煙のあった風景 18【特別編】村田らむが見た丸山ゴンザレスの旅

煙草はリラックスのための嗜好品。しかし命がけの一服もある――。
「危険地帯ジャーナリスト」としてスラムやマフィアなどの裏社会を取材し、世界の生々しい姿を平和ボケの日本に届け続ける、丸山ゴンザレスさん。
本連載では愛煙家でもある丸ゴンさんの数々の体当たり取材の現場に欠かせなかった煙草のエピソードを通して、その刺激的な旅の足跡をたどります。

▶いままでの「煙のあった風景」

丸山ゴンザレス


ジャーナリスト、國學院大學学術資料センター共同研究員。國學院大學大学院修了後、出版社勤務を経てフリーのジャーナリストとして日本の裏社会や海外危険地帯の取材を重ねている。主な著書に『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)、『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)、『MASTERゴンザレスのクレイジー考古学』(双葉社)、『世界ヤバすぎ!危険地帯の歩き方』(産業編集センター)、『危険地帯潜入調査報告書 裏社会に存在する鉄の掟編』(村田らむ氏と共著・竹書房)など多数あり。

 世界各地の危険で奇妙なタバコの風景を巡ってきた本連載はすでに1年半を迎えて17回も連載してきましたが…今回は「特別編」です。テーマは「煙のあった風景」を読む。危険地帯ジャーナリストの代表格である丸ゴンさんの旅を、ほかの旅人はどう読んできたのでしょうか。
 レビューしていただいたのは、樹海・宗教施設・ホームレスなど私たちの身近にある危ない場所を取材し続けている村田らむさん。

村田らむ
一九七二年生まれ。愛知県名古屋市出身。ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマン。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教などをテーマにした体験潜入取材を得意とし、中でも青木ヶ原樹海への取材は百回ほどにのぼる。著作に『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)、『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)などがある。

 ケムールでは国内旅行連載「裏・歳時記」を連載してくれました。

▶村田らむさん連載「裏・歳時記」はこちら

 同じように社会のウラガワを取材してきた丸山ゴンザレスさんと村田らむさんは戦友のような関係でもあります。
 ふたりの旅人はどう付き合ってきたのか。危ない旅の視線が交差するレビューをどうぞ。

日本の内側と外側にある「ヤバい場所」

 丸山ゴンザレスさんと実際に知り合ってもう何年にもなる。出会う以前から作品は見ていて単純に「すげえなあ」と思っていた。

 僕は、青木ヶ原樹海やらカルト宗教やら自己啓発セミナーやら、一聴すると恐ろしげなところに行くが、所詮国内である。
 実は海外はアジアにしか行ったことがない。韓国、中国、タイ、フィリピン……北朝鮮に行ったのが、ちょっと珍しいくらいの感じだ。そもそも外国語を全く話せないし、方向音痴だし、フィジカルも弱々だし、ハードな海外取材をして帰って来られる気がしない。

▶村田らむの”裏・歳時記2022” 【1月】癖のある初詣

 だから、海外でバリバリ取材をこなす丸山さんに対しては強い憧憬がある。
 丸山さんは実にワールドワイドで『煙のあった風景』でも「フィリピン」「タイ」「アメリカ」「ボリビア」「ブラジル」「インド」と様々な場所に行っている。

煙のあった風景 15 夜に漂う自由の残り香【2014年/香港】

 で毎度、色々な場所でタバコを吹かしている。記事を読むとムズムズとタバコを吸いたくなる。僕自身はタバコをやめてもう12年になるのだが、それ以前は一日2~3箱は吸うヘビースモーカーだった。やめて1年くらいは「吸いたいなあ」と思うことがあったが、今ではもう全然吸いたいと思うことはない。

 でも丸山さんのルポを読んでいるとムズムズとタバコが吸いたくなる。これはキツイ取材をしている時に吸う一服が旨いことを知っているからだ。
 慣れた手付きでジッポーで火をつける。空に紫煙を吐き、普段とは違う情景に煙が溶けていく。自分自身の古い取材の思い出が蘇り、どうにもタバコを吸いたくなるのだろう。

煙草が吸える喫茶店で

煙のあった風景 03 マンハッタン・アンダーグラウンドの吸い殻【アメリカ】

 丸山さんとは雑誌『本当にあった愉快な話』で、ずいぶん長く一緒に連載させてもらっている。
 基本的には丸山さんに国内外であったエピソードを聞いて、それを僕が漫画にまとめる形だ。都内の都心部の喫茶店で話を聞くことが多い。都内ではタバコを吸える喫茶店が減った。僕はタバコを吸わないので普段は気づかないが、丸山さんのインタビューでタバコの吸える店を探すと本当に少なくてビックリする。
 先日は、たまたま大阪の喫茶店で話を聞いたが、大阪はまだ店内でバリバリ吸えた。吸えることに、少し驚いていると
「東京やないからね」
 と店のおばさんは笑顔で言った。

 都内だと、喫茶店『ルノアール』は電子タバコは吸えるのでよく使う。ルノアールの喫煙席に座って、漫画のネタを聞く。
 内容はもちろん過激である。
 飲み屋でイキって話すオッサンの一番とっておきの話の10倍くらいショッキングな話がバンバンと飛び出す。
「ブラジルを取材中に乗ってる自動車が銃撃された話」
「取材最後に行く予定だったレストランがテロにあった話」
 などなど。過激な話が進行する。僕は楽しいのだが、ふと周りの目が気になる。
 僕は、丸山さんがテレビに出る前から知り合いだから、丸山さんを有名人だという目では見ないのだけど、周りから見たら一目瞭然で
「丸山ゴンザレスだ!」
 なのだ。丸山さんは存在が『丸山ゴンザレス!!』なので目立つ。サングラスやマスクをしても『丸山ゴンザレス!!』である。

煙のあった風景 13 2022年の煙のあった風景、これからの風景【タイ>>コロンビア>>パナマ>>メキシコ>>アメリカ】

 で、その丸山ゴンザレスさんが、海外で危ない目に会った話をワイワイしているのである。そっと周りを見ると、チラチラと見ている人がいっぱいいるのに気がついて、ちょっと気まずくなったりするのだ。
 ちなみにそんな竹書房の連載は『危険地帯潜入調査報告書』として1~2巻が発売されているので、興味ある人は読んでほしい。

『危険地帯潜入調査報告書』(竹書房)

丸山ゴンザレスとの旅

 丸山さんと、一緒に福島の立ち入り禁止区域を取材したことがある。
 民家のまわりを防護服を着た作業員が除染作業をしていた。新築の家だったが、原発事故が起きたので立ち退かざるを得なかったようだ。写真を撮っていると、作業員の1人がツカツカツカと歩み寄ってきた。
 この時は珍しいことに、キチンと許可を取って取材をしていたのだが、別に『許可を取ってます』という札を首からぶら下げてるわけでもないので、そんなことは分からない。
「ここは立ち入り禁止なので出て行ってください。取材はやめてください!!」
 と言われるだろうな、と覚悟を決めていると、
「丸山ゴンザレスさんですよね!! 番組見ました!! フィリピンの危険な現場に行ってるの見て、すげえなあと思って!!」
 と興奮しきりだ。福島の立ち入り禁止地域で防護服を着て作業している人に「危険な現場」って言われるフィリピンもちょっとかわいそうだが。何にせよ、丸山さんが喋ってる隙にうろつきまわって、取材ができたのでとても助かった。

 丸山さんと一緒に歩いた、立ち入り禁止区域だった双葉郡富岡町にあった『夜ノ森駅』はとても印象的だった。地震の被害はほとんどないのに、人だけがいなくなっていた。
 まるで藤子・F・不二雄の作品で、「人だけがいなくなってしまった世界」を歩いているような不思議な気持ちになった。
 ただ地震から数年は経っていたので、道路は劣化してヒビが入り、そこからは雑草が茫々と生えていた。観葉植物も、もう観葉植物とは言えないほど大きく育っていた。
 室内はイノシシが入り込んでぐちゃぐちゃにしてしまうらしく、庭先に罠が仕掛けてあったが、かかってはいなかった。

人間がいない世界

 夜ノ森駅は2020年から復活した。この地域全体も立ち入り禁止区域ではなくなったので、どれくらい回復したのか見たかった。
 しかし現実は残酷だった。駅は新しく建て直されたものの、無人駅だ。駅周辺にも人通りはほとんど見られなかった。
 丸山さんと来た頃にはまだ町と言えるくらいの建物は建っていたが、多くの家が取り壊されていた。地平線が見えるかというくらいガランとしてしまって、とてもさみしい気持ちになる。

 駅前の『理想郷』という名前のゲームセンターの廃墟だけが、未だに残っているのが皮肉だった。この寂しい光景こそが、原子力発電所の事故の恐ろしさを現しているだろう。

 そんな町並みを眺めつつ、もし丸山さんがここにいるなら、ここでタバコに火をつけたんだろうなと思った。


▶いままでの「煙のあった風景」

村田らむ
Twitter:@rumrumrumrum
丸山ゴンザレス
Twitter:@marugon

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