみにスワスチカとは、卍のマークのことだ。ナチス・ドイツのハーケンクロイツもスワスチカである。
 置かれたチラシには「神秘体験ができるスポットでございます」とはっきり書かれていた。
 藤倉さんが、
「ドラマ『トリック』に出てくるセットみたいだ……」
 とつぶやいた。たしかに仲間由紀恵が出てきて、
「お前達のやった事は、全部全てまるっとお見通しだ!」
 と言いそうな雰囲気だ。
 本当なら、社務所で霊験あらたかなお水とか、消しゴムとか売っていたので買いたかったが、当然閉まっていた。

 いよいよ日が暮れて真っ暗になってきてしまった。
 慌てて車に戻り東京へと戻った。

 というわけで、2022年の正月を癖のある神社の初詣で過ごしたので、今年はとても良い年になりそうである。

文・村田らむ Twitter:@rumrumrumrum

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