2022年初頭に開始された村田らむさんの「裏・歳時記」完結!!
コロナの自粛ムードがまだまだ残る2022年1月。ケムールではじめての「国内旅行」連載(一回海外にも行ったけど)が始まった。
絶景!大自然!大行列!B級グルメ!地元民との相席!…そんなエンタメ旅の圧力に疲れた人々に、「じゃ●ん」や「楽●トラベル」では決して見つからないディープな旅をお届けしてきた案内人は、ホームレスや宗教施設などの潜入取材のパイオニアである村田らむさん。
寂れてしまったかつての観光地や、宗教施設・廃村・事故物件・樹海・原子力発電所まで17か所!近くて安い、しかもめっちゃくちゃ空いてる謎のスポットには、日本の顧みられない歴史がむき出しになっている。
その名場面を紹介しながら、本記事では危ない旅の仲間でもありケムール連載作家でもある危険地帯ジャーナリスト、丸山ゴンザレスさんと「旅」について対談してもらった。
■村田らむ
一九七二年生まれ。愛知県名古屋市出身。ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマン。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教などをテーマにした体験潜入取材を得意とし、中でも青木ヶ原樹海への取材は百回ほどにのぼる。著作に『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)、『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)などがある。
■丸山ゴンザレス
ジャーナリスト、國學院大學学術資料センター共同研究員。國學院大學大学院修了後、出版社勤務を経てフリーのジャーナリストとして日本の裏社会や海外危険地帯の取材を重ねている。主な著書に『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)、『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)、『MASTERゴンザレスのクレイジー考古学』(双葉社)、『世界ヤバすぎ!危険地帯の歩き方』(産業編集センター)、『危険地帯潜入調査報告書 裏社会に存在する鉄の掟編』(村田らむ氏と共著・竹書房)など多数あり。
本記事ではその一部をわかりやすく再構成してお読みいただく。
濃くて長いトークの全編は、ぜひ村田さんのYoutubeチャンネル「リアル現場主義」で見てほしい!!
危ない旅の達人
丸山ゴンザレス(ゴンザレス) きょうは「裏・歳時記」完結記念ということで。どのくらい続いたんでしたっけ?
村田らむ(らむ) 1年半くらいでしたね。1年4ヶ月。
ゴンザレス 思えば、らむさんをケムールに引き込んだのは俺だったんじゃないかな。編集部に言って。
らむ タバコ吸わないのに(笑)。
ゴンザレス だからよく企画が通りましたね。一応、編集部に言いましたよ。タバコ吸わない人ですよって(笑)。でも多様性の時代ですから吸わない人が書いててもいいだろって。
昔は吸ってたんですよね?
らむ ラッキーストライク。多いときは1日3箱くらい吸ってたかな?
ゴンザレス いつタバコ辞めたんでしたっけ。
らむ えーと、2010年ですね。
ゴンザレス 辛い禁煙を乗り越えたわけですね。自力で禁煙したんですか。
らむ そうですねー。一応最初はガムを買ったんですよ、ニコチンガム。これが5000円ぐらいするわけです。高えな!ってなりまして。そこから自力で。
ゴンザレス 禁煙はネタにしなかったんですか? らむさんだったら、今なら絶対「禁煙セラピー」とかってネタにしそうですけど。
セックスセラピー潜入したりとか、いろいろやってたじゃないですか。
らむ うーん、でもネタにするっていうのも、結局禁煙セラピーって禁煙が成功したか失敗したかしかないから。面白くないんですよ。
禁煙セラピーに通ってる人に「タバコあるよ」って勧めてみるとか、そういうのはちょっとは考えましたけど(笑)。結局それを載せる媒体とかもなかったし。それで普通にやめちゃった。
1年4ヶ月の連載
ゴンザレス 「裏歳時記」は国内旅行ですよね。
らむ 国内ですね。2022年のコロナの時に始まったんで国内旅行しかできなかったって事情がありますけど。1回だけ韓国に行きましたけどね。
らむさんが忘れられない目的地
ゴンザレス 旅連載って色々切り口がありますよね。今回のケムールでは、国内の「旅」でまとめるのか、「取材」としてまとめるのかでいうと、どっちが意識として強かったんですかね。
らむ 「旅」ですね。変な旅をピックアップできたらなって。
ゴンザレス 特に覚えてる場所あります?
らむ うーん、「樹海」かな。樹海で自殺したいと思ってる女の人と、樹海で死体を見つけるのが趣味の人と、僕とで3人で樹海を回ったのはムチャクチャで面白かったなと。
ゴンザレス ああ、あれは良かったですね。
らむ でも、毎回あんな感じだったらいいけど、なかなか厳しいんですよね(笑)。やっぱりスポット紹介になっちゃう。
ゴンザレス 場所の紹介が得意なライターさんは他にいますからね。ふわっとした書き方ができる人。
あと、読んでる人にどういう意味で取られるのか、って言う問題もあるじゃないですか。「ここには行くな」って言ってるのか、「好きすぎて推してるだけだろ」みたいに取られるか。スポット紹介ってたぶんそういう難しさがあるから。
ゴンザレス そこが旅行系のライターさんの腕の見せ所なんだろうなと思う時があって。らむさんって、めっちゃ強いネタになる場所じゃなくても、なんかこう上手く書くじゃないですか。スポット紹介のコツとかあるんですか?
どこでも「旅モノ」にする技術
らむ マジに答えると、旅モノのコツは「時系列順」に書く!ですかね。これ、意外とできない人がいるから。
ゴンザレス なるほど、「時系列」で書く。
らむ 遠くから近寄っていく、というね。写真でもそうで、施設の中なんかは撮影できないところも多いんだけど、絶対に入り口の写真は撮る。新人の編集者さんなんか、よく注意されますよ。
ゴンザレス 入り口をちゃんと押さえてつなげば、それっぽく見えますもんね。施設によっては、中をいくら撮影できても違いがわからないときもありますし。
らむ そうそう、樹海もですよ。どこを撮ってもだいたい一緒みたいな(笑)。
ゴンザレス 自然物ってスケール感が写真だと全然伝わらないんですよね。中の写真をいくら並べても、「ただの木じゃん」とかそういうことになっちゃう。入り口って大事ですね。
らむ 記事でも絶対一番最初の方に来るし、それで読む・読まないが決まるから。
昔編集部の仕事してたとき、新人の編集さんが、静岡まで取材に行っても、入り口撮影するの忘れて。もう1回現地に行かされたりしてましたからね。
ゴンザレス 鬼ですよね(笑)。そういう時代は確かにありました。
らむ まあまあ、センスない人はいくら言ってもできないですけど(笑)。
…あ、そういえばケムールで「自撮りはちゃんと撮ってきてください!」って編集者から言われたなあ。自撮りのクセがないから。
ゴンザレス 「自撮りしろ」って言われてるんですか。らむさんが(笑)?
らむ 何にもないのに急に自撮りしないですよね! 面白いマネキンとかがあったら別ですけど。顔出しパネルとかね。一人旅行の顔出しパネルはまた難しいんだけど(笑)。
韓国のヤバすぎる宿
ゴンザレス 海外だと韓国に行ってますね。久しぶりの海外旅が韓国だったんですか。
らむ 久しぶりですねー。慣らし運転みたいな感じの旅ではありましたけど。
ゴンザレス 韓国でもらむさんが泊まる宿って、西成で泊まるのと同じ感覚ですかね。とにかく安いところを選ぶっていう。
らむ ですねー。むちゃくちゃ安いですよね(笑)。一泊1000円台が多いですね。
ゴンザレス 飲み屋とかそういう…盛り場に近い裏路地にある宿。連載ではどこに行ったんでしたっけ。
らむ 「ヨンドゥンポ(永登浦)」っていう街。まあ歌舞伎町と西成と飛田が合わさったような街なんですよ。同じ地区に高級デパートとかもあって、だから新宿っぽさはあるんだけど、すごいドヤ街でもある。立ちんぼとかもいるし、そういう人が行くラブホテル…いやもうラブホテルなんて呼べたもんじゃない(笑)。連れ込み宿。
いつも1500円ぐらいで泊まれますよ。今回はちょっとムリだったんで、その隣の1700円ぐらいのドヤに泊まろうと思ったんですけど。
ゴンザレス 変わんないですよ(笑)。
らむ 部屋も広くて綺麗で、オンドルで床があったかい。行ったのが1月だからすごいありがたくて。でも7階まで階段で上るっていう所で(笑)。
エレベーターが木で打ち付けられてて絶対入れない(笑)。15年ぐらい前に壊れてる感じでした。
ゴンザレス うわー、7階まで階段はちょっとしんどいな…。そうなると1回部屋に入ると出たくないし、1回ドヤを出ると戻りたくない。
らむ だから安いっていうね。
ゴンザレス 下の階に行けば行くほど値段上がりそうですよね。
らむ そう。でも下の階が得体の知れない感じだったんだよな…。
韓国には結構まだ得体の知れないビルが残ってるから面白いんですけどね。
ふたりの旅の支度
ゴンザレス 海外取材の時ってなんかバックパック派なんですか?コロコロ(キャリーバッグ)転がすんですか?
らむ 基本的にバックパックですね。
ゴンザレス 何リットルぐらいのを使ってるんですか。
らむ 何リットルなんだろう?普通の…
ゴンザレス あ、twitterで「今どき2丁目のランドセル」っていじられたやつでしょ?
らむ そうそう、黄色いNORTHFACEの。新宿2丁目でゲイの人がよく使ってるやつだよって言われて(笑)。あれ1個でなんとかしのいでることも多いですけどね。(編集部注:容量30lくらいです)でも、あれくらいでおさめたくないですか?
ゴンザレス 僕は「裏歳時記」みたいな国内旅だと、もっとちっちゃいバックパックですよ。それに斜め掛け1つで、そっちに着替えを入れて。
仕事用のカバンは、東京にいる時と同じ中身だから移し替えたくないんですよね。今日はらむさん自慢のヴィトンのバッグよりも、ちょっと大きいくらいのカバンですけど。
らむ そこにバックインバックが入ってて。中にテープレコーダーとか、いや「テープ」とはもう言わないけど(笑)。音声レコーダーとか一通り入っていて。で、カバン変えた時もバッグインバッグを変えるだけ。
ゴンザレス あとは、今回みたいに動画を撮影するときはそれ用の映える衣装を持ってくるんですか?
らむ (笑)。ガルフィーです。
ゴンザレス シースルーのスケスケのガルフィー買わなかったんですか。
めっちゃ推したのに!
らむ 僕はそっちじゃない(笑)。派手じゃないから。チンドン屋やゲイパレード的なところには行かないから。
ゴンザレス また怒られそうなことを(笑)。
これからの「ヤバい旅」
らむ 最終回になっちゃいましたけど、今後どっかでも旅モノをやっていきたいなとは思っていて。noteも使って、自分で発信しようかと。
ゴンザレス 狙ってる場所は?
らむ ポーランドには行こうと思ってますね。現地でもちょっと通なところになっちゃうんですけど。
ベクシンスキーっていう画家さんがいて。これがめちゃめちゃ気持ち悪い絵を描く人なんですよ。
らむ もう凄まじく暗い絵というか、気持ち悪い気分が落ちる絵を描いていて。
椅子の上に女の人の首が置かれている絵があって、3回見ると死ぬと言われてる。
【この絵は本記事には掲載しません。自己責任で見てください:編集部】
ゴンザレス そういえば、らむさんって美大卒で有名画家の弟子ですからね。
らむ どういう人なんだろう? と思ってみたらアウシュヴィッツが近くにあって、その地下に岩塩でできた城みたいな、荘厳だけどアンダーグラウンド感のある建物があって。
「こういうところで暮らしてた人なんだ」って思ってたんですよ。
で、そこにベクシンスキーのみの美術館ができてて、それが凝ってて。天井とか壁とか全部真っ黒に塗って、照明も落とし気味で絵だけがフワーっと光を当てて浮かんで見えるっていう設計になってるらしい。
ゴンザレス それ、怖くないですか?
らむ もう怖がりたくて行く、という感じですね。
ゴンザレス ミュージアムショップとかやばそうですよね。どんなの売ってるんだろう?
そうそう、最近、パリのカタコンベ(地下墓地)の博物館というか、現状保存をしている場所のミュージアムショップに行ったんです。
そこに売っているグッズがドクロモチーフでおしゃれすぎて。やっぱりパリは違うなと。
らむ いいですよね。だから、ミュージアムショップでベクシンスキーのTシャツとかも欲しいし、あと画集も。あんまりAmazonとかでも買えないんですよ。僕も持ってはいるんですけどあんまりいい出来じゃなくて。たぶんショップに売ってる画集は良いと思うんで、そんなのも買いたいなと。一緒にアウシュヴィッツにも行きたいし。
あとは、他の国に行くかですよね。ウクライナは隣だから。みんなに「実はウクライナ行くんでしょ」って言われてるんだけど、たぶん行かないと思います(笑)。
ゴンザレス らむさんには戦場ジャーナリストの顔もありますからねー。
らむ ないですよ。死にたくない(笑)。
ゴンザレス それは冗談だけど、らむさんは最前線を行き過ぎですよ。もう50歳ですよね(笑)。らむさんがいつまでも「リアル現場主義」で頑張ってたら、後輩のルポライターたちが育ちませんよ。
らむ 若い子が活躍することに対してジャマするつもりは全然ないんですよ。でも譲る気持ちもないというね(笑)。僕は僕でマイペースに歩いて行きたいですね。
ケムール編集部より:
YoutubeやSNSでバズっている話の元ネタ・深堀りエピソードもいくつか入っている「裏・歳時記」。
村田らむさんは、野次馬でもジャーナリズムでもない、とことんフラットな姿勢で国内のスポットを紹介してくれた。国葬や原発などもめぐった(ちょっと炎上した)が、実はその姿勢は”社会派”とは無縁だった。
まるで散歩に出かけるように、エラい場所に寄って・うろついて・帰っていく。
※実は綿密に準備してるのだろうが。
そこには批評家が啓蒙する「ダーク・ツーリズム」みたいな上から目線も、「貧乏旅」のようなこじれた卑屈さもない。だからこそ、ヌッとあらわれてくる日本の奇妙さがある。
「ヤバい」でも「ユルい」でもない、明らかに悪趣味なのに、どこか引いている感じ。編集部としては…もしかしてこれがかつて「風流」と言われていたなにかなのか?と思ったりした。
1年4ヶ月にわたった連載、これからご愛読いただくかたにはどうぞよろしくお願いします。