2022年明けから始まった、ケムールの国内旅行連載。毎月、日本のちょっと変わったスポットを訪ねていきます。
メジャーな観光地とは一線を画す、超穴場紹介です。
その旅の案内人は「ホームレス」や「樹海」取材のパイオニア、村田らむさん。
村田らむ
一九七二年生まれ。愛知県名古屋市出身。ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマン。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教などをテーマにした体験潜入取材を得意とし、中でも青木ヶ原樹海への取材は百回ほどにのぼる。著作に『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)、『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)などがある。
6月、7月と続く、猛暑と台風。そしてもはや夏の季語とも言えそうな「節電」の季節です。
ケムール読者のみなさまは、熱中症など召されておりませんでしょうか。ついこのごろは、岸田総理によりこの冬の「原発9基再稼働」の方針が示されました。
そこでらむさんが向かったの先は….
再稼働に備えて予習しよう!
今年の夏も猛暑である。
ロシアの戦争で燃料の輸入もおぼつかないし、原子力発電所は東日本大震災以降概ね止まっている。
電力需給のひっ迫が予想されており「節電しろ」と政府や電力会社が訴えている。真面目な爺さん婆さんが真面目にノークーラーで夏を乗り切ろうとして、熱中症の腐乱死体が大量に発生する結果が目に見える。
こんな時だからこそ『原子力発電』について知りたいぜ‼︎ ということで、茨城県は東海村に行くことにした。
いきなりの回り道
月曜日の朝も早くから茨城県東海村に向かう。電車に揺られながら、ふと東海村の施設のホームページを見てみると全ての施設が月曜日が定休日なのに気がついた。
25年ライターしててもいまだにこんなイージーミスをするか‼︎ 俺‼︎
慌てて、別の行き場所を探す。
水戸市にある森林公園に『恐竜広場』という施設を発見した。原子力と恐竜……。
「滅んでしまった巨大なモノ」
という強引なくくりで縛れるだろうか?
いや、もう縛ってしまうしかない。
目的地を変更し、赤塚駅で下車した。
最寄駅と言っても、徒歩1時間40分以上かかる。普段はなるべくタクシーは乗らないのだが、さすがに今回は乗ってしまった。
「今日は何かイベントでもあるんですか〜?」
とタクシーの運ちゃんに聞かれたが、いい歳こいたオッサンが、
「公園に置いてある遊具が見たくて東京から来ました‼︎」
などとは言えず、
「いやもう仕事でもう、ははははへへへへ」
とゴニョゴニョと誤魔化す。
運賃3000円くらいかけて、公園に着いた。
(3000円あったら、映画見た後に一杯飲めたな、ちくしょう)
と文句を言いつつ『恐竜広場』の看板に従って歩いていく。
しばらく進むと、アンキロサウルスのゴツゴツの背中が見えてきた。その向こうにはトリケラトプスがいる。
さらに進むとステゴザウルス。獲物を襲おうとするアロサウルスと、狙われているブロントサウルスがいた。想像以上の迫力がある。
どの恐竜も昭和顔なのがとても良い。
恐竜は人気が高いので、遊具として展示してある公園も多いし、最近では可動する恐竜が登場する機会も多い。ただ、最近作られている恐竜は、映画『ジュラシックパーク』の後に作られたものが多い。とてもリアルでカッコイイ造形だ。
しかしそれ以前に作られたモノ、特に昭和時代に作られた恐竜は、今見ると恐竜というより怪獣っぽい造形の作品が多い。
トリケラトプスは怒りに満ち満ちた表情をしているし、アロサウルスはゴジラ立ちをして凶悪な歯を見せつけている。
数億年前ではなく、数十年前の世界が蘇りノスタルジックで胸がキュンとなる。
原発から遠く離れて童心に帰る
さらに先に進むと、超巨大なディプロドクスがいた。体長28メートル、体高10メートルとかなり巨大な恐竜が原寸大で再現されていた。
よせば良いのに、すべり台になっているところが愛らしい。首の下から入ることができ、内臓を模した穴を通り、尻尾の滑り台を滑る。試しに登ってみたのだが、小太り中年には穴が狭く、膝をついて、腹ばいになって、全身砂まみれになって尻尾を滑り降りた。
ちょうどその時、公園の監視員がバイクに乗ってやって来た。砂まみれ中年男は不審者以外の何者でもなく、しばらくジロジロと見られた。
少し離れた場所に現れたのが『エダホサウルス』『セイムリア』『ディメトロドン』とあまり名前を聞かない恐竜がいた。古い世代の恐竜だ。本来の順番で言えば、こちらから見た方が良かったようだ。
園内の地図を見ながら『アドベンチャー広場』という場所に進む。そこには凶悪な顔をしたティラノサウルスがいた。ティラノサウルスは恐竜の中でも一番人気だが、その形状はちょくちょく変わる。最近では、羽毛が生えているバージョンが良く見られるが、賛否両論だ。ここにいるティラノサウルスはゴジラ立ちでとにかく夢に出て来そうなほど邪悪な顔をしている。
水掻きがあるトラコドン、なぜか恐竜じゃない爺さんっぽい容貌のマンモスがいた。
そして最も奥にいたのが、イボゴンだった。他の造形物に比べるとずいぶん小さい。名前通り全身イボイボだ。それにしてもイボゴンなんて聞いたことない。
「昭和58年夏休み創作怪獣募集における優秀作を大きくしたものです。怪獣の特徴は、敵があらわれると、イボから毒ガスを出して身を守る。」
と説明に書かれていた。水戸の小学校2年生が考えたらしい。39年前に7歳ってことは現在は46歳。もう完全なるオッサンだ。
あらためて恐竜たちは、昭和の時代から森林公園に生息しているんだなあ、と感動した。
次の昭和遺産は…
「帰り道電話してくれたら迎えに来ますよ」
とタクシーの運ちゃんには言われたが、結局呼ばなかった。「金がもったいない」というのが主な理由だが、もう一つ理由があった。
森林公園付近に巨大な造形物があるという情報をゲットしていたからだ。
テクテクと歩いて行くが、巨大な公園の敷地から出るだけでかなり時間がかかる。雨の予報だったのにも関わらず、ギラギラと強い日差しに炙られてクラクラと立ちくらみがしてきた。
どうにかこうにか進んで行くと山の中に、巨大な埴輪が現れた。その名も『はに丸タワー』である。緊張感のない名前だ。だが、なかなかの圧力がある。
『くれふしの里古墳公園』内にある巨大な建造物だ。
牛伏古墳群は県内でも有数の古墳密集地帯だそうだ。埴輪の背中は、ビル状になっていて登ることができる。だいぶ疲労していたものの、えっちらおっちらと登る。
※ぜひ動画でご覧ください
17.3メートルは、ガンダムよりちょっと小さいくらいだが、下を見下ろすと結構高い。リアルな高さで足がカクカクカクと震えた。
下に降りてくると
「観光に来られたんですか?」
と地元の女性に聞かれたので、東京から来ましたと答える。
「こういう変な建造物って全国にあるんですか? わざわざそういう建物を回ってるんですか? それは羨ましいですね‼︎」
と妙にオーバーに羨ましがられる。
にっこり笑顔で会釈しながら、
「絶対に羨ましいって思ってないだろ」
と心の中で思いながら、内原駅まで歩いた。内原駅からJR常磐線で勝田駅まで行き、駅前のホテルに宿泊する。
ここからが本番です
翌朝、いよいよ本来の目的の東海村に行く。JR東海駅で降りる。
東海村は“村”なのだが、駅前の通りはとても村とは思えない規模だった。
四車線の道路、レンガの広い歩道が走り街路樹が並んでいる。そこそこ大きい都市の見た目だ。ただし人は1人も歩いていなかった。自動車もまばらだ。
ごく自然に、
「原発を受け入れたから、その見返りとして充実したお金が入って来ているのかな?」
と思う。
少し歩いて行くと、大きな看板が出て来た。
『東海村を潰すな‼︎ 原発はいらない』
とデカデカと書いてある。福島の原発が爆発した瞬間の写真が貼ってある。
『東海村は日本一危険な村です!
東海村は東西南北約6kmの中、12ヶ所の原子力施設に囲まれ核燃料リサイクル開発機構には高レベル廃棄物(個体)247本 原液420m3 青森県六ヶ所村の1.7倍! 広島原爆1万5800発分! 低レベル廃棄物ドラム缶38万本 廃液2847m3 核燃料2,014体』
『東海村を福島の二の舞にするな‼︎ さっさと廃炉にしろ‼︎ 日本原電あきらめろ‼︎』
などと剣呑な内容だ。
しかしちょっと歩くと、
『原子力平和利用推進 核兵器廃絶 宣言の村 東海村』
という原子力賛成っぽい看板も出てくる。
そんな街に書かれた文字を読みながら、人気のない街を歩くと、とっくに世界は滅んでいるような気持ちになってきて、テンションが上がる。
日本一危険な村?
15分ほど歩いて『げんでん 東海原子力館 別館』に到着した。
比較的最近作られた施設だ。プレハブっぽい建物に、ガキが書いたような地球をモチーフにしたキャラクターの絵が貼ってある。
パッと見、金がかかってない感じがする。中に入ると、コンパニオンの女性にパネルクイズの紙を渡される。
『安全対策とエネルギー政策』という壁に貼られたパネルを見ながら正解に丸をつける。答えがそのままパネルに書いてある、全然面白くないクイズだ。
パネル以外には原子力発電所とは何の関係もない民芸品や、近所の人が描いた絵、人形が並んでいるだけだ。
『この先 発電体験コーナー&ギャラリー展』という張り紙に従い進んでいくと、だだっ広い部屋に発電用の自転車がポツンと置いてあった。
それ以外には、おそらく近所の人が作ったのであろう、コルクの人形がだらしなく展示してあるだけだった。
今まで、様々な展示会場を回って来たけど、ここまで酷い実のない展示ははじめてだった。ちょっと呆気に取られてしまう。
げんでん(日本原子力発電株式会社)は今相当儲かってないのか? と、ちょっと不安になってしまった。
最後にクイズの解答用紙をコンパニオンに渡す。もちろん正解で、商品はジップロックの詰め合わせだった。普通に、ちょっと良いモノくれるのか‼︎ せっかくなら、どうしょうもないキャラクターのアクリルスタンドとかの方が欲しかったな。
そこからどんどん海に向かって歩いていく。原子力発電所のすぐそばまで来る。
空にはかなり大きい送電線が走っている。
発電所の周りを歩いていると『量子ビーム研究センター』という看板が出てきた。こんなSFアニメに登場しそうなセンターはなかなかない。
『高エネルギー加速器研究機構』
『東京大学原子力専攻』
などかっこいい施設が多い。
ただ、どの施設もかなり警戒心が強く、
『警備強化中』『テロ対策強化中』『無人機などの飛行は固くお断りします』『周辺監視区域みだりに立入ることを禁ず』と看板がたくさん出ている。
先ほど『げんでん 東海原子力館 別館』で見るけた地球っぽい形のゆるキャラも頑丈な鉄条網に囲まれていてどうにもヤバい感じだ。
『敷地内の撮影を禁じます』
と書いてあったが、「うるせえ」と呟きながら遠くに佇む原子力発電所を撮影した。
再稼働するアイツに会いに
そしていよいよ目的地『原子力科学館』に向かった。さすがに先ほどの施設よりは断然金がかかっている。白髪の爺さんのキャラクターが人差し指を上げたキャラクターが出迎えてくれた。
まずはワイドスクリーンの映像を見る。
先ほどの爺さんのキャラクターが出てきて
「わしはアインシュタインじゃ」
と名乗った。アインシュタインなのか。言われないと気づかないな。
ちょっと古めのCGアニメで原子のことなどを解説する。福島の写真が使われていたから、比較的新しく作った映像のようだ。
放射線を可視化できる大型霧箱、身の回りにある放射線を使った機械、電車の中で受ける放射線の量の変化を可視化できる鉄道模型……と並ぶが、正直あんまり面白くない。
2階は、1階よりもさらに薄い内容だった。
ちょっとガッカリしながら帰ろうと思ったが、別館があることに気づいた。あまり期待しないで入ると、パネル展示や商品展示に並んで大きい機械が設置されていた。
1999年9月30日に起きた、東海村JCO臨界事故についての展示だった。
JCOがマニュアルを無視して乱雑にウランを扱い、レベル4の臨界事故を起こした。作業員2名が死亡、667人が被曝するという、惨事が起きた。
事件の始まりから終わりまでを、丁寧な映像で解説している。沈殿槽の原寸大の模型が設置してあるため、とてもリアリティがある。隣には様々な関係者の証言を見ることができるコーナーも作られていた。
映像を見ているうちに、1999年当時のかなり不安な気持ちが蘇ってきた。
きちんと事故について記録しよう、保存しようという姿勢は正しい。一番見応えがあるコーナーだった。
原子力科学館を出ると、駅まで50分かけて歩き、電車で4時間弱かけて家に帰り、室温21度設定で部屋をキンキンに冷やしてぐっすり眠った。